第 5 章 変形抑制効果のメカニズムに関する考察
5.3 二次元弾塑性 FEM 解析による抵抗要因の分析
5.3.2 検証結果
-87-
-88-
一 般 的 に , 軟 弱 地 盤 上 に 盛 土 を 施 工 す る と , 盛 土 施 工 中 か ら 盛 土 立 上 り 直 後 は 図-
5.3.9 の左図のように,盛土法尻付近では水平変位は盛土外側に向かって生じ,鉛直変
位は隆起となる。一方,盛土後は圧密沈下が進行して盛土法尻の水平変位は盛土内側 に引き込まれるように生じる。
今回の解析では,盛土施工中の軟弱地盤は全く体積変化を生じさせない非排水変形 解析(ν ≒0.5)を行っているため,盛土中はせん断変形のみが発生する。一方で,盛 土中の荷重は過剰間隙水圧となって全く消散されないため,盛土中は有効応力が減少 し,さほど大きな変形は生じていない。しかし,最終工程で過剰間隙水圧を消散させ ると有効応力も増加するので,圧密変形(体積変化)とともにせん断変形も生じるた めに,水平変位も盛土外側に向かって発生している。このように,この解析と実際の 現象は一致しない部分もあるが,他の解析 Case との比較が目的であり,解析結果に 盛土の地盤定数以外の要素を取り除くためにこのような条件としている。
なお,ここで求められた変位量自体は,特段意味を持たないが,ここで入力した盛 土の変形係数(E =14,000kN/m2)が変化しない場合の,一つの目安となる。
次に,盛土内に発生する応力状態に関して考察する。
図- 5.3.10 は盛土立ち上がり直後の主応力ベクトル図である。図中のピンクの△印
はせん断破壊,○印は引張破壊,ピンクのベクトルは引張応力を表している。
盛土の中段より下方ではほとんどの要素に引張破壊が生じている。図- 5.3.11は図-
5.3.10 中の Y点の応力経路を示したものである(工程 10が盛土立上り時)。要素応力
は破壊線を越えた後も引張方向に応力が発生し続けている。非線形解析では破壊線を 越えることはないが,線形弾性モデルとしているためこのような現象が生じている。
すなわち,軟弱地盤上に盛土を構築すると,盛土底部に引張応力が作用し,引張破壊 が生じなければこのような変形になると推察される。
盛土
沈下
隆起
押 出 し
(
側 方 変 位)
盛土時のせん断変形 盛土後の圧密変形 沈下
盛土 周辺地盤の沈下
引 き 込 み
図- 5.3.9 盛土によるせん変形と圧密変形
-89-
図- 5.3.11 Y点の応力経路図
図- 5.3.10 主応力ベクトル図(Case0:盛土立上り時)
X Y Z
引張応力が発生 引張破壊している
△ せん断破壊
○ 引張り破壊
←→ 引張り応力
σ=𝜎𝜎1+𝜎𝜎3
2 −𝜎𝜎1− 𝜎𝜎3 2 sin𝜙𝜙 τ=𝜎𝜎1−𝜎𝜎3 2cos𝜙𝜙
△ せん断破壊
○ 引張破壊
←→ 引張応力
13.9
13.3
-90-
(2) バイリニア弾性モデルによる盛土内の応力と変位(Case1)
盛土材を図- 5.3.12 のようなバイリニア弾性モデルとした検討である。いわゆる無 処理地盤(無対策)の解析であり,敷金網の変形抑制効果を確認するための初期値解 析である。盛土材の地盤定数は Case0と全て同じである。
せん断抵抗角:𝜙𝜙 =37°
粘着力 :𝑐𝑐 = 5 kN/m2
引張強度 :𝑞𝑞𝑡𝑡 = 1 kN/m2
変形係数 :𝐸𝐸 = 14,000 kN/m2
図- 5.3.13 に盛土立上り時,図- 5.3.14に 圧 密 度 100%の 過 剰 間 隙 水 圧 消 散 時 の 変 形
図を Case0線形解析時と比較して示す。ま
た,図中の盛土中央(A 点),盛土法尻(B 点),盛土法尻から 2m離れ(C点)の沈下,
水平変位量を Case0と比較して表- 5.3.4に 示す。また,図- 5.3.15 に主応力ベクトル図 を示す。
盛土中央(A点)の沈下量,盛土法尻(B 円),側方地盤(C点)ともに線形解析時に 比 べ る と 水 平 変 位 量 は 増 大 す る 。 線 形 解 析 で は 盛 土 底 部 が 破 壊 し て も 盛 土 の 剛 性 が 維 持される(現実的にはありえないが)ため,
盛土が突っ張って側方に延びるような変形を妨げている。それに対し,バイリニア弾 性モデルの場合(Case1)は,主応力ベクトル図には破壊が表れていないが,図- 5.3.12 の応力経路をみると明らかなように,盛土底部のほとんどの要素の応力は破壊包絡線 上を移動し,これは,図- 5.3.12 のようにせん断破壊をおこして剛性がゼロとなって 変形するためである。Case0の線形解析の場合は,盛土底部が突っ張って沈下にも抵 抗するため,盛土中央の沈下量は Case1 に比べて小さく,盛土法尻の沈下量(最終)
