第2章 先行研究及び本研究の課題
2.5 先行研究のまとめ及び本研究の課題
以上、概念メタファー理論と応用認知言語学の発展及び外国語学習者のMCに関する先 行研究を概観してきた。得られた要点を整理してみると、次の15点になる。
① 概念メタファーは認知的に実在しており、人間の概念体系の多くはメタファーによ って構造を与えられ規定されている。
② 概念メタファーは世界の様々な物事、特に抽象的な物事に対する人間の理解を促進 する。
③ 概念メタファーとメタファー表現の形成は人間の経験や文化と密接な関係にある。
④ 概念メタファーとメタファー表現の理解にあたっては、母語知識やメタファー基盤 にまつわる言語知識、文化知識や認知様式などが重要な役割を担っている。
⑤ 認知言語学の多くの理念や研究成果は外国語の習得と指導にも応用可能である。
⑥ 英語教育で始められた応用認知言語学的アプローチは日本語教育の分野にも及ん
でいるが、まだ実証的な研究が不足している。
⑦ MCは主にメタファー表現の識別力、理解力及び産出力から構成されている。
⑧ MCはCFの重要な構成要素であり、外国語学習者にとって極めて重要な能力であ る。
⑨ 外国語学習者のMC発達は主にMCの構成要素とCFの2つの視点から考察され ている。
⑩ これまでのMC発達の測定法はまだ統一されておらず、測定する要素も様々であり、
より妥当な方法で外国語学習者のMCを考察することが期待される。
⑪ MCは言語能力と正の相関関係にあり、MCの向上は言語能力の発達を促すことが できる。
⑫ MCとコミュニケーション能力や認知スタイルなどとの相関研究はまだ足りない。
⑬ 従来の指導法による授業を受けてきた外国語学習者はほとんど MC が十分に発達 しておらず、その向上が必要である。
⑭ MCは授業によって養成可能である。
⑮ MC研究は英語教育などで大きく発展してきたが、日中両国の日本語教育の分野で は、日本語学習者のMCの発達や養成などに関してまだあまり考察されていない。
このように、概念メタファー理論の発展にしたがって第二言語習得におけるメタファー の役割の注目度が増し、更に、応用認知言語学的アプローチが進むにしたがって外国語学 習者のMC向上の必要性と重要性が強く認識されるようになり、英語教育などで学習者の MC の発達や養成に関する研究が盛んに行われてきた。にもかかわらず、日中両国の日本 語教育においてはMCという能力はまだ等閑視されており、学習者のMCの発達や養成に ついての考察もまだ見当たらない。このような実態に基づいて、本研究では概念メタファ ー理論などの知見を日本語教育に応用する基礎研究として、中国の日本語教育における MC研究を始め、中国人日本語学習者のMCの発達や養成などについて考察する。具体的 には、次の3つの課題を明らかにしたい。
課題 1:中国人日本語学習者のMC発達の現状はどうなっているのか。
課題 2:中国人日本語学習者のメタファー表現理解に影響する要因は何か、学習者のメ タファー表現理解力はどのように養成するのか。
課題 3:中国人日本語学習者の総合的なMCはどのように養成するのか。
次章からは、まず第3章と第4章を用いてMCの構成要素とCFの2つの視点から課題1 に取り組む。次に、第5章から第6章にかけて課題2の解決を試みる。最後に、第7章で は課題3について検討する。