• 検索結果がありません。

リサーチ・クエスチョンの解明結果

ドキュメント内 著者別名 SUGANO Masako (ページ 187-195)

第 7 章 本研究の結論

1. 序論の小括とリサーチ・クエスチョンの解明結果

1.2 リサーチ・クエスチョンの解明結果

以上を踏まえて、本研究では 3 つのリサーチ・クエスチョンを設定した。概念図(図 7-1)を再度 参照しながら、以下、本研究のリサーチ・クエスチョンの解明結果を説明する。

図 7-1 本研究のリサーチ・クエスチョン(概念図)(図 3-2 再掲)

【RQ1】:介護事業所において、どのような職場のマネジメントが、人材面、サービス品質面、財務 面にプラスの影響を及ぼしているのだろうか

本研究の【第 1 調査】(量的調査)により、在宅介護 A 社の事業所のマネジメント項目をベース に作成した質問項目により、職場のマネジメントと事業成果との関連を分析した結果、影響の大き い順に「主体性と対話のある職場風土」、「PDCA に沿った業務運営」、「間接業務の効率化」、

「WLB 支援」が事業所の「人材活性度」(事業所メンバーの意欲、能力、定着性に関する評価)に ポジティブな影響を及ぼし、それが「顧客満足・サービス品質」を媒介して「売上向上」という財務 的成果につながることが見出された。「目標・方針の共有」と「育成・能力開発」は有意にならなか った。「顧客志向の業務運営」は「人材活性度」を介さず、直接的に「顧客満足・サービス品質」に 影響していた。

「主体性と対話のある職場風土」、「PDCA に沿った業務運営」、「間接業務の効率化」、「WLB

181

支援」の有意な影響が確認されたことから、チームの中での関わり合いや対話を通じて、創意工 夫しながらサービス運営計画や介護計画の達成のための PDCA を回していくことが重要な事業 所のマネジメント項目であることが示唆された。同時に、できるだけ間接業務を効率化し、そのよう な重要事項に時間を割けるようにすることや、職員のWLB を実現できるようにする視点が重要で あることが示されたと言えよう。

「目標・方針の共有」(会社や事業所全体の戦略や目標を共有すること)が有意にならなかった のは、会社全体の戦略や目標が共有されていることよりも、事業所の具体的なサービス計画や 個々の利用者の介護計画の PDCA が機能していることが、人材活性度を含む事業成果に及ぼ す影響が相対的に大きいことを示唆していると考えられる。

「育成・能力開発」(OJT、Off-JT、人事評価等)が有意にならなかったのは、教育制度や事業 所の上司による育成的な関わりよりも、主体性や対話を促進するような職場風土作りが、人材活性 度を含む事業成果に及ぼす影響が相対的に大きいことを示唆していると考えられる。

「顧客志向の業務運営」が人材活性度を介さず、「顧客満足・サービス品質」に影響したのは、

そのような業務運営の仕組みが機能しているかどうかは、そこで働く人材に関わらず、ダイレクトに サービスの結果として表れることを意味していると考えられる。

本研究が着眼したタスク志向、関係志向、変化志向の 3 つのメタカテゴリーに照らすと、「主体 性と対話のある職場風土」は、関係志向の対話という要素と、変化志向の失敗の許容や革新、困 難な課題への取り組みといった要素が含まれる概念として抽出され、関係・変化志向であると解釈 した。「PDCAに沿った業務運営」、「間接業務の効率化」はタスク志向である。「WLB支援」はチ ーム内で WLB 実現のために助け合いや配慮をする関係志向である。関係・変化志向(主体性と 対話のある職場風土)の強い影響、ならびにこれまで介護労働の人材マネジメント研究ではほとん ど検討されていないタスク志向(タスク・マネジメント)の強い影響が見出され、人材面、サービス品 質面、財務面を含む事業成果に対する重要性が確認された。

【RQ2】:①介護労働にはマネジメントを困難にする特性があると指摘されているが、介護事業所 において上司が人材マネジメントを行う上で、具体的にどのような問題に直面するのだ ろうか。それはどのような労働特性に起因するのだろうか。優れた上司は、その問題に 対していかなるリーダー行動を行使して成果に結びつけているのだろうか

②介護事業所でリーダーシップを実践し成果を出している優れた上司が、日頃から重視 するリーダー行動はどのようなものだろうか

<RQ2-①について>

【第2調査】(質的調査)により、RQ2について検討した。RQ2-①の解明のために、労働特性、

その影響(上司が直面する問題)、それに対処するリーダー行動とその成果の対応関係を検討し た。その結果を表 7-1(表 5-8 再掲)に示す。

182

表 7-1 RQ2-①の結果(表 5-8 再掲)

表 7-1に従って、本研究で見出された論点について簡潔に述べる。

1) 「顧客対応でのつまずき」への対応

「未熟練性」という人材特性、「顧客が強者になりうる」という顧客特性、「職務の曖昧性・不確実 性」という職務特性が結びついた時に、「顧客対応でのつまずき」が起きやすい。それに対処する 有効なリーダー行動は、「技能教育」、「緊張醸成」というタスク志向、「視点の転換促進」という変 化志向、「個別配慮」という関係志向で、その組合せにより「技能向上と意識転換」につながる様 相が見出された。

「技能教育」、「緊張醸成」、「視点の転換促進」、「個別配慮」の組合せは、とくに経験の浅い未 熟練な職員を育成する上で有効な「未熟練者育成型」人材マネジメントであることが示唆された。

