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第 2 章 ケース業界の概況とケースの選択

2. 中国自動車業界の概況

2.3 中国自動車産業の環境分析

図2-3は2012年-2019年における中国の新エネルギー自動車の販売台数とその増加率 を示している。

図2-3 2012年-2019年中国新エネルギー車販売台数と増加率

出所:中国汽車工業協会「2019汽車工業運営状況」をもとに筆者作成。

以上の図にある通り, 新エネルギー自動車の販売台数は一時期急激的に増加し, 2019年

には120.6万台に達している。ただし2019年には新エネルギー車補助金の減額, 米中貿易

摩擦といった影響で, 販売台数も減少傾向を示している。補足になるが, 中国新エネルギ ー自動車各種の中心は, 純電気自動車であり, 2019年にはその売上シェアは新エネルギー 自動車市場全体の80.6%を占めている26

(2)経済環境要因,(3)社会環境要因,(4)技術環境要因という四つの要素がマクロ環 境を決定する。

(1)政治環境要因(Politics)

政治環境要因は政治や法律面からの環境のことであり, 法律や政権, 税制などの国や地 方自治体レベルの決定事項である。

上述のように中国政府は改革開放を実施したり, WTOへ加盟によって, 計画経済制度を 社会主義市場経済に変換させ, 外資系企業の参入を促し, 中国自動車産業の形成・発展を 促進したりしてきた。その他にも, 中国政府は多種な産業政策を施行している。一部の政 策は発展経緯の中でも述べたが, 以下の表では, そのうち最も重要な四つの政策だけを示 しておく。

表2-2 中国の主要な自動車産業政策

年代 名称 内容

1994 年

「汽車工業 産業政策」

①自動車産業を「基幹産業」に位置づけ, トラック 中心の自動車生産から乗用車生産へと重点を移す, ②自 動車産業のグループ化・集約化の促進, ③個人による自 動車購入の促進, ④関税の低減による外資の導入28,⑤部 品分野の合弁事業を優遇する奨励政策

2004 年,2009 年

「汽車工業 産 業 発 展 政 策」

①個人消費者市場の促進, ②自主ブランド製品の開 発, ③投資構造の変化という目的をもち, 研究開発の奨 励, 産業構造の調整, 販売ネットの整備, 投資管理の側面 を規定した。④その後自動車品質, リコール, 自動車消 費税, 自動車金融などの支援政策を順次導入した。

2009 年

「汽車産業 調整和振興規

全体的に,①消費政策の実施による自動車消費市場の育 成, ②構造調整による自動車産業の連携と再編の推進,③

28 ただし中国政府は外資提携に関して様々な規制を行っている。例えば, 外資企業は「三大三小三微」

8社以内, 2社までと資本提携が可能であり, 外資企業の出資比率を50%以下とするよう定められてい

划」29 新エネルギー車を突破口に自主革新を進め, 市場競争に おける優勢を形成するを目的とする。

2017 年

「汽車産業 中長期発展規 划」

①イノベーションセンター建設プロジェクト, ②コア 部品重点克服プロジェクト, ③新エネルギー自動車研究 開発・普及・応用プロジェクト, ④スマート車推進プロ ジェクト, ⑤省エネルギー・環境保護自動車技術向上プ ロジェクト,⑥自動車+他産業融合プロジェクト,⑦自動車 品質構築プロジェクト,⑧海外発展プロジェクト という8 つの重点プロジェクトを明確した。

出所:各政策の原文をもとに筆者作成。

①中華人民共和国国家発展和改革委員会 「汽車工業産業政策」(国発[1994]17号)

1994年3月12日

②中華人民共和国国家発展和改革委員会(2009) 「汽車産業調整和振興規划」(国発 [2009]5号) 2009年03月20日

③中華人民共和国国家発展和改革委員会(2004)「汽車産業発展政策」(国発[2004]8 号) 2004年5月21日 および中華人民共和国国家発展和改革委員会(2009)「汽車産業 発展政策」(国発[2009]10 号)2009年8月15日

④中華人民共和国国家発展和改革委員会(2009)「汽車産業調整和振興規划」(国発 [2009]5号)2009年03月20日

以上に示しているように中国政府は, 四つの主要自動車産業政策を公布した。またそれ らの一環とした様々な支援政策と優遇措置を打ち出し, 中国自動車産業の成長と発展を促 進させてきた。

29 当時, 中国政府は当該政策をサポートする様々な政策を打ち出した。例えば, (i)2009 1 月から 同年 12 月までの農村部の自動車普及策「汽車下郷」や(ii)2009 6 月から 2010 5 月までの旧 型車から新型車への買い替え補助金政策(「以旧換新」), (iii)2010年の, 燃費基準を満たした排気量

1600CC 以下の乗用車の車両購入税減税, (ⅳ)同年の, 省エネ車(1600CC 以下乗用車)の普及促進実

施細則(『省エネ製品恵民工程』)等などの措置を行った。

(2)経済環境要因(Economy)

経済環境要因は経済成長率や為替・株価, 景気動向, 消費動向など経済面を指す。以下 では① 国民の生活水準の上昇にともなう保有台数の増加と②中国の都市化の加速による 自動車消費の可能性の増大という二つの面から議論する。

