• 検索結果がありません。

ワクチンと副反応

第 3 章 日本における予防接種制度の概要と子宮頸がんワクチン

3.1 ワクチンと副反応

本節では、ワクチン全般に関する基本的な知識として、ワクチンのコンセプト、ワクチ ンを製造する際に使用される処理方法と製法による分類を示し、その副反応被害の実情と 発症する症状について、簡潔にまとめを行う。

3.1.1 ワクチンのコンセプトと分類

ワクチンすなわち予防接種とは、日本の予防接種法第 1 章総則の第2 条によれば、「疾 病に対して免疫の効果を獲得するため、疾病の予防に有効であることが確認されているワ クチンを、人体に注射し、又は接種すること」を意味する1。また、医学的解釈においては、

「病原微生物を死滅させたもの、その一部の成分を抽出したもの、あるいは生きたまま減 毒したものを抗原(ワクチン)として、宿主に投与し、宿主自身の免疫産生能を刺激して 免疫を得るもの」を指す(糸川他 1990:56)。言い換えれば、感染症を起こすウイルスや、

細菌また菌が作り出す毒素の病原性を弱めて作った薬剤が、ワクチンつまり予防接種であ り、薬事法上は「生物由来製品」であり「劇薬」扱いとなっている(ワクチントーク全国・

1 電子政府の総合窓口 e-Gov, 予防接種法,

http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=323AC000 0000068#A, 2018年4月閲覧。

「新予防接種へ行く前に」編集委員会2013:23)。

ワクチンは、大別して生ワクチンと不活化ワクチンの2 種類に分けられる。生ワクチン は生きている病原体の毒性を弱めて接種し、体内において軽い感染を起こすものであり、

免疫持続時間も長いと言われている。MR2、おたふくかぜ、ポリオ、水痘(水疱瘡)、BCG

(結核)などのワクチンが生ワクチンである。また、病原体やその一部またはそれが作り 出す毒素を処理して、病原性や毒力を無くして用いるのが不活化ワクチンであり、日本脳 炎、インフルエンザのワクチンなどがある。さらに、毒素に対するワクチンとしてトキソ イドワクチンがあるが、これは外毒素3をホルマリンで不活化して毒素を失わせ、外毒素に 対する免疫物質(抗体)を作る能力を保持したワクチンである(藤井2014:62-63; 京都府 保健環境研究所2009:4; 大谷・三瀬2009:37)。

一方、ワクチンの製造には、ふ化鶏卵培養法、動物接種法、細胞培養法、遺伝子組み換 え法の4つがある。ふ化鶏卵培養法は、ふ化鶏卵(受精卵)の一部分にウイルスを接種し て増殖させ、そこからウイルスの抗原性のある部分を取り出し、精製して使用するもので あり、インフルエンザワクチンの製造に用いられる。また、動物培養法は、マウスの脳内 や動物体内にウイルスを接種して、ウイルスを増やすことで大量のウイルスを獲得する製 法であり、かつては、日本脳炎ワクチンがこの方法で製造された。さらに、細胞培養法は、

栄養液だけで生育した動物の細胞液にウイルスを接種して、培養液中に出てきたウイルス を不活化して精製する方法である。日本では、2009年から、日本脳炎ワクチンがこの方法 で製造されるようになったことに加え、MR、水痘(水疱瘡)のワクチンに用いられてい る(京都府保健環境研究所2009:4-5)。

そして、あらかじめ増殖させた特殊な細胞にウイルスの遺伝子を挿入し、ウイルスの抗原 性に関わるタンパクだけを細胞に作らせ、これらを取り出して精製する方法が、遺伝子組 み換え法である。子宮頸がんワクチンや B 型肝炎ワクチンはこの方法で製造されており、

製造期間が短く、感染性のあるウイルス本体を用いないことから、ワクチンを安全に生産 することができるとされている(京都府保健環境研究所2009:5)。

このように、種類および製造方法が様々に異なるワクチンであるが、そのコンセプトは 弱い疾病を起こさせて、それに似た恐ろしい疾病を予防する材料であることから、如何に

2 MRワクチンとは、麻疹(measles)と風疹(rubella)の2種混合ワクチンである(ワクチ ントーク全国・「新予防接種へ行く前に」編集委員会2013:55)。

3 細菌が作り菌の外側に放出する毒素のこと(大谷・三瀬2009:37)。

医学が進歩しようとも、「感染症の予防に有効で副作用が全くないという、完全に安全なワ クチンは開発され得ない」(大谷・三瀬 2009:2,6)という大前提は、すべてのワクチンに 共通することである。

