第 2 章 介護労働の特性と人材マネジメント
3. 不確実性に対応したリーダーシップ理論と介護労働への適用可能性
3.4 変革要素を含む現代的なリーダー行動の次元と尺度
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(2013)は、ベルギーの介護施設の看護師と介護士(看護助手)を対象にした調査で、LMX が職
務行動に与える影響関係を分析したところ、LMXは職務内行動(in-role)には影響はないが職務 外行動(extra-role)にプラスに影響することを報告している。とくに専門職アイデンティティと組織 的 アイデンティティが高い場合により強く影響 する と報告 している 。また、Trybou, Pourcq, Paeshuyse et al.(2014)はベルギーの病院と介護施設の看護師および介護士(看護助手)を対象 にした調査で、LMXが離職意向を低減すると報告している。
以上のように、欧米やアジアの各国において、医療等のヒューマン・サービス組織を対象に LMX が検討されているが、純粋に介護職員のみを対象とした研究はなく、とくにわが国には管見 の限り存在しない。わが国の介護労働研究に LMX を導入し、一般産業の先行研究と比較しなが ら介護労働における特徴を検討することは意義があると考えられる。また、ヒューマン・サービス組織 を対象にした研究においても、LMX の先行要因を検討する研究は限定的である。研究課題とし ては、いかに LMX の質を高めるかを介護労働の特性を踏まえて検討する必要があると考えられ る。
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ンジ・リーダーシップを測定するMLQ(Multifactor Leadership Questionnaire)尺度において 抜け落ちている主なものとして、役割明確化や計画などのタスク志向、チームビルディングやネッ トワーキングなどの関係志向、外部環境の分析や戦略策定などの変化志向をあげている。さらに 参加型リーダーシップ(相談、委任)も含まれていないとする。MLQ尺度を用いた実証研究で変革 型リーダーシップが結果に対して有意な影響を示したとしても、抜け落ちている重要なリーダーシ ップの次元を統制していないという点で、限界があると指摘する。そしてステレオタイプのリーダー シップ理論の当てはめに陥ることになるとも批判する。
さらに変革型リーダーシップの下位次元のうち、「知的刺激」や「理想化の影響」などは漠然とし すぎていて、リーダーが一体どのような行動をとれば良いかわからないと指摘する。変革型リーダ ーシップにしてもカリスマ型リーダーシップにしても、それはどのような行動をとることなのか明確に 特定し再現性のある概念とすることが必要であるとしている。
交換型リーダーシップについては、その下位次元のうち「業績主義の報酬」は変革型に含まれ る場合と交換型に含まれる場合があり、その性格が一定ではないことや、「例外による管理」は、人 を操作したりコントロールしたりしようとするネガティブな意味合いが強く、そもそも効果的なリーダ ーシップとは言えないと指摘している。初期のタスク志向と関係志向という 2 次元のリーダー行動 が示唆する、ポジティブな意味合いでのタスク志向の概念が全く含まれていないと指摘する。
その上で、Yukl(1999a)および Yukl,Gordon & Taber(2002)では、これまでに用いられてい
るリーダー行動の尺度を広範に検討し、「タスク志向」(task-oriented)、「関係志向」(relation-oriented)、「変化志向」(change-oriented)という大きく3つのメタカテゴリーに分かれることを示し
た。Yukl らの尺度は、MPS(Managerial Practices Survey)と呼ばれるものである。それからさ らに 10 年経った論文(Yukl,2012)では、部下に対する働きかけのみならず「外部への働きかけ」
(external, or boundary-spanning)を加えた4つを提案している。表 2-4はYuklらが提案する リーダー行動の分類について、Yukl,Gordon & Taber(2002)とYukl(2012)を比較したものであ る。また、表 2-5により、Yuklらの提唱するそれぞれのリーダー行動の定義を示す。
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表 2-4 Yukl によるリーダー行動の分類(2002 年と 2012 年の比較)
出所:Yukl et al.(2002), Yukl(2012)をもとに筆者邦訳.
