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第 6 章 ザンビア数学教師の省察に関する質的分析

第 2 節 各教師の省察の分析結果

6.2.3. クンダ先生(都市部:若手教師)

クンダ先生は, U学校の近所にいとこと一緒に二人で暮らす, 26歳の独身の女性教師で ある。出身地は北西州のカオンデで, 中央州セレンジェにあるマルコム・モファド教員養 成校を2003年に卒業した。2004年の家事手伝いを経て, 2005年に教員として採用され, 職 歴は教職のみである。

2005年から2009年現在まで, U校の教員として4年間勤務してきた。2009年より, 第 6学年を担当している。U校での役職として, AIDSアクションクラブの顧問を担当してい る。

起床時間は4時で, 家を5時30分に出て, 15分から20分かけて徒歩で通勤する。勤務 開始時間は 7 時だが, 早めに家を出る理由として, ゆっくり出勤でき, 授業開始前に休め るからと, クンダ先生は述べていた。また, 朝食は学校でとっている。就寝時間は20時か ら21時という日課を過ごしている。

クンダ先生にとって省察とは何かを尋ねたところ, 以下の回答があり, 授業の実施後, その授業のよかった点や問題点を振り返ることとして, クンダ先生が省察を捉えているこ とが分かった。

《省察とは…, ええと, 授業がどうだったかを見ることです。よくなかった点やよかった点を見る ことです。そうすることが省察です。》(インタビュー'10/09/06)

クンダ先生の省察の内容に関するデータの概要は, 以下の通りである。

文書セグメント数に注目すれば, 生徒・学習活動に関してが116と最も多く, 次に教師・

教授活動に関する 75, 教材・数学に関する 21 と続き, 教室・学校や社会・文化的文脈に 関しては, それぞれ2, 1と, 数は少なかった(資料6, pp.183-185)。

(1) 「教材・数学」

クンダ先生の教材や数学に関する見解の特徴として, 授業実践における教科書の重視が 挙げられる。

例えば, 数直線を用いない負の数の大小比較の取り扱いについて尋ねたところ, 終始, 教科書の記載内容や記載ページに関する発言に留まり, クンダ先生自身がどのように理解 しているのかという発言は出てこなかった。また, 平均の計算に関しても, はじめに, デー タを小さい順に並べ替えるという教科書の説明に対して, 合計を求めるために小さい順に 並べる必要はないのではないかと尋ねたところ, クンダ先生は回答に戸惑うといった反応 を見せていた。

速さに関する授業では, クンダ先生は, 速さを求める公式をとても簡潔で分かりやすい 式だとみなし, 公式の提示やその使い方を, 数値を代入して計算する教師の実演を中心と した授業展開で実施されたことが, 以下の発言で見えてくる。つまり, 速さの意味理解の

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137 ない, 公式暗記の学習となっていると思われる。

《(速さの学習で, 生徒がうまく理解できた要因に関する質問に対して)これですね。私はそれにつ いてこう見ました, ええと, 公式が彼らをとても助けてくれたと。なぜなら, これ(速さの公式)は とても簡潔で分かりやすいからです。

(速さの公式の導入や説明の仕方に関する質問に対して)彼らには説明しませんでした…。しかし, 私は彼らに言いました, 速さを求めることに関して…, 私たちは確認しました…, 何か, 私たちが 使う公式とは何か。その公式には, ええと, 距離と, ええと, 時間が含まれます。それから, 私は黒 板にその公式を, ええと, 書かなければなりませんでした。そして, ええと, 問題も見ました。黒板 に問題を書き, そして, 次のように言いました。「この公式を見て, これ, この問題を解きなさい。」

それから, 距離と時間をあてはめ, そして答えを求めました。》(インタビュー'10/09/06:授業日誌 '09/09/16について)

その一方で, クンダ先生は「すべてのことが教科書に載っているわけではありません。

いろんな教科書を参考にしています。執筆者が異なるので, 教科書の説明は様々です」(イ ンタビュー'09/10/01)と述べるように, 教科書によって学習内容の取扱いは異なっている といった認識も有している。

こうした発言や反応から, 教材や数学に関する理解が十分ではないクンダ先生が, 数学 の授業実践において教科書に依存する傾向が強く, そうした理解に基づき教科書選定を行 っていることが推測できる。

(2) 「生徒・学習活動」

クンダ先生は, 数学学習を通して生徒に期待することとして, 学習内容を正しく理解し, それが使えるようになり, 日常生活でも活用できるようになってほしいと考えていた。

学習内容を正しく理解するとは, 教師の指示通りに学習することを意味し, 例えば, 次 のような発言に表れている。

《生徒には, 私が示した例題通りにやってほしいと思います。グループ活動を確認し, 教えた通り にやっていなければ, そのグループ活動を繰り返します。授業内容を理解し, うまくできるように なることを期待しています。》(インタビュー'09/10/01)

また, そうした考えは, クンダ先生の授業展開にも表れていた。一例として, 速さの学習 がうまくいった要因に関する質問に対して, クンダ先生は, 速さを求める公式をとてもす っきりしていて役に立つから, 授業では, 公式を提示し, その使い方を説明, 実演した点 を挙げていた。つまり, 速さという概念の説明はせず, 公式を提示するにとどまる教授活 動であり, それは, 速さの意味理解のない, 公式暗記に留まる学習にもなりえるものであ る。しかし, クンダ先生は, 教師による公式の説明・実演, 練習問題という授業展開が, 生 徒の学習をうまく導き, 生徒はうまく計算できるようになったと評価していた(インタビ ュー'10/09/06:授業日誌'09/09/16について)。

