第 5 章 子宮頸がんワクチン事業における医学というサブ政治
5.1 サブ政治と政治
5.1.2 医薬品の提供における政治の役割
た完治しないまでも、死を免れ生き続けることが可能となっている。医学の進歩は日進月 歩と言われるように、その発展により人類は、19世紀よりは21世紀の今日、そして昨日 よりは今日において、それまでの生活を飛躍的に向上させてきたのである。
2.3.1の(3)で述べたように、疾病により身体に与えられる苦痛は、専門知識を持つ医師
により、それを持たない患者には理解できない方法で対処される。そして、医学が進歩し て診断が可能になればなるほど、それまでは解明されなかった新しい病気が発見され、医 学は、そのための治療法や薬を開発するための研究を進める。どんな薬が治療に有効なの かを独自に研究開発し、その認可や患者に投与する判断も、製薬という科学とそれを用い て患者を治療する医師が行う。医薬品の研究と、それを実際に利用する臨床を含む医学が、
政治における行政府と立法府の役割を1人で果たすことになるのである(Beck 1986 = 1998:411-412;419)。さらに、製薬は医学内部において、尽きることのない需要を生み出 す。それは、医師が病気を診断し、治療を与えることで起こる二次的な症状や薬の副作用 などを、新たな医薬品の開発や治療法の開拓へと結びつけることができる。つまり、その 専門化が際限なく進展することにより、製薬という分野は、医学とともに永久に拡大する 市場を形成することを可能としているのである。
製薬という領野は、その医薬品の効果により、それまでの人間の生活を一変させるよう な向上をもたらし、その分野内での専門知により発展と拡大を継続し、それ以外の分野の 侵入を許さず、二次的、三次的な障害さえも、その発展の土台とすることにおいて、「自己 内省的」に発展することが可能なサブ政治と考えることができる。
り、また、よりよい医療を推進するリーダーとして重要な責務を負う。
製薬業界は、この厚生労働省内の医政局10、健康局11、医薬・生活衛生局12と密接な関係 を持っている。医政局は、遺伝子工学に基づいた最新医療技術開発、それを支える医薬品 や医療機器産業の振興を担当しており、医薬・生活衛生局では、薬の最終段階である治験 の整備と管理、承認審査に加えて、ワクチンの研究開発および供給体制等の在り方の検討 もその業務である(荒川2013:176)13。以下においては、国の行政機関としての厚生労働 省が、新薬の申請承認に関して果たす役割とその業務について整理する。
(1) 国内で製造される新薬の承認
日本国内で製造された医薬品の承認には、申請者、厚生労働省、PMDA、外部専門家の 4者が関わっている。製薬企業から新薬承認の申請があると、PMDAの審査チームが、承 認申請書や添付された資料の照会のための面談を実施する。申請者は、プレゼンテーショ ン等により照会事項に回答を行う。PMDAによる承認審査プロセスでは、チーム審査専門 員と外部専門家が専門協議を実施して、重要な問題について検討が成される。特に問題が ある場合には、この専門協議の後に、審査専門員、外部専門家そして申請者により、面接 審査会が行われることもある。一方で、申請された資料が、信頼性基準(GLP14およびGCP15)
10 医政局は、近年の高齢化、疾病構造の変化、医療の質を求める国民の声に応え、21世紀に おける、良質で効率的な医療提供体制の実現に向けた政策の企画立案を行う部署である。電子 政府の総合窓口e-Gov, 府省一覧,厚生労働省, 医政局,
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Organization?class=1050&objcd=100495&dispgrp=0080, 2018年5月閲覧。
11 健康局は、保健所等を通じた地域保健の向上、エボラ出血熱、エイズ、結核などの感染症や 糖尿病、がんなどの生活習慣病の対策を講じ、適正な臓器移植の推進を図り、国民の健康の向 上に取り組む部署である。電子政府の総合窓口e-Gov, 府省一覧,厚生労働省, 健康局, http://search.e-gov.go.jp/servlet/Organization?class=1050&objcd=100495&dispgrp=0090, 2018年5月閲覧。
12 医薬・生活衛生局は、医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器および再生医療等製品の有効 性・安全性の確保対策の他、血液事業、麻薬・覚せい剤対策など、国民の生命・健康の保護お よび理・美容店などの生活衛生関係営業の振興策、シックハウス対策、水道の整備等を担い、
快適な生活環境の確保に取り組む部署である。電子政府の総合窓口e-Gov, 府省一覧,厚生労働 省, 医薬・生活衛生局,
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Organization?class=1050&objcd=100495&dispgrp=0100, 2018年5月閲覧。
13 医薬・生活衛生局の職務については、厚生労働省HPの「医薬・生活衛生局が実施する検討 会等」も参考とした。http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/indexshingiother.html?pid=128689, 2018年5月閲覧。
14 GLPは Good Laboratory Practiceの略語で、新薬の申請に当たり、臨床試験(治験)の前 段階である非臨床試験(動物実験)が適正に行わるように示された基準を指す。日本では「医
に準拠して作成されているかについて確認する適合性調査が実施され、加えて、治験依頼 者および治験実施期間に対してのGCP実地調査が行われる(ドーモ2009:30-44)16。
PMDA における審査により審査報告書が作成されると、その報告書は厚生労働省の薬 事・食品衛生審議会の医薬部会および薬事分科会において、審議と報告が行われる。同時 に、GMP適合性調査17において、医薬品の製造所が基準に適合しているかが確認される。
これを通過して初めて、新医薬品として厚生労働大臣の製造販売承認を得ることになる(ド ーモ2009:49-54)18。
