第 5 章 乳児の保育内容編成の原理―融合保育の視点から―
第 4 節 乳児保育計画の原型と相補的活動の視点
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上記のように考察してくると、保育内容の基本視点、つまり、保育の中で何が中核となるのかの課 題を整理する必要性があることがわかる。しかし、まだ保育実践に役立つ整理とはいいがたい。今後 の課題である(表5-3)。
表5-3 相補的生活モデル
相補的生活行 動モデル
関係行動 活動内容
対大人行動 対子ども行動
依存的(大人が リード)
ミルクを飲ま せてもらう
大人の支えで 仲間を見る
相補的 自立的(子ど もがリード)
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たが必要である。このことを念頭において乳児保育の保育内容を考えてみたい。
2、乳児の成長は生活活動を土台とする
1) 生活活動から考える
保育所保育指針では、子どもを総合的にとらえることを提起する一方、実際には保育内容や発達を 領域に細分化している場合もあった。細分化することは、子どもの成長・発達のいろいろな側面を詳 細にとらえる前提ともいえる。重要なことは、乳児保育においては、可能な限り切り離さないで全体 としての子どもをとらえながら子どもの成長・発達を確かなものとすることである。乳児保育の場合 は、子どもの生活活動、生きる活動が軸としてあり、その土台の上に発達の側面をとらえる必要があ る。これを逆にすると、子どもの発達の側面から切り分けた上でその統合をはかることになる。
すなわち、乳児は、「生活のなかでの移動」の積み重ねなしに運動能力(例えば歩く活動)の成長は ない。また、乳児は、大人との「情動のやりとりする生活」の土台があってこそ、コミュニケーショ ン力は育つといえる。乳児は、生活活動の豊かさが基礎となって成長・発達する。乳児の保育内容編 成は、生活が保育内容の主体として「生活する」ことが土台と考える必要がある。実践的にいえば、
乳児を保育する際、多くの保育者は、「運動能力の育ち」のために保育をしているわけではない。むし ろ、子どもの生活の位置づけが曖昧となるか、発達という名において発達の諸側面に子どもを切り分 けることとなる。子どもは、保育所の生活があり、その中で「いろいろな活動があり、保育が行われ ている。」と考えれば、「乳児はどのような生活を送ることが望ましいのか」、「生活の中での保育はど うあるべきか」、を考えることなしには、「子どもの成長が重要である」とはいえない。
2)子どもの活動モデルを考える
では、「子どもの生活活動から保育内容編成を考える」とはどういうことであろうか。これまでの議 論で大切なことは、X活動重視タイプ1965年保育所保育指針「活動中心主義」かそれともYねらい 重視タイプ2008年保育所保育指針「領域・ねらい中心主義」かということになる。結論的には、前 述してきたように、生活活動も大切であり、領域も大切であるといえる。しかし、この2つの融合を 目指すためには、活動の構造を理解しなければならないと考える。その構造については、玉置(2008)
が指摘しているように、「外的活動×内的活動×関係行動」のマトリクスを念頭において保育内容編成 を考えると、次のように整理できる。乳児保育を考える際に、次のようなモデルを検討してはどうだ ろうか。この図5-4が示していることは、子どもの活動モデルであり、子どもの活動の構造である(図 5-4)。
生活活動は、それ自身が構造として働く。子どもを育てる目標・ねらいを「外から見える活動にす る」ことを軸とすることはすでに指摘してきた(総合保育研究所 第 4 プロジェクト)。X活動重視 タイプ1965年保育所保育指針では主張されているが、「保育の中での遊びや生活活動の中での子ども の行動する力」と考えてきたからである。しかし、子どもの行動力を育てることは、保育者が「望ま しい経験や活動」と考えたことに追い込むことではない。子ども自らの行動への理解が大切である。
特に、月齢ごとに掲げたスプーンを使うなどの行為は目安であっても目標・ねらいとしては著しく一 面的である。というのは、スプーンの使用は、単純な「スプーンですくう・口に持ってくる・口をあ ける・食べる・噛む・飲み込む」という一連の子どもの行為を前提にしているからである。乳児も「食 べる機械」ではなく、「これはおいしいな、先生はおいしそうに食べている」などの食の「楽しみ」を 持ち、さらには、「スプーンをこう使えるのよ」など技能のイメージなどを含む子どもの意思・行動イ メージなど「内的操作・活動」が関与することを正当に保育計画に位置づける必要があることを提起 してきた。指導計画の編成はいずれにしてもこの「活動から入る、活動へ戻る」などといった活動か ら離れられないことは明白であるといえる。
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活動モデル ねらい 内容(外的活動)
1、面白さのねらい
(内的活動)
2、関係のねらい
(対大人・対子ども・
自己)
3活動内容のねらい
