第 2 章 ケース業界の概況とケースの選択
5. 小括
2.2 各アプローチにおける DC 理論の研究
DCは主に統合的な視点, 組織ルーチン 知識観, 能力階層, 進化経済論といった視点か ら研究されている。以下では, 統合的アプローチ, 組織ルーチン, 知識観, 能力階層アプ ローチにおける代表的な理論を比較検討していく。
(1)統合的な観点から
この観点からDCを理論化した論者の代表はTeece , Pisano & Shuen(1997)である。
Teece , Pisano & Shuen(1997)はDCを「環境変化に対応するために, 企業の内外にあ る能力を統合, 構築, 再構築するための企業の能力である」。と定義している。
さらに, 彼らは, DCの分析フレームワークとしていわゆる3P モデルを提案した。ここ で「3P」とはプロセス(Process),ポジション(Position),およびパス(Paths)の頭文字 に由来する(Teece , Pisano & Shuen, 1997)。以下で各要素について順に説明を与える。
その中でまず,プロセスとは企業の組織・マネジメントの過程を意味している。組織・
マネジメントの過程は企業の内部作業の方法またはルーチンであり, 企業の既存実践およ び学習のモードである。プロセスの中にはさらに調整/統合(Coordination/Integration), 学習(Learning), 再構築(Reconfiguration)と変革(Transformation)の4つのプロセスが 包含される。
ポジションとは企業による特定の資産の所有のことである。ポジションは企業の戦略 モデルを決定する。そこの「特定の資産」は企業の特定の技術ノウハウ, 知的財産権, 補 完資産, 財務資産, 顧客基盤, およびサプライヤーとの外部関係などを指す。最後にパス とは, 企業のこれまでの発展過程である。ポジションと現在企業のポジションは過去の パスによって制約され, 形成されることを強調された。
3Pモデルはこれら3つの要素によって企業のDCとその形成過程をモデル化する。すな わちこのモデルにしたがえば, 企業のDCは企業の組織と管理プロセスに存し, かつDC の形成は企業の資源ポジションと発展パスによって決定される。
Teece , Pisano & Shuen(1997)の3Pモデルは静的な戦略的要素と動的なプロセスを結
合しながら, 資源ベース論, 進化経済論などの視点が包括されているより統合的な視点を 与えている点で, 評価することができる。
しかしTeece , Pisano & Shuen(1997)が定義したDCについては問題点も指摘されてい
る。Collis(1994)は, 上記の理論に対して, 「DCは能力を変更する能力でれば, その能 力を変更する能力も存在している」。この推論によると, 能力は無限に存在すると批判さ れた。これは, TeeceらのDCの定義が同語反復(トートロジー)に陥っているという批判 にほかならない。
(2) 組織ルーチンの視点から
DCは, 能力として定義されている同時に, 過程またはルーチンとしても定義されてい る(Barreto, 2010)。いかでは, 組織ルーチンの視点からDCの先行研究を考察する。
DCの定義が曖昧さと同語反復に陥っているという批判を回避するために, 「ルーチ ン」という概念に訴えた定義がいくつか提案されてきたEisenhardt & Martin(2000)は,
Teece , Pisano & Shuen(1997)が提出したDCの定義を精緻化し,それを再定義した。彼女
たち(2000, p.1107)によればDCとは「内外の経営資源を利用する戦略的・組織的な過 程」, すなわち「組織的・戦略的ルーチン」にほかならない。
Winter(2003), Zollo & Winter(2002) もルーチンの視点からDCを定義している。
Zollo & Winter(2002) はルーチンの定義を「内部または外部の多様な刺激に対する組織 特有の反応である一定の行動パターン」としており, ルーチンはオペレーション・ルー チンとDCに分類できると指摘された。そのうち, オペレーション・ルーチンとは, 「企 業の業務上の機能に適した活動」であり, DCは「組織が体系的にオペレーション・ルー チンを創出・修正することを通して学習された集合的な活動の安定的なパターン」と定 義している。
Zott(2003)は, DCが組織過程に組み込まれ, 変更, 選択, およびメンテナンスを実現
