第 6 章 場面別に見た自然会話における CN の「ダロウ」の使用状況
6.1 初対面同士の自然会話における CN の「ダロウ」の使用状況
6.1.2 初対面同士の自然会話における CN と JP の「ダロウ」の具体的な使用について . 81
6.1.2.3 初対面同士の自然会話における CN と JP の「知識確認の要求」の「ダロウ」使用
表43に見るように、JPでは「知識確認の要求」の「ダロウ」はほとんど使用されてない が、CNでは最も多く使用されている。第5章で述べたように、「知識確認の要求」には「潜 在的共有知識の活性化」と「認識の同一化要求」と2種類がある。JPの「知識確認の要求」
の「ダロウ」を見ると、いずれも下の(154)(155)のような「潜在的共有知識の活性化」の「ダ ロウ」である。
(154) 調査者:なんか印象に残ってる先生 JJJ43:先生?
調査者:とのエピソード
JJJ43:あー割とどの先生とももう覚えていますね〈うんうんうんうん〉、小学
校は二年ごとに三人でしょ〈はいはい〉、中学校は一年ごとに三、三人、
あれ、二年と三年は同じ先生だったかな、あーだったかもしれない〈あー〉、 でもなんかその担任の先生だけじゃなくてもけっこうあの小中は特に、
ちっちゃい学校だったんで〈はい〉、(後略) (『I-JAS』JJJ43-I)
(155) JJJ49:名物ねー、名物って何(なん)だろう〈うん〉、えっとーごめんなさい、
岐阜ってー〈はい〉基本的に文化が名古屋なのでー
調査者:うんうんうんうんうん、じゃ名古屋の名物でも、はい構いませんよ
JJJ49:名物になっちゃうんですよー〈うん〉、だからーよく言われてるー名古屋で
いえば味噌ん(に)なっちゃうんですよね 調査者:あー、えっとー味噌ー
JJJ49:だから味噌カツとかですねー 調査者:カツーですかね
JJJ49:はい、〈んー〉味噌を使ってそこで例えば冷ややっこの上に乗っか、けた(乗
っけた)りですねー 調査者:はあ、冷ややっこですか?
JJJ49:冷ややっこの上に味噌を乗っけてですねー〈はい〉、要するに醤油をかけて
食べるような感覚ですよね 調査者:あ、あそうなんですか
JJJ49:はい、そういう文化
調査者:冷ややっこには味噌なんですね
JJJ49:あーそうですね〈へー〉あと味噌煮込みうどんでしょう〈はい〉、ですよね
ー〈うんうんうんうん〉、あとー、あと何(なん)だろう、あああとど、独 自の文化っていうのがありまして〈はい〉、えーあんかけスパゲッティとか ですね (『I-JAS』JJJ49-I)
89 第5章で述べたように、「潜在的共有知識の活性化」の「ダロウ」は「前提・話題作りの ための共通認識喚起促し」という表現機能を持ち、その命題内容は会話参加者の共通認識で なければならない。こういう理由で、第4章に見たように親しい者同士の間では多く使用さ れている。つまり、親しい者同士の間では「潜在的共有知識の活性化」の「ダロウ」は親し さや好意を表す表現として多く使用されていると言えよう。そのため、初対面の人に対して 使うと、相手の領域に踏み込んで、なれなれしく感じられ、不愉快にさせる恐れがあると思 われる。宇佐美(1995:33)は、初対面JP同士の会話において、「敬語使用から不使用への シフト」というスピーチレベルシフトの現象があると指摘している。そのようなスピーチレ ベルシフトの機能としては、心的距離の短縮をはかっていると分析している。(154)(155)で の「潜在的共有知識の活性化」の「ダロウ」は、スピーチレベルシフトのように、一時的に 親しさを表すために使用されたものであると思われる。ただ、表43から分かるようにその 使用頻度が非常に少ない。そして、JPでは「認識の同一化要求」の「ダロウ」の使用が見ら れない。それは、第5章で述べたように、「認識の同一化要求」の「ダロウ」は「認識ギャ ップ埋めのための共通認識形成促し」という表現機能を持ち、教え諭す、非難するというニ ュアンスが生じやすいからであろう。
上述したように、CNではJPにほとんど使用されていない「知識確認の要求」の「ダロウ」
が最も多く使用されている。CNの「知識確認の要求」の「ダロウ」を詳しく見ると、(156)(157) ような「潜在的共有知識の活性化」の「ダロウ」が12例、(158)(159)のような「認識の同 一化要求」の「ダロウ」が4例使用されている。
(156) 調査者:どうしてスペイン語を第一希望にしてたんですか?
CCM35:あーまあ、英語とか今ー、誰でもは、話せるでしょう?〈うんうんうんう ん〉、えっーと日本語も、今勉強している人もたくさんいますし〈はい〉あ の、うんスペイン語はちょっとー、なんか、えーと身に付けた人、付けて いる人が少ないし〈うんうん〉、えっと、んー将来で、人材として、なんか、
魅力的、と、だと思います、けど (『I-JAS』CCM35-I)
(157) 調査者:あそっかそっか、そう栄(地名)からSKEだね、あーそっかそっか、
の、何て(なんて)人?
CCM15:ファンです
調査者:あーな理奈ちゃん?
