第 5 章 乳児の保育内容編成の原理―融合保育の視点から―
第 3 節 相補的生活活動(生活適応)の活動の理解
1、生活活動理解の基本
以上の関係の側面からのおさえを前提に、つぎに「相補的生活活動」の「生活活動・活動」はどの ように理解すればよいのかを考えてみる。そのためには、あくまでも「活動」であることをおさえて おく必要があり、その定義から始める。
三省堂 大辞林によれば、活動とは、「①活発に動いたり、働いたりすること。 「さかんに-する火山」「夜間-す る動物」 「組合-」 ②「活動写真」の略。」としており、「活動」に似た言葉として作用 営み 働き 行ない 行動を あげている。
つまり、「活動」とは周りに何らかの働きかけを行うことであり、類似語には「作用 営み 働き 行 ない 行動」をあげているのは当然である。乳幼児期のみならず、人は活動によって生きている。そ の生きる活動とは、どのような構造を持っているのであろうか。この視点として参考になるのが「活 動理論」である。
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「活動理論」、特に、フィンランドでは、エンゲストローム Engeström,Y.が注目されるといわれているが、高取氏は 次のように整理している。
「以前から、北欧は活動理論の影響の強い地域であったが、なかでもエンゲストロームはレオンチェフの弟子を自認す るだけあって、活動理論の原型を強く感じさせるモデルを提唱している。エンゲストロームのモデルは、もともとヴィ ゴツキーが刺激と反応のS-R理論図式へ媒介項として記号signを挿入して、その記号を媒介として人間は外部刺激 へと働きかけるとしたS-X-R図式を拡張したものである。彼は、媒介項として道具 tool と共同体を挿入すること によって資本主義社会に生活し労働する人間の問題を説明しうるモデルを提出したといえる。」(高取活動理論にいたる 道のり)とされている。
人間は生きていくうえでさまざまな働きかけを心身の活動で行っている。これを環境に対して働き かけているといってもそう間違いではない。そこで、例えば次のような構造を考えてよいのではない か。
図5-3 活動と関係の構造
このモデル(図5-3)で強調していることは、①関係か活動内容かではなく、その双方に同時的に 着目することである。また、②行動には外に働く行動とその際に人間が内的に働きかけていることが ある。前者を「外的活動」と呼び、後者を内的活動と呼ぶことにしている(玉置,2008)。
結果として次のようなマトリックスが想起される。あれかこれかの議論ではなく、「活動」はこのよ うな構造を持っているということである。いくつかの点を補足する必要がある(表5-1)。
表5-1 2歳児のお料理ごっこ 活動と関係の構造
2歳児のお料理ごっこ 活動内容 関係行動
外的活動 フライパンで毛糸を操作 大人がそばで見守ってくれていることを視覚で確認
内的活動 おそばのイメージを持って毛糸をお そばの操作をイメージする
「おいしそうといってくれるかな」
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①外的活動において子どもは道具を必要とする。その道具を使うには、自分の手や足の身体の運動が 必要である。道具使用は仕事だけではなく、様々な生活活動・遊び活動においても使用している。主 には外的活動であるが、道具使用・操作を内面化することも想定する必要がある。
②活動に至るプロセスがある。重要な側面は、活動を開始する際の「目的・目標」を持つこと。「動機 付け・興味の持ち方」が明確になることである。
③活動のプロセスで重要なことは「言語」などの第2信号系の働きである。
④活動には目的があり、その目的を理解することで保育内容編成の「ねらい」や「内容」を理解する ことにつながる。
では、生活適応活動とは何か。生活適応活動とは子どもを取り巻く主な関係性を示している。すな わち、乳幼児期は大人との関係なくしては生活することも、生きることもできない。しかしながら、
それは子どもが大人に従属する関係ではない。実際に、子どもは自立した活動を行っており、自ら大 人、保育者に応答している。子どもによって、何を補えばよいのかという相補的関係のあり方は異な る。例えば表5-2は、「焼きそばづくり」である。子どもと保育者が相補的関係の中で活動していると いえる。それを4つの側面で表せば次のように図式化することも可能である(表5-2)。
この例では、保育者は、子どもの内的活動に対して「子どもの行動の意味づけ」を言葉で行ってい ることがわかる。「作っているのはやきそばだね」と補足している。相補的関係の場面である。子ども はなべと毛糸に着目しており、毛糸を指すことで「やきそばが出来ている」という評価を示している といえる。保育者は、そのような内的活動を読み取り、言語化するという相補的関係を行っている。
子どもは、自らの指差し行為と保育者の言語化から、今度は「子ども自ら意味づける」ところへと発 展してくる。相補的関係とは、行為だけではなく、言葉と行いの一致という言語化も重要である。
表5-2 焼きそば作りにおける 相補的関係 (子どもと大人)
焼きそばづくり 子どもの活動 保育者の活動
外的活動 なべと毛糸の操作 環境・道具を用意する 見守る
内的活動 なべと毛糸の操作が楽 しい
子どもに聞こえるように「おそ ばおいしそう」とつぶやく
外的関係行動 時々保育者を確認 微笑んでいる
内的関係行動 なべ大きいのでやりに くい
おそば出来るのかな
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上記のように考察してくると、保育内容の基本視点、つまり、保育の中で何が中核となるのかの課 題を整理する必要性があることがわかる。しかし、まだ保育実践に役立つ整理とはいいがたい。今後 の課題である(表5-3)。
表5-3 相補的生活モデル
相補的生活行 動モデル
関係行動 活動内容
対大人行動 対子ども行動
依存的(大人が リード)
ミルクを飲ま せてもらう
大人の支えで 仲間を見る
相補的 自立的(子ど もがリード)