2002 年の分類では、「タスク志向」と「関係志向」という古典的なリーダーシップ行動論のロバス トな2次元に、それまで明示的に含まれていなかった「変化志向」が加わった形であった。Yukl et al.(2002)の分析においては「育成」は関係志向に分類されているがタスク志向にも負荷し、「権限 委譲」も関係志向に分類されているが、変化志向にも負荷することが示されている。
2012 年の分類では、タスク志向に「問題解決」が追加されている。また関係志向の「相談」は
「権限委譲」に含まれる概念とされ一体となっている。変化志向は、「リスクテイク」が「変化の提唱」
というより広い概念の中に含まれ、「革新思考の奨励」は「革新の奨励」となっている。また「組織学 習の促進」が追加されている。2002 年では変化志向と捉えていた「外部モニタリング」は、「ネット ワーキング」や「チームや組織の代表」とともに、4 つ目のメタカテゴリー「外部への働きかけ」の 1 つとされている。
2002年 2012年
役割明確化 (clarfying roles)
役割明確化 (clarfying roles) モニタリング
(monitoring operations)
モニタリング (monitoring operations) 短期計画
(short-term planning)
短期計画 (short-term planning)
- 問題解決
(problem solving) 育成
(developing)
育成 (developing) 支援
(supporting)
支援 (supporting) 承認
(recognizing) 承認
(recognizing) 相談
(consulting) 権限委譲 (empowering)
リスクテイク (taking risks for change)
変化の提唱 (advocating change) 変化のビジョン明示
(envisioning change)
変化のビジョン明示 (envisioning change) 革新思考の奨励
(encouraging innovative thinking)
革新の奨励 (encouraging innovation)
- 組織学習の促進
(facilitating collective learning) 外部モニタリング
(external monitoring) -
- ネットワーキング
(networking) 外部モニタリング (external monitoring)
- チームや組織の代表
(representing) 外部への働きかけ
(External)
リーダー行動の比較
権限委譲 (empowering) メタカテゴリー
タスク志向 (Task-oriented)
関係志向 (Relation-oriented)
変化志向 (Change-oriented)
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表 2-5 Yukl(2012)によるリーダー行動の分類と定義
出所:Yukl(2012), Yukl,Gordon & Taber(2002)の定義をもとに筆者邦訳.
Yukl(2012,2013)では、さらに5番目のメタカテゴリーの可能性として、正義(justification)、な
らびに倫理(ethical)や社会的責任(socially responsible)に関するものの追加の可能性も示して いる。倫理的リーダーシップ(ethical leadership)やオーセンティック・リーダーシップ(authentic leadership)、サーバント・リーダーシップ(servant leadership)等で見出されている、倫理や正義 等の価値を伴うリーダーシップがそれにあたる。このように、MPS は固定的でなく、柔軟で拡張性 が高いのが特徴であるとされる(Michel, Lyons & Cho,2011)。
なお、リーダー行動とLMXの関係を検討したYukl, O'Donnell & Taber(2009)やO'Donnell,
Yukl & Taber(2012)では「タスク志向」、「関係志向」、「変化志向」という3つのメタカテゴリーが
メタカテゴリー リーダー行動 定 義
役割明確化
(clarifying roles) タスクを割り当て、職務責任、タスクの目的、およびパフォーマン
スの期待を説明する モニタリング
(monitoring operations) 仕事の進捗状況と品質を確認し、個人と事業のパフォーマンスを
評価する 短期計画
(short-term planning) 人事や資源の効率的な使用方法を決定し、効率的な事業活動
のスケジューリングと調整方法を決定する 問題解決
(problem solving) 通常のオペレーションが混乱したり、メンバーの行動が違法、破
壊的、危険であるような場合に対処する 育成
(developing) コーチングとアドバイスを与え、スキル開発の機会を与え、成員が
スキルを改善するための学習を支援する 支援
(supporting) 配慮行動、誰かが不安な状況にある時には同情と支援を示し、
困難でストレスが高い状況にあるときは励ましと支援を与える 承認
