第 2 章 敷網工法に関する既往の研究
2.4 敷金網に関する研究
2.4.2 敷金網の拘束効果
敷金網の拘束効果に関する研究は少ないが,吉田ら 18),19),20)の土中引抜き試験によ る拘束効果に関する研究がある。
(1) 敷金網の土中引抜き抵抗の評価 吉田ら18)は,敷金網と土との 摩擦特性を調べるため,地盤工 学会基準「ジオシンセティック ス の 土 中 引 抜 き 試 験 方 法 」
(JGS 0942-2009)21)により,
敷 金 網 の 土 中 引 抜 き 試 験 を 行 っ た 。 試 験 は 図- 2.4.3, 写 真- 2.4.3 に 示 す よ う な 引 抜 き 試 験 機 を 使 用 し た 。 引 抜 き 土 槽 は幅 40cm,長さ 60cm,高さ 20cm であり,上下に2 分割で きる。土槽上部には空気圧によ り 任 意 の 垂 直 応 力 を 載 荷 で き る。土試料には乾燥状態の豊浦 砂 を 空 中 落 下 法 に よ り 相 対 密
土 Dr=80%で作成した。試験は
表- 2.4.2に示すように線径・網
目の異なる 5 種の敷金網(写真
- 2.4.4参照)を用いて垂直応力
を変えて 3 回ずつ実施した。引 抜き速度は1mm/minの一定速 度である。
変位計
変位計 金網
土 ロードセル
スクリュー ジャッキ
土槽
60cm
10cm 10cm 土槽
ラバーバッグ エアーレギュレーター
ワイヤー
図- 2.4.3 引抜き試験装置の概略図
60cm
写真- 2.4.3 引抜き試験装置
土中部 引抜き方向
金網変位
1 2 3 4 5 6
つかみ具
60cm
図- 2.4.4 金網変位の測定点
(φ2.0×56mm の例)
表- 2.4.2 試験ケース一覧表
線径φ(mm) 網目(mm) 敷設枚数
56 10 15 30
40 25
3.2 56
4.0 56
2.0 56 2(間隔10cm)
垂直応力(kPa) 2.0
1
10 20 40
-32-
(a) 𝜙𝜙2.0×56mm (b) 𝜙𝜙2.0×40mm
(c) 𝜙𝜙2.0×25mm (d) 𝜙𝜙3.2×56mm
(e) 𝜙𝜙4.0×56mm
写真- 2.4.4 試験に用いた敷金網
-33-
図- 2.4.4に示した引抜き口から順に測定
点 1~点 6 を設け,土中の敷金網変位の分 布 と 引 抜 き 力 の 関 係 を 図- 2.4.5 に 整 理 し た。敷金網の変位は引抜き口に近い測定点 1 から順に大きくなる。引抜き力F が大き くなるにつれて先頭から離れた測定点にお いても変位が生じている。敷金網の引抜き 試験では測定点による変位の分布は垂直応 力が比較的小さいケースでも大きい。この 傾向は他の敷金網でも同様であり,素線が 組み合わさって構成されている敷金網の応 力 発 生 機 構 に 起 因 す る と 考 え ら れ る 。 図-
2.4.6 には測定点 1 の変位と引抜き力の関
係を敷金網の種類で比較した。線径φ3.2, 4.0mm で は 引 抜 き 力 が 大 き く 発 揮 さ れ て い る 。 ま た , φ2.0mm で 網 目 の 大 き さ が 25mm,40mm と 異 な る 敷 金 網 で は 変 位 60mmにおける引抜き力に大きな差はない が,その状態に至るまでの引抜き力―変位 関係の挙動が異なっている。網の線径や網 目の種類が異なっても引抜き変位が大きく なっても引抜き力には明確なピークは生じ ていない。
下式より全面積法で引抜き摩擦強さ𝜏𝜏𝑝𝑝を 求める。なお,吉田ら 18),19),20)は,図- 2.4.5
の引抜け形状から有効面積法による整理の必要性を主張しているが,有孔面積法で整 理する場合の留意点の提案に研究はとどまっており,以降のデータは全面積法による ものである。したがって,有孔面積法で整理すると Lが短くなるため,下式の分母が 小さくなり,引抜き摩擦強さは数倍以上大きくなる。
𝜏𝜏𝑝𝑝= 𝐹𝐹
2∙ 𝐵𝐵 ∙ 𝐿𝐿 2.4.1
ここに,𝜏𝜏𝑝𝑝:引抜き摩擦強さ (kN/m2),F:引抜き力 (kN), B:敷設幅 (m), L: 敷設長 (m)
𝜏𝜏𝑝𝑝と試験時の垂直応力𝜎𝜎の間には下式の関係が成り立つ。𝜏𝜏𝑝𝑝− 𝜎𝜎 直線の傾きと切 片 より引抜きパラメータ𝜏𝜏𝑝𝑝,および𝑐𝑐𝑝𝑝を得る。
𝜏𝜏𝑝𝑝=𝑐𝑐𝑝𝑝+𝜎𝜎 ∙tan𝛿𝛿𝑝𝑝 2.4.2 ここに, 𝑐𝑐𝑝𝑝:見かけの粘着力 (kN/m2),𝛿𝛿𝑝𝑝:引抜き摩擦角 (°), 𝜎𝜎:垂直応力 (kN/m2)
0 10 20 30 40 50 60 70
0 20 40 60
金網変位(mm)
先頭からの距離(cm)
F=1.7 kN F=2.1 kN F=2.5 kN F=2.7 kN F=3.0 kN F=3.1 kN F=3.3 kN φ2.0×56mm
σ=30kPa 測定点
1
2
3
4
5 6
φ2.0×56mm σ=30kPa 測定点
1
2
3
4
5 6
図- 2.4.5 引抜き力-変位関係
(𝜙𝜙2.0×56mm,𝜎𝜎=30kN/m2)
図- 2.4.6 引抜き力-変位関係
(𝜎𝜎=20kN/m2)
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5
0 10 20 30 40 50 60 70
引抜き力(kN)
変位1 (mm)
. . . . σ=20kPa .
