第 2 章 ケース業界の概況とケースの選択
3. 本論文における DC の構成次元への検討
3.1 先行研究における DC の構成次元
DCの構成次元について論じるとき, 従来の研究は主にマクロ的な観点から論じるも のと,ミクロの観点から論じるものに大別することができる。さらに, それぞれの観点で はDCそのものだけに注目されるのではなく, 能力の基礎となる過程の視点を用いて考察 された。
以下では, それぞれを順に取り上げ, 考察を加えていく。
51 ここで論じている経営資源は, Grant(1991)の研究に従い, それを①財務的資源, ②物理的資源, ③人 的資源, ④技術的資源, ⑤ (企業・製品の)評判, ⑥組織的資源(企業文化, リーダーシップ, 組織構造 など)を指す。
(1) マクロ的な視点
多くの学者(Eisenhardt & Martin, 2000;Henderson & Cockburn, 1994;Kwon, 2013 ; Pisano, 1994; Protogerou et al. , 2012; Teece , Pisano & Shuen, 1997; Zahra & George , 2002)は 抽象的な能力の観点からDCの構成次元を議論してきた。以下の表4-1は各論者がDC の構成次元として同定した要素を一覧にまとめた表である。
表 3-2 マクロ的な視点からのDCの構成次元
文献 構成次元
Teece , Pisano & Shuen
(1997)
(資源)統合能力, 構築能力,再構築能力
Eisenhardt & Martin
(2000)
(資源)統合能力, 再構築能力, 獲得能力, 解放(release)
能力
Teece (2000) 環境感知・利用能力
Zahra & George(2002) 吸収能力(知識獲得能力, 吸収能力, 転化能力, 利用能力)
Caloghirou(2004) 調整能力, 学習能力, イノベーション能力
李正衛, 潘文安(2005) 市場識別能力, 技術識別能力, 資源配置能力 Branzei & Vertinsky
(2006)
獲得能力,吸収能力,変換能力, 展開能力(Deployment Capabilities)
李興旺(2006) 環境感知能力, 資源配置・統合能力, 価値提案・統合能力 賀小剛等(2006) 市場潜在性能力, 組織柔軟性能力,戦略的隔離, 組織学習,
組織変革
Teece(2007) 感知能力,捕捉能力,再構築能力
Wang & Ahmed(2007) 適応能力, 吸収能力,イノベーション能力
Wu(2007) (資源)統合能力, (資源)再構築能力,学習能力, (急
速に変化する)環境対応能力
葛宝山, 董保宝(2009) 資源統合能力, 資源再配置能力, 学習能力, 適応能力, 革新 能力
董保宝(2010) 環境適応能力,組織変革能力, 戦略柔軟性能力, 組織学習能
力,戦略的隔離
黄俊等(2010) 統合能力, 学習能力, 再構築能力 Wu(2010); Lin & Wu
(2014)
(資源)統合能力, 学習能力, (資源)再構築能力
Zhou & Li(2010) 適応能力
Barreto(2010) 機会と脅威の感知能力, タイムリーな意思決定能力, 市場
志向の意思決定能力, 資源ベースの変更能力
Pavlou & El Sawy(2011) 環境感知能力, 学習能力, 統合能力,調整能力
Protogerou et al.(2012) 調整・統合能力, 学習能力, 戦略的競争反応能力(Strategic
Competitive Response Capabilities)
馮軍政(2012) 機会感知能力, 資源統合能力, 組織再構築能力 Kwon (2013) 環境感知能力, 革新的な対応能力, 資源更新能力 出所:先行研究を参考に筆者作成。
以上の表に示されているように, DCの構成次元には主に環境適応能力(Eisenhardt &
Martin, 2000; Teece , Pisano & Shuen, 1997), 環境感知能力(Kwon, 2013; 李興旺, 2006;
Teece , 2000, 2007 ), 学習能力(Caloghirou , 2004; 葛宝山, 董保宝, 2009; 黄俊等, 2010;
李興旺, 2006 ), 統合能力(Eisenhardt & Martin, 2000; Pavlou & El Sawy, 2011; Wu, 2006, 2007, 2010 )と再構築能力(Eisenhardt & Martin, 2000; Lin & Wu, 2014; Teece , Pisano &
Shuen, 1997; Teece, 2007; Wu, 2010)といったものが含まれている。
DCの概念は, Teece , Pisano & Shuen(1997)とEisenhardt & Martin(2000)の2つの主要 な論文の影響下で主に開発されたことが一般的に認められている(Baía & Ferreira, 2019)。
以下では,以下ではTeece(2007)と, Eisenhardt & Martin(2000)などの研究を取り上げ,
DCの構成次元に関する主要な見解を検討していく。
(a)Teece(2007)の見解
まずは Teece (2007)の研究を取り上げる。
Teece (2007)は, DCには, 「感知」能力(機会と脅威を感知する能力), 「捕捉」能 力(機会を把握する能力), および「転換」能力(企業の有形および無形資産を再構成す る能力)が含まれると述べている。
そのうち感知能力は, ①情報に対するアクセシビリティー, ②機会そのもの創出能力と いう2つの要素からなる。このうち①情報に対するアクセシビリティーは,(i)外部科学 や技術発展を活用する過程,(ii)ターゲットとする市場セグメント,(iii)顧客ニーズの 変化,(ⅳ)カスタマーイノベーションを特定する過程にかかわる能力と論じた。②機会 そのもの創出能力は,(i)社内の研究開発活動を推進し新しい技術を選択する過程にかか わる能力と,(ii)サプライヤーや協業者のイノベーションを活用する過程にかかわる能 力に分けることができる。つまり企業が新しい機会を認識したら, 新製品・過程・サー ビスを通じて実装する必要がある, ということである。
