• 検索結果がありません。

変革型リーダーシップ

ドキュメント内 著者別名 SUGANO Masako (ページ 82-85)

第 2 章 介護労働の特性と人材マネジメント

3. 不確実性に対応したリーダーシップ理論と介護労働への適用可能性

3.2 変革型リーダーシップ

1980年代に入ると、「決められたことを決められたとおりきちんとやってもらう」リーダーシッ プから、「何が起こるかわからない不透明な状況下で人々を引っ張っていける」リーダーシッ

76

プへと、研究の焦点がシフトしてきた(金井,1989)。その代表的なリーダーシップ理論が、変革 型リーダーシップ(transformational leadership)である。

変革型リーダーシップは、Burns(1978)が最初に交換型リーダーシップ(transactional

leadership)と区分したことに起源を持ち、その後Bass(1985)により理論的な整備がなされた。

Bass(1985)は、Burns(1978)の理論を受け継ぐだけでなく、House(1976)によるカリスマ型リーダ ーシップ理論も折り込み、より発展した形で理論化を行った(石川,2009)。

変革型リーダーシップは、フォロワーに対してビジョンを示し、ビジョンに向かってフォロワーを駆 り立てるリーダーシップである(Northouse,2016; 石川,2013)。変革型リーダーシップとカリスマ型リ ーダーシップは基本的には同じものであり、極めて高いレベルの目標達成や変革を指向すること、

シンボリックでスピリチュアルな訴求を多用すること、フォロワーに恐ろしく高いモチベーションとコミ ットメントを求めるリーダーシップである(Yukl,1999b,2012; 高橋,2012)。

変革型リーダーシップには、4つのIと言われる下位概念が想定されている(Bass,1985,1990)。

すなわち、「モチベーション鼓舞 」(inspirational motivation)、「理想化の影響 」(idealized influence)、 「 知 的 刺 激 」(intellectual stimulation)、 「 個 別 配 慮 」(individualized consideration)である。「モチベーション鼓舞」とは将来の魅力的なビジョンを示しメンバーを鼓舞 する行動、「理想化の影響」とはメンバーが称賛するようなカリスマ的なロールモデルを示す行動、

「知的刺激」とは前提に疑問を投げかけ、現状に挑戦し、メンバーのアイデアを吸い上げる行動、

「個別配慮」とはメンバーのニーズや意見に耳を傾け、サポートし、励まし、メンターやコーチの役 割を果たす行動である。

変革型リーダーシップについては膨大な研究が実施されており、総じていえば、部下やグルー プ、組織のパフォーマンスを向上させ、部下の行動や態度を好転させるためには、効果的なリー ダーシップスタイルであると言える(Northouse,2016; 高橋,2012)。

ヒューマン・サービス分野にも適応されている。例えば、Gellis(2001)は、病院の医療ソーシャ ル・ワーカーを対象とした研究において、変革型/交換型リーダーシップとリーダーシップの有効 性、職務満足、役割以上の努力の関係を分析した。その結果、全ての変革型因子(カリスマ、理想 化の影響、モチベーション鼓舞、知的刺激、個別配慮)67と 1 つの交換型因子(随時的報酬)がい ずれの結果変数にも有意な影響があることを報告している。

Mary(2005)は、ソーシャル・ワーカーを対象にした研究で、変革型/交換型/放任型リーダ ーシップ、民主的組織/専制的組織、成果、職務満足、役割以上の努力の関係を分析したところ、

変革型リーダーシップが民主的組織においていずれのアウトカムにも有意に影響することを報告 している。

Nielsen, Yarker, Randall et al.(2009)は、老人介護センター(在宅・施設)の介護職および関 連職種を対象にした研究で、変革型リーダーシップが職務満足に有意に影響すると同時に、チ ーム効力感を通じて職務満足を高めていると報告している。

わが国の介護施設における実証研究に目を向けると、呉(2013)は特別養護老人ホームの介護

67 Gellis(2001)では、変革型リーダーシップの尺度は4つではなく、「理想化の影響」とは別に「カリ

スマ」を加えた5つで検討している。

77

職員を対象に、変革型リーダーシップとチームワークが職務満足およびサービスの自己評価に及 ぼす影響について検討している。分析の結果、変革型リーダーシップがチームワークを促し、それ が職務満足およびサービスの自己評価に影響することを確認している。呉の研究では、変革型リ ーダーシップは1因子として扱われているが、共分散構造分析により「知的刺激」と「個別配慮」の 影響が大きいことが示されている。

また三谷・黒田(2011)は、特別養護老人ホームの介護職員を対象にした調査で、変革型リーダ ーシップとモラールの関係を検討した。因子分析の結果、変革型リーダーシップの 4 つの下位次 元は抽出されず、「動機付け」と「配慮・励まし」という 2 因子を構成した。「動機づけ」はモラール (仲間関係因子や充実感因子)との間に有意な相関がみられ、また「配慮・励まし」は仲間関係を 良好化しモラール向上につながっていることが示されている。

これらの結果を通じて、一般産業と同様、介護を含むヒューマン・サービスにおいても、変革型リ ーダーシップはチームワーク、職務満足、成果など、組織にとって望ましい影響をもたらすことが 示唆されている。

しかしながら、そもそも変革型リーダーシップは、政治学者(Burns,1978)によって提唱された概 念で、ケネディやルーズベルトなどの政治家のリーダーシップを主な研究対象にしている(日 野,2004)。1人のカリスマ的リーダーが、成員に影響を及ぼすという前提に基づいている。Yuklは 1999年に米国と欧州2つのジャーナルで、変革型リーダーシップを批判的に考察する論文を提 出している(Yukl,1999a,b)。Yukl(1999a,b)は、変革型リーダーシップの貢献としては、これまで のタスク志向と関係志向という 2 軸モデルでは軽視されていた変化志向を含むリーダーシップの 概念を提唱した点や、感性や価値を強調するといった現代の有効なリーダーシッププロセスの特 徴について重要な示唆を提供している点をあげている。その一方で、ステレオタイプのヒーロー的 リーダーを前提にしていることや、リーダーが何をすべきか漠然としていて明確でないことについ て批判している。また、変革型リーダーシップは、エリート主義または反民主的という見方もある (Northouse,2016)。石川(2009)は変革型リーダーシップがその強いカリスマ的な影響力により、

チーム内のコンセンサス維持規範を高めすぎてしまい、創造性などが発揮されにくく業績に負の 影響を及ぼすことを報告している。

介護現場のリーダーに、そのようなカリスマ性を期待することは適合的なのだろうか。前節まで に確認したように、介護の仕事は技術的不確実性が高く、利用者の状態は継続的に変容し、利 用者に関する“知”は利用者と直接接する介護職員が最も多く有している。そのため、上司が判断 のための十分な根拠や情報を持っているわけではない。だからこそ、介護過程の展開において関 係者との双方向コミュニケーションによる情報収集と調整・統合が不可欠となる。加えて 1 節で確 認したように、現場のリーダーは、様々な不確実性の中で、高い業務負荷と強いストレスにさらさ れている。そのような現実を踏まえると、介護現場のリーダーに強力なカリスマ性を求めるようなリ ーダーシップの提案は適合しないのではないかと考えられる。

なお Yukl は、変革型リーダーシップの測定尺度に関する問題も繰 り返 し指摘 している

(Yukl,1999a,b; Yukl,2002, 2012)。この点については、後の第4項でとりあげる。

78

ドキュメント内 著者別名 SUGANO Masako (ページ 82-85)