第1章 2つの「指針」が示す乳児保育の方向
第5節 乳児保育の活動重視タイプ、ねらい重視タイプ
1、2つの指針からみた「乳児保育」の「指導計画」比較
2つの指針の比較は、乳児保育の場合にも基本的には同じ評価でよいと思われる。すなわち、2008 年保育所保育指針、乳児保育の指導計画作成は、保育実践の計画であり、本来の指導計画の目的より も、むしろ、「ねらい・内容」をどのように見渡すのかということが中核となっている。「具体的な指 導計画編成の役割を果たしているのかどうか」を検討する必要がある。特徴的なこととしては、次の 点がある。
① 年齢区分に基づく、指導計画のねらい・内容・配慮事項を廃止したことにより、年齢的な方向 性も現場に任されることになった。現場でそれらを子どもの実態から作成するという構図は、
創造的であるという範囲を超えていると評価できる。
② 活動の領域をはずすことにより、1965保育所保育指針「活動の分化論」で示した年齢ごとの活 動目標・活動のねらいははずすことになった。
③ ねらい・目標から領域を立てていくという提案であり、幼児とのつながりにおいてはよいとい えるが、乳児保育の構造における独自性は理解することが難しくなった。
④ 1965年保育所保育指針でもふれられていたが、個別指導計画に重きをおいている。
⑤ 乳児・幼児のつながりはよくなったが、乳児保育の独自性がわかりにくくなった。
2、2つの指針が提起する「乳児保育」の実践構造
前述してきたように、実践構造解明には実際の乳児保育の実証的な検討を行うなどいろいろな方法 が考えられる。そこで、保育所保育指針に示されている乳児保育の実践構造を整理することとした。
その具体的な課題として考えられるのは、以下のとおりである。
保育所保育において、乳児保育の実践は、実践計画に基づくものであり、その実践計画は、保育課 程および指導計画に規定されていると想定できる。現在は、2008年保育所保育指針に規定されており、
2008年保育所保育指針はどのような実践構造を提起しているのかを読み取り、整理することを本論文 の目的とする。この場合、実践構造とは、目の前の子どもに保育者はどのように働きかける構造をも つかを示す。その実践は、保育者の働きかけの計画(これを実践計画という)や保育者の働きかけの 行為を含むものとする。具体的には、保育所保育指針が全ての実践を規定しているわけではないが、
2008年保育所保育指針は、乳児保育の実践の枠組みを定義している。特に、省令として位置づけられ
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たこともあり、枠組みとして正当に評価されなければならない。X活動重視タイプ 1965年保育所保 育指針は、Yねらい重視タイプ 2008 年保育所保育指針と比較するために取り上げる。保育課程・指 導計画の考え方が異なると仮定している。
次に、乳児保育の実践構造が、保育課程・指導計画作りに規定されていることから、「①保育課程及 び指導計画の考え方、②保育課程及び指導計画のねらいと内容の編成、③保育課程及び指導計画の編 成の手順」などの観点を設け検討する。本来ならば、編成の手順を検討することで、実践と指導計画 の関係がわかるはずであるが、編成の手順は保育課程・指導計画の考え方と連動すると考えることか ら、このような観点を設けた。保育課程と指導計画はどのようにつながっているのか(いないのか)、 指導計画と保育実践はどのようにつながっているのか(いないのか)を検討する。また、2 つの指針 が想定している乳児保育の実践構造とはどういうものかを整理する。特に、乳児保育の実践が、乳児 に適したものとして構想されているのか、その特徴は何かを検討する。
本論文では、2つを検討した結果、主な結論として以下について提示する。
1)乳児保育の実践構造の違い
X活動重視タイプ 1965年保育所保育指針は、保育内容のベースに活動分化の視点から「生活・遊 び」→「健康・社会・遊び」→「健康・社会・言語・遊び」という構図を持っていた。一方、Yねら い重視タイプ2008年保育所保育指針は、0歳児を除いて、「養護」プラス「健康・言葉・環境・関係・
表現」に変化した。
2)2つの保育所保育指針が示す方向性
X活動重視タイプは、「活動・経験」の視点から内容を方向付けようとしていたのに対して、Yね らい重視タイプは、保育の「ねらい」を提示する視点から「養護」プラス「健康・言葉・環境・関 係・表現」に変化した。したがって、健康という同じ用語でも、X活動重視タイプは健康活動であ り、Yねらい重視タイプは健康の「ねらい」といえる。ただし「内容」は「ねらい」を細分化して いるため、どちらも到達すべき子どもの姿といえる。また、Yねらい重視タイプは年齢ごとのねら いと内容の表示をやめた。このことは、乳児保育の実践構造を考える上でねらいと内容が抽象化す ることにつながる可能性がある。
以上、Yねらい重視タイプの保育実践への方向付けについて5 つの視点から考察する。
①乳児保育における指導計画の考え方は、子どもの主体的活動を中心とすることから、子どもの実態から指導計画を作 成する。そのため、指導計画と実践プランは、直接つながらない可能性がある。
②主体的活動と子どもの長期的な育ちを調和させていくためには、子ども理解・発達過程の多様な理解が重要となる。
しかし、前述したように、多様な子どもの発達の契機を整理する視点や観察の視点は提示されていない。そのため、実 践プランは、極端な場合、その場の保育者の判断に委ねられる可能性がある。