は増加する。浅層改良時と似た変形モードとなる。
表- 5.3.4 盛土をバイリニア弾性モデルとした場合(Case1)の各点の変位 単位:cm
位置
解析工程
盛土中央 (A点)
盛土法尻 (B点)
盛土法尻から 2m離れ (C点)
沈下量 水平変位量 沈下量 水平変位量 沈下量 盛土立上り時
(H=2.5m) 12.8
(11.2) 11.5
(5.7) -3.8
(-3.7) 11.0
(7.6) -5.2
(-4.6) 最 終 沈 下 時(過 剰 間
隙水圧消散時) 117.6
(94.0) 25.7
(12.6) 3.5
(15.2) 16.0
(11.2) 0.3
(2.5) 注 ) 沈 下 量 は 沈 下 が 正 , 隆 起 が 負 。 水 平 変 位 は 外 向 き が 正 , 盛 土 側 が 負 。
括 弧 内 の 数 値 は ,Case0( 盛 土 を 線 形 弾 性 モ デ ル と し た 場 合 ) の 解 析 値
図- 5.3.12 盛土のせん断応力𝜏𝜏 −せん断ひ
ずみ𝛾𝛾関係(𝜎𝜎𝑚𝑚一定時)
せん断破壊 再載荷
最大せん断ひずみ 除荷
せん断破壊
最大せん断ひずみ 引張りからの回復 引張り破壊
-91-
B C A
B C A
(a) Case1( バ イ リ ニ ア ) (b) Case0( 線 形 )
図- 5.3.13 盛土立上り時の変形図
A
B C B C
A
(a) Case1( バ イ リ ニ ア ) (b) Case0( 線 形 )
図- 5.3.14 過剰間隙水圧消散時の変形図(最終沈下形状)
13.9
13.3
13.9
13.3
13.9
13.3
13.9
13.3
-92- X
引張応力は発生していない 引張破壊していない Y Z
△せん断破壊
○引張り破壊
a)バイリニア弾性モデル (Case1)
b)線形弾性モデル (Case0)
図- 5.3.15 盛土立上り直後の主応力ベクトル図
X Y Z
引張応力が発生 引張破壊している
△ せん断破壊
○ 引張り破壊
←→ 引張り応力
△ せん断破壊
○ 引張破壊
←→ 引張応力
13.9
13.3
13.9
13.3
-93-
図- 5.3.15 a)図のX要素
a) X要素
図- 5.3.15 a)図のY要素
b) Y要素
図- 5.3.15 a)図のZ要素
c) Z要素
図- 5.3.16 Case1盛土底部の要素の応力経路
σ=𝜎𝜎1+𝜎𝜎3
2 −𝜎𝜎1− 𝜎𝜎3 2 sin𝜙𝜙 τ=𝜎𝜎1−𝜎𝜎3 2cos𝜙𝜙
-94- (3) 変形係数の効果(Case2)
版状効果が変形係数の増加によるものか検証するため,図- 5.3.17 に示す範囲の盛 土の変形係数のみを一軸圧縮強さ𝑞𝑞𝑢𝑢=400kN/m2 の浅層改良相当の値に増加させ,そ の効果を確認した。なお,盛土の構成式はバイリニア弾性モデルである。
(盛土の地盤定数)
せん断抵抗角:𝜙𝜙 =37° → 変更無し
粘着力 :𝑐𝑐 = 5 kN/m2 → 変更無し
引張強度 :𝑞𝑞𝑡𝑡 = 1 kN/m2 → 変更無し
変形係数 :𝐸𝐸 = 14,000 kN/m2 → 𝐸𝐸 = 400,000 kN/m2(400 MN/m2)
表- 5.3.5に盛土中央(A点),盛土法尻(B点),盛土法尻から2m離れ(C点)の
沈下,水平変位量を Case1(無対策時:バイリニア弾性モデル),Case0(線形弾性モ デル)と比較して示す。
各点の沈下量,水平変位量ともに無対策時の Case1 と大差なく,変形係数が 30 倍 近く増加してもその効果は確認できない。
表- 5.3.5 版状効果として変形係数を増大させた場合(Case2)の各点の変位 単位:cm
位置
解析工程
盛土中央 (A点)
盛土法尻 (B点)
盛土法尻から 2m離れ (C点)
沈下量 水平変位量 沈下量 水平変位量 沈下量 盛土立上り時
(H=2.5m)
12.4
(12.8)
《11.2》
10.8
(11.5)
《5.7》
-4.1
(-3.8)
《-3.7》
10.6
(11.0)
《7.6》
-5.1
(-5.2)
《-4.6》 最 終 沈 下 時(過 剰 間
隙水圧消散時)
114.4
(117.6)
《94.0》
21.9
(25.7)
《12.6》
