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序論の小括

ドキュメント内 著者別名 SUGANO Masako (ページ 184-187)

第 7 章 本研究の結論

1. 序論の小括とリサーチ・クエスチョンの解明結果

1.1 序論の小括

本研究は、介護労働の特性を踏まえて、介護職員の意欲と成長を促すための人材マネジメント の方策について、職場のマネジメントと上司の関わりに着目して、その詳細を明らかにすることを 目的とした。

序章では、本研究の問題意識、研究目的と研究枠組み、研究対象について整理し、介護労働 の特性を踏まえた「介護人材マネジメント」の理論構築を行うことの意義を確認した。

第1章では、本研究が対象とする介護サービスを取り巻く環境を概観し、介護サービスがヒュー マン・サービス(社会サービス)のサブシステムと位置づけられ、人々が一定の生活水準を満たすた めに必要な社会的ニーズを反映したサービスであることを確認した。

第2章1節では、サービス・マネジメント論、ヒューマン・サービス組織論、介護福祉研究等の議 論を手掛かりに、介護労働の特性とは何かを検討し、ヒューマン・サービス労働一般の特性と対比 させながら、その特性について論じた。具体的には以下の9つを指摘した。

<介護労働の特性>

① 技術:他者の身体に触れ、その生活や内面に入り込む捉えどころのなさ

② サービス関係:生活空間で個対個のサービス授受が行われる密室性

③ サービス提供者:人材の多様性(相対的に低いプロフェッショナリズムと高いボランタリズム)

④ サービス提供者:多様な人材による非合理な判断・行動の強化

⑤ 顧客:要介護高齢者の期待の不明確性/心身機能や生活の継続的な変容性

⑥ 顧客:24時間365日のチームケアの必要性と情報の複合性・複雑性

⑦ 組織:組織・チームのマネジメント不全

⑧ 組織:低コントロール、高負荷

⑨ 外部環境:社会的な役割や位置づけの曖昧さ・低さ

介護労働の本質的な特性は、以下のように、その労働対象、労働目的、労働手段に起因して いると考えられた。

<介護労働の本質的な特性>

 労働対象:心身機能に支障をきたし衰えゆく要介護高齢者という社会的弱者である

 労働目的:要介護高齢者の日常生活の維持を支えることである

 労働手段:サービス提供者そのもので、顧客の身体に触れ、生活および内面に入り込む仕 事である

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生活を支えるという身近なサービスであるだけに、技術的不確実性が高く、サービス提供者の 価値観や生活経験が優先されやすい。生活および人の心と身体というプライベートに関わるため に濃密な関係が築かれ、閉鎖的・密室的になりやすい。要介護高齢者という社会的弱者を対象と するため、優越的な立場になりやすい。そして命に関わるリスクが高い。生活を支えるためには、

長期的・継続的な関わりが必要になり、人と人の相互作用や人間の変容性により、その不確かさ は高まる。

また、生活を対象としているために家事労働の延長線上の女性労働とみなされ、社会的位置 づけが低く、集まる人材の多様性が高い。現状では多くの未熟練労働者で構成される構造となり、

相対的にプロフェッショナリズムの価値や規範は低く、高いボランタリズムに支えられている。生活 に密着した福祉サービスであるため、地域密着の小規模法人・事業所が多く、経営管理の熱意と スキルに乏しい。労働集約的な社会サービスであるため、リソースに乏しい。そして要介護高齢者 は増え続け、サービス供給が追いついていない。

こうした介護労働の特性が、マネジメントの困難性を招いていると考えられた。本研究ではとくに 様々な特性により因果関係の確実性と予測可能性が低い点を重視して、介護労働の特性を「高 い不確実性」とし、それに対処する人材マネジメントを「介護人材マネジメント」として検討すること とした。

第 2 章 2 節では、介護分野の仕事への動機づけ、および能力向上に関する先行研究を検討 した結果、得られた知見は次のように整理された。

<仕事への動機づけに関する知見>

① 利用者との関係の影響が大きい

② 職場の人間関係、とくに上司の影響が大きい

③ コントロール感、自律性、有能感、専門性を実感できることが重要である

④ 労働環境や労働条件等組織の基礎的要件が内的な動機づけにも影響する

<能力向上に関する知見>

① 経験の量と質が重要である(経験の長さ、多様な経験、困難な経験)

② 他者との相互作用の影響が大きい(上司との関わり、チームメンバーとの関わり)

③ 人材育成に関わる基礎的な環境要件が影響する(教育訓練施策の充実、仕事の明確性等)

