第5章 中国人日本語学習者のメタファー表現理解に影響する要因
5.3 結果と考察
5.3.1 母語に基づく概念・言語の知識とメタファー表現理解の関連
概念・言語の特徴に関わるグループa(概念的・言語的に共有)、グループb(概念的に のみ共有)とグループc(概念的・言語的に非共有)のメタファー表現における被験者(N
=72)の正答率は次のとおりである(注:表の中の正答率欄にあるローマ字a、b、cはそ れぞれグループa、b、cを指す)。
表15 グループa、b、cの正答率
被験者 正答率 被験者 正答率
a b c a b c
1 100% 75% 64% 37 92% 8% 36%
2 100% 42% 45% 38 100% 33% 64%
3 100% 67% 36% 39 100% 50% 64%
4 100% 67% 64% 40 100% 33% 45%
5 100% 42% 45% 41 75% 25% 73%
6 100% 67% 64% 42 92% 17% 64%
7 92% 33% 36% 43 100% 17% 18%
8 92% 50% 45% 44 92% 50% 73%
9 100% 17% 18% 45 83% 33% 36%
10 83% 33% 27% 46 92% 33% 36%
11 92% 33% 45% 47 92% 67% 55%
12 100% 92% 82% 48 100% 50% 91%
13 100% 50% 45% 49 100% 58% 45%
14 100% 42% 64% 50 100% 50% 64%
15 92% 67% 55% 51 100% 33% 55%
16 100% 67% 64% 52 83% 25% 45%
17 100% 50% 64% 53 83% 50% 64%
18 100% 58% 55% 54 100% 58% 64%
19 100% 67% 82% 55 67% 42% 45%
20 100% 42% 64% 56 83% 42% 55%
21 92% 25% 64% 57 83% 50% 18%
22 92% 67% 45% 58 75% 17% 27%
23 100% 58% 64% 59 100% 33% 45%
24 100% 42% 64% 60 83% 25% 45%
25 100% 42% 55% 61 75% 25% 18%
26 100% 25% 55% 62 100% 25% 45%
27 100% 25% 27% 63 58% 17% 18%
28 92% 17% 36% 64 92% 17% 55%
29 58% 25% 0 65 83% 33% 27%
30 92% 25% 45% 66 83% 58% 73%
31 50% 17% 18% 67 92% 25% 64%
32 100% 25% 45% 68 83% 17% 27%
33 100% 42% 36% 69 100% 67% 82%
34 92% 50% 45% 70 75% 0 18%
35 92% 25% 73% 71 100% 33% 36%
36 92% 42% 73% 72 100% 25% 64%
表 15から見れば、すべての被験者はグループ aにおいてもっとも高い正答率を持ってい るため、全体的にグループ aの正答率がグループ b、c より高いことが分かるが、グルー プbとグループcとどちらの正答率が高いかはっきり見えない。上表のデータの分布及び それが示す傾向をより明確に把握するため、記述統計を行った。その結果は表 16 に示し
ている。
表16 グループa、b、cの正答率における記述統計の結果
度数 平均値 標準偏差 概念・言語 a:概念的・言語的に共有 72 91.93% 11.240%
b:概念的にのみ共有 72 39.64% 18.468%
c:概念的・言語的に非共有 72 49.49% 18.910%
まず、平均値から見れば、グループaの平均正答率は90%以上にも至り、グループbとc の平均正答率を大きく上回り、メタファー表現の理解において母語知識という要素が重要 な役割を担っていることが示されている。それと同時に、日中両言語間で概念的・言語的 に共有のメタファー表現は比較的理解されやすいのに対し、言語的に非共有のメタファー 表現は比較的理解されにくいことが分かる。次に、グループ aとグループb を比べれば、
両方とも概念的に中国語と共有するが、前者は後者より平均正答率が約50%も高く、メタ ファー表現の理解にあたって母語にまつわる言語的な知識がもっとも活用されていること を窺うことができる。また、グループbとグループcを比較すれば、前者は中国語と概念 的に共有するにもかかわらず後者より平均正答率が低かったことから、言語的に非共有の 日本語メタファー表現を理解する際に母語に基づく概念メタファーの知識があまり役立た ないということが示唆される。ただし、目標言語のメタファー表現の理解において母語に 関わる概念メタファーの知識がはたして働くのか、どのように働くのかに関しては、ここ では断言することができず今後の更なる考察が必要であると考えられる。また、理論的に は、母語に基づく概念メタファーの知識が働くのであればグループbの平均正答率がグル ープcより高くなるべきであり、また、母語に基づく概念メタファーの知識がまったく役 立たないとしてもグループbとグループcの平均正答率が近くなるべきであるが、今回の テストではグループbの平均正答率がグループcより約10%低かったというやや意外な結 果が出た。この結果によると、テスト項目の作成に用いたメタファー表現の文脈の長短や 語の難易度に関する統制が十分ではないため、全体的にグループbの表現がグループcよ り理解されにくい可能性が示唆される。今後、メタファー表現の文脈の長短や語の難易度 からのメタファー表現理解への影響について詳しく考察することが望まれる。最後に、グ
ループ a、b、c の正答率の変動係数を計算したところ、それぞれ 12.2%、46.6%、38.2%
であった。この結果からは、グループ a に比べグループb、c の正答率のほうが比較的ば らつきが大きく、日中両言語間で概念的・言語的に共有のメタファー表現の理解に比べ概
念的にのみ共有のメタファー表現と概念的・言語的に非共有のメタファー表現の理解にお ける個人差が比較的大きいことが分かる。