φ2.0×56mm φ2.0×25mm φ2.0×40mm φ3.2×56mm φ4.0×56mm
-34-
ジオシンセティックスに対する試験基準19)では𝜏𝜏𝑝𝑝を求めるためにFの最大値𝐹𝐹𝑚𝑚𝑚𝑚𝑥𝑥も しくは 60mm 引抜き時の𝐹𝐹60 を用いる。敷金網の引抜き試験では F にピークは見ら れないため𝐹𝐹60を用いた。しかし,60mm引抜き変位を生じさせた状態では敷金網の幅 が狭まるような過大な変形状態が観察された。特に敷金網を安定対策ではなく変形対 策として用いる場合にはこのような終局状
態ではなく,盛土中で敷金網が発揮する摩 擦抵抗を表現できるような変形過程の引抜 きパラメータを得るべきである。そこで,
ある引抜き変位 X1(=5,10,20,40,60mm)が 生じた時点 の引抜き摩 擦強さ𝜏𝜏𝑝𝑝と垂 直応力 𝜎𝜎の関係を図- 2.4.7に整理した。𝜏𝜏𝑝𝑝を算出す る 際 の 引 抜 き 変 位 を 変 化 さ せ る と𝜏𝜏𝑝𝑝− 𝜎𝜎直 線の傾きと切片は変化する。引抜き変位が 大 き い 時 ほ ど𝜏𝜏𝑝𝑝− 𝜎𝜎直 線 の 傾 き は 大 き く な る が , 敷 金 網 の 場 合 に は 引 抜 き 変 位 X1=10mm から X1=20mm の間で
大きな変化が生じている。
図- 2.4.8 には各種の敷金網につ
いて測定点 1 の変位 X1とtan𝛿𝛿𝑝𝑝の 増加関係を示した。これを見ると お お む ね X1=20mm 程 度 を 境 に tan𝛿𝛿𝑝𝑝曲線の傾きが変化している。
この理由として X1=20mm までに 初期の引抜き抵抗が発揮され,そ れ 以 降 のtan𝛿𝛿𝑝𝑝の 緩 や か な 増 加 は 敷 金 網 の 変 形 に よ る 影 響 が 大 き い ためであると考えた。そこで,敷金 網 に 対 し て 初 期 の 引 抜 き 抵 抗 が 発 揮されたとみなせる X1=20mm の と き の 引 抜 き 力 F20 を 用 い て𝜏𝜏𝑝𝑝を 算 出 し , 敷 金 網 の 引 抜 き 抵 抗 を 相 対 的 に 評 価 す る こ と を 提 案 し て い る。図- 2.4.9 には F20を用いて算 出 し た𝜏𝜏𝑝𝑝− 𝜎𝜎 関 係 を 示 す 。 敷 金 網 の 線 径 が 大 き い 場 合 に は 引 抜 き 抵 抗 も 大 き い 。 敷 金 網 の 線 径 が 同 じ 場 合 , 網 目 の 大 き さ に 関 わ ら ず𝜏𝜏𝑝𝑝
は同様の値である。
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
0 10 20 30 40
引抜き摩擦強さ(kN/m2)
垂直応力(kN/m2)
5mm 10mm
20mm 40mm
60mm
図- 2.4.7 引抜き変位と𝜏𝜏𝑝𝑝− 𝜎𝜎関係
(𝜙𝜙2.0×56mm)
図- 2.4.8 tan𝛿𝛿𝑝𝑝とX1の関係
図- 2.4.9 引抜き摩擦強さ𝜏𝜏𝑝𝑝-垂直応力𝜎𝜎 関係
X1=5mm X1=10mm X1=20mm X1=40mm X1=60mm
X1(mm)
0 2 4 6 8 10 12
0 10 20 30 40 50
引抜き摩擦強さτp(kN/m2)
垂直応力σ (kN/m2)
系列1 系列2 系列3 系列5 系列4
X1=20mm
φ2.0×56mm φ2.0×25mm φ2.0×40mm φ3.2×56mm φ4.0×56mm 0
0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3
0 10 20 30 40 50 60 70
tanδp
x1 (mm)
. . . . .
