第 3 章 2030 年までの省エネルギーポテンシャルおよび費用対効果分析
3.2. 費用対効果分析
3.2.4. 産業部門
本項では、第 3 章では部門レベルの試算であったため、新たに分析対象技術を特定した 上で費用対効果分析を行う。
産業部門における費用対効果の分析手法
産業部門では費用対効果分析を以下の様な前提に基づき試算する。
28 なお、省エネルギーポテンシャルを一次エネルギーに換算する際に用いる電源構成・発電効率・送電ロ スはいずれもIEEJモデルによって得られた結果を採用している。ただし、電源構成については、インドネ シアにおける発電電力量の大部分が化石燃料由来の電源であるため、1次エネルギーに換算する際は全て 化石燃料が節減されると仮定している。
81 (1) 導入台数
分析対象技術の導入台数は生産規模に比例して導入されると想定する。すなわち、高効 率技術の導入台数は工場数や生産能力といった規模によって制約が存在するため、以下の 手順で導入台数を導出する。
① 参考文献に基づき生産能力ならびに稼働率の実績値を推定する。
② ①を用いて、生産活動量(例:粗鋼生産量)あたりに必要な生産能力の比を算出 する。
③ 2030年までの生産活動量を推計する。
④ ②と③を乗じて、年次毎に必要生産能力を求める。
⑤ 該当年の必要生産能力が前年の生産能力を上回った場合に、一定規模の新たな工 場が新設されると想定し、その際に対象機器が導入される。
⑥ ①~⑤までの手順により、毎年の導入台数が試算されるため、2030 年まで積み上 げる。導入台数に関してはワイブル分布に基づく残存率を用いる。
(2) 省エネルギーポテンシャルおよび費用・便益等
省エネポテンシャルや費用・便益は導入台数にそれぞれの値を乗じることによって求め た。なお、費用のうち、維持補修費については毎年計上している。その他の想定について は、3.2.1と同様である29。
分析対象技術
分析対象技術はリジェネバーナー(鉄鋼)、発電型排熱回収設備(セメント)、回収ボイ ラー(紙パルプ)、貫流ボイラー(繊維)とする。これらの技術の特定にあたっては、次の 条件を満たす技術を選出した。すなわち、①インドネシアで将来的に需要拡大が見込まれ るエネルギー多消費産業での導入を対象、②インドネシア側の技術ニーズ、③途上国への 導入実績がある日本が優位性を有する技術を考慮して選定した。具体的には第2章と同様 にインドネシアにおいてエネルギー需要が大きい鉄鋼・セメント・紙パルプ・繊維を対象 業種とした。これらの業種のインドネシアにおける省エネルギー技術ニーズ(Republic of
Indonesia 2010)や、途上国への日本の省エネルギー技術の導入実績(JCMFS調査およびNEDO
実証事業)を踏まえて、分析対象技術を特定した。各技術の概要については図3-23に、試算 に用いた生産活動量の詳細や生産容量、技術の関連データ等の出所については表3-9に示す。
29 なお、セメントセクターの発電型排熱回収設備は電力需要を節減する機器であるため、省エネルギーポ テンシャルを一次エネルギーに換算している。
82 注:効率改善率は既存技術と比較した場合の値である。
出典:各社HP(画像)および各種参考文献・ヒアリング結果(値)より日本エネルギー経済研究所作成
図3-23 産業部門の費用対効果分析における対象技術および概要
リジェネバーナー(鉄鋼) 発電型排熱回収設備(セメント)
回収ボイラー(紙パルプ) 貫流ボイラー(繊維) 初期投資
(億円) 2.7
効率改善
(%) 30
省エネ量
(ktoe/y) 4.5
耐用年数
(年) 10
初期投資
(億円) 54.0
効率改善
(%) 20
省エネ量 (ktoe/y) 14.2
耐用年数
(年) 15
初期投資
(億円) 0.6
効率改善
(%) 10
省エネ量
(ktoe/y) 0.3
耐用年数
(年) 15
初期投資
(億円) 13
効率改善
(%) 20
省エネ量
(ktoe/y) 21
耐用年数
(年) 20
出典:Kawasaki Heavy Industries HP
出典:NEDO HP 出典:JFE Engineering Corporation HP
出典:MIURA CO.,LTD HP
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表3-9 各技術の試算に用いたデータおよび出所