3.1.2 ワクチンによる副反応

前述したように、すべてのワクチンは何らかの副反応を伴うものであり、それは、ワク チン接種部位が腫れるなどの軽度のものから、脳障害などにより知的障害者となるような 重篤なもの、延いては死亡に至るなどの健康被害を含んでいる。

ワクチンの副反応による被害について、厚生労働省がまとめた「予防接種健康被害救済 制度 認定者数」4によると、2014 年末までの被害認定総数は 2989 件で、医療費・医療 手当の支給の認定が2354件、障害児養育年金の認定が52件、障害年金が448件、死亡一 時金・遺族年金・遺族一時金・葬祭料が支払われた例が128件となっている。認定された 総数では、最多がMMRワクチン5の被害者の1041件であり、以下BCGの572件、ポリ オ(生ワクチンと不活化ワクチンの合計)が313件、痘そう281件、DPT6 が234件とな っている。言うまでもなく、このデータは、ワクチンにより被害を被ったことを「認定」

された人の数であり、被害に遭いながら制度に認定されなかった人は含まれていない。

また、副反応の症例は、MMR ワクチンやポリオワクチンにおいて顕著な症例である発 熱やけいれん、脳脊髄炎7などを始めとして、BCGでは骨髄炎、粟粒結核や結核性髄膜炎8、 ポリオワクチンでは身体の麻痺、DPTワクチンでは脳脊髄炎を含む神経障害、循環器障害 などがあり、それらは大変重篤なものであり、植物状態および死亡に至る例も多い(藤井

2014:20-21; ワクチントーク全国・「新予防接種へ行く前に」編集委員会2013:54,76,77)。

4 厚生労働省HP, http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/other/6.html, 2018年4月閲覧。

5 MMRワクチンとは、麻疹(measles)、流行性耳下腺炎(mumps)、風疹(rubella)の3種 を混合したワクチンである(永井2013:206)。

6 DPTワクチンとは、ジフテリア(Diphtheria)、百日咳(Pertussis)、破傷風(Tetanus)の 3種混合ワクチンである(大谷・三瀬2009:23)。

7 この脳脊髄炎とは、正確には急性散在性脳脊髄炎(acute disseminated encephalomyelitis : ADEM)を指している。症状としては、ウイルス感染後やワクチン接種後に生じるアレルギー 性の脳脊髄炎で、頭痛、悪心、嘔吐などの髄膜刺激症状の他に、意識障害、麻痺、失語、脳神 経麻痺、眼振などがある。国立感染症研究所HP, 急性散在性脳脊髄炎Q&A,

http://www0.nih.go.jp/vir1/NVL/WhatADEM.htm, 2018年4月閲覧。

8 粟粒結核は、結核の初期変化が治癒せずに、結核菌がリンパ血行性に移行して発症するもの で、これが進行すると結核性髄膜炎となる。国立感染症研究所HP, 結核,

https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/398-tuberculosis-intro.html, 2018年4月閲 覧。

子供の健康を願って接種させたワクチンによって起こる副反応は、本人がその症状にお いて苦しむだけでなく、その親は、子供をそのような状態にしてしまったという自責と後 悔の念に苦しむことになり、大変悲惨な状況を生む。同様の事態は、本論が事例として取 り上げる子宮頸がんワクチンによる副反応でも起こっているが、それについては、3.4.3 において詳しく検討する。

本項3.1.1および3.1.2においては、ワクチンについての基本的な知識を整理し、ワクチ

ンにより起こる副反応の実態について簡潔なまとめを示した。次の3.2 および3.3では、

これらのワクチンを提供する日本の予防接種制度について、その成立と変遷をまとめ、手 塚洋輔の分析を基に、幾度かの法改正を経て変化した現在の予防接種制度の特徴について 検討する。