CCM15:珠理奈(人名)ちゃん
調査者:あ珠理奈(人名)ちゃん、あそれはちょっと分かんない、んその(連体 詞)女の人がどうしていいんですか、女の子がどうしていいですか?
CCM15:あのー、よくあのAKB(アイドルグループ名)フォーティーエイトの、
あのー子たちが、よく可愛い可愛いって言われて、みんな一生懸命あの 何(なん)ですか、可愛いふりをして、で女の子にとしては、そうゆう
90 ことがあんまり好きじゃないでしょ
調査者:うんうんうん
CCM15:でー、その(連体詞)中に、一つの女の子があんまりあの、いつもかわ り可愛いふりをしなくて、でー一生懸命なんか一生懸命仕事をやってい る姿を見ると、あ大好きになりました (『I-JAS』CCM15-I)
(158) 調査者:あーそうですか、なるほどねー、分かりました、じゃああのー、ん何て
(なんて)かな、ま今、もう、会社が、決まっているので、これから、何
(なに)がしたいですかって言う(ゆう)のも変ですけどね、何(なに)
かその会社で今、えっとこの(連体詞)、会社はえっとーCMさんが入り たかったとこですか?
CCM15:入ったこととは言えないでしょう今やはりインタンとして頑張ってます から、契約も、結ばっていないし(結ばれていないし)結ばっていない(結 ばれていない)ですし、だから、入るかどうか今のところは分からないと 思います (『I-JAS』CCM15-I)
(159) 調査者:だからんですよね今学生さん、で時間があるから、そうじゃなくて時間 が無くって、お金だけたくさんある場合と、お金が無くって時間がたくさ んある場合とどっちがいいですか
CCM15:お金のことですね
調査者:あそうですか、どうしてですか?使えないですよ、時間が無いので
CCM15:でもー、お母さんが使えるし、〈うん〉お姉ちゃんも使えるし、みんな使
えることがいっぱいいますよ、でも時間があったら、あたし的には何(な に)もできないですよね、ただの休み、休みと休みなんです
調査者:ううん別にその、働いてもいいんですよ、ただ、そんなにお金をたくさん もらえない場合は
CCM15:あそうゆう場合ですか 調査者:うん
CCM15:そんなにお金がもらえない
調査者:そう、でもたくさん時間ありますよね、例えばフリーターみたいだったら、
あのじ
CCM15:そういう、そういう事は無いでしょう 調査者:えそう?
CCM15:で、ちょっと仕事して、でいっぱい時間があって、でもお金、でもお金を 儲かれ儲かれる(儲かる)という場合は無いでしょう
調査者:無いですね
CCM15:無いですね (『I-JAS』CCM15-I)
91 上述したように、「潜在的共有知識の活性化」の「ダロウ」は親しさや好意を表す表現と して多く使用されているが、初対面の人に多用すると、なれなれしく感じさせる恐れがある。
「認識の同一化要求」の「ダロウ」は教え諭す或いは非難するニュアンスを生じやすいため、
もちろん初対面の人に対して使用するのは不適切である。(159)ではCCM15が「そういう事 はないでしょう」と言ったのに対して、調査者が「えそう?」と反論気味に聞き返している ことから見ると、調査者に違和感を持たせたと考えられる。
また、第5章で述べたように「潜在的共有知識の活性化」の「ダロウ」の命題内容は共通 認識でなければならない。CN の「潜在的共有知識の活性化」の「ダロウ」を見ると、下の (160)(161)のような調査者が明らかに知らないと思われる命題内容を「潜在的共有知識の 活性化」の「ダロウ」によって提示している例がある。
(160) 調査者:あー〈はい〉そうですか、もうしっかりと色々考えてますね
CCM35:はい、しっかり〈あー〉まあ、今、最近は履歴書を〈あー〉書いたでし ょう、書いている、ところですから、〈うん〉あの、えっと、会社、その
(連体詞)会社の要求ーとかを見て〈うんうん〉、私は、この会社に入れ る(はいれる)かどうかを〈うんうん〉自分の、まあ、予め判断して〈う んうん、うん〉だから、その(連体詞)ことを色々考えて来ました 調査者:あー〈はい〉そうですか、〈はい〉うん、すごいですね
(『I-JAS』CCM35-I)
(161) 調査者:んー、じゃ、上海市とここは上海とはゆうけど上海市ではない CCM52:はえ(はい)、郊外です
調査者:んどうゆう所なんですか?ここは
CCM52:あーんー、以前は田舎ー{笑}だろう?〈ふんー、んーんーんー〉あーん、
現在はー発展ーと共にー、あこっちもーいろんな大学にー建て、られた
〈んーんーんー〉、んー、はい{笑} (『I-JAS』CCM52-I)
以上見てきたように、JP では「知識確認の要求」の下位分類としての「潜在的共有知識 の活性化」の「ダロウ」はごくわずかに使用されているが、「認識の同一化要求」の「ダロ ウ」の使用は見られない。一方、CNでは「潜在的共有知識の活性化」の「ダロウ」が多く使 用されており、「認識の同一化要求」の「ダロウ」の使用も見られる。上述したように、「潜 在的共有知識の活性化」の「ダロウ」も「認識の同一化要求」の「ダロウ」も、初対面の人 に対して使うと、相手を不愉快にさせる恐れがあるため、使用するにあたって注意が必要で あると思われる例である。