(外的活動・知識技能)
1、なし
2、外的関係行動
3、外的活動内容
図5-4 活動モデル
例えば、1歳までの保育は次のように示すことも可能である(図5-5参照)。
活動モデル ねらい 内容(外的活動)
1、大人とのやり取り の楽しさ(内的活動)
2、大人との情動的や り取りをする
(対大人・対子ども・
自己)
3、親しい大人と一緒 に情動的交流をする
(外的活動・知識技 能)
1、なし
2、外的関係行動
3、ハンカチを取 る・いないいない バーでいい顔をす る、情動的交流
図5-5 活動モデル(0歳児)
0歳児を念頭において考えると、具体的な活動として情動交流が重要である。例えば「いないいない ばあ」の活動を念頭におけば、上記のような結論を導き出すことも可能であろう。
3、相補的関係とは
1)乳児の生活活動は相補的関係を土台とする
「乳児の生活活動には、乳児特有の活動があるのではないか。」と問う必要がある。乳児の生活活動の 特徴は、相補的生活活動である。保育を教育という視点で考えるとき、従来は学校教育における「教 師と子どもの関係」を典型とする枠組みが入りこむ傾向があった。しかし、乳児保育は、そのような
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関係性では考えられない。「保育は生活を通して行われるもの」であり、学習それ自体を目的とする教 育とは自ずと異なる。より根源的な問題は、乳児保育における「保育者と子ども」の関係である。乳 児は、保育者に依存しなければならない存在である。しかしながら、子どもは受身ではなく、自らの 意志や欲求を持っている。保育者と子どもの関係において乳児は著しく大人に依存的であり、大人の 行動がそのまま子どもの行動の一部になっているといってもよいと考えられる。
例えば、子どもが食べたり・周りを動き回ったりするという「生きる活動」において大人が関与し 世話をすることで初めて生きる活動が完結するということはない。「食する」ことは大人の支えを前提 とし、生活活動は大人の支えなくしては成り立たない。同時に、食することは子ども自身の「生きる 活動」(食するという場合に食べようとする意欲や飲み込もうとする技能などを軸とする活動)があっ て初めて大人の支えは有効となる。このため、幼児期も基本的に同じであると考えられるが乳児期は 特に保育が成立するためには「相補的」関係が構築される必要がある。「相補的関係」の主体はどちら かという議論はあるが、子どもの活動(食する)がうまくいくことが大前提とすると、「子どもの状況 に応じた保育」が望まれる。「子どもの主体性が大事である」との視点が保育者のかかわりを弱めたり するのではなく、必要な補助を行うことによって子どもの主体性が確保される。次に、どのような補 助を行うのかという議論が発生するのである。より実践に即していうならば、保育者が「どのように・
どの程度補助するか」は子ども理解の程度と方法による。保育者は、「スプーンで食べさせたらどんど ん食べていたのに、おはしでは食べない」というような体験から適切なかかわりを求めて試行錯誤が 始まる。本論文では相補的関係といってきた。相補的関係は、どちらが主体かという議論はある。大 切なことは、「子どもの活動がうまくいくこと」である。「子どもの状況に応じた保育」が求められる。
2)相補的生活活動の展開
ここで示している活動の内容は生活活動と遊び活動に分けておいてもよい。0歳児の場合には、そ の区別の必要はないかもしれない。大事なことは、子どもが生活の中で示す子どもの活動に対して何 かを指示したり、特定の環境を与えたりすることではなく、子どもと一つの活動を遂行することであ る。この遂行にあたって、保育者は子どもの遂行できない部分を補ったり補強したりする。しかしな がら、その前提は、子どもが自分でする活動があってであり、抜きには相補的な関係は成立しない。
このような生活活動は、子どもの成長と共に変化し、子どもの生活活動の内容・体験によっても変化 する。保育者のかかわり方によっても変化する。
試論ではあるが、以下のような4つの段階を念頭におくことも可能であろう(図5-6)。 関係のタイプ 1歳6カ月
歩く
1歳6カ月 自動車に見立てる 依存的相補的 生
活活動
手をつないで歩く 保育者が手を添えて四角の木を動かす 相補的生活活動 歩くをサポートする 子どもが動かしているのに「ブーブー」とい
い、行動をアナウンスする 共同的生活活動 先に歩くが手をつな
ぐ
先生も「ブーブーだぞ」、「早いぞ」などと言 いながら共同する
自主的生活活動 手をつながない 子どもが自分で車を動かす 図5-6 関係のタイプ(1歳6カ月)
この4つは、活動によって異なるかかわりを必要としている。例えば、「見立て遊び」は、保育者 が見立ての側面を補強する必要がある場合が多い。イメージで考えることは多様な成長を必要とする が、上記のような自動車の見立ての成功体験こそが、そうしたイメージを使った思考の元となること も多い。ともあれ、こうして子どもの成長は活動ごとに関係性が異なり、そうした総和が子どもを育 てていく。同時に、子どもの関係性を方向付けるものである。