5.3
(3.5)
《15.2》
15.0
(16.0)
《11.2》
0.8
(0.3)
《2.5》 注 ) 沈 下 量 は 沈 下 が 正 , 隆 起 が 負 。 水 平 変 位 は 外 向 き が 正 , 盛 土 側 が 負 。
括 弧 ( ) 内 の 数 値 は ,Case1( 盛 土 を バ イ リ ニ ア 弾 性 モ デ ル と し た 場 合 ) の 解 析 値 二 重 括 弧 《 》 内 の 数 値 は,Case0( 盛 土 を 線 形 弾 性 モ デ ル と し た 場 合 ) の 解 析 値
14.0m
盛土
2.5m沖積粘土
0.6m
版状効果による 変形係数増大範囲
図- 5.3.17 版状効果(変形係数の増大)範囲
-95-
図- 5.3.18に盛土立上り時の主応力ベクトル図を,また同図中に示した Y要素の応
力経路を図- 5.3.19に示した。
変形係数の増大効果が確認されない理由は,図- 5.3.19 から明らかなように,盛土 底部のほとんどの範囲の応力が破壊包絡線上に達しているためであり,図- 5.3.16 無 対策時と全く同じ工程 6(盛土高 H=1.5m)でせん断破壊しているためである。
すなわち,いくら変形係数が増大しても,盛土底部がせん断破壊するため,その効 果は得られず,版状効果が変形係数の増大によるものとは考え難い。
図- 5.3.18の Y要素
図- 5.3.19 Case2 Y要素の応力経路
工程6(盛土高H=1.5m)で 破壊包絡線に到達
σ=𝜎𝜎1+𝜎𝜎3
2 −𝜎𝜎1− 𝜎𝜎3
2 sin𝜙𝜙 τ=𝜎𝜎1−𝜎𝜎3 2cos𝜙𝜙
X Y Z
変形係数増大範囲
図- 5.3.18 Case2盛土立上り時の主応力ベクトル図
△せん断破壊
○引張り破壊
13.9
13.3
-96- (4) せん断強度の効果(Case3)
無対策時(Case1)および変形係数の増大時(Case2)ともに盛土底部のせん断破 壊により,盛土底部の剛性が失われ沈下,水平変位ともに線形弾性解析時(Case0)よ りも大きく発生した。そこで,せん断強度定数を増大させて,その効果を検証した。
図- 5.3.20 に示す範囲の盛土の強度定数のみを一軸圧縮強さ𝑞𝑞𝑢𝑢=200kN/m2 の浅層改
良相当の値に増加させ,その効果を確認した。なお,盛土の構成式はバイリニア弾性 モデルである。
(盛土の地盤定数)
せん断抵抗角:𝜙𝜙 =37° → 変更無し
粘着力 :𝑐𝑐 = 5 kN/m2 → 𝑐𝑐 = 100 kN/m2
引張強度 :𝑞𝑞𝑡𝑡 = 1 kN/m2 → 変更無し
変形係数 :𝐸𝐸 = 14,000 kN/m2 → 変更無し
表- 5.3.6に盛土中央(A点),盛土法尻(B点),盛土法尻から2m離れ(C点)の
沈下,水平変位量を Case1(無対策時:バイリニア弾性モデル),Case0(線形弾性モ デル)と比較して示す。
各点の沈下量,水平変位量ともに無対策時の Case1と大差なく,せん断抵抗角φを そのままに,粘着力を 20倍増加してもその効果は確認できない。
表- 5.3.6 版状効果としてせん断強度を増大させた場合(Case3)の各点の変位 単位:cm
位置
解析工程
盛土中央 (A点)
盛土法尻 (B点)
盛土法尻から 2m離れ (C点)
沈下量 水平変位量 沈下量 水平変位量 沈下量 盛土立上り時
(H=2.5m)
12.3
(12.8)
《11.2》
10.7
(11.5)
《5.7》
-3.6
(-3.8)
《-3.7》
10.5
(11.0)
《7.6》
-5.0
(-5.2)
《-4.6》 最 終 沈 下 時(過 剰 間
隙水圧消散時)
116.2
(117.6)
《94.0》
23.8
(25.7)
《12.6》
4.6
(3.5)
《15.2》
15.3
(16.0)
《11.2》
0.6
(0.3)
《2.5》 注 ) 沈 下 量 は 沈 下 が 正 , 隆 起 が 負 。 水 平 変 位 は 外 向 き が 正 , 盛 土 側 が 負 。
括 弧 ( ) 内 の 数 値 は ,Case1( 盛 土 を バ イ リ ニ ア 弾 性 モ デ ル と し た 場 合 ) の 解 析 値 二 重 括 弧 《 》 内 の 数 値 は,Case0( 盛 土 を 線 形 弾 性 モ デ ル と し た 場 合 ) の 解 析 値
14.0m
盛土
2.5m沖積粘土
0.6m
版状効果による せん断強度増大範囲
図- 5.3.20 版状効果(せん断強度定数の増大)範囲