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第 6 章 ザンビア数学教師の省察に関する質的分析

第 2 節 各教師の省察の分析結果

6.2.2. ズル先生(村落部:ベテラン教師)

ズル先生は, 夫, 子ども5人, 甥1人, 孤児2人とともに, 学校に併設された教員宿舎で

暮らす 10), 42 歳の女性教師である。2 年間の教員養成校を 1993 年に卒業し, 教員免許

(Certificate)を取得した。1994 年から教師として働いており, 教職以外の職歴はない。

また, 2006年には教員免許(Diploma)も取得した。

2009年より第1学年の学級担任(生徒数27名)で, 7時15分から10時30分まで6授 数学教育観

生徒・学習観

 知識・理解や表現・処理を重

教材・数学観

 手続き的理解を強く意識

 教 科 書 に 従 い な が ら も, 徒の実態を考慮

学習評価

 観点:何ができて, 何ができなかったか?

 形態:主にクラス全体

 水準:表面的記述・具体的記述が中心

3/4の生徒が理解した。 半分の生徒が理解した 3/4の生徒が理解しなかった。

授業はうまくいった。 まあまあだった

授業はうまくいかなかった。

生徒のつまずきの要因

 スローラーナー

 村落部出身

教授活動の分析

 簡潔さ

 具体性

 教具・学習具等の不足

次の授業に進む。 できなかった生徒への対応

 課題を与える。

授業改善策の検討

 教授法の工夫

 教具・学習具の工夫

 例題の工夫

 数値設定の工夫

 課題を与える 教授観

 簡潔さと具体性を重視した, よ り効率的 な知識伝 達型の 教授活動を重視

授業実践を取り巻く文脈

社会・文化的文脈

 村落部出身の生徒は, 学習に関する基礎的

条件が整っていない。

教室・学校

 学校の厳しい経済状況のため, 教具・学習

具や備品・消耗品が不足。

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業時間の授業を毎日担当し, 授業終了後は学年主任として, 他の教師の指導や学校事務な どを行っていた。時間割では, 週に4時間, 数学の授業を実施することになっていた。

普段は5時に起床し, 6時45分から17時まで勤務, 帰宅後は, 家事や翌日の授業準備を し, 22時には就寝という日課であった。

校内研修では, 授業研究サイクルに従って, 特にどのように教えるかといった教授法を 中心に同僚教師と議論すると, インタビューで語っていた。また, 校内研修以外でも, 必要 と思えばいつでも同僚教師に授業について相談すると述べており, 意欲的に学ぼうとする 姿勢を有した教師に思われた。

ズル先生にとって省察とは何かを尋ねたところ, 次のような回答があり, 授業の実施後, 自分の教授活動についてや, 授業内容やその教授活動に対する生徒の反応を振り返ること として, ズル先生が省察を捉えていることが分かった。

《省察とは, ええと, 授業を実施したあと, 自分が何をやったかや, 生徒は授業内容や教授活動に 対して, どのように反応したかを振り返ることです。》(インタビュー'10/09/03)

ズル先生の省察の内容に関するデータの概要は, 以下の通りである。

文書セグメント数に注目すれば, 生徒・学習活動に関してが149と最も多く, 次に教師・

教授活動に関する85, 教材・数学に関する31, 教室・学校に関する17, 社会・文化的文脈 に関する10と続いた(資料6, pp.183-185)。

(1) 「教材・数学」

ズル先生の有する数学観として, 日常生活における有用性が意識されていた。買い物や 料理といった, 家庭生活における様々な場面で数学が役に立つことが, 記述や発言に表れ ており, そうした数学観が, ズル先生の教授活動にも大きく影響しているものと思われる。

《数学は, 学校でも, そして家でも学ぶべきものです。買い物や料理の場面でもたし算やひき算を 用いるので, 数学が使えれば, 日常生活において様々な利益を得ることができます。ですから, 数学 はとても重要な教科であり, 学校でも家でも学ぶべきものです。》(インタビュー'09/09/25)

こうした意識は他にも, 例えば, 第1学年の単元「お金」における, 日常では使用されて いない通貨単位 ngwee(1 kwacha=100ngwee)の取り扱いに対する指摘からも窺うこと ができた(インタビュー'10/09/03)。

教科書や教師用指導書に対するズル先生の見解としては, 他の教師と同様に, 基本的に はそれらに従うとしながらも, 生徒の実態を考慮しながら, 独自に検討することを意識し ている点が, 例えば, 次の発言からも読み取れる。

《指導書には従うものの, 必要に応じて内容を加えたり減らしたりし, 生徒の実態に合わせること を心掛けています。なぜなら, 生徒の能力を知っているのは教師だけだからです。》(インタビュー '10/09/03:授業日誌'09/01/28について)

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ズル先生は, 基本的には 2 種類の教科書を使用し, どの教科書も基本的には良いと評価 しながら, 「情報が簡潔すぎる場合は別の教科書を参考にする」(インタビュー'10/09/03)

とも述べていた。この簡潔すぎる教科書の記述に関しては, 教師用指導書における授業展 開の説明についても同様の指摘をしている。こうした指摘は, よりよい授業を実施したい という, ズル先生の想いの表れと解釈できる反面, ズル先生自身の数学に対する理解の問 題も関係しているのではないかと思われる。また, 単元テストの作成に関しても, 教師用 指導書の内容を踏襲していると述べていた。

