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変わる男女の共生―ドイツ

第 4 章 子宮頸がんワクチンの接種対象者である女性―その近代化の歴史

4.4 家族形成における男女の個人化

4.4.1 変わる男女の共生―ドイツ

第二次世界大戦が終わり 1960 年代になると、欧米においては、伝統的な慣習や社会的 規範を覆すような変化が押し寄せ、人々の精神面においても大きな解放が起こり、それを より広く受け入れることが、多様な領域において主張された。それは若い女性の性に対す る態度と行為において、最も際立って認められる変化となって現れた。1960年代初頭では、

処女性は多くの女性にとってまだ価値を持っており、結婚する前の男性との交渉もタブー であり、それは結婚への固い意志と結びついていた。しかし、1970年から80年代の初頭 にかけて、そのような性道徳は逆転し、「結婚まで待つこと」が重要だと考える女性は少数 派となった(Beck and Beck-Gernsheim 2002:68)。

(1) より主観的な結びつきへ

男女の関係がオープンになり、自由な恋愛も一般的なものとして受け入れられるように なると、男女関係のゴールとしての家庭形成も、伝統的な結婚という形式だけでなく多様 性を示すようになる。これは、近代化の過程において結婚の意味が根底的に変化したため であり、労働を軸とした家族関係から、情緒的な繋がりを重視した男女の関係が形となっ て現れたものである(Beck and Beck-Gernsheim 2002:7154)。

しかし、近代化のさらなる拡大に連れて、特に女子の教育機会の改善と家庭外での女子 労働の増加が、新しいタイプの結婚を創出する。この結婚は、主として男女間の情緒的支 えを核とした、生計の手段を持つ2人の人間の結びつきであり、相手が自分を精神的に必

54 たとえば Mitterauer, M. and Sieder, R.(1980)Vom Patriarchat zur Partnershaft. Zum Strukturwandel der Familie, 2nd edn., Shorter, E.(1976)The making of modern Family, Wagnerova, A.(1982) Scheiden aus der Ehe..Anspruch und Scheiden einer Lebensform, などを参照のこととされている(Beck and Beck-Gernsheim2002:80, 注92)。

要とすることを求めることを大前提としている。結婚は、かつてのような家の存続や、生 命の再生産といった客観的な目標から解放され、主観的な個人の期待に連動するものとな り55、「自分自身の人生を常に要求するカップル」という、新しい形が出現する(Beck and Beck-Gernsheim 2002:71)。

このような状況において、女性の結婚年齢は上昇の傾向にあり、特に西欧先進諸国では 晩婚化が進んでいる。ドイツの平均初婚年齢(法律婚56)は、2014 年では男性33.4 歳、

女性30.7歳であり、1981年の旧西ドイツでは、同年齢が男性26.5歳、女性23.7歳であ り、旧東ドイツでは男性24.2歳、女性22歳であったことと比べると、確かに晩婚化が進 んでいる(井上・江原1991:9)57。このような晩婚化は、4.2および4.3で論じたように、

教育機会が男女間で均等化され、女性も高等教育を受け、学業修了後は職業を持ち、仕事 を通じて経済的基盤を手に入れるようになると同時に、生活のために結婚という形で夫に 依存する生き方から、自分自身の人生の目標を追う生き方が可能になったことが、その要 因として考えられる。

結婚年齢の上昇とともに、西欧先進諸国では法的手続きによらない結婚が増加しており、

ドイツ58では、同棲59している人は20%程度あり、法律婚に至るカップルの約80%が同棲 を経ている。同棲を経て結婚に至った理由は「愛情が確認できた」というものが最も多く、

同棲が正式な結婚のための「試験期間」として広く浸透していることが解る(内閣府経済 社会総合研究所2005b:123-124)。

(2) 仕事の継続を支えるもの―家事の分担と国の政策

このようにドイツの男女の結びつきは、従来の伝統や習慣に縛られない形で多様化して

55 Wagnerova, A.(1982)Scheiden aus der Ehe.Anspruch und Scheitern einer Lebensform における婚姻関係の「個人化」に関連した主張を参照のこととされている(Beck and

Beck-Gernsheim 2002:80, 注93)。

56 法律婚とは、婚姻届の提出や受理などの一定の法律的手続きを経て成立する結婚を指す(松 村1995: 3329)。

57これらのデータはOECD, Family database, Family and childrenの「SF3.1Marriage and

divorce rate」からのものであり、東西ドイツ(1981年)のデータは井上・江原(1991)の9

頁の表4-1からのデータである。ちなみにフランスの平均初婚年齢は男性32.9歳、女性30.8 歳(2011年)、イギリスは男性32.4歳、女性30.3歳(2012年)である。OECD、Family database, http://www.oecd.org/social/family/database.htm, 2017年5月閲覧。

58 この第4章において、内閣府経済社会総合研究所(2005aおよび2005b)から引用したデー タにおける「ドイツ」は、特にことわりがない場合、ミュンヘンとハンブルグの調査結果を指 し、日本は東京の調査結果を指すものである(内閣府経済社会総合研究所2005b:123)。

59 同棲とは、この場合、男女が正式な結婚をせずに一緒に暮らすことを指す(松村1995:2559)。

いるが、4.3 で論じたように、女性の労働環境は、現在でもなお、賃金や労働条件の上で 男性と全く同等ではない。仕事を持つ女性が夫またはパートナーを持つ時、子供を持つか 持たないか、子供を養育しながら仕事を継続するかという選択と、それが現実に可能か否 かという判断は、避けては通れない問題である。そこで、ドイツで生計をともにする男女 において、家庭生活と仕事がどのような配分で成立しているのかを、実際の子供を持つカ ップルの暮らしぶりから検討を行う。