中国の経済発展とともに, とくに2000年代半ば以降, 低所得層まで自動車が普及し, 自 家用車の保有台数が年々増加している。以下の図は2006-2018年における千人当たりの 自家用車の保有台数と一人当たりのGDPの推移を表している。

図2-4 2006年-2018年における千人当たりの自家用車の保有台数と一人当たりのGDP

出所:中国産業信息「2017年中国千人汽車保有量和人均 GDP, SUV浸透率及自主品牌 汽車銷量分析」2018年01月03日 をもとに筆者作成。

( http://www.chyxx.com/industry/201801/599724.html ), 2020年9月18日閲覧。

中国の都市化の加速も自動車消費拡大に一役買っている。以下の図では2001年-2019 年における中国の各年の都市化率とその増加率が示されている。国際基準によると, 30%

未満の都市化率は初期の開発段階, 30~70%は中期的な加速開発, 70%以上は後期の成熟 した開発段階に当たる。

図2-5によれば, 2019年までに中国の都市化率は60%を超えており, 中国の都市が現在, 中期的な加速開発の後期段階にあることを意味する。都市化の進展が人々の移動行動の 増加を促進し, 自動車需要の可能性を増大させていると考えることができる。

図2-5 2001年-2019年における中国の都市化率と増加率推移

出所:国家統計局『中国統計年鑑』 2001-2019年をもとに筆者作成。

(http://www.stats.gov.cn/tjsj/ndsj/), 2020年10月30日閲覧。

(3)社会環境要因(Society)

社会環境要因は人口動態, 少子化や老齢人口, 宗教, 言語, 消費者生活習慣, ライフスタ イル, 世論などの要因をさす。

以下では①環境問題による新エネルギー自動車ニーズの拡大と②ニーズの多様化と高 級化という二つの側面から議論する。

まず, ①環境問題への関心の高まりから,新エネルギー自動車へのニーズが拡大してい る。近年化石燃料の枯渇が懸念され, 国際原油価格が高騰している。同時に大気汚染問 題が深刻になっている中, 消費者のあいだでも環境保護意識が増加している。このこと が新エネルギー自動車へのニーズの拡大に寄与している。

また, ②生活水準の向上により消費者のニーズは多様化・高級化している。中国国内の 消費者は高品質の商品や, 自らの個性に合致する商品を購入する傾向を強めている。

じっさい図2-6からは, 高級乗用車30のニーズが年々増加していることが確かめられる。

図2-6 中国における高級乗用車の売上シェア

出所:「2019中国汽車消費趨勢報告」巨量引擎-汽車数据策略研究院, 中国汽車流通協会 汽車市場研究分会をもとに筆者作成。

(4)技術環境要因(Technology)

技術環境要因は, IT活用, 新技術の普及度, 特許などの技術面を指す。

以下では①新エネルギー自動車にかかわる先端技術の向上, ②自動運転技術の普及, ③ 情報技術の発展による販売チャンネルの多様化という三点を検討する。

①新エネルギー自動車にかかわる先端技術の向上については, 例えば, 燃料電池技術の 開発が進められている。ただし全体的に見ると, 中国自動車企業の新素材の研究開発状況,

エンジンとシステムの改善技術, 電子制御システムの改善にかかわる技術はどれもまだ 低い水準にある。

②自動運転技術の普及に関しては,多くの企業がL1とL2のレベルを達成し, L3の条件 付き自動化が大半の自動車企業の共通目標となっている状況である31

①と②により,新エネルギー車とスマートカーの普及に拍車をかけている。

最後に③情報技術の発展による販売チャンネルの多様化について述べる。今まで,は4S ストア32が主要な自動車販売チャンネルであったが, 情報技術の発展とともにEコマー ス・プラットフォームが台頭し, 多くのユーザーがEコマース・チャンネルを通じて情報 を取得するようになっている33

以上四つの状況をまとめると, 表2-3のようになる。

表2-3 中国自動車産業のPEST分析

政治要因 経済要因 社会要因 技術要因

①改革開放

②WTO 加 盟

③政府政策

①経済発展, 国民 収入の向上により自 家用車の保有台数の 増加

②中国の都市化の 加速による自動車消 費の可能性の増加

①化石燃料の不足 問題と環境保護意識 の増加

②ニーズの多様化 と高級化

①新エネルギー自動車 にかかわる技術の向上

②自動運転技術の普及

③情報技術の発展によ る販売チャンネルの多様 化

出所:筆者作成。

31SAE(Society of Automotive Engineers)機構によると, 「自動運転」はレベルを0~56段階に分けて いる。レベル0は「ドライバーがすべてを操作」, レベル1 は「システムがステアリング操作, 加減速の どちらかをサポート」を指し, レベル3 は「特定の場所でシステムが全てを操作, 緊急時はドライバー が操作」, レベル4 は「特定の場所でシステムが全てを操作」, レベル5は「 場所の限定なくシステム が全てを操作」を意味する。

32 4S ショップとは, 英語Automobile Sales Servicshopであり, 販売(Sale), スペアパーツ(Sparepart), サービス(Service), フィードバック(Survey)を統合した自動車販売企業である。

33 ただし, 現在の販売形式はまだオンラインでプロモーションや予約などを行い, 実際な店舗で販売を 行うオムニチャンネルとなっている。