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外国語学習者の MC 養成に関する研究

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 65-69)

第2章 先行研究及び本研究の課題

2.4 MC 研究

2.4.5 外国語学習者の MC 養成に関する研究

メタファーとMCは第二言語習得において大きな役割を果たしていることを認識し、概 念メタファー理論を外国語教育の現場に活用して学習者のメタファー表現の理解や産出な

どを促す研究が進んでいる。例えば、先駆的なものとして、Kövecses & Szabó(1996)と Deignan, Gabrys & Solska(1997)が挙げられる。

まず、Kövecses & SzabóはMCの養成に有益な示唆をもたらす実験を示している。具 体的に言えば、彼らはまず学習者が未習の 、“up”か“down”を含めた句動詞37を20選出し、

その中の10の句動詞は授業で教え、残りの10の句動詞は教えずにテスト作成に使う予定 を立てた。次に、選出された句動詞が使われている 20の文を利用し、“up”と“down”のと ころが空欄となっている穴埋めテストを作った38。その後、中級レベルのハンガリー人英 語学習者30名を、それぞれ15名からなる2グループ(対照群と実験群)に分け、対照群 には主に教師からの意味説明と暗記によって“up”か“down”を含めた10の句動詞を学習、

記憶させたのに対し、実験群には方向性のメタファー(HAPPY IS UPなど)に関する教 師の解説を与えながら学習、記憶させた。両群における授業総時間はいずれも 15 分であ った。授業後に、両群にそれぞれ 20 分の時間を与え事前に準備しておいた穴埋めテスト を受けさせた。その結果、授業を通して習った句動詞に関する 10 のテスト項目について は、実験群は対照群より正答率が約 9%高く、また、残りの未習の句動詞に関するテスト 項目については、実験群は対照群より正答率が約25%高かった。よって、彼らは、実験群 はテストの際に概念メタファーによる動機づけを活用しており、概念メタファーの知識は イディオムの習得に寄与することができる、と結論付けた。Kövecses & Szabóの研究は 興味深い結果を示しているが、サンプル数がやや少ないし、テスト結果の処理にも有意性 検定などが用いられておらず、その結果を一般化するのを避けたほうが良いと考えられる。

また、Deignan, Gabrys & Solskaは概念メタファーやメタファー表現の理解と産出を促

すための授業実践を報告している。彼らは143名のポーランド人上級レベル英語学習者を 対象に、様々な概念メタファーが潜んでいる英語の文をポーランド語に翻訳させたり、目 標言語と母語における概念メタファーやそれによる具体的なメアファー表現の相違点につ いて比べさせたりした。その後、教師のほうから翻訳練習に関連する各概念メタファーに ついて解説を与えたり、学習者と議論したりした。結論的には、目標言語と母語における 概念メタファーの気付き、比較や議論は概念メタファーとメタファー表現の理解や産出に 寄与できると述べている。Deignan, Gabrys & Solskaは厳密な実験に基づく実証的な研究 ではないが、実践の中で使われているタスクや手法は学習者のMC養成に多くの示唆を与

37 “bow down”、“cheer up”、“keep down”、“turn up”など。

38 例えば、“The people of Russia before 1917 were bowed by the cruelty of the ruling powers.”、 “Cheer , all the troubles are over now.”などのようなテスト項目がある。

えている。

それ以降、多くの研究者は、外国語学習者のMCという能力は果たして養成できるもの か、また、どのように養成するのかという問いに対し、議論を積み重ねながら実証的な研 究を行ってきた。以下は、各研究の詳細である。

まず、Boers(2000)はメタファー意識の向上法に関する3つの実験を報告している。1

つ目の実験では、中学生のオランダ人英語学習者118名をそれぞれ実験群(N=58)と対 照群(N=60)に分け、両群に怒りに関する 18 のイディオムが載っているプリントを与 えてそれを学習させた。ただし、実験群向けのプリントにあるイディオムはその背後の概 念メタファー(《怒りは火》など)の種類によってまとめられているのに対し、対照群向 けのプリントにあるイディオムはその働き(怒りの過程の描写など)によって分類されて いる。両群の被験者は10分間の独学と15分間の議論を通してプリントにあるイディオム を学習したあと、メタファー的なところが空欄となっている穴埋めテストを受けた。その 結果、実験群は対照群より正答率が高く、メタファー意識の向上はメタファー表現の記憶 を促すことができることが明らかにされた。2 つ目の実験では、Boers はメタファー表現 の産出におけるメタファー意識の影響について考察した。被験者はビジネスと経済を専攻 するフランス人の学部生73名であり、実験群(N=40)と対照群(N=33)に分けられて いる。両群の英語能力は中級レベルである。実験時に、両群は景気の動向の描写に関する 同じ語彙リストを与えられたが、実験群は語彙の基本義(起点領域)に関連するイメージ に気付かせるための説明(要点:一部の語彙は具体的なイメージを喚起する。例えば、“soar”、