以上のように, ズル先生の教材・数学に関する内容としては, 日常生活における有用性 を重視した数学観と, 生徒の実態を考慮した取り扱いや, より詳細な説明を重視するとい った教科書への姿勢を有しているといった特徴が見えてきた。

(2) 「生徒・学習活動」

生徒・学習活動に関する内容としては, 数学学習における生徒への期待や望ましい学習 活動, 学習評価, 生徒のつまずきや対応が見られた。

まず, 数学学習における生徒への期待としては, 具体的には, 学習内容の意味理解や知 識・公式の習熟, 日常生活への応用があり, 望ましい学習活動としては, 操作的活動や練習 を重視する見解や, 生徒の授業参加に関する見解などが見られた。

学習内容の意味理解とは, ズル先生が第 1 学年担任ということもあり, 数字の書き方な どの数の理解や, 加減の演算記号の意味理解などを意味していた。あとでも触れるが, 村 落部で生活する生徒の多くは就学前教育を受ける機会が少なく, 第 1学年になるまで数や 計算に関する学習が十分でない場合が多いため, こうした意識をズル先生は強く有してい ると思われる。

日常生活への応用に関しては, 教材・数学に関する内容でも触れたように, ズル先生は 数学が日常生活で有用であると認識し, それが生徒の学習に対する期待として表れている ものと思われる。また, ザンビアでは多くの生徒が基礎教育段階を修了できない現状があ り, そうした生徒がその後の生活を送る上でも, 学校で数学をしっかり学ぶことの意義を 感じていることが, 次の発言からもよく分かる。

《彼らは家でも数学を学べるでしょう。しかし, 彼らはそれ, 数学を知りません。彼らが教室で数 学を学んだら, 家でも学べるでしょう。はい。しかし…, もしその子が(数学の)概念を知らない

…, ここ学校で理解できなかったら, つまり, 家でも理解できないでしょう。…中略…

そして, ときには…, 彼らは教育課程を修了しません。はい, 数名の生徒で, すべてではありません。

つまり, 生徒, 子どもが学校でしっかり教えてもらえたなら, 彼は家でも, 学校で学んだものと同 じ考えを使って, 自分自身で学んでいくことができるのです。》(インタビュー'09/09/25)

望ましい学習活動については, これも第 1学年を担当する立場が大きく影響していると 思われるが, ズル先生が操作的活動や練習を重視していることが読み取れた。例えば, 以

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下の記述では, 棒をまとめる操作を通して, 生徒が十進法やそれに基づく加法を理解でき るズル先生の意図が表れている。

《前時の復習をした。

私が黒板で, 次の計算を実演した:7+9=16, 11+8=19

私が説明し, 生徒は10本の棒をまとめた:10+1=11, 10+2=12.

20になるまで1をたし続けた。2020(10の書き間違い)の2つ分。

生徒は次の計算を実演した:10+8= , 13+5= 》(授業日誌'09/10/16)

次に学習評価についてだが, ズル先生の学習評価の形態には, 学級全体をまとめて行う ものとは別に, 個別やグループ別の学習評価に関する記述が多く見られた。

個別の学習評価とは, 具体的に生徒の個人名を挙げながら, その一人ひとりの学習評価 を記述したものであり, 授業についていけなかった生徒を中心として, 計18名の生徒に関 する記述がみられた。内容としては, 学習成果の表面的記述や具体的記述があり, 具体的 には, 次のようなものであった。

《クリス, ジャケリン, エリザベス, スーザンは, 数字 3, 4 を正確に書くことができるようになっ た。ナターシャは, 数字4を左右反転して書いていた。》(授業日誌'09/02/24)(生徒名はすべて仮名)

グループ別の学習評価とは, 習熟度別に構成されたグループをもとに, それぞれを一ま とまりとして評価した記述を意味する。個別の学習評価と比べて, 学習成果の表面的記述 が多く見られ, 学習成果の詳細があまり見えない記述となっていた。

《生徒はグループ活動や練習問題まで取り組んだ。ルアンガはよくできた。カフエ, ザンベジ, アプラはうまくできなかった。》(授業日誌'09/09/28)(ルアンガ, カフエ, ザンベジ, ルアプラはグ ループ名)

ちなみに, 個別やグループ別の学習評価は, 年度当初にはあまり見られなかったが, 月 日が経つにつれて, その記述が増えてきた。これは, 入学したばかりの第1学年を担任し, 生徒一人ひとりを覚えることや, グループ構成にむけた習熟度把握に時間を要したためと 思われる。

こうした姿勢から, ズル先生が生徒を一まとめに見るだけではなく, より個々の実態把 握を重視していることが読み取れた。

ズル先生の学習評価を質的側面から見てみると, 学習成果の表面的記述, 具体的記述, 分析的記述という, 3つの水準に分類することができた。

特に分析的記述には, 様々な観点からの分析を見ることができ, 具体的には, 学校生活, 生徒の心理, 障がいのある生徒, 生徒の家庭生活, 保護者の姿勢, 就学前教育, 生徒の誤っ た理解といった, 7つの観点を見出すことができた。

例えば, 学校生活とは, 入学直後の学校生活への適応困難, 数学の時間割, 雨季による 学習活動の制限といった, 生徒の学習成果に影響を及ぼす学校生活に関する要因をもとに