φ2.0×56mm φ2.0×25mm φ2.0×40mm φ3.2×56mm φ4.0×56mm
X1(mm)
-35- (2) 敷金網の補強効果
吉田 22)は,松岡ら 23)の土のうの理論を用いて敷金網に挟まれた地盤の拘束効果を 検討している。具体的には,敷金網に挟まれた地盤の拘束効果を,敷金網に作用する 張力が土の自由な変形を妨げて拘束する見かけの拘束圧の増加と考えて評価手法を提 案している。この見かけの拘束圧の増大を,Janbu の実験式を用いた応力依存剛性式
24)を用いて無補強時の剛性と拘束効果を考慮した剛性とを比較し,定量的に補強効果 を評価する手法を提案している。
敷金網に挟まれた盛土地盤の応力状態を図- 2.4.10 のように仮定する。盛土材を𝜙𝜙材 料 と す る と 盛 土 材 の 破 壊 時 に は モ ー ル ク
ーロンの破壊規準より,主応力𝜎𝜎1𝑓𝑓と𝜎𝜎3𝑓𝑓に は𝜎𝜎1𝑓𝑓=𝐾𝐾𝑝𝑝∙ 𝜎𝜎3𝑓𝑓の関 係が 成り立つ。𝐾𝐾𝑝𝑝は受 働土圧係数である。敷金網を敷設した場合 に は 鉛 直 方 向 の 主 応 力𝜎𝜎1𝑓𝑓が 作 用 す る と 土 の変形を妨げるように敷金網の張力 T が 作用する。T による拘束応力を敷設間隔 d を用いて表すと𝜎𝜎03= 2𝑇𝑇 𝑑𝑑⁄ となる。鉛直方 向主応力(𝜎𝜎1𝑓𝑓), 水平方向主応力(𝜎𝜎3𝑓𝑓+𝜎𝜎03) に 対 し て 前 記 の 関 係 を 用 い る と 下 式 が 成 り立つ。
𝜎𝜎1𝑓𝑓 =𝐾𝐾𝑝𝑝�𝜎𝜎3𝑓𝑓+2𝑇𝑇
𝑑𝑑� 2.4.3
ここで,上式の破壊状態に至るまでの変形過程を表現するために,𝐾𝐾𝑝𝑝に代えて𝛼𝛼𝐾𝐾0を 導入すると次式で表せる。𝛼𝛼は盛土の応力状態を表現するパラメータである。
𝜎𝜎1 =𝛼𝛼 ∙ 𝐾𝐾0∙ 𝜎𝜎3+𝛼𝛼 ∙ 𝐾𝐾0∙2𝑇𝑇
𝑑𝑑 2.4.4 ここに,𝐾𝐾0:静止土圧係数, T:敷金網の張力 (kN/m), d:敷金網の敷設間隔 (m) ただし,
1≤ α ≤ 1 + sin𝜙𝜙
(1−sin𝜙𝜙)2 2.4.5 𝜙𝜙は盛土材のせん断抵抗角である。𝛼𝛼の最小値では静止土圧状態,最大値では受働土 圧状態を表現している(𝐾𝐾0≦ 𝛼𝛼 ∙ 𝐾𝐾0≦ 𝐾𝐾𝑝𝑝)。上式の右辺第 2 項は敷金網を敷設したこと による見かけの応力増分とみなせ下式の様に表現できる。
∆𝜎𝜎1=𝛼𝛼 ∙ 𝐾𝐾0∙2𝑇𝑇
𝑑𝑑 2.4.6
図- 2.4.10 敷金網に挟まれた地盤の応力
状態
-36-
盛土が変形すると敷金網には土の自由な変形を妨げるように張力が生じる。この敷 金網の張力による土の拘束効果を敷金網に挟まれた盛土材の見かけの拘束圧の増加分
∆𝜎𝜎1として表現できる。
敷金網による補強メカニズムを上式に示す見かけの拘束圧の増加に起因して,土の 剛性が増加することと考えると,その効果は下式に示す Janbuの実験式を用いた応力 依存剛性式 24)で表現することができる。
𝐸𝐸𝑡𝑡 =𝑘𝑘 �𝜎𝜎𝑚𝑚
𝑃𝑃𝑚𝑚�𝑛𝑛 2.4.7 ここに,𝐸𝐸𝑡𝑡: 接線弾性係数(kN/m2), 𝑘𝑘:基準剛性 (𝜎𝜎𝑚𝑚 が大気圧 𝑃𝑃𝑚𝑚に等しいとき のときの𝐸𝐸𝑡𝑡), n:Janbu式の実験パラメータ, 𝑃𝑃𝑚𝑚:大気圧(𝑃𝑃𝑚𝑚=98kN/m2), 𝜎𝜎𝑚𝑚:平均 主応力(𝜎𝜎𝑚𝑚 = (𝜎