③年齢と活動の区分をなくしたことから、ねらい・内容の編成は、年齢固有の課題ですら現場任せになる可能性がある。
④保育課程の編成は、「指導計画の編成にも領域別のねらいと内容を整理する」可能性と「総合性に着目し、子どもの 主体的活動を指導計画とする」可能性がある。前者の場合は、指導計画として作っても、実践にはつながらない。また、
後者の場合は、体系的な計画にはなりにくく、指導計画とすることは難しい。
⑤個別指導計画でよいとする考え方も重要であるが、子どもの育ちには、どのような実践プランを考えたらよいのかと いう問題は解決していない。要点は次の事項である。
① 保育所保育指針は保育の実践を方向付けているとされるが、乳児保育の実践の全てを規定してい るわけではない。子どもの実態に合わせ、保育現場で子どもと向かいあって創造しなければならない 面がある。したがって、指導計画が実践プランとつながるのかどうかは、保育課程・指導計画の位置 づけだけではなく、その保育課程・指導計画の内容にも左右される。本章ではどのような実践構造を 提起しているのかを読み取り、指導計画と保育実践はどのようにつながっているのか(いないのか)
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を検討してきた。その検討結果を表したものが図 1-6(前掲)である。指導計画の部分でねじれが生 じていることが読み取れる。すなわち、×印は「ねじれ」がある可能性を示し、それは保育現場で独 自に考える必要があるところを示している(図1-6 2つの指針が示す「指導計画と実践プラン」前掲)。
② カリキュラム編成の理念としては、「望ましい活動」という形で整理したX活動重視タイプに基づ く実践プランと、Yねらい重視タイプのように「子どもが環境と関わる主体的活動を軸にしたプラン」
の2つがあることはすでに指摘した。前者はそのまま実践プランとなる可能性が高く、後者は実践プ ランの枠組みを現場で改めて考える必要がある。ただし、「子どもの育ちに関する長期的見通し」をも つ保育課程の編成を求めており、その見通しを持てば実践プランを編成する可能性もある。
③ X活動重視タイプは、活動の選択だけではなく配列を行うことになっている。したがって、長期 には主要な活動がすでに書かれていると想定でき、短期にはある程度、保育形態を決めておけば、そ れが長期に書かれた重要な活動がそのまま実践プランになることがわかる。一方、図 1-6(前掲)が 示すように、指導計画の編成からみると、Yねらい重視タイプは、2 つの読み取りが可能である。一 つは、領域ごとに分けた指導計画を作る可能性である。もう一つは、大まかな発達過程を念頭におい た子ども主体の指導計画を作る可能性があることである。領域ごとに保育課程と指導計画を作った場 合、指導計画と実践プランとの間には「ねじれ」が生じている。同じことは、長期と短期の指導計画 との間にも生じる可能性がある。
④ 図 1-6(前掲)が示すように、こうした「ねじれ」解消のための方策が示されていない場合、保
育現場にゆだねる論理としては「総合的に考える」、「適切に考える」、「~を考慮して」、などの用語が 使われている。ねらいについても、内容についても同様であり、子どもから学び、実践プランは保育 者が作るものとされている。
3、乳児保育の編成課題
以上のことから、保育所保育指針を前提にした場合を考えただけでも上記の2つのモデルが抽出さ れた。しかしながら、乳児保育独自の構造としては積極的に整理されていないことがわかった。しか も、Yねらい重視タイプは、様々に考慮すべき点があるとはいえ、その解釈は多義的であった。特に、
指導計画編成の視点を活動からねらいへと完全移行した結果、「具体的な活動内容は子どもの具体的な 姿を踏まえて検討する」という解釈もYねらい重視タイプは、可能としている。このことは、子ども の主体的活動を重視する視点が生まれたことになり、大きな意味がある。要点は次の事項である。
① 乳児保育は、幼児とは異なる実践構造を持つ必要があるとすれば、それはどのような構造を持つ べきなのかを研究の中心にすえる必要がある。特に、指導計画が文字通り指導の計画として生かして いく、実践のプランとしての指導計画の作成という位置づけと方向を整理しておく必要がある。
② 2 つの指針の検討で示した、「ねらい重視か活動重視か」、「子どもの主体的活動か保育者の活動 重視か」という問題を整理しておく必要がある。
本論文では、2 つのどちらかではなく、「融合保育」を前提とした議論が必要と考えている。児童 中心主義と系統主義の保育の考え方の違いともいえる(玉置他,2002)。「育てると育ちの融合」とい う視点を持つことともいえるので、具体的な指導計画編成論を通して明らかにしたい。
③ 保育課程と指導計画から実践につながっていく構造を検討する必要がある。すなわち、指導計画 が指導計画として機能するためには、実践のプランとなる必要がある。本論文で検討したように、そ のつながりを再生するには様々な検討が必要である。その一つとしては、具体的な指導計画の編成事 例を実証的・タイプ的に検討する課題がある。実証的にというのは、保育プログラムを価値的に判断 するのではなく、保育プログラムがどのような視点と構造を持っているのかを検討する必要がある。
④「指導・援助」に必要な概念について、整理をしておく必要がある。指針は、指導計画とは誰のた めに必要であり、何のための計画なのかという基礎概念を検討することが必要である。同様のものと