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介護人材確保対策

ドキュメント内 著者別名 SUGANO Masako (ページ 34-37)

第 1 章 介護労働を取り巻く環境と介護人材確保対策

3. 介護人材確保対策と本研究の位置づけ

3.2 介護人材確保対策

(1) 目指す方向性と課題

こうした介護職員の人材確保難に直面し、政府は介護保険サービスに従事する介護職員の確 保に焦点を絞った政策を意図して、2000 年代後半から「介護人材確保対策」という用語を用いる ようになった(日本介護福祉学会事典編纂委員会編,2014,p.90)。厚生労働省社会保障審議会 福祉部会福祉人材確保専門委員会による報告「2025 年に向けた介護人材の確保~量と質の好 循環の確立に向けて~(平成 27 年 2月 25 日)」(厚生労働省,2015b)では、介護職員の確保に 係る方向性として「まんじゅう型」から「富士山型」を掲げ、そのための施策として以下の 5 つの方 針が掲げられた(図 1-3)。

図 1-3 2025 年に向けた介護人材の構造転換(イメージ)

出所) 厚生労働省(2015b).

5 つの方針とは図中にある「①すそ野を拡げる」、「②道を作る」、「③長く歩み続ける」、「④山を 高くする」、「⑤標高を定める」である。①は参入促進、②③は労働環境・処遇の改善、④⑤は資 質の向上に向けての方向性である。介護職員の参入促進のみならず、労働環境・処遇の改善、

およびキャリア継続と資質の向上に向けた取り組みの必要性が掲げられている。とりわけ、処遇の 改善、キャリアパス制度の構築、介護ロボットや ICT 導入による労働環境の改善、資格取得等の 養成体系の見直しなどが喫緊の策として示されている。こうした方向性は、介護人材の量的・質的 確保を一様に目指してきた従来の考え方を転換し、介護人材の機能分化を進め、限られた人材 (介護福祉士)のさらなる「資質の向上」を図ることを意図している。

2015年の提言を受けて2017年には、当専門委員会は「介護人材に求められる機能の明確化 とキャリアパスの実現に向けて」(平成29年10月4日)」(厚生労働省,2017a)をとりまとめた。同報 告書において、目指すべき全体像としては、「介護人材のすそ野を拡げ、介護分野に参入した人

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材が意欲・能力に応じてキャリアアップを図り、各人材が期待される役割を適切に担っていけるよう な姿」であるとし、介護職の役割を明確にすることが課題として上げられている。

さらに同報告書で実現すべき介護の提供体制としては、利用者のニーズに対応していくために 介護職がグループで関わっていくことがますます重要となり、グループ内の介護職に対する指導 や助言、サービスが適切に提供されているかの管理など、人材およびサービスの質のマネジメント を担うリーダーの役割を担う者が必要であると述べられている。その上で各論では、介護職のグル ープにおけるリーダーの担うべき役割や能力の明確化と、リーダー育成が課題としてあげられた。

またリーダーとして必要な能力を修得した後も継続的に資質を高めていくことにより、高い専門性 を持ってケアを提供する介護の実践者、管理職や施設長といったマネジメント職、介護分野にお ける教育者や研究者といったキャリアパスを進んでいくこと等が示された。

以上を整理すると、人材のすそ野の拡大を進め、多様な人材の参入促進を図り、各人の意欲と 能力に応じたキャリアパスの構築や、労働環境の改善を通じて、誰もが長く働けるよう定着を促す ことが大きな方向性の 1 つである。同時に、専門性の明確化・高度化を進め、継続的な質の向上 を促し、限られた人材を有効活用するために、機能分化を進めるというのがもう1 つの方向性とな る。とくにグループの中で人材とサービスの質のマネジメントを行うリーダー人材の役割や能力を 明確に定義し、その育成を図ることが重点課題としてあげられている。

(2) 課題の背景

こうした課題提示の前提として、当専門委員会では、平成 27 年度に実施された介護現場の実 態調査の結果(三菱UFJリサーチ&コンサルティング,2016)を踏まえている。注目すべき結果とし て、次の3点を指摘している。1つ目に、資格の有無や研修修了状況により明確に業務分担がな されているような状況はみられず、サービス間や提供するケアの内容で差異はあるものの、それぞ れの者が同様の業務をほぼ毎日(毎回)実施している状況にある。2 つ目に、介護過程22において、

介護計画に沿った介護が提供されているかどうかの進捗管理が必要となるが、現状では、自らの 役割として介護過程の展開に中心的に関わっている介護職は少ない。3 つ目に、介護過程を展 開していくにあたっては、情報収集や情報共有を図りつつ、利用者の自立支援に向けたより良い ケア方法の提案といったことも重要となるが、外部からの情報収集やより良いケア方法の提案を常 に行っている介護職は少ない状況であるという点である(厚生労働省,2017a)。

つまりキャリアや資格に関わらず役割に違いがほとんどないことと、介護過程の展開への関与が 少ないことを問題視している。介護過程とは介護を実践するための思考と実践のプロセスであり

(矢部ほか,2005; 加藤,2014)、介護職の専門性向上に密接に関連するものと位置付けられる(木

村,2011; 杉山,2013; 増原,2014; 矢部ほか,2005; 加藤,2014)。資格の有無や研修修了状況 に関わりなく誰もが同様の業務を実施し、介護過程の展開に関わる介護職が少ないという状況は、

