第1章 2つの「指針」が示す乳児保育の方向
第2節 乳児の保育内容編成の土台
1、乳児保育の保育内容編成の土台
1)現在と未来をよく生きることが保育内容編成の土台
保育は「子どもが現在を最もよく生き一人ひとりが生きる力を獲得していくためにある」ことが土 台である。これを実現するために保育課程や指導計画を作り、保育内容編成を行う。子どもは『人間』
であり、乳児期は『ヒト』として誕生した生命体が、『人』としての生活に適応し必死で生きている時 期と考えたとき、当然といえる。同時に、『ヒト』として誕生した生命体である乳児はまだ未成熟であ り、『人』としての自立はしていない。大人の補助なくしては生きていけない存在である。すなわち、
子どもは大人に依存しながら、環境に適応していく。乳児保育では「生活適応活動」といえる。この ことを前提としたとき、具体的な保育内容編成の土台は何かを確認する。
2)乳児が生活に適応し、生きる力を作り出す保育内容編成
保育内容編成は、「子どもが生涯にわたり人として生きることを見通した時間」を軸とした計画であ り、保育内容編成である。保育内容編成とは、基本的生活習慣を含む生活、人や物に適応して生きる 生活、様々な人との関係やトラブルに直面しながら生きる生活を軸とした計画ともいえる。特に、乳 児期はあらゆる生活に適応していくための行動の時期といえる。
例えば、排泄の自立は、大人が援助しておむつ交換を行い、乳児は心地よさを体験する。乳児は大 人から得た心地よい体験があってこそ、自らの心地よさが育ち、「トイレで排泄をする」という生活に 適応していく。生活適応活動を通じた「大人との情動交流」から得た心地よい体験があってのことで ある。おむつ交換は単なる保育技術ではないといえる。もちろん、暦の年齢がきたらいきなりトイレ に行くわけではない。スプーンという道具、物の使用も同じことがいえる。大人が先に「スプーンで 口に食事を運ぶ」という行為の過程が必要である。道具、物の使用の前に、子どもにとっては「この 人が心地よい」という大人との関係が大切になる。特に、乳児は大人との快適な「情動交流」があっ てこそ、「食べたい」という食欲がわき、「食べたくなる」といえる。また、「いつから離乳食は開始す るのか」ということがある。発達過程という時期への見通しが必要である。同時に、「大人が食べるま ね」をしたくなることが重要である。大人は、「もぐもぐ」とおいしそうに口を動かすという「咀嚼そ し ゃ く行 為を乳児に見せる」ことが大切である。乳児は、「大人が食べる行為や咀嚼行為をみる」という体験に よって、初めて「自ら真似をしながら口を動かす」ことを認識する。また、大人がもつ道具、物への 興味から、いつしか乳児は「スプーン」という道具、物に出会い、大人の模倣をしながら「道具を使 って食べる」という生活に適応していく。一方、乳児にとって「つまむという行為」は、手を操作す
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る身体運動であり、おもちゃを使った遊び活動ともいえる。「食材やボタンをつまむ」という生活適応 活動ともいえる。したがって、保育者は子どもに「何をする」かではなく、子どもの「何を育てる」
のかを意識して活動を選ぶことが大切である。一方、「この活動では何が育つか」を考えることも大切 である。乳児は、「手や指が育っていない」と「操作」はうまくいかない。子どもが「なぜ上手に食べ られない」、「なぜこぼす」のかという、子ども理解が困難となることが予想される。
3)子どもの生きる力の土台となる保育内容編成
保育内容編成は、子どもの成長とその保育を確かなものにするという重要な役割がある。乳児の成 長・発達における広さや奥深さは、保育内容編成によって左右される。乳児の成長・発達に寄り添う 保育者にとって保育内容編成とは、「子どもにとって今どのような経験が必要な時期かを考えるデッサ ン」である。保育は無意識ではなく、保育内容の何をどのように取りあげるのかを意識し、イメージ しながら保育をしなければならない。そのことが、結果として子どもの生きる力の土台となるからで ある。
4)乳児の保育内容編成を考える必要性
具体的には、乳児の保育内容編成は指導計画に反映される。「1、保育課程をどう作るのか」、「2、
それを踏まえて年間指導計画をどう作るのか」、「3、月の指導計画をどう作るのか」ということを明 確にする必要がある。保育課程・長期指導計画から日案までの編成の全体を考えたとき、一貫した保 育内容編成となっているのか、または転換することがあるのかを考えることも大切である。無意識の うちに転換していることが、あるのではないか。それは良し悪しではなく、保育内容編成と指導計画、
実践が別々の視点で作成されているからではないかと考えられる。何のために乳児の保育内容編成を 行うのかを考える必要性がある。
5)指導計画に必要な5つの要素の理解
保育内容編成にはいろいろな視点がある。これが正解ということはない。少なくとも、次の5つの 事項を編成内容として意識しておくことは重要である。
① 子ども理解:保育は子どもの状況・実態を踏まえておく必要がある。どんな指導計画を考える際にもこのことは大 切である。
② ねらいを立てる:指導計画は「保育のねらい」が必要なことは当然である。保育のねらいは、保育目標として「め ざす子ども像」などの方向目標と具体的な子どもの力を想定する到達目標、または「姿」とする場合がある。