セクター 技術 生産活動量 出所
鉄鋼 リジェネバーナー 粗鋼生産量
国際協力機構 (2009),
日本エネルギー経済研究所 (2010), Indonesia Investment (2016), World Steel Association セメント 発電型排熱回収
設備 セメント生産量 地球環境センター (2013)
紙パルプ 回収ボイラー
製紙 および パルプ生産量
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(2008), Center for International Forestry Research (2012),
宇部興産株式会社(2013),
Food and Agriculture Organization of the United Nations
繊維 貫流ボイラー 付加価値額 (GDP)
三浦工業株式会社(2014) およびヒアリング結果,
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(2015), Statistics Indonesia (BPS)
分析結果
出典:日本エネルギー経済研究所試算
図3-24 産業部門における技術別の累積費用および累積便益
10億ドル
0 1 2 3
Cumulative Additional Costs (USD, Billion)
Cumulative Benefits (USD, Billion)
Once‐Through Boiler Recovery Boiler Waste Heat Recovery Regenerative Burner
累積費用
(10億ドル)
累積便益
(10億ドル)
貫流ボイラー 回収ボイラー 発電型排熱回収 リジェネバーナー
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産業部門における技術別の累積費用および累積便益を図3-24に示す。高効率技術導入時 の2017年から2030年までの累積費用11億ドルに対し、累積便益は28億ドルと見込まれる。
費用から便益を差し引いたネットコストは負の値となる。すなわち、予測期間における対 象技術の省エネルギー量に基づく社会的な便益が費用を上回ることを示す。なお、対象技 術の合計では投資した費用の約2.6倍の便益が得られることになる。技術別のネットコスト では、リジェネバーナー(鉄鋼)の▲9.4 億ドルが最大であり、回収ボイラー(紙パルプ、
▲3.8 億ドル)、発電型排熱回収設備(セメント、▲3.2 億ドル)、貫流ボイラー(繊維、▲
0.6億ドル)と続いており、全ての技術で費用よりも便益が上回る結果となった。
出典:日本エネルギー経済研究所試算
図3-25 産業部門における技術別の投資回収年数
各技術の投資回収年数を図3-25に示す。投資回収年数が最短の技術は、リジェネバーナ ーの2.3年である。続いて回収ボイラー(紙パルプ、3.2年)、貫流ボイラー(繊維、3.6年)、 発電型排熱回収(セメント、5.9年)との結果を得られた。なお、この投資回収年数は、2017 年から2030年までの累積費用を2030年時点の便益で除した簡易的な手法を用いたため、
必ずしも一般的な投資回収年数の結果と一致しない点について留意が必要である。
2.3
5.9
3.2
3.6
0 1 2 3 4 5 6 7
Regenerative Burner
Waste Heat Recovery
Recovery Boiler Once‐Through Boiler
年
リ ジ ェネバーナー (鉄鋼)
発電型排熱回収 (セメント)
回収ボイラー (紙パルプ)
貫流ボイラー (繊維)
85 出典:日本エネルギー経済研究所試算
図3-26 産業部門における技術別の省エネルギーポテンシャル(ktoe)
技術別の省エネルギーポテンシャルはリジェネバーナー(鉄鋼)の222 ktoeが最大であり、
続いて、発電型排熱回収設備(セメント、119 ktoe)、回収ボイラー(紙パルプ、95 ktoe)、 貫流ボイラー(繊維、25 ktoe)である。この分析結果から産業部門全体の省エネルギーポテ ンシャルの内、リジェネバーナー(鉄鋼)による節減量が約50%を占めていることがわか る。高い経済成長を背景に粗鋼需要が増加する見通しを背景とし、経済性の高いリジェネ バーナーの導入が進む事を背景としている。