(recognizing) 高いパフォーマンス、重要な達成、特別の貢献、およびパフォー
マンスの改善に対して称賛と承認を与える 権限委譲
(empowering)
業務遂行における実質的な責任と自由裁量を与え、成員が問題 解決し事前の承認なしに意思決定できるようにする。成員の意見 や提案を聞き参画を促すことも含む
変化の提唱
(advocating change) 環境変化における機会と脅威、競合の状況などの情報より、なぜ
変化が緊急に必要であるのか成員に説明し、十分に認識させる 変化のビジョン明示
(envisioning change)
事業ユニットが達成できる望ましい成果の魅力的な記述を提示 し、そこで提案された変化について、多大な熱意と信念で説明す る
革新の奨励
(encouraging innovation) 人々に、仕事の前提に疑問を呈し、より良いやり方や創造的なア
イデア、あるいは革新を奨励する 組織学習の促進
(facilitating collective learning) グループや組織のパフォーマンスを改善するために、新しい知の 組織的な学習を促進する
ネットワーキング
(networking) 上司、同僚、および情報、資源、政治的支援を提供する外部機
関等と良好な関係を構築し、維持する 外部モニタリング
(external monitoring) 外部環境の出来事、流行、変化などの情報を分析し、組織ユ
ニットの機会と脅威を特定する チームや組織の代表
(representing) 上司、同僚、および外部(顧客、供給業者、投資家、合弁事業の
パートナー等)と折衝する際に、チームや組織の代表となる 関係志向
(Relation-oriented)
外部への働きかけ (External)
タスク志向 (Task-oriented)
変化志向 (Change-oriented)
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使われており、部下に対して行使されるリーダーシップとしては、この 3 つが基本であるとしている (Yukl,2012)。
Yuklによれば、Bassのフルレンジ・リーダーシップはこの3つのメタカテゴリーにすべて含まれ るとしている(Yukl,1999a, 2012)(表 2-6)。変革型リーダーシップの「個別配慮」は関係志向、「モ チベーション鼓舞」と「知的刺激」は変化志向、「理想化の影響」は関係志向か変化志向のいずれ かであるとしている。「理想化の影響」が、従業員の福利向上を強調するものであれば関係志向で あり、組織の使命や戦略に関連する価値を強調するものであれば変化志向になると している (Yukl, O'Donnell & Taber,2009; O'Donnell, Yukl & Taber,2012)。
交換型リーダーシップの「業績主義の報酬」は関係志向、「例外による管理」はタスク志向であ るが、先述のようにポジティブな意味合いのタスク志向ではないとする(Yukl,1999a)。
表 2-6 フルレンジ・リーダーシップと Yukl によるリーダー行動の分類の対応
出所) Yukl(1999a),Yukl,Gordon & Taber(2002), Yukl, O'Donnell & Taber(2009), Yukl(2012)をもとに筆 者作成.
Yuklのメタカテゴリーの有用性は、Michel, Lyons & Cho(2011)や、Borgmann, Rowold &
Bormann(2016)等によっても報告されている。フルレンジ・リーダーシップ(MLQ)と Yukl のメタ
カテゴリー(MPS)の比較をしたMichel et al.(2011)では、個人レベルおよびグループレベルの分 析を通じて、部下の職務態度に対する上司の管理者行動の有効性は、MLQよりもMPSにおい て予測性が高いとしている。またMPSの3つのメタカテゴリーのうち少なくとも1つは、MLQのメ タカテゴリーより、成果に対してより重要な指標となっていることを見出している。
フルレンジ・リーダーシップ(MLQ)と、Yukl らのメタカテゴリー(MPS) の関係を検討した
Borgmann et al.(2016)は、MPSはフルレンジ・リーダーシップの構造を説明するのに十分であ
ることを示している。
(2) 金井(1991)の分類
わが国においては金井(1991)が、変革型ミドルの検討において、古典的な 2 軸モデルを超え たリーダー行動の次元として「人間指向のリーダー行動」、「タスク指向のリーダー行動」、「対外的 活動」の3つを提示している。金井(1991)によるリーダー行動の分類は表 2-7のとおりである。
タスク志向 関係志向 変化志向 変革型リーダーシップ
個別配慮 ○
モチベーション鼓舞 ○
知的刺激 ○
理想化の影響 ○ ○
交換型リーダーシップ
業績主義の報酬 ○
例外による管理 ○
Yuklのメタカテゴリー フルレンジ・リーダーシップ
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表 2-7 金井によるリーダー行動の分類
出所) 金井(1991),pp281-284をもとに筆者作成.