まず、男女の週当たりの労働時間では、ドイツの夫(または男性パートナー60)におい ては、2005年の37.7時間から増加し、2014年では38.6時間であり、2017年では39時 間である。ドイツの妻(女性パートナー)は、2005年の37.3時間から減少し、2014年で は 30.1 時間、2017 年では 31 時間である(総務省統計局 2011:302-303; 2015:286-287;

2016:234-2356162。また、帰宅時間では、夫の約50%以上が19時までに、妻の約60%

は 18 時までに帰宅しており、特にドイツでは学校が半日制のため、学童保育等を利用せ ずに両親のどちらかが 15 時前に帰宅する必要がある場合、それを担っているのは妻では

27%、夫では4%弱となっている。(内閣府経済社会総合研究所2005b:128)63

家事と育児の分担に関しては、ドイツの夫は育児に週 59分、家事に週 2 時間を費やし ている(厚生労働省 2010c:664)。具体的には、ドイツでは「料理を全くしない」夫が 20

~30%いるが、「毎日料理をする」夫が10%弱、週に2~3日、または4~5日料理すると いう夫を合わせると 45%を超えている。一方「毎日料理をする」妻は 50%弱であり、料 理は妻の担当であるように思われる。また、「掃除を全くしない」夫は20%以下、妻は5%

以下となっており、洗濯に関しても「全くしない」夫は全体の60%ほどおり、同様の妻は 5%以下であることから、掃除と洗濯に関しても、妻が担っている割合が高くなっている

60 以下「夫」は法的に結婚していないがともに暮らしている男性パートナーを含むこととする。

「妻」についても同様とする。

61 総務省統計局(2011)の「世界の統計2011」では、男女別週当たり実労働時間を「非農林 漁業」と「製造業」に分けているため、ここに用いた2000年と2005年のデータはこれらから 算出した平均値である。また、「世界の統計2015」と「世界の統計2016」では、「全産業」の 値が算出されているためこれを用いた。

62 2017年のデータはInternational Labour OrganizationのMean weekly hours actually worked per employed person by sex and occupationからのデータである。

http://www.ilo.org/global/statistics-and-databases/lang--en/index.htm, 2018年6月閲覧。

63 日本では夫の61.5%が20時以降に帰宅し、18時までに帰宅する妻は37.8%である(内閣 府経済社会総合研究所2005b:128)。

64 ドイツは2001~02年のデータである。ちなみに、フランスの男性は週に家事を40分、育

児を1時間50分行なっており、イギリスはそれぞれ1時間と1時間46分となっている(厚生 労働省2010c:6)。

(内閣府経済社会総合研究所2005b:129; 1586566

さらに、パートナーからのサポートという観点においては、ドイツの夫婦のほぼ90%が

「信頼」されることを重要視しており、男女とも相手にそれを同程度求めている項目とし ては、「家族の間を取り持つ」こと、「子育てへの参加」が挙げられている。家事に関する 互いへの要望はドイツではかなり高いことに加え、家計を支える収入に対しては、ドイツ の 妻 か ら 夫 へ の そ れ は 突 出 し て 高 く な っ て い る ( 内 閣 府 経 済 社 会 総 合 研 究 所 2005b:132;17367)。

女性が結婚後も仕事を継続するためには、夫やパートナーとの関係だけでなく、子供の 養育に関する制度や、法律の充実度が現実的には重要な支えである。ドイツの家族政策で は、児童手当または児童扶養控除のどちらかを選択することができ、児童手当は、第1子 から第3子まで月額2万円程度で18歳未満の子供すべてが対象であり、児童扶養控除は 子供1 人当たり約 50万円で、教育控除も約 30万円となっている。さらに、教育は原則 として大学まで無料であり、学生の生活費等を支援する連邦育英奨学金や職業教育育成の ための助成金制度も充実している。加えて、育児休暇制度が最長3年間で整備され、その 取得方法も両親が同時に、または別々取得することも可能であり、柔軟な対応が実施され ている。育児休業手当は収入により制限が設けられているが、子供が満2歳になるまで月 額上限約4万円を受け取るか、子供が満1歳になるまで月額上限約6万円を受け取るかの、

どちらかを選択できる(内閣府経済社会総合研究所2005a:12)。

ドイツの女性の場合、年齢別にみた労働力率が凹みの少ない M 字を形成しているが

(4.3.2 (2)参照)、ドイツ女性が出産および子育ての年齢においても職業を継続できること の背景には、夫婦間の家庭内での精神的および実際的な協力に加えて、国の政策としての サポートが大きく影響していると考えられる。

(3) 離婚と女性の自立

最後に、結婚や同棲関係が継続せず、再び独身となる女性の状況に焦点を当てる。事実 婚68などの形式で、法的に結婚をせずに子供を儲ける女性が増えている一方で、離婚の急

65 図表の8-39,8-40を参照した。

66 ちなみに、妻が毎日掃除をする割合が最も高いのは日本(東京)であるが、夫が全く掃除を 行わない割合が最も高いのも日本(東京)である(内閣府経済社会総合研究所2005b:129)。

67 173頁の図表8-70を参照した。

68 事実婚とは、婚姻届を出さないで、事実上の夫婦生活を営む結婚形態を指す。日本の場合は