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男女の共生関係における 2 つの近代の混在―日本

第 4 章 子宮頸がんワクチンの接種対象者である女性―その近代化の歴史

4.4 家族形成における男女の個人化

4.4.2 男女の共生関係における 2 つの近代の混在―日本

1960年代に欧米に起こった変化の波は、若干の遅れを持って日本にも到達した。性的関 係や結婚を、制度や慣習によるものとしてよりも、欧米と同様に、個人の問題として受容 する変化が日本にも押し寄せた。それまでの性道徳が変化し、1970年代初頭には、未婚の まま母親になるケースや、嬰児遺棄が異例な現象として社会問題化した。1971年には『青 少年白書』に「性」という項目が初めて登場し、翌72年には、優生保護法改正73による中

73 優生保護法は、戦後日本の過剰人口対策として考案されたが、同時に、天皇制を基盤として 日本国民全体を大家族とする宗教団体等が、一貫して中絶禁止を訴えた。そして、高度経済成 長時代に入ると、若年労働人口の不足が起こり、この法律自体が批判された。この法は、1970 年代には、国家による出産管理であり、法が中絶を禁止すればヤミ中絶が増加して子供の遺棄、

殺害が増え、母体および子供の保護に繋がらないという女性側からの批判が高まった。さらに、

この法律の改正に反対する女性が大規模に組織化され、1983年には国会への上程が断念された。

これは、出産の問題が国民個人の生活および利害、権利と密着した問題として、女性が団結し た結果であり、出産と家族形成の問題を個人の問題として捉える思想が、1970年代から日本女 性に形成され始めたことを示すものである(上野1990:101-117)。

絶禁止法への反対が起こり、また経口避妊薬(ピル)の解禁を求める女性解放連合会(中 ピ連)が結成され、初のウーマンリブ大会が開催された。加えて、日本男性の韓国へ買春 ツアーが日韓両国で問題視されるようになり、テレビでは、カレーのCMの「ワタシ作る 人、ボク食べる人」というフレーズが、性別役割を固定化するとして放映中止を要請され た。70年代は離婚件数が10万件を超えるようになり、以後 80年代半ばまで増加が続く ことになる(井上・江原2005:201-205)。

しかしながら、このような変化が日本に起こる以前に、日本が第二次世界大戦に敗戦し たことで、日本の女性は皇国民であることから解放され、国のためにではなく、自分自身 のために生きる希望を抱くことが、ようやく可能となったのである(伊藤1990:19)。

(1) ライフコースの変化と晩婚化、晩産化、少子化

第二次世界大戦前と後では、日本女性のライフコースは劇的に変化しており、大学進学 率の上昇、結婚に対する意識変化などを背景として、ドイツと同じく晩婚化が進んでいる。

明治生まれの平均的女性は、23歳で結婚、25.5歳から38歳までの出産期間12.5年の間 に平均5人の子供を産み、人生の大部分を子育てに費やし、現代よりも手間と時間のかか る家事と家業の農業や商売も分担した。その結婚生活は、余暇や自分の時間とは無縁であ った。対して、1959 年(昭34)生まれの女性では、その出産期間は2.4 年と短縮し、電 化製品の普及により、家事の負担は以前に比べて 格段に軽減されている(井上・江 原:2005:2-3)74

日本人の平均初婚年齢は、1950年(昭25)では夫25.9歳、妻23歳であったが、2012

年(平24)では夫が30.8歳、妻が29.2歳となっており、約60年の間に男性は4.9歳、

女性は6.2歳、初婚年齢が上昇している。また、第1子の出産も1950年では24.4歳、2012 年では、30.3 歳であり、晩婚化とともに晩産化も進行している(厚生労働省 2013d:57)。 また、1人の女性が一生の間に出産する子供の数の平均を示す合計特殊出産率では、1947

年(昭22)には4.54人であったのが、1975年に2人を割り込み、2015年(平27)では

1.45人と、少子化が継続している(厚生労働省2016a)。

このように、現代日本の女性は、以前に比べて家事や子育ての負担が減り、主婦となっ ても自分のための時間確保が可能な状況にある。では、現実に日本の女性が結婚してかつ

74 井上・江原(2005)の3頁における、平均初婚率、進学率、婚姻時における平均値等から 逆算して制作された「既婚女性のライフサイクルのモデル」(図表1-1)を参照した。

職業を維持したいと望む場合には、どのような状況が展開されているのか、またいかなる 課題があるのかについて、次の(2)において検討を行う。

(2) 夫の家庭への貢献の低さと現実に合わない制度

日本における働く女性の数は、1985年(昭60)では、2304万人であったが、2015年

(平27)には450万人増えて、2754万人となり(厚生労働省2015a:5)、2016年(平28)

には、専業主婦世帯が664万世帯であるのに対して、共働き世帯数が1129万世帯である ことから、結婚してからも働く女性が全体の約3分の2を占めることが解る75

かつての日本では、「子育ては主に母親の役割」という意識が強く、子育て期間の有業率 は低かった。1973 年(昭48)の統計では、結婚したら「家事に専念」するとした女性が