“skyrocket”、“crash”はロケットや飛行機のイメージを喚起する。)を受けて語彙リスト を学習したのに対し、対照群は動詞に関する変化の速度に注意を払わせるための説明(要 点:一部の語彙は変化の速度を示している。例えば、“soar”、“skyrocket”、“plunge”、“dive”

には「変化が速い」という意味が潜んでいる。)を受けて学習した。その後、両群は景気 の変化に関わる図に基づいて作文を書いた。データ分析の結果、実験群は対照群より作文 に使われている動詞の種類が豊富であった。即ち、起点領域の意味の気付きはメタファー 意識を向上させ、目標領域のメタファー的な意味の記憶と産出に貢献できることが分かる。

3つ目の実験では、BoersはKövecses & Szabó(1996)における「サンプル数が足りない」

などの問題点を指摘したあと、それに似ている実験を、74名のフランス人英語学習者を対 象に行った。穴埋めテストの結果、授業を通して習った句動詞に関しては、実験群は対照 群より正答率が高かったが、未習の句動詞に関しては、両群間に有意差が見られなかった。

即ち、概念メタファーの知識は未習の内容の理解などに運用されなかったことが示唆され

ている。この結果はKövecses & Szabó(1996)と一致しない。

次に、Danesi(2000: 162-163)はイタリア語を教える14名の教育実習教師を2グルー

プ(A、B)に等分し、トロント大学教育研究大学院のイタリア語学習者を対象に実験を行

った。授業実践時に、Aグループの教師には動詞のテンスなどに注目する従来の指導法を 利用させたのに対し、Bグループの教師には、時間に関するイタリア語表現の背後にある 概念メタファー(《時間は線上の点》など)を見つけ出し、それと言語表現の表層的な文法 構造との関連性などについて議論したりするというMCとCFを高めるための指導法を行 わせた。3 週間の指導39が終わったあと、すべての学習者に同様のクローズテストを受け させた。その結果、Aグループの授業を受けた学習者の正解率はわずか32.9%であるのに 対し、Bグループの授業を受けた学習者の正解率は89.9%にも至り、Bグループの指導法 は学習者のMCとCFの向上に一定の効果があることが分かった。

Hashemian & Nezhad(2006)は学部3年生の英語学習者を対象に、6ヶ月にわたりメ

タファー的な英語の習得を中心とする指導法を行った。主な指導内容としては、概念メタ ファーとは何かについて説明したり、概念メタファーとそれに基づいたメタファー表現と の関係について討論したり、また、学習者にメタファー表現で文を作らせたり、メタファ ー表現を作文や教室でのコミュニケーション活動に運用させたり、メタファー表現に関す る穴埋め練習をさせたりした。実験後に実施された事後テスト40の結果、学習者のMCは 大いに向上し、書いた作文のMDも母語話者とほぼ同様になり、概念メタファー理論を活 かした指導法は効果的であることが明らかになった。

また、游(2009)は学部1年生の中国人英語学習者80 名を英語レベルのほぼ同様の2 グループ(実験群と対照群)に分け、1学期にわたってMCとCFを養成する可能性や有 効性を調査するための実験を実施した。具体的には、実験群向けの授業において、概念メ タファーの知識の活用により目標言語のメタファー表現を識別・理解・運用する能力を向 上させるための工夫を凝らした。例えば、概念メタファー理論について紹介したり、言語 の理解におけるメタファーの働きについて分析したり、学習者に母語と目標言語にある概 念メタファーを比べさせたり運用させたりした。これに対し、対照群向けの授業において は、従来の指導法を利用した。実験後に、両群に CET4の過去問題10 部を完成させ、提 供された作文について分析した。結果としては、対照群に比べ、実験群は言語形式が目標

39 指導は週に何回行われたかなどの詳細は述べられていない。

40 Hashemian & Nezhad(2006)では、事後テストを実施したが、その際に使われたMCテスト や作文課題の詳細については紹介していない。

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