補足能力は①カスタマー・ソリューションやビジネスモデルの明確化, ②意思決定プ ロトコルの選択, ③補完製品のマネジメントとプラットフォームのコントロールのため の企業境界の選択, ④ロイヤルティーとコミットメントの構築にかかわる能力である。
最後に転換能力には, ①分権化と準分解可能性(Decentralization and Near
Decomposability), ②共特化(Cospecialization), ③ガバナンス(Governance), ④ナレッ
ジ・マネジメント(Knowledge Management), という 4 つの要素にかかわる能力が含ま れている。
そのうち, ①分権化と準分解可能性は相互関係にある諸要素から構成される組織全体シ ステムを複数の独立したサブシステムへ分解することを意味する。これによって, 機会 と脅威の認識をより徹底的かつ迅速に進めることができる。
また, ②共特化された資産とは, その価値が他の特定の資産と結合使用の関数であり, 特定のクラスの補完的な資産である。資産の共特化によって, 資源の価値の増加または新 資源創出ができ, 「戦略的適合」の継続的達成を可能にする。
③ガバナンス能力としては,(i)企業の技術と知的財産の不正流用や誤用の監視にかか わる能力と(ii)資産の結合と再構成を実現する能力,(iii)組織におけるインセンティブ の調整に関連する能力がある。④ナレッジ・マネジメント能力は, 企業の内外の知識を 統合する能力である。
(b)Eisenhardt & Martin(2000)の見解
次に, Eisenhardt & Martin(2000)の見解を検討する。彼女らによれば, DCは資源を①統 合, ②再構築, ③獲得・解放する能力ある。①資源の統合は新製品開発および戦略的意思 決定過程に反映することができる。例えばマネージャーは製品開発の過程に各種のスキ ルと経験を結集し, 商品とサービスを開発する。またマネージャーは多数の専門的およ び個人的な知識とスキルを結合ないし選択して, 戦略的な決定を下す。そして②資源の再 構築能力は資源変換の過程に反映される。とくに知識ベースの企業では, 社内で積極的に 資源を吸収, 変換, 再構築する活動が行われる。最後に③資源を獲得および解放する能力 には, 知識の創造・提携・合併・撤退の能力が含まれている。例えばマネージャーは知識 創造過程を通じて企業内に新しい思考を生み出すように行動する。
(c)その他
他方, Protogerou et al.(2012)によれば, DCは調整・統合能力, 学習能力, 戦略的競争反 応能力の三つからなる。その中でも学習は戦略的更新を実現する手段であること, 戦略的 競争反応能力には環境感知, 新機会の特定, 競争上のポジション評価, 戦略的決定への反 応が含まれることを強調している。彼はそれらの能力の基礎となる過程に着目して考察 していた。
他にもZollo & Winter(2002)はDCが研究開発能力, 再構築・再構築能力, 買収後の統
合能力から構成されると主張した。Zahra & George(2002)はDCの本質は吸収能力であ り, DCには資源の獲得, 吸収, 変換, および開発能力が含まれると論じている。Wang &
Ahmed(2007)もまたDCが知識の獲得, 吸収, 利用能力であると指摘している。
次に, ミクロ的な視点を用いた具体的な能力に着目した先行研究をみていく。
(2) ミクロな視点
一部の研究者は, DCをさまざまな特定のビジネス・過程の中で具体化することができ ると主張している(Eisenhardt & Martin, 2000 ; Helfat et al., 2007; Helfat & Winter, 2011)。
この種のアプローチをとる論者がDCの構成次元とみなすものを一覧にしたのがの表4-
2である。
表 3-3 ミクロな視点から見た DC の構成次元
文献 構成次元
Helfat (1997) 研究開発能力 Eisenhardt & Martin
(2000)
製品開発能力, 提携能力, 戦略的意思決定能力
Marsh & Stock(2006) 新製品開発能力
Hung et al.(2007) 研究開発能力, マーケティング能力
Danneels(2008) 研究開発能力(新技術の探索能力), マーケティング
能力(新市場の探索能力)
Mckelvie & Davidsson
(2009)
新製品・過程の開発能力(と市場破壊能力, 革新能 力)
Schilke & Goerzen
(2010)
アライアンス管理能力
Drnevich & Kriauciunas
(2011)
新製品・サービスの開発能力, 新たな業務過程の実装 能力, 新しい顧客関係の構築能力, ビジネスモデルの 変更能力
出所:馮軍政, 魏江(2011)およびその他の先行研究を参考に筆者作成。
この一覧からも分かるように, 新製品開発能力は既存の文献(例えばEisenhard &
Martin, 2000;Danneels, 2002, 2008; Helfat , 1997; Hung et al., 2007; Marsh & Stock, 2006)の 中で, DCの構成次元として最も頻繁に言及されている能力のひとつであると言える。
他にも, DCを買収能力(Karim & Mitchell, 2000), マーケティング能力(Danneels, 2002,
2008), 人的資本, 内部開発ルーチン, 外部企業との提携能力(Doving & Gooderham,
2008),経営者認知能力(Helfat & Peteraf, 2015)といった具体的な能力として捉える 様々な見解が存在する。
Danneels(2002, 2008)によればDCは研究開発能力とマーケティング能力に分かれる。
Danneels(2008)は組織能力を一次と二次能力に分けているが, DCはそのうちの新しい技
術を探索する研究開発能力および, 市場を探索するマーケティング能力から構成される二 次能力である(他方, 一次能力は技術的能力と顧客能力を指す)。
以上の先行研究のレビューから分かるのは, DCの構成次元については様々な見解が混 在し, 論者の間で一致した結論に達していないことである。