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第 1 章 研究の背景と目的

4. 研究方法

上述の目的を達成するために, 本研究は次の二つ主要な方法を使用した。

中国の自動車メーカーのひとつ, 長安汽車のケースを対象としたケース・スタディを 行って, 中国の外資依存型の製造業企業における社会ネットワークの諸特性がDCの形 成・変化に影響を与える過程(RQ3)およびDC形成・進化の過程を明確する(RQ6)。

(b) 量的研究

計量書誌学と視覚化分析の方法を用いてCiteSpaceを分析し, DCの先行研究を振り返る。

また, アンケート調査の結果に, SPSS23.0, LISREL8.7を用いた統計分析を施して, 中国 の製造業における社会ネットワークとDCの関係(RQ2), およびDCと競争優位

(RQ4), DCと組織のライフサイクルの関係(RQ5)を明らかにする。

以下はそれぞれのアプローチの特徴と選択理由を具体的に論じていく。

4.1質的研究

(1)本論文におけるアプローチとその正当化

特定の産業に着目したDC理論に関する研究では, 単なる量的研究では限界がある。例 えば現象の原因と結果を明らかにする--ふたつの現象が「なぜ」「どのように」に連 関するのか--という課題に取り組むには質的分析がより有効であろう。

質的分析のなかには文献研究法,ケース・スタディ,グラウンデッド・セオリー・ア プローチ等の手法がある。

本研究の(リサーチ・クエスチョン 1)は, 中国の製造業を対象とするDCの構成次 元の問題である。このような理論構築の課題には, 質的研究が適している。本論文では文 献研究法を用い, DCの次元モデルを構築する。

また, 本論文はもう一つの手法として, ケース・スタディを実施した。ケース・スタデ ィは, 特に現象と文脈の境界が明確に明らかでない場合に,実その現実の文脈の中で現象 を調査する経験的な調査方法である(Yin, 2018)。ケース・スタディのなか,定量的証拠 に限定することもでき,定性と定量的証拠の両方を使用する混合研究法もある(Yin, 2018)。この方法は調査対象について得た詳細な情報を分析し, その過程, 構造あるいは

「How」と「Why」を解明することを目的としている(Leonard-Barton, 1990)。またケ ース・スタディは理論の説明, 実証および生成をするために使用されている(Eisenhardt, 1989; Eisenhard & Graebner, 2007)。

DCと社会ネットワークとの関係, およびDCと競争優位と組織のライフサイクルとの 関係に関する仮説の現実性および適合性を検討するという本論文の目的にとっても, ケー ス・スタディは手法としてふさわしいように思われる。

加えて, 社会ネットワークの諸特性がDCの形成・変化に影響を与える過程およびDC 形成・進化過程はどのようなものかという「過程を解明する」ような探索的な課題

(RQ3, RQ6)の追及にも, ケース・スタディが適している。

(2)本論文におけるケース・スタディの位置づけ

ケース・スタディにも様々な種類がある。本論文では以下で説明する「探索的な単一 ケース・スタディ」を選択したが, 一度, ケース・スタディの分類を概観しておこう。

Tellis(1997)はケース・スタディを探索的ケース, 記述的ケース, および説明的ケー

スという3つのカテゴリに分類した。探索的ケースは新たな発見を追求するものであり, 記述的ケースは研究対象を精緻に描写するためのものである。前者の探索的ケースでは, 分析の前に明確な理論的仮定をおく必要がない一方で, 厳密な分析フレーム・ワークを作 成する必要がある(Yin, 2018)。後者の記述的ケース分析は, 主に理論の確立をサポート するために使用される。最後の説明的ケースは変数同士の因果関係を明らかにするため のものであるが(Yin, 2018), これは分析以前に理論的仮定が確立されていることが前提 となって, 因果分析に適している。

分類のもうひとつの観点として, ケース・スタディを単一と複数のケースに分割する ことがある(Yin, 2018)。複数のケース・スタディと比較して, 単一のケース・スタデ ィは, 気づかれにくい規則性の発見により適していると指摘されている(Eisenhardt &

Graebner, 2007)。加えて, 単一ケース・スタディは, 以下の3つの条件を満たす場合に適

切であるとされる(Yin, 2018)。すなわちそのケースが①決定的なケースであること,② 極端あるいはユニークなケースであること, そして③新しい事実であること, というこれ ら3つの条件である。

他にも, 単一のケース・スタディのコンテクストから一般的な結論を引き出すことは 困難だが,より縦断的研究過程の分析が容易になり,その裏にあるメカニズムを理解す るのに役立つとか(Eisenhardt, 1989), 詳細な分析を行うことができるとか(Meyer , 2001),因果関係を推測するのがより簡単であるとか(Leonard-Barton , 1990),実際の

発見に基づいて新しい問題や現象を分析することに役立つといったメリットが指摘され ている(Pettigrew, 1990)。

本論文は, 単一で説明的なケース・スタディ・アプローチを用いる。なぜなら, 本論文 では, (リサーチ・クエスチョン3)と(6)はの「どのように」を問う質問となってい るため, 説明的ケース・スタディは主として「どのように, なぜ」を問う場合に用いられ る研究方法として位置づけている(Leonard-Barton , 1990;Yin, 2018 )。

また, 長安は単一ケース・スタディの対象としても適切であると考えられる。なぜな ら長安は中国の代表的な国有系自動車メーカーであるため, 決定的なケースとなりうると 考えられるからである12。さらに先行研究では当該ケースを通じてDCの形成・進化に関 する研究が行われていないため, 本事例は新事実と言え, 第3の条件を満たすと考えられ るからである。

さらに,ケース・スタディのメリットの一つは,それによって理論を実際に検証するこ とができる点にある(Eisenhardt, 1989)。本論文でも,ケース・スタディを通じて,提 示した仮説の妥当性を検証する。

以下の表は本論文のケース選択方法を示す(表1-2)。

表1-2 本論文のケース分析方法

出所:筆者作成。

12理由は第2章をご参照されたい。

(3) ケース・スタディの手順

ケース・スタディの手順はまた, Yin(2018),Eisenhardt(1989)の研究にもとづき, ケース・スタディの5つのステップを以下のように整理した。

①ケースの選択

②研究のロジックの確立

③ケース研究のデータ収集の準備・研究

④データの収集・分析

⑤研究報告書の作成

事例の研究データはインタビュー調査および関連記事から収集した。本研究ではまず, インターネット上で公開されている資料のコレクションを参照して基本情報を収集し, その後インタビューを実施した。

4.2 量的研究

本論文は量的研究も併用する。量的研究は定性的研究の欠点を補うメリットをもつ。

定性的研究法の結果は恣意性や一般化, 説得性の不足などの問題点が指摘されている。そ れらの問題を解決するには, 量的研究を用いて, それらの理論を一般化させるのが有効的 と考えられる。

本論文では, CiteSpaceからデータを抽出して計量書誌学と視覚化分析を行う。それによ ってDCに関連する既存の文献を視覚的に提示し, DC理論研究のトレンド, 方向性等を明 らかにする。

また統計分析も行う。そのステップとしてまず, ①アンケート調査法を実施する。具 体的に最初に先行文献に基づいて中国の製造産業の全体事情を考慮し, 調査票を作成する。

次に②IBM 社の統計パッケージである SPSS.23.0を利用し, 回収された有効アンケート を分析する。具体的には, 信頼性と妥当性の分析, 因子分析, 相関分析, および回帰分析 を行った。

本研究の分析構造を示したのが図1-3になる。

図1-3 本論文の分析構造 出所:筆者作成。