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第 9 章 結論

9.1 研究結果の要約

9.1.1 JPによる自然会話における「ダロウ」の使用状況及びその表現機能

『名大』に収録されている初対面 JP同士の自然会話と親しい JP同士の自然会話に使用 されている「ダロウ」をそれぞれ収集し、さらに用法別及び形態別に分類して分析した。

まず、用法別に見た結果、初対面JP同士の会話では、「推量」(58.5%)が圧倒的に多く使 用されており、「不定推量」(20.7%)も比較的多く使用されているが、そのほかの用法は極め て少ない。一方、親しいJP同士の自然会話では、「知識確認の要求」(40.4%)が圧倒的に多 く使用されており、「推量」(16.9%)「命題確認の要求」(14.4%)「不定推量」(14.2%)の使用 も比較的多く見られるが、そのほかの用法の使用頻度が非常に低い。このように、JP の自 然会話では、「推量」「不定推量」が場面と関係なく、比較的多く使用されているが、「知識 確認の要求」と「命題確認の要求」が初対面同士の間ではあまり用いられておらず、親しい 者同士の間では多く使用されていることが分かった。

そして、形態別に見た結果、初対面JP同士の会話では、多く使用されている用法として、

「推量」が主に「複合でしょ(う)」という形態によって表されており、「不定推量」が主に

「単純だろ(う)」という形態によって表されている。一方、親しいJP同士の会話では、多 く使用されている用法として、「知識確認の要求」と「命題確認の要求」が主に「単純でし ょ(う)」という形態、「推量」が主に「複合だろ(う)」という形態、「不定推量」が主に「単 純だろ(う)」という形態によって表されている。このように、「推量」の用法は場面によっ て使用されている形態が異なっているが、「不定推量」の用法は場面と関係なく、「単純だろ

(う)」という形態が使用されている。また、親しいJP同士の会話で多く使用されている「知

識確認の要求」と「命題確認の要求」は主に「単純でしょ(う)」という形態によって表され ていることが明らかになった。これは、「だろう」の「敬体」とされている「でしょう」と いう形態が、全体の文体と関係なく、すでに「知識確認の要求」と「命題確認の要求」を表 す専用形式なりつつあると言えよう。

また、先行研究を踏まえながら、JP に使用されている各用法の「ダロウ」文の命題内容 及びその具体的な使用文脈を詳しく分析し、それぞれ自然会話ではどのような表現機能を 果たしているのかについて考察し、次の表60のような結果を得た。

表60 自然会話における「ダロウ」の各用法の表現機能(表41再掲)

用法 表現機能

推量 断定的な意見表明

命題確認の要求 押し付け的な判断承認促し

潜在的共有知識の活性化 前提・話題作りのための共通認識喚起促し 認識の同一化要求 認識ギャップ埋めのための共通認識形成促し

念押し確認用法 情報や主張の正確さをアピールするための共通認識喚起促し

不定推量 思考中表明

弱い質問 間接的な思考参与要求

148 またさらに、表60に示した表現機能と、初対面或いは親しい会話場面での使用状況との 関係は、以下のようにまとめられる。

1)「推量」の「ダロウ」の表現機能は「断定的な意見表明」である。このような表現機能 を持つため、聞き手の考えを無視して一方的に決めつけるというニュアンスを持ちや すく、自然会話では「推量」の「単純ダロウ」はあまり使用されていない。「ね」「けど」

などの形式の助けによって、その一方的に決めつけるというニュアンスをある程度軽 減させるため、自然会話では、「ダロウね」などの「推量」の「複合ダロウ」使用が多 く見られる。

2)「命題確認の要求」の「ダロウ」の表現機能は「押し付け的な判断承認促し」である。

このような表現機能を持つため、初対面 JP 同士の会話ではあまり使用されていない。

一方、親しいJP同士の会話では、親しみや好意を表すために、比較的多く使用されて いる。

3)「知識確認の要求」には「潜在的共有知識の活性化」と「認識の同一化要求」の2種類

の「ダロウ」がある。「潜在的共有知識の活性化」の「ダロウ」の表現機能は「前提・

話題作りのための共通認識喚起促し」である。このような機能を持つため、親しいJP 同士の自然会話では最も多く使用されているが、初対面JP同士の会話ではあまり使用 されていない。「認識の同一化要求」の「ダロウ」の表現機能は「認識ギャップ埋めの ための共通認識形成促し」である。このような表現機能を持つため、初対面JP同士の 会話ではもちろん、親しいJP同士の自然会話でもあまり使用されてない。

4)「念押し確認用法」の「ダロウ」の表現機能は「情報や主張の正確さをアピールするた めの共通認識喚起促し」である。このような表現機能を持つため、自然会話ではあまり 使用されていない。

