第 3 章 2030 年までの省エネルギーポテンシャルおよび費用対効果分析
3.1. 省エネルギーポテンシャルの試算方法
3.1.4. 産業部門
本項では、エネルギー効率の改善が現状程度にとどまる2030年までのエネルギー需要 見通し(BaU ケース)を作成、その上でエネルギー多消費産業を対象とした業種別の省エ ネルギーポテンシャルを分析する。さらに、インドネシアに日本の省エネルギー政策が導 入された場合の効果を試算する。
1. 業種別省エネルギーポテンシャルの推計
試算方法の補足
産業部門の省エネルギーポテンシャルの試算においては、3.1 の試算方法に記載の通り、
IEEJモデルを活用して業種別に分析する22。BaUケースはIEEJモデルを活用し、計量経済 の手法を用い、生産量とエネルギー需要との相関を考慮し将来需要見通しを作成する。一 方、ALT ケースでは高効率機器が最大限導入されたと仮定した場合におけるエネルギー原 単位を2030年に亘って想定、IEEJモデルにより導出された生産活動量に乗じることでエネ ルギー需要見通しを作成する。ALT ケースにおけるエネルギー原単位の想定は、日本エネ ルギー経済研究所 (2016)『世界・アジアエネルギーアウトルック2016』の技術進展ケース
やInternational Energy Agency (2012,2014)を参考に業種別の改善率を想定している。
試算対象業種
試算対象業種は第1章で特定した様に鉄鋼・セメント・紙パルプ・繊維である。図3-3は、
インドネシア工業省による 7 業種(鉄鋼・セメント・紙パルプ・繊維・食品・化学)を対 象とした2012年時点のエネルギー消費量である。本節では、このエネルギー消費統計に基 づき、エネルギー消費量の上位5業種のうち、化学肥料業を除く4業種を試算対象とする。
22 なお、一部、モデルに用いるデータの前提を国際協力機構 (2015)における業種ごとの燃料種別消費量や インドネシア中央統計庁のデータに変更している。
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出典:Ministry of Industry (2012) “Needs for Energy Planning for the Industry Sector towards the Acceleration of Industrialization”より作成
図3-3 業種別エネルギー消費量(2012年)
2. エネルギー需要見通し
出典:日本エネルギー経済研究所試算
図3-4 部門別省エネルギーポテンシャルの試算結果(Mtoe)
紙パ, 5,000, 60%
繊維, 1,927, 23%
セメント, 552, 7%
化学肥料, 389, 5%
鉄鋼, 268, 3% セラミッ ク, 103, 1%
食品, 43, 1%
単位:ktoe 出所:MOI(2012)
20%
2030年
Mtoe Mtoe
実績値 予測値 実績値 予測値
鉄鋼 セメ ント 紙パルプ 繊維 BAUケー ス ALTケー ス
セメ ント 紙パ
鉄鋼 繊維
60
産業部門における分析対象業種のエネルギー需要は BaU ケースにおいて 2014 年の
12Mtoeから2030年には28Mtoeへ年率5%で増加する見通しである。2030年時点でのエネ
ルギー需要を業種別にみるとセメントの 11Mtoe が最大であり、紙パルプ(9Mtoe)、鉄鋼
(5Mtoe)、繊維(3Mtoe)と続き、セメントおよび紙パルプのエネルギー需要が 2030年に おける4業種のエネルギー需要の70%を占める見通しである。
一方、ALTケースにおいては、2030年時点の4業種のエネルギー需要は22Mtoeとなる見 通しで、BaUと比較して、約20%(6Mtoe)の省エネルギーポテンシャルを有している。2030 年の省エネルギーポテンシャルを業種別にみると、セメントの2.1Mtoeが最大であり、これ に紙パルプ(1.7Mtoe)、鉄鋼(1.3Mtoe)、繊維(0.4Mtoe)と続く。
3. 省エネルギー政策の効果
本項では、試算した省エネルギーポテンシャルを達成するために必要な政策措置を検討、