30%、「育児が優先」が 44%であり、「家事と仕事を両立」の24%を大きく上回っている

が、1988年では「家事に専念」が21%、「育児が優先」が38%となり、「家事と仕事を両

立」が38%と増加している(井上・江原:1991:161)。2002 年(平14)では、「子供がで

きても仕事を継続する方がよい」という意見が 41%と増加し、「出産で一時辞めても、そ の後職業復帰したい」という意見の40.9%と並んでいる(井上・江原:2005:21)。

このような女性の仕事に対する意識変化は、人生が 80 年を超えて長期化したこと、少 子化と家事の省力化により、時間的および体力的余裕ができたことに加え、高学歴化に伴 って社会的関心が高まり、労働環境も既婚女性に適した働き方が創出されて多様化したこ となどが、実際的な背景として考えられる(井上・江原:1991:160)。

妻が仕事を継続したい、育児が落ち着いたら職場に復帰したいと希望する時、家庭にお ける夫の協力は重要な要素である。日本の家庭における夫婦の家事および育児への参加状 況では、妻が育児に週3.09 時間、家事に7.27時間費やしていることに比べ、夫は育児に 週33分、家事には27分76となっており(厚生労働省2010c:6)、ドイツの夫の、育児に週 59分、家事に2時間という数字(4.4.2 (2)参照)と比較すると、日本の夫の育児と家事へ の貢献度は極めて低い。

加えて、現状においては、保育施設の圧倒的な不足が深刻な問題となっている。2014

年(平26)10月、安倍内閣は、「すべての女性が、その生き方に自信と誇りを持ち、活躍

75 労働政策研究・研修機構、グラフでみる長期労働統計,「 II労働力、就業、雇用 図表12 専業主婦世帯と共働き世帯」

http://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0212.html, 2017年5月閲覧。

76 日本のデータは男女とも2006年(平18)のものである。

できる社会づくりを進める」として、「女性活躍加速のための重点方針」を打ち出している

77。その中には、女性活躍のための基礎整備として、「子ども・子育て支援新制度における 幼児教育・保育等の「量的拡充」及び「質の向上」を確実に実施」するとして、保育園に 入れずにいる待機児童78の解消が掲げられている(厚生労働省2016b:1,3)。しかしながら、

2016年の待機児童数は2万3553人であり、0歳から2歳の低年齢児が86.8%を占め、そ

の内の71.1%が1・2歳児である(厚生労働省2016c:5)。3歳になれば、保育園に加えて

幼稚園へ通わせる選択肢も出てくるが、最も手のかかる 1・2 歳児を預けられないという 問題は、出産後の女性の職場復帰にとって大きな障害となる。

2017年(平29)4月の時点でも、待機児童は1万4000人を超えており、政府は、2017 年末までに「待機児童ゼロ」達成するとして作成した「待機児童解消加速化プラン」は現 状では達成不可能とし、2017年5月に3年の先送りを決定した79。新たな政策に盛り込ま れた案には、2022 年末までに、32万人の児童を受け入れる体制を作るとしているが、保 育所の数を増やすためには人員の育成も必要であり、一定レベルの保育環境も獲得しなけ ればならならず80、容易には解決が望めないのが現状である。

一方、日本の家族政策は手当の支給よりも、育児休暇取得が中心となっている(内閣府 経済社会総合研究所2005b:3)。児童手当は、子どもが中学修了(15歳)まで、0歳~3歳 未満児に月額1万5000円、3歳から小学校修了までと中学生には1万円が支給されるが、

これには所得制限があり、それを超える場合は、児童1人につき月額5000 円となる(労 働政策研究・研修機構2017:282)。ドイツの例に見られたような児童扶養控除は、子ども 手当(現在の児童手当)の導入と入れ替えに、2011年1月に廃止されている。

また、育児休業制度は、子が1歳になるまで原則として1回であり、父母がともに取得 するなど、一定の要件を満たす場合は1歳2か月まで取得可能、保育所に入所できないな どの場合には、1歳6か月まで取得可能とされている(労働政策研究・研修機構2017:279)。 また、育児休業中の収入に関しては、休業開始から 180 日間は月給の 67%を、それ以降

77 首相官邸HP, http://www.kantei.go.jp/jp/headline/brilliant_women/, 2017年6月閲覧。

78 待機児童とは、認可保育施設に申し込んで、入れなかった子どもを指し、毎年4月時点で自 治体ごとに集計が行われている(朝日新聞2017年5月31日朝刊1ページ「「待機児童ゼロ」

3年先送り」)。待機児童は0歳から小学校入学前までの年齢の児童を対象としている(厚生労 働省2016c).

79 朝日新聞 2017年5月31日(朝刊1頁)。

80 首相官邸HP, https://www.kantei.go.jp/jp/headline/taikijido/index.html,2017年6月閲覧。