• 検索結果がありません。

本研究の結果のまとめ

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 123-126)

第 6 章 の概要

6.1. 本研究の結果のまとめ

第 1 章では,従来の多元的無知の研究の多くは,社会問題や一般的に望まし くないとされる社会的行動 (e.g., 過度な飲酒,人種差別,アメリカ南部の男性 による暴力行為など)をうまく説明するための理論的枠組みとして,多元的無知 を適用するに留まっており,その詳細な心理的メカニズムの解明へとつながる

研究は,限定的にしか行われてこなかったと指摘した。つまり,これまでは多元

的無知状態が個人の認知や行動に及ぼす影響,そしてそれが相互作用すること

で創発する非合理的社会現象の維持・再生産のダイナミックスに関する深い議

論と考察が不足していた。本研究は,あるトピックにおいて人々が社会規範を誤

って知覚していること (i.e. 態度の自他差)を単に記述するだけではなく,社会 規範の不正確な知覚がどのような心理プロセスを経て,規範への同調や逸脱者

に対する規範の強要を引き起こすのか,また,多元的無知状態と行動意図との関

係を調整する変数は何かを,現在の日本において顕在化している社会問題 (i.e.

日本と中国の国家間関係における対立,日本における男性の育児休業取得行動

の不活性状況)を扱うことを通じて明らかにするという目的で取り組んできた。

第 2 章 (研究 1)では,日本と中国の国家間関係における集団間対立という文 脈において,日中双方の国民の「相手国に対する態度」に多元的無知が関与して

いる可能性が示された。すなわち,どちらの国においても内集団他者の相手国に

123

対する肯定的態度を実際よりも過小に推測していることが明らかとなった。さ

らに,中国人では自分の行動が社会全体に伝わりうるような状況 (i.e. ニュース のインタビューに答えるとき)では,知覚された社会規範の影響が強く,日本を 好きだと思っていてもそれを表明しにくい可能性が示唆された。ただし,得られ

たデータが真に多元的無知を反映しているのか,またそれが行動意図に及ぼす

影響を十分に検討できてない問題が残された。

この点について取り組むため,第3章 (研究2)において,「日本における男性 の育児休業取得行動の不活性状況」を題材として,多元的無知の生起と多元的無

知状態が行動意図へ及ぼす影響を,分析法を改善して検証した。その結果,男性

は「男性の育児休業」に対する他の男性の否定的態度を実際よりも過大に推測し

ていたことが示された。さらに,「男性の育休」に対する個人態度はポジティブ

で取得願望も高かったとしても,多元的無知状態に陥ると実際の行動意図を抑

制してしまう,という心理プロセスを明らかにした。加えて,この知見は社会的

望ましさでは説明できないことも示された。

第 4 章 (研究 3)では,「日本における男性の育児休業取得行動の不活性状況」

を題材として扱いながら,多元的無知状態と逸脱者に対する実効化との関係を

他者評価懸念が媒介することを示した。この結果は,非合理的社会現象を維持さ

せる目的で逸脱者非難を行うわけではなく,あくまで自分に対する否定的評価

124

を回避するための手段として実行する可能性を示唆するものである。ただし,本

研究結果からは,場面想定法という方法論的な制限のために,逸脱者に対する非

難が生じるということを支持するに十分な結果が得られたわけではない。ただ

し,少なくとも多元的無知所歌に陥ることで,自分自身に対する否定的評価を回

避しようとする心理が重要な機能を果たすことを示唆する結果が得られたとい

えるだろう。また,研究 3 の結果からは,社会的状況 (i.e. 状況の公開性)によ る偽りの実効化の調整効果は見出せなかった。この結果が,場面想定法という手

法によるものなのかどうか,あるいは,偽りの実効化が積極的に行われやすい条

件はどのようなものか,などについて,今後更なる検討が求められるだろう。

第 5 章 (研究 4)では,引き続き「日本における男性の育休問題」を扱いなが ら,多元的無知状態が行動意図に及ぼす影響を心理的安全風土が調整する可能

性について検討した。心理的安全の調整効果は統計的に有意には至らなかった

ものの,心理的安全風土が多元的無知状態の個人の意見表明意図を促進しうる

可能性が示唆された。この効果をマクロな視点から考察すれば,多元的無知の解

消に向けて重要なインプリケーションを与えているといえるだろう。多元的無

知のマクロなダイナミックスについては,次節で詳細に議論する。

125

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 123-126)