それらの定量的な効果を分析する。具体的には、日本の省エネルギー政策を整理・検討し、
これらの政策がインドネシアへ導入された場合の政策効果を試算する。
インドネシアで導入される省エネルギー政策の検討
出典:日本エネルギー経済研究所作成
図3-5 日本の省エネルギー政策の概要と政策効果のフロー
産業部門における省エネルギー政策は、規制や補助金等の多様な政策手法を、技術・事 業者・業種といった階層ごとに組み合わせることで、効果的な対策の実施が可能である。
実際に日本の省エネルギー政策は多層的に実施されており、個々の技術ではトップランナ ー制度、事業者別では省エネ法に基づくエネルギー管理制度やベンチマーク制度、業種で は低炭素社会実行計画が実施されている。そのため、インドネシアへ日本の省エネルギー 政策を導入する際は個別の政策ではなく、エネルギー管理制度やベンチマーク制度、低炭 素社会実行計画など複数の政策をパッケージ化することにより各制度が補完的に機能する ため、省エネルギーポテンシャルの実現に向け有効であると考えられる。
機器・技術
省エネ基準・ラべリング
•MEPS(機器等のエネル ギー消費効率規制)
•トップランナー
事業者 エネルギー管理制度
ベンチマーク制度
業種
低炭素社会実行計画
(業界目標)
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試算方法
出典:日本エネルギー経済研究所作成
図3-6 政策効果のイメージ図
インドネシアに日本の省エネルギー政策を導入した際の効果(以降、導入効果)は、BaU ケースのエネルギー需要と政策導入時のエネルギー需要の差分として表される最大の省エ ネルギー効果の内数となる。政策の導入効果を試算することにより、最大の省エネルギー ポテンシャルを達成するために必要な政策措置が明らかにできる。
検討対象とする政策導入時のエネルギー需要は、省エネルギー政策を導入したことによ り改善したエネルギー原単位に、BaU ケースと同じ生産活動量を乗じることで求める。政 策効果としては、低炭素社会実行計画の実績値を参照する。具体的には紙パルプ業23におけ るエネルギー原単位の改善実績を、カバー率に一定の想定をした上24で試算する。
また、導入効果のみでは前節で試算した省エネルギーポテンシャルを達成できない可能 性がある。その際、不足分については補助金や低利融資、税控除等のインセンティブ措置 の必要性を表すものと見なす。
23紙パルプ業界では1990年から2015年の26年間でエネルギー原単位を33%ほど改善しているため、年平 均の原単位改善率は1.3%となる。なお、低炭素社会実行計画には今回の分析対象である4業種すべてが参 加しているが、製造工程の違いや業界団体のバウンダリーの不一致等から、本分析では紙パルプ業のエネ ルギー原単位を用いた。
24 低炭素社会実行計画は業界団体の取組であるため、カバー率が低い場合は業界団体と業種全体の改善率 が一致しない。加えて、政策導入当初より分析対象業種の事業者が網羅されることは困難である。従って、
政策導入対象が段階的に増えると想定した。なお、カバー率については推計開始年である2017年から段階 的に拡大し、2030年時点で60-70%になると想定した。
一般普及技術導入ケース
①BaUエネルギー需要
1) 省エネ政策による効果 2) インセンティブ(不足分)
②Alternativeエネルギー需要
高効率技術導入ケース
2017年 (制度導入年)
2000年 2030年
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分析結果
出典:日本エネルギー経済研究所試算
図3-7 産業部門における政策効果の分析結果
日本の省エネルギー政策を導入した場合の政策効果を図3-7に示す。低炭素社会実行計画 やエネルギー管理制度、ベンチマーク制度等の日本の省エネルギー政策を総合的に導入し た場合、2030年時点で3.8Mtoeの省エネルギー効果が得られ、BaUケース比で14%の節減 となる。一方で、日本の省エネルギー政策の導入効果のみでは、1で試算された省エネルギ ーポテンシャルを満たすには不十分であるため、BaUケース比で約6%、経済インセンティ ブ措置が必要となる。