金井の「人間指向」と「タスク指向」は、古典の2次元でYuklらの「関係志向」、「タスク志向」に 相当する。「対外的活動」は、革新的試行に加えて、革新行動を促す資源の獲得や活用に関する ものであり、カテゴリー名は Yukl らの示す「外部への働きかけ」に合致するように見えるが、内容 は「変化志向」に相当するものと考えられる。
メタカテゴリーのフレームとしては Yukl(1999a)や Yukl et al.(2002)の提案と類似するが、下 位次元のレベルでは相違がある。例えば、「信頼蓄積」、「達成圧力」、「緊張醸成」はYuklらの分 類にはない。また金井(1991)においては、教育的な関わりが「育成」(人間指向に分類)と「モデリ ング促進」(タスク指向に分類)の2つに分かれている。
金井(1991)の理論的関心は、2 次元に限定されたリーダーシップ論の行き詰まりを打開し、革 新を指向するリーダー行動を検討することであった。その際、単純化された上位次元よりも、むし ろ下位次元のバラエティを重視すべきであるとしている。従来の単純化された2次元の行き詰まり という点に加えて、現実の管理者行動の豊かな多様性、より多様な下位次元の持つ理論的含意 を考慮に入れると、下位次元を用いた分析の方が生産的であるとしている(金井,1991,p.291)。
以上のリーダー行動の尺度に関する議論より、本研究において3つの重要な示唆を得ることが できる。1 つ目に、Yukl らが指摘するように、ステレオタイプのリーダーシップ理論の当てはめに 陥らないように、上位次元およびその下位次元において、できるだけ偏りがないよう理論的に領域 と尺度を想定する必要があるということである。これは金井にも共通する考え方であると言える。
上位次元 下位次元 定 義 備考
配慮 人間としての部下の気持ち・考え方を理解し尊重し、人間関係を保つ
信頼蓄積 言動の一貫性、成功・失敗への因果帰属の機微、現場重視の姿勢によっ て、リーダーとしての信頼性を日頃から蓄積する
革新行動の触媒となる リーダー行動 育成
部下のスキル・知識の長短を人材ポートフォリオとして描き、仕事の委任の仕 方によって、各人の経験の幅を広げさせ、人的資源として部下を育成・学習 促進する
モデリング促進 自らの経験やノウハウ、部門内外での成功例をモデル(示範事例)として部下 に伝え、目指すべき行動や行動のルールを学習させる
達成圧力 決められた目標を期限どおりに最後まで能率よく達成するように要求する
緊張醸成 自己超越的な極限追及、社内外からの競争、現状に対する危機意識から目 標それ自体を高めながら、積極的に挑戦する緊張感を醸成する
方針伝達 会社で公式に決められた経営方針、仕事の方針や会社の動向をきちんと伝 える
戦略的課題の提示 会社の戦略と結びつけながら、長期ビジョンや少数の重点的課題を打ち出 し、漸進的に部門レベルの戦略を練り上げ提示する
連動性創出 上司、経営トップ、他部門、社外の人々との協力的関係を創り出す 革新行動に必要な資源 の獲得
革新的試行 新たなアイデア提案を実験ないし試行(トライアル)として積極的に実施に移 していく
革新行動の中心となる リーダー行動 連動性活用 社内外に創出した協力的対人関係を戦略的課題の実施、革新的試行のた
めに活用する 革新行動の実行に必要
広義の人間指向 のリーダー行動
対外的活動
両者は対次元をなす (達成圧力が基本行動、
緊張醸成が革新行動)
両者は対次元をなす (方針伝達が基本行動、
戦略的課題の提示が革 新行動)
広義のタスク指向 のリーダー行動
教育者としてのリーダー 行動