5)「不定推量」の「ダロウ」の表現機能は「思考中表明」である。このような機能を持つ ため、初対面JP同士の会話でも、親しいJP同士の会話でもつなぎの表現として比較 的多く使用されている。

6)「弱い質問」の「ダロウ」の表現機能は「間接的な思考参与要求」である。このような 表現機能を持つため、初対面JP同士の会話ではあまり使用されておらず、親しいJP同 士の会話で比較的多く使用されている。

9.1.2 自然会話におけるCNの「ダロウ」の使用状況及びその問題点

本研究では初対面同士の会話における CN の「ダロウ」の使用状況を見るために、まず、

『I-JAS』に収録されている中級レベル以上の50名のCNと初対面の日本人調査実施者との 会話と利用した。また、比較するために、同じコーパスに収録されている50名の日本語母 語話者(JP)と初対面の日本人調査実施者との会話も利用した。場面、話題、時間など同じ ように統一されている初対面同士の会話でのCNとJPの「ダロウ」を比較した。

その結果、まず、使用頻度から見ると、CNとJPの発話数がほぼ同じである。しかし、50 名のJPの中で、46名が485例の「ダロウ」を使用している。一方、50名のCNの中で、9名 のみ44例の「ダロウ」を使用していおり、JPよりCNはあまり「ダロウ」を使用ていない

149 ことが分かった。また、用法別にCNとJPの「ダロウ」の使用状況を比較した結果、CNと JPの異なる使用傾向が見られた。CNでは、「丁寧さの加わった質問」の「ダロウ」以外、ほ かの用法の「ダロウ」の使用がいずれも見られた。そのうち、「知識確認の要求」の「ダロ ウ」が最も多く使用されており、JP では見られない用法の「ダロウ」も比較的多く使用さ れている。JP では、「不定推量」の「ダロウ」が圧倒的に多く使用されており、「推量」の

「ダロウ」も比較的多く使用されているが、ほかの「ダロウ」はあまり使用されていない。

さらに、CNとJPの「ダロウ」の具体的な使用例を比較して見た結果、CNでは相手を不愉快 にさせる恐れがある「ダロウ」の使用例が多く見られた。

また、本研究では親しい者同士の会話におけるCNの「ダロウ」の使用状況を見るために、

中国国内の大学で日本語を専門とする日本留学経験ないのN1 レベルの CN友人同士による 10会話と日本の大学に在学しているJP友人同士による10会話も利用した。なお、利用し たCN友人同士による10会話とJP友人同士による10会話は話題、時間などを同じ条件に 統一したものである。

友人同士による会話でのCNとJPとの「ダロウ」の使用状況を比較した結果、20名のJP 全員が全部で202例の「ダロウ」文を使用しており、20名のCNの中で、12名が全部で27 例の「ダロウ」文を使用している。つまり、「ダロウ」の使用者数や使用例数から見ると、

JPよりCNの「ダロウ」の使用頻度が低いことが分かった。また、「ダロウ」の各用法の使 用傾向から見ると、CNでは「推量」の「ダロウ」が最も多く使用されており、「知識確認の 要求」の「ダロウ」も比較的多く使用されているが、ほかの用法の「ダロウ」の使用はほと んど見られない。一方、JP では「知識確認の要求」の「ダロウ」が最も多く使用されてお り、「不定推量」「推量」の「ダロウ」も比較的多く使用されているが、ほかの用法の「ダロ ウ」はあまり使用されていない。さらに、各用法での「ダロウ」の使用例を詳しく見ると、

CNでは場面的に多くの不自然な「ダロウ」の使用例が存在する。また、JPでは「推量」「不 定推量」「弱い質問」では「単純ダロウ」だけではなく、「複合ダロウ」の使用も比較的多く 見られる。一方、CNでは「複合ダロウ」の使用はまったく見られない。つまり、親しい者同 士の自然会話でも、初対面同士の自然会話と同じく、JP と比べると、JP よりCN の「ダロ ウ」の使用頻度が低く、用法別に見ると、JPと異なる使用傾向が見られる。CNに使用され ている「ダロウ」文の中で、場面的に不自然な例も多く見られる。

このように、初対面同士の会話でも、親しい者同士の会話でも、「ダロウ」の使用頻度や 各用法の使用傾向、具体的な使用例から見ると、CNとJPとの間に大きな差が見られる。つ まり、中上級レベルになったCNでも、初級段階で習った「ダロウ」を積極的に使用する様 子が見えず、場面に合わせて正確に産出するのが困難であるということが確認できた。

9.1.3 CNによる「ダロウ」の用法に対する理解及びその問題点

CNにとってなぜ「ダロウ」の産出が困難であるのかを解明するために、「ダロウ」の用法 をどのように捉えているのかについて、CN に対してアンケート及びフォローアップ・イン

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