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学習活動に関しては, 学んだ知識の習熟を目指した練習を重視する記述や発言が多数見 られた。上記の速さの授業に関しても, 授業日誌では, 以下のように記述し, 今後にむけて

「もっと練習するために, 補充問題や宿題を与え, 特に家で(勉強のために)忙しくする」

と述べており, 生徒の学習活動として, 学習内容の練習を重視したクンダ先生の学習観が 窺える。

《「ある車は2時間で100km進みます。その速さは何ですか?」

この問題に関する実演は, 次の通り。

「Speed = distance/time = 100/2 = 50km/h」

生徒は問題なく, 期待通りにクラス課題に取り組んだが, 速さ=距離÷時間の公式を用いる練習が もっと必要だ。》(授業日誌'09/09/16)

インタビュー発言の中には, 生徒のグループ学習や発見を重視した学習観が示されてお り, その詳細を確認すると, やはり, 学習内容に関する練習を重視した考えが反映されて いた。

《(生徒が発見したことを発表するという記述について)これは, グループ学習の後のことです。こ れは, つまり, 私が実演したあと, 生徒にグループ別の課題を与えます。そして, その課題ができた ら, そ れを私に報告, つまり, 見 つけた答えを私に報告しなければなりませ ん。》(インタビュー '10/09/06:授業日誌'09/02/26について)

クンダ先生の学習評価に関する記述としては, クラス全体をひとまとめにしたものが多 く, グループ別や個別の学習評価はあまり見られなかった。また, 学習評価の手法として は, 練習問題, 観察, ノートチェック, 発表・発言などが示されていた。

生徒のつまずきに関しては, 何ができなかったのかを記述する具体的記述が多いものの, つまずきの要因を記述した分析的記述にあたるものも見られた。その多くは, スローラー ナーや生徒の心理をつまずきの要因と見なすようなものであったが, いくつかの記述には, 授業改善への示唆に富むものもあった。例えば, 割合の分数表現を取り扱った授業で, 5つ の○のうち 1 つ半に影をつけたとき, 全体に対するその割合を分数で表す問題に関する生 徒のつまずきを, クンダ先生は授業日誌で次のように記述していた。

《本時の授業は, 真分数, 仮分数, 帯分数といった分数についてであった。様々な分数を見る前に, 図を用いて分子と分母を生徒が理解できるようにすることから始めた。生徒はクラスの課題, それ

は番号1,2,3だが, 与えられた図が表す分数を答えるという課題を問題なく取り組んだ。しかし,

問題3に関しては困難を抱えていた。その図は

であった。答えは3/10だが, 生徒は1/53/5と答えていた。

解説の時間に生徒は支援を受けた。》(授業日誌'09/03/16)

この記述に対して, なぜこうしたつまずきが起こったのかという質問をしたところ, ク

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139 ンダ先生は次のように回答した。

《図を見て, 私は彼らに1,2,3,4と数えさせ, そしてこれは何か, 5です。彼らは5を書きます。そ して, それから, 彼らは数え…, ある生徒は影のついたものを数え, そして…中略…いくつのうち 1つ, 5。しかし, 実際はすべての丸は分割されています。そこで, 私たちは1,2,3,4,5,6,7,8,9,10 と数え始めます。はい。》(インタビュー'10/09/06:授業日誌'09/03/16について)

1/5や3/5といった生徒のつまずきについて, 分母を全体の○の数としてしか考えていな い点や, 影のついた部分をうまく数えられていない点を要因と見なし, 図的表現の工夫の 必要性を感じていた。こうした誤答分析の蓄積を通して, 生徒の学習課題を見出す可能性 を示唆するエピソードとしてとらえることもできる。

以上のように, クンダ先生の生徒・学習活動に関する内容からは, まず, 学習内容を正し く理解し, それが使えるようになり, 日常生活でも活用できるようになってほしいという 生徒への期待をクンダ先生が有していることが分かった。ただし, このとき学習内容を正 しく理解するとは, 教師の指示通りに学習することを意味し, いわゆる知識暗記型の学習 観が根底にあるように思われる。また, 学習活動に関しても, 学んだ知識の習熟を目指し た練習が重視されていた。生徒のつまずきに関しては, ある程度丁寧に捉えようとする姿 勢が見られた。

(3) 「教師・教授活動」

クンダ先生の教授観の特徴として, 実例の重視が挙げられる。「例に注意を払っています。

授業内容を生徒が理解できるようになるために, そのことを説明しなければなりません」

(インタビュー'09/10/01)といった発言からも分かるように, 教師がまずは学習内容の例 を示すことで, 生徒はこれから何を学習するのかを理解できるという強い信念をクンダ先 生は有している。したがって, 実演のために教具や学習具や, 既習事項から未習事項へと 進む授業展開なども教授活動の方針として重視している。つまり, 授業の主導権を教師が 握る, 典型的な知識伝達型の教授観が表れており, ザンビアの意図する教授観とは離れた ものとなっている。

《授業中は, まずは例題の実演をします。そしてグループ学習をします。グループ学習の結果を発 表し, それを私が正しいかどうか確認します。もし正しくなければ, 私は訂正しなければなりませ ん。その後, 個別学習を行います。そして生徒はノートを持ってきて, 私が丸付けを行います。も し さ ら に 問 題 が あ れ ば, 私 は 解 説 す る 必 要 が あ り ま す 。》( イ ン タ ビ ュ ー'10/09/06: 授 業 日 誌 '09/02/04について)

こうした教授観は, 実際の授業実践にも反映しており, 例えば, 以下の授業日誌の記述 にも色濃く表れている。

《今日の授業は, 分数についてであった。私の実演は, 「81/21/2×8=4」というものであっ