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概念図

ドキュメント内 著者別名 SUGANO Masako (ページ 148-161)

第 5 章 介護労働の特性と職場上司のリーダー行動

4. 結果:RQ2-②の結果

4.2 概念図

最後にカテゴリー相互の関係を検討し、日頃から重視しているリーダー行動を概念化した(図 5-3)。これについて説明する。

図 5-3 日頃から重視しているリーダー行動の概念図

優れたリーダーは、これまでの様々な仕事経験を踏まえて、大きく≪個々の育成≫、≪相互作 用促進≫、≪信頼蓄積≫の3つを日頃から重視していた。≪個々の育成≫は一人ひとりのタイプ や力量に応じて部下を育てていこうとするリーダー行動である。≪相互作用促進≫はチームメン バーの力を借りながら、チームを活性化し集団の力を高めていこうとするリーダー行動である。そし て≪信頼蓄積≫は、部下からの確固たる信頼を得るためのリーダー行動で、≪個々の育成≫や

≪相互作用促進≫がうまくいくための触媒となるリーダー行動である。≪信頼蓄積≫がなければ、

どのようなリーダー行動を行使しても機能しにくい言える。

≪個々の育成≫の中には『視点の転換促進』という【変化志向】が、≪信頼蓄積≫の中には『範

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を示す』という【変化志向】も含まれるが、日頃のリーダー行動としては、『信頼蓄積』をベースに基 本的には【関係志向】を重視している姿が浮かび上がった。3つのリーダー行動は、それぞれ相互 に関係性を持ち影響を与え合う関係にある。

5.考察と今後の課題

5.1 考察

本章の質的調査では、RQ2「①介護事業所において上司が人材マネジメントを行う上で、具体 的にどのような問題に直面するのだろうか。それはどのような労働特性に起因するのだろうか。優 れた上司は、その問題に対していかなるリーダー行動を行使して成果に結びつけているのだろう か」、「②優れた上司が、日頃から重視するリーダー行動はどのようなものだろうか」という2つにつ いて検討した。以下、各結果について考察する。

(1) RQ2-①について

RQ2-①の検討の結果を、3つの観点から考察する。1つ目は労働特性とその影響(直面する問

題)、2 つ目に個々の事例の対応関係とその含意、3 つ目に上位次元のリーダー行動の機能と関 係性についてである。

①労働特性とその影響(直面する問題)

まず 1 つ目の、労働特性とその影響について考察する。上司(リーダー、マネジャー)が直面す る中心的な問題として『顧客対応でのつまずき』、『自己基準による顧客対応』、『仕事の意義や目 的の喪失』、『職員間の嫌悪や不快感の表出』という4つが見出された。

『顧客対応でのつまずき』は、ストレス/バーンアウト研究や感情労働研究で、利用者とのコンフ リクトで生じる情緒的消耗感として概念化されていたものに近似する。『自己基準による顧客対応』

は、ヒューマン・サービス組織論で、実践的イデオロギー(Rapoport,1960)やストリート・レベルの 官僚制行動(Lipsky,1980)として概念化されていたものに近似する。『仕事の意義や目的の喪失』

は、バーンアウトの下位尺度である情緒的消耗感、脱人格化、個人的達成の後退(Maslach &

Jackson,1981)として示されてきた概念に近似する。『職員間の嫌悪や不快感の表出』は、集団 内コンフリクト(対立、不一致、そしてある種の相互作用)であり、Jehn & Bendersky(2003)による コンフリクトの3 つのタイプに照らすと、タスク・コンフリクト(仕事の目標や仕事そのものに関する意 見の不一致)やプロセス・コンフリクト(仕事の役割、責任、資源配分を巡る不一致)に起因するリレ ーションシップ・コンフリクト(緊張や怒りなどの感情的な要素を含んだ対人的な不一致)に相当す る概念であると考えられる。

このように、既存研究でストレスやバーンアウト症状として指摘されてきた現象が、上司が人材マ ネジメントを行う上で苦慮する問題であることが見出された。その中でも、『仕事の意義や目的の 喪失』は働くことにおける最も深刻で本質的な問題であり、現場が疲弊した状態に陥りがちという 語りは多かった。

問題の背景要因(労働特性)としては、『職務の曖昧性・不確実性』という【職務特性】、『人材の

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多様性』、『未熟練性』という【人材特性】、『顧客が強者になりうる』、『顧客が社会的弱者』という

【顧客特性】、『高い業務圧力』、『人材の多様性』、『リーダーの不安定性』という【職場特性】、『人 材不足』という【業界特性】が見出された。表 5-7は、第2章1節で検討した介護労働の特性と、

本調査の分析で、人材マネジメント上の問題を引き起こす労働特性として概念化されたものを比 較したものである。

表 5-7 先行研究の検討から得られた介護労働の特性と本調査の比較

※表中の(サービス関係が不均衡になりやすい)は、第2調査の分析で労働特性として概念化されたものではない が、「顧客が強者になりうる/顧客が社会的弱者」という顧客特性により導きだされる。また(自己基準による顧客 対応)は、労働特性としてではなく、人材マネジメント上の問題として抽出されたものであるが、人材マネジメント 上の問題に直結した労働特性と考えられる。