③ 内容を編成する:指導計画はねらいに合わせて、保育所保育全体の方向性を示す保育の内容をしっかりつかんでお く必要がある。
④ 保育者のかかわり:保育課程に示されたねらいと内容に基づき、保育者が子どもにどのように関わっていくのかを 考えることが必要である。ねらいと内容に基づき、保育にとって保育者がどのように行動することが望ましいのか を整理する必要がある。
⑤ 保育評価:保育課程に示されたねらいと内容に基づき、保育はどうであったのか、子どもの成長はどのような現状 かを評価することを意味する。
この5つの要素は保育課程・長期指導計画・短期指導計画のいずれにおいても課題となる。
保育内容編成では、この5つをどう理解し、どう編成するかが重要である。この5つの内実を指導 計画の種類に応じて説明できるようになることが、指導法を考える上でも大切である。単に5つの要 素というのではなく、「子どもの成長のためにどうするのか」を考えるための5つの項目である。5項 目は、どれを最も重視するのかと考えることもある。内容には子どもの「育てるべき力」を書くこと もあるが、「X―2タイプ 望ましい活動」といわれているような内容として理解することもある。
54 6)融合の保育をめざした保育内容編成
乳児保育は保育者主導と考えられがちである。しかしながら、保育者が主導して子どもの主体性が 無視されているような保育は、「何かが違う」といえないか。また、一方では、子どもの「主体性の視 点」はよいが、乳児期の発達を考えるとどうだろうか。子どもの「主体性」任せで保育者は待ち望む だけでよいのか。どちらかを選ぼうとするときには、無理が生じると考える。
保育においては、一方の考えを強調するあまり、「こっちがいいか、あっちがいいか」という議論が 多かったといえる。例えば、「活動重視かねらい重視か」、「ねらいか内容か」、「子どもか保育者か」な どの議論が行われてきた。しかし、実際には、時代背景や施策、園長の理念や方針によって変わって きたといえる。「保育の融合」を実現するための保育内容編成には何が課題なのかを検討する。
第一に、「指導計画のねらいや内容を書くときには、指導事項を書くのか、指導の結果としての子ど もの姿を書くのか」が問題である。
第二に、保育のねらいや内容を書くときには、子どもの活動をまったく抜きに書くことは出来ない。
あるべき姿・望ましい活動を「活動・経験」と呼んでいることもある。ねらいと内容を「活動・経験」
として書くことは必要とも考えられるが検討する。
第三には、ねらいには心情・意欲・態度を書くのか、活動を書くのかという問題である。ねらいを 活動として書いている場合には、子どもの発達のおさえがそれで十分なのかということもある。ねら いで活動を押さえた場合に内容として活動を書くことは二重になることもある。他方、ねらいとして 発達の側面を押さえた場合には、その発達の押さえを子どもの活動としてどのレベルでどのような方 法で示すのかを整理する必要がある。つまり、ねらいとして書いたことを活動の姿として整理しない と保育実践の方向付けにならない。
第四には、保育の内容としては何を書くのかを明確にする必要がある。ねらいとして心情・意欲・
態度を書いた場合の「内容」と、ねらいに望ましい活動を書いた場合の「内容」とでは異なる。この ように、各々「内容」として何を書くのかを整理して議論をつめる必要がある。
第五には、保育課程はそのまま年間指導計画になるという意見もあり、他方、反対に、まったく別 という意見もある。どのように考えるのか。具体化していくための枠組みがあいまいになっている部 分を整理する。
第六には保育課程における保育内容の編成をどのように行うのかには、いくつかの考え方がある。
保育課程を領域に分けてそのねらいを提示していく考え方の場合には、年間指導計画は、保育課程に 書かれていることを各年齢に整理する考え方がある。この場合は、子どものどのような活動を想定す るのかが不明確である。1965年保育所保育指針のように、子どもの活動内容を明示しようという考え 方もある。2008年保育所保育指針は、保育の内容の編成の際に「養護」と「教育」の区別を上記のよ うに視点として述べている。すなわち、「養護とは、子どもの生命の保持及び情緒の安定を図るために 保育士等が行う援助やかかわり」であり、「教育とは、子どもが健やかに成長し、その活動がより豊か に展開されるための発達の援助」と提示している。また、「教育は、健康・人間関係、環境、言葉及び 表現の5領域から構成されるものである」と提示している。この2つは、「保育士等が、『ねらい』及 び『内容』を具体的に把握するための視点」であり、内容そのものではない。
7)編成に直接つながる発展問題
保育は、「5つの要素」をどう押さえるかである。保育者は、子どもの実態を踏まえつつ、子どもへ の柔軟な働きかけやかかわりが重要となる。そのためには、保育実践における「ねらいと内容」を意 識しなければならない。指導計画は、ねらいをどのような根拠で立てるのか、それを実現する内容を どのように編成するのかが課題である。例えば、砂場の遊びで子どもは活動を選択している。したが って、活動の内容=保育内容を選択しているともいえるが、ねらいは何かともいえる。一方、「土や砂 などの自然とかかわる楽しさを知る」というねらいが先にある場合もある。その場合は、どのような 活動(砂場の遊び)かを明確にしておく必要がある。しかも、「年間指導計画・月間指導計画などの長 期指導計画」と「日案・週案などの短期指導計画」は、同じと考えることも、別だと考えることもあ