すなわち日常業務の中で専門性を実感することが乏しいという深刻な問題を招いていると考えら れる。

また構造的な問題として、介護職の専門性の未確立とその社会的位置づけの低さがあげられ

22 介護過程については序章の脚注№15参照。また第22節で改めてとりあげる。

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る。わが国において介護福祉士という国家資格の創設(1987年)以降、介護職の専門職化が進め られてきたが、その専門性の社会的評価は依然として低いのが現状である。「社会福祉士並びに 介護福祉士法」(1987 年)の定義23によれば、介護福祉士は「専門的知識」と「専門的技術」に裏 付けられた専門職である。専門性が必要とされる仕事であるが、国家資格の養成課程は短く、隣 接する専門職である看護と比べても養成プロセス24は不十分である(藤井,2015)。介護福祉士は

「名称独占」にはなっているが、医師や看護師などのように、その業務をする者は必ずその資格が いるといった専門職としてもう一ランク上の「業務独占」にはなっていない。国家資格がなくても介 護を行うことはできる25

また家事労働の延長として捉えられてきた歴史的経緯から、子育てを終えた女性の働き場、誰 でもできる仕事という捉え方がなされ、家政婦等の生活関連サービスと同一視されがちという面を 抱えている(西川,2009; 日本学術会議,2011; 上野,2012)。こうした背景から、現状では介護職 の専門性は社会的に評価されにくい状況にある。佐藤ほか(2013)は、介護労働の仕事の特性と して、「日常生活の支援に関わるだけに、さまざまな些末な事柄に関わらなくてはならないため『実 に多くのことに関わる仕事だ』ということになる」、つまり「なんでもかんでもということになる」と表現し ている。こうした位置づけの低さや役割の曖昧さに対して、介護福祉士の養成課程の長期化やレ ベルアップは専門職化のための課題となっている(高橋,2013; 日本学術会議,2011)。

しかしながら、介護現場のマンパワーの実態としては、介護福祉士の有資格者、無資格者、初 任者研修(旧ホームヘルパー2級)の修了者ではあるが、経験のある者、経験のない者と様々なレ ベルが混在している。介護労働安定センター(2017b)によれば、国家資格の有資格者は、訪問介

護員31.5%、訪問介護員以外の介護職員49.9%でいずれも半数にも満たない。また訪問介護

員以外の介護職員のうち、初任者研修さえも受講していない無資格者が12.2%と1割以上存在 する。レベルがまちまちであるということは、サービスの質もまちまちであるということである(佐々木, 2011)。本来は、採用・選抜の段階で人材レベルが一定以上になるようふるいにかけることが望ま しいが、現実には人材不足で、優秀な人材のみを選抜する余裕はなく、ハードルを下げて採用せ ざるを得ない状況である。

介護労働安定センター(2017a)によれば、事業所の採用の工夫は「介護資格や介護経験の有 無にこだわらないようにしている」(第1位:48.4%)、「新規学卒者や若手にこだわらないようにして いる」(第4位:44.0%)、「福祉系の教育機関出身者にこだわらないようにしている」(第5位:

34.9%)となっており、多くの事業所が人材確保のために採用基準のハードルを下げて間口を広 げている状況がうかがわれる。つまり専門性の向上が課題とされながら、人材の量的確保がままな

23 「社会福祉士及び介護福祉士法」においては、介護福祉士は「専門的知識及び技術をもって身体もし くは精神上の障害があることにより日常生活を営むのに支障がある者につき入浴、排泄、食事その他の 介護を行い、並びにその者及びその介護者に対して指導を行う」(第2条第2項)と規定されている。

2007(平成19)年の改正においては、「入浴、排泄、食事その他の介護」という具体的な行為から、「心

身の状況に応じた介護」というより生活全体を含む表現に変わった。2012(平成24)年に新たに「喀痰吸 引等」が加わった。

24 1800時間程度の教育を受けた後に国家試験を受ける養成施設ルート、3年間の実務経験と450時間程度 の実務者研修を受講後に国家試験を受ける実務経験ルートなどがある。

25 訪問介護員は、130時間程度の介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)受講が義務付けられてい る。訪問介護以外の介護職員は、無資格であっても行うことができる。

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らない現状においては、国家資格のレベル引き上げに向けての政策も、進みにくい状況になって いるということである。

さらに法制度上の問題として、事業者にとって質向上に対するインセンティブが働きにくいた め、コスト削減の方向に向きやすいことも指摘されている26。介護労働実態調査(介護労働安定セ ンター,2017a)によれば、事業を運営する上での問題点として「良質な人材の確保が難しい」(第1 位:55.3%)、「今の介護報酬では、十分な賃金を払えない」(第2位:50.9%)、「経営(収支)が苦し く、労働条件や労働環境の改善をしたくてもできない」(第3位:31.2%)、「書類作成が煩雑で、時 間に追われている」(第4位:28.4%)など、経営資源の余力に乏しく雇用管理改善のための余裕 がない実態がうかがわれ、人材への投資が進まないことが危惧される。質の高いサービス提供の ために人材の動機づけや能力開発に力を入れることは、コストアップというネガティブ要因ではな く、サービスの質を高め、結果的に地域での評判を高め、新たな顧客確保や人材確保につなが り、事業成果を生み出す源泉になるということを、事業者に啓発していく必要があると言えるだろ う。

ドキュメント内 著者別名 SUGANO Masako (ページ 34-37)