『職務の曖昧性・不確実性』は、上司が直面する 4 つの問題を生み出す下地になっていた。そ れが『高い業務圧力』と結びついた時に、「それは何のためにやるのか」、「何をどこまでやればい いのか」、「どんなやり方でやればいいのか」という点について十分に振り返り検討したり、ゆっくり 利用者と関わったりする時間と余裕がなくなり、実践的イデオロギーの横行、ケアの作業化、ケア の不安、考え方の違いによるコンフリクト等を引き起こし、上司(リーダー、マネジャー)を含めて現 場を混乱させていることがうかがわれた。

『人材の多様性』、『未熟練性』は、顧客特性と結びついて、顧客に適切に対応できないタスク 上の問題を引き起こしたり、多忙な職場特性と結びついて職場の人間関係の問題を引き起こす 要因になっていた。

その顧客特性とは、『顧客が社会的弱者』という側面と、『顧客が強者になり得る』という側面の 二面性を有している。顧客が社会的弱者であるため、介護職が強者として振る舞いがちになること は、先行研究レビューでも述べたとおりである。顧客が強者になるケースは、利用者や家族の暴

領域 介護労働特有の特性

(第2章1節での検討)

人材マネジメント上の問題を引き起こす労働特性 (第2調査) ※上司の認識

技術 他者の身体に触れ、その生活や内面に入り込む

捉えどころのなさ 職務の曖昧性、不確実性

サービス関係 生活空間で個対個のサービス授受が行われる密

室性 (サービス関係が不均衡になりやすい)

人材の多様性(相対的に低いプロフェッショナリズ

ムと高いボランタリズム) 人材の多様性/未熟練性 多様な人材による非合理な判断・行動の強化 (自己基準による顧客対応) 要介護高齢者の期待の不明確性/心身機能や

生活の継続的な変容性

24時間365日のチームケアと情報の複合性・複雑

組織・チームのマネジメント不全 リーダー層の不安定性 低コントロール、高負荷 高い業務圧力/人材不足 外部環境 社会的な役割や位置づけの曖昧さ・低さ 人材不足

サービス提供者

顧客 顧客が強者になりうる/顧客が社会的弱者

組織

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力・暴言、認知症利用者の拒否や暴力などであった。利用者自身の老いへの葛藤に加えて、本 人や家族の権利意識が高まっている背景や、利用者の重度化等を反映している。

『リーダー層』の不安定性は、『人材不足』の影響に加えて、組織においてリーダー教育が不十 分であることに起因していると推察された。雇用管理の取り組みが進んでいる法人・事業所であっ ても、リーダー教育については今後の課題になっていると言える。

ほとんどが第2章1節で検討した内容に重なるが、職場の上司は、『職務の曖昧性・不確実性』

に加えて、『人材の多様性』、『未熟練性』、『高い業務圧力』の中で、日々起こる様々な問題に対 処しながらチーム運営を行っている現実が浮かび上がった。職場の上司は、こうした労働特性を どれだけ認識して問題に対処するかが問われることになると考えられる。

②個々の事例の対応関係とその含意

次に、個々の事例の対応関係とその含意について考察する。本研究の分析枠組みに従って、

労働特性、労働特性の影響(直面する問題)、リーダー行動、リーダー行動の成果の対応関係を 検討した結果、大きく5つの状況に対して、6つの対応のパターンが見出された。表 5-8は、3節 で提示した図 5-2の結果図を表形式に整理したものである。以下に概略を示す。

表 5-8 労働特性とリーダー行動の関連

1) 『顧客対応でのつまずき』への対応

『未熟練性』という人材特性、『顧客が強者になりうる』という顧客特性、『職務の曖昧性・不確実 性』という職務特性が結びついた時に、『顧客対応でのつまずき』が起きやすい。

それに対処する有効なリーダー行動は、『技能教育』、『緊張醸成』という【タスク志向】、『視点 の転換促進』という【変化志向】、『個別配慮』という【関係志向】で、その組合せにより『技能向上と 意識転換』につなげていた。『未熟練性』に対しては、『技能教育』に加えて物の見方を変える『視 点の転換促進』が行われる。さらに対人援助専門職としての厳しさや難しさを乗り越えさせる『緊張

触媒的行動

タスク志向 変化志向 関係志向

1

人材の未熟練性 顧客が強者になりうる 職務の曖昧性・不確実性

顧客対応でのつまずき 技能教育

緊張醸成 視点の転換促進 個別配慮 技能向上と意識転換

2

人材の未熟練性 顧客が社会的弱者 職務の曖昧性・不確実性

自己基準による顧客対応 ケアの適性化 - 個別配慮 行動の修正と意欲向上

3

職務の曖昧性・不確実性 人材不足 高い業務圧力

仕事の意義や目的 の喪失

ケア目標設定と

PDCA実践 変革のリード

視点の転換促進 対話の促進 仕事の面白さ・

やりがいの実感

問題解決 - 対話の促進 不満・不安の緩和

- 変革のリード 対話の促進 チームワーク向上と

職場の活性化

5 人材不足

リーダー層の不安定性 - - 自己決定支援 個別配慮 リーダーの成長

4

問題対処のために行使されるリーダー行動

リーダー行動の成果

職務の曖昧性・不確実性 人材不足 高い業務圧力 人材の多様性

職員間の嫌悪や不快感 の表出 主な労働特性 上司(リーダー、マネ

ジャー)が直面する問題 合目的的行動

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