(2) 海外において既に承認されている医薬品の承認
対して、海外で開発された医薬品は、かつては日本の製薬企業が国内販売権を買って承 認を取得し、日本国内での製造販売を行っていた。2005年に実施された改正薬事法19では、
外国の製薬企業が自ら承認を取り、日本にある子会社や日本の製造業者等に製造販売させ ることを想定した「外国製造医薬品の承認制度」が設けられた。日本では、製造販売承認 を取った責任者が製造販売業者として、医薬品の市販後の安全管理に責任を持つことが製 造販売の許可の条件とされている。しかし、外国の製薬企業が日本国外からその責任を果 たすことには困難が伴うため、この制度は、日本国内の製造販売業者のうちから適当な者 を選び、その製造販売業者に安全管理業務を委任することができるというものである(ド 薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準に関する省令」(平成9年厚生労働省令第21号)
がこれを定めている(ドーモ2009:32,44)。
15 GCPはGood Clinical Practiceの略語で、薬事法第14条第3項の「承認を受けようとする 者は、厚生労働省令で定めるところにより、申請書に臨床試験の試験成績に関する資料その他 の資料を添付して申請しなければならない。(中略)当該資料は厚生労働大臣の定める基準に 従って収集され、かつ、作成されたものでなければならない」に従い、臨床試験(治験)を実 施する際に守るべき基準を指す。その内容は①治験の依頼に関する基準、②治験の管理に関す る基準、③治験を行う基準の3つである(ドーモ2009:32,41)。
16 GLPとGCPについては、独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)HPの「信頼
性保証業務」も参照した。http://www.pmda.go.jp/review-services/inspections/0001.html, 2018 年5月閲覧。
17 GMP適合性調査のGMPとはGood Manufacturing Practice の略語で、医薬品製造業者の 製造管理および品質管理の基準を指す。これを査定するGMP調査は、新薬承認審査時だけで なく、承認取得後3年を下らない期間ごとに行われることが定められている(ドーモ2009:
49,57)。
18 新薬の承認過程については、公益社団法人日本薬学会のHPの「申請と承認」も参考とした。
http://www.pharm.or.jp/souyaku/cro_2.shtml, 2018年5月閲覧。
19 薬事法は2014年11月25日から、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保 等に関する法律」(略称は「薬機法」または「医薬品医療機器等法」)に名称が変更されている が(厚生労働省2014c:3; 薬事医療法制研究会2014:1)、本論は該当法の名称変更により影響を 受ける論旨を含まないため、「薬事法」の名称に統一することとする。
ーモ2009:31-32)。
日本で申請される海外製造の医薬品は、すでに海外において審査が終了しているものが ほとんどであるが、すでに承認された医薬品でも、日本での申請においては再度の審査が 必要となっている20。しかしながら、「国民の生命および健康に重大な影響を与えるおそれ がある疾病の蔓延その他の健康被害の拡大を防止するため緊急に使用されることが必要な 医薬品であり、かつ、当該医薬品の使用以外に適当な方法がない」場合には、「医療上の必 要性の高い未知承認・適応外薬検討会議」を設置して、日本の臨床試験データなしで承認 申請する、公知申請(厚生労働省 2011b:5)が可能とされている。また、インフルエンザ 等の感染の拡大が急速な疾病に対し、その対応にも緊急性が求められるものに対しては、
特例として承認される制度がある21。
(3) 医学という政治に集められる専門性
本項の(1)で述べたように、日本における医薬品承認には、申請者、厚生労働省、PMDA、
外部専門家の4者が関わっている。申請者は医薬品を製造している製薬企業であり、薬学、
薬理学、バイオテクノロジー、工学などの専門家がその開発に当たっている。実際に申請 された医薬品の専門的審査を行うのは、独立行政法人である PMDA であり、厚生労働省 の医薬・生活衛生局と連携して、治験、承認審査、市販後調査、安全対策などを担当して いる(日本製薬工業協会 2017:1)。これらの業務内容に携わる人材もまた、医薬品、医療 機器および再生医療等製品の品質、有効性、安全性を判断することのできる、高い専門性 と科学的知識を必要とされる専門家である22。
PMDAの審査結果を厚生労働省内で審査するのは、薬事・食品衛生審議会であり、薬事 分科会と食品衛生分科会に分かれており、薬事分科会は薬事法その他の法律を管轄してい る。新医薬品等は、医薬品第一部会および医薬品第二部会、または一般医薬品部会で審議
20 公益社団法人日本薬学会HP,「申請と承認」, http://www.pharm.or.jp/souyaku/cro_2.shtml, 2018年5月閲覧。
21 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律 第14条の3の1(特 例承認)(昭和35年法律第145号 施行日:平成28年4月1日), 電子政府の窓口 e- Gov, http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/viewContents?lawId=33 5AC0000000145_20160401_427AC0000000050, 2018年5月閲覧。2009年のインフルエンザ の流行では、海外ワクチンのH1N1がこの措置により特例承認を受け承認されている。公益社 団法人日本薬学会HP,「申請と承認」, http://www.pharm.or.jp/souyaku/cro_2.shtml, 2018年 5月閲覧。
22 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)HP, 「採用情報 技術系職員の募集につ いて」, https://www.pmda.go.jp/recruit/0440.html, 2018年5月閲覧。