未熟練者に支えられ、早期離職の多い介護業界においては、重要な人材マネジメントである。

2) 「自己基準による顧客対応」への対応

「未熟練性」という人材特性、「顧客が社会的弱者」という顧客特性、「職務の曖昧性・不確実性」

という職務特性が結びついた時に、「自己基準による顧客対応」が起きやすい。それに対処する 有効なリーダー行動は、「ケアの適正化」というタスク志向、「個別配慮」という関係志向であり、そ の組合せにより「行動の修正と意欲向上」につながっていた。

「ケアの適正化」と「個別配慮」の組合せは、発展的な意味での動機づけや成長を指向するとい うよりは、モニタリングを強化し、基準を逸脱した行動に対して警告し、是正を促す「適正化型」人 材マネジメントであると考えられる。「ケアの適正化」というリーダー行動が、交換型リーダーシップ の「例外による管理」に相当しポジティブな関わりとは言えないため、過剰なまでの「個別配慮」が 欠かせない。法律に規制されコンプライアンスがより重視されるとともに、密室化しやすいという労 働特性より、逸脱的自由裁量を抑制するのに必要な人材マネジメントである。

触媒的行動

タスク志向 変化志向 関係志向

1

人材の未熟練性 顧客が強者になりうる 職務の曖昧性・不確実性

顧客対応でのつまずき 技能教育

緊張醸成 視点の転換促進 個別配慮 技能向上と意識転換

2

人材の未熟練性 顧客が社会的弱者 職務の曖昧性・不確実性

自己基準による顧客対応 ケアの適性化 - 個別配慮 行動の修正と意欲向上

3

職務の曖昧性・不確実性 人材不足 高い業務圧力

仕事の意義や目的 の喪失

ケア目標設定と

PDCA実践 変革のリード

視点の転換促進 対話の促進 仕事の面白さ・

やりがいの実感

問題解決 - 対話の促進 不満・不安の緩和

- 変革のリード 対話の促進 チームワーク向上と

職場の活性化

5 人材不足

リーダー層の不安定性 - - 自己決定支援 個別配慮 リーダーの成長

4

問題対処のために行使されるリーダー行動

リーダー行動の成果

職務の曖昧性・不確実性 人材不足 高い業務圧力 人材の多様性

職員間の嫌悪や不快感 の表出 主な労働特性 上司(リーダー、マネ

ジャー)が直面する問題 合目的的行動

183 3) 「仕事の意義や目的の喪失」への対応

「職務の曖昧性・不確実性」という職務特性、「人材不足」という業界特性、「高い業務圧力」とい う職場特性が結びついた時に、「仕事の意義や目的の喪失」が生じやすい。それに対処する有効 なリーダー行動は、「ケア目標設定と PDCA 実践」というタスク志向、「変革のリード」、「視点の転 換促進」という変化志向、「対話の促進」という関係志向であり、その組合せにより「仕事の面白さ・

やりがいの実感」につながっている様相が見出された。

「ケア目標設定とPDCA実践」、「変革のリード」、「視点の転換促進」、「対話の促進」の組合せ は、見失いがちな仕事の意義や目的を再定義し、介護現場の士気を高め創造性を促す「創発型」

人材マネジメントであると考えられる。疲弊しがちな労働特性に対応する重要な人材マネジメントと 言える。

4) 「職員間の嫌悪や不快感の表出」への対応

「職務の曖昧性・不確実性」という職務特性、「人材不足」という業界特性、「高い業務圧力」お よび「人材の多様性」という職場特性が結びついた時に、「職員間の嫌悪や不快感の表出」が生じ やすい。それに対処する有効なリーダー行動は、2 通りあった。1 つは、起きている問題を速やか に解決するための「問題解決」というタスク志向、および「対話の促進」という関係志向であり、それ を組合せて「不満・不安の緩和」につなげていた。「問題解決」と「対話の促進」の組合せは、今起 きている問題の悪影響が広がる前に即時的に事態を収拾しようとする、「即時的問題解決型」人 材マネジメントであると言える。人間関係の問題が離職につながりやすい介護労働においては、

重要な人材マネジメントの1類型であると言える。

もう1 つは、抜本的な問題解決に向けて「変革のリード」という変化志向と、「対話の促進」という 関係志向で、やはりこれも両者の組合せで行使され、「チームワーク向上と職場の活性化」につな がっていた。「変革のリード」と「対話の促進」の組合せは、より発展的な問題解決を指向するもの で、職場集団をかき回しゆらぎを与え、これまでの秩序や均衡を壊すことにより、新たな流れを作 るための働きかけと考えられ、「ゆらぎ創出型」人材マネジメントであると言える。閉鎖的なコミュニ ティで人と人の関係が固定化し膠着状態に陥りやすい介護労働において、重要な人材マネジメン トである。

5) 「リーダーの不安定性」への対応

「人材不足」の中、十分に時間をかけてリーダーを育てる時間もなく、またその育成システムも未 整備であることから、とくに若手や経験の浅い「リーダー層の不安定性」が職場特性として見出さ れた。それに対しては、マネジャーによるリーダーの「自己決定支援」という変化志向、ならびに

「個別配慮」という関係志向が行使され、「リーダーの成長」につながっていた。

マネジャーがリーダーに対して行使する「自己決定支援」と「個別配慮」の組合せは、現場に権 限委譲し、リーダーを起点に現場が自律的に回るようにする働きかけで、「エンパワメント型」人材 マネジメントであると考えられる。リーダーを育て現場を活性化させる方法であると言えるだろう。

以上のように、介護事業所の優れた上司は、現場で起きる問題のタイプによって、タスク志向、

関係志向、変化志向のリーダー行動を適宜組合せて職場や個人に働きかけていることが見出さ

ドキュメント内 著者別名 SUGANO Masako (ページ 187-195)