するためのさまざまなルーチンであり, 資源の再構築・運営ルーチンの進化を導くと述 べている。
(3)知識の視点から
Zollo & Winter(2002)は知識の観点からもDCを研究していた。彼らはDCが学習から
生まれ, 2次レベルのDCは意図的な学習メカニズムと見なすことができると論じた。彼 らのによれば, 学習メカニズム, DCとオペレーション・ルーチンの関係は以下のように 図示される(図3-1)。
学習メカニズム
経験蓄積
知識の明確化
知識の成文化
DC
R & D 過程
再構築
買収後の統合
オペレーション・ルーチンの進化
図3-1学習, DC, オペレーション・ルーチンの関係図 出所:Zollo & Winter(2002)をもとに筆者翻訳・作図。
要するに, 学習メカニズムは直接オペレーション・ルーチンを修正したり, 作ったりす ることができるいっぽうで, DCを媒介としてルーチンを変化させることも可能である。
また, Zollo et al.(2002)は, 変異-選択-保持(variation-selection-retention)という 古典的進化パラダイムを援用して, 学習メカニズムによるDCとオペレーション・ルーチ ンの進化を「知識の進化サイクル」として示している(図3-2)。
図3-2 知識の進化サイクル活動 出所:Zollo & Winter(2002)をもとに筆者翻訳・作図。
知識の進化サイクル活動はまず, 第1段階では既存の問題に対する新たな解決方法と取 り組むべき問題に関するアイディアの集合を創造する。それは, 組織の既存のルーチン によって内部的に生まれた情報と組み合わされた外部刺激(競合他社の行動経過, 規範の 変更, 科学的な発見など)をベースに発生する。そして第2段階では, このようなアイデ ィアの集合は, 既存のオペレーション・ルーチンの有効性を強化する可能性をもついっ ぽうで, 新しいルーチンを形成する機会を評価しようとする内部からの選択圧力を受け る。最後に第3段階は新しく承認された変更計画を社内の関連部門に普及させるために, 組織が開発した活動の集合を指す(Zollo & Winter, 2002)。要するに, 知識の進化サイク ルによると, DCは暗黙の経験蓄積過程, 明示的な知識表現過程, 知識の組織化過程という 3つの過程を通じて発展する。
(4)能力階層の視点から
一部分の学者は, 組織能力を2つまたは3つ, あるいはそれ以上複数のレベルに分割し たうえで, DCを企業の高次レベルの能力と見なしている。
例えば, Collis(1994)は組織能力の4つのカテゴリーを提案した。第一カテゴリーの能 力は, 「会社の基本的な機能活動を実行する能力を反映するものであり, 第二カテゴリー は, 会社の活動を継続的に改善する能力, 第三カテゴリーは, 資源の本質的な価値を認識 すること, または競合他社に先んじて新しい戦略を立てる能力であり, 4番目のメタ能力
(Meta capabilities)は, 「高次」の能力とも言われ, ラーニング・トゥ・ラーン(learning
-to-learn)能力である。以上4つのカテゴリーのうち第一のカテゴリーがOCに当たり, 2・3・4番目のカテゴリーの能力がDCである。つまり彼によると, DCはOCに変化を もたらす高次レベルの能力である。
Winter(2003)も組織能力を分ける3つのレベル(ゼロ, 1次, 2次レベル)提案した。
その中で, ゼロ・レベルの能力は現行の日常的業務を遂行するOCであり, 第1次レベル の能力はゼロ・レベルの能力の変化を直接的に導くものであり, 第2次レベルの能力は第 1次レベルの能力を創造・変化させる能力である。彼によると, DCとは, OCを拡張, 変更, または創造する第1, 第2のレベルの高次の能力である。
そのほかにもWang & Ahmed(2007)は, 組織能力を4つのレベル(ゼロ次, 1次, 2次, 3次レベルの能力)に分割している。ゼロ次能力とは企業がもつ資源ベースのことを指し, 第1次能力とは企業が資源を活用して組織目標を達成するOCを指す。第2次能力とは, 競争優位を得るために戦略上重要なコア能力を指し, 第3次能力はDCである。
知識の観点からDCを分析する研究者たちはみな, その共通の傾向としてDCを「OCに 変化をもたらす, 組織の高次能力」として捉えていることが分かる。
ここまでの先行研究への考察を通じて, DCの定義, およびDC理論に関する主要研究を 明確にした。