内発的動機づけや、実践や経験からの学習への依存は、ポジティブな側面だけではなく、ネガ ティブな側面や限界があることに着眼し、本研究では不確実性の高い介護労働においては、それ が一層増幅される危険性があることを指摘した。ネガティブな側面とは例えば、マネジメント不在の 中で自由が与えられると、それぞれが自らの経験や思いに基づいた自己流のサービスを提供した り、逆に責任回避のために能力を発揮しようとしなかったり、あるいは無定量・無際限の労働を強 いられ、疲弊していくことなどである。また形式知が十分ではないことや、閉鎖性が強くなりがちな 傾向から、実践や経験からの学習に依存することは、適切に内省し概念化することが難しいこと、

自己流や誤ったやり方の獲得につながる危険性、知識の固定化により新しい状況に適応できな いといったことである。

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先行研究(西尾,2002; 田尾,2001)を踏まえると、そうしたネガティブな要因を一定程度制御す るのが、役割責任を明確にし、業務プロセスを組織的に統制し、行動や判断について一定の秩序 を保つ組織の構造的側面(タスク・マネジメント)であると考えられた。こうした構造的側面の整備は、

職員のリスク回避行動や逸脱的自由裁量を制御し、自律的動機づけや能力発揮のための基礎 的要件になると考えられた。介護現場でとくに重要なタスク・マネジメントは、介護の専門性に基づ いた思考と実践のプロセスである介護過程のPDCAを展開することであると考えられた。

さらに、介護のような互恵的相互依存関係(Thompson,1962)で成り立つ組織においては、タス ク・マネジメントを有効に機能させる要件として相互コミュニケーションによる調整が不可欠であると 考えられた。その際に実践や経験からの学習に関する制約や限界に関する論を踏まえると、「行 為の中の省察に関しての省察」(Schӧn,1983)やダブルループ学習(Argyris & Schӧn,1978)の ように、固定観念に捉われず前提を問い直しながら変化していこうとするある種の革新指向性が 求められることを指摘した。仮に組織やチーム内での相互コミュニケーションが活性化され相互調 節による調整がうまく行われながらタスク・マネジメントが機能したとしても、閉鎖性の強いコミュニ ティの中で、既存の価値や方法に疑いを持たないままであると、集団レベルで誤った経験知が継 承・蓄積され、新たな環境への適応を阻害する懸念があるからである。また相互コミュニケーション や革新指向性は、動機づけや能力向上を促す発展的な人材マネジメント要因としても注目される。

しかしながら、これまで介護分野における人材マネジメント研究で、労働特性と人材マネジメント を関連づけて、タスク・マネジメントのような組織の構造的側面、相互コミュニケーションのような関 係性の側面、革新指向性のような変化の側面が同時に取り上げられ、その影響について検討さ れることがなかった。そこで本研究では、これらの変数に着眼して検討することとした。

続いて第2章3節では、不確実性に対応したリーダーシップ理論を検討した。具体的には、タ スク環境の不確実性を状況要因として検討する状況適合理論、不確実性の高い現代においてそ の有効性について高い評価を受けている変革型リーダーシップ、ならびに LMX 理論である。検 討の結果、1 人のリーダーが指示や課題を的確に明示するようなリーダーシップや、カリスマ型リ ーダーを前提とするようなリーダーシップは介護事業所の上司には適合的ではなく、サービス提 供過程を通じて、双方向コミュニケーションを通じて育まれるリーダー・フォロワー関係が重要にな ると考えられた。不確実性とリスクの高い介護労働において、リーダーとフォロワーの交換関係を 通じて役割形成と信頼関係形成を促進するという LMXの理論概念が適合的であると考えられた。

LMX 研究は、1970 年代に提唱されて以降、膨大な研究が存在するが、介護労働に導入した 実証研究は希少であり、とくにわが国の介護労働において LMX 研究は管見の限り存在しない。

そこで本研究では、介護人材マネジメントの検討に LMX を導入し、一般産業の先行研究と比較 しながら介護労働の場合の特徴を検討することとした。

さらに、介護事業所の上司が具体的にどのようなリーダー行動を行使することが有効であるの か検討することも、本研究の主要な関心の1つであった。現代的なリーダーシップの測定尺度と して広く受け入れられているものに、変革型リーダーシップと交換型リーダーシップで構成される フルレンジ・リーダーシップがあげられるが、その理論概念が介護労働の現場の上司に適合しな いことに加えて、本研究が着眼するポジティブな意味合いでのタスク・マネジメントや、職場集団を 対象とする相互コミュニケーションに相当する要素が含まれていないことから、本研究の検討には

ドキュメント内 著者別名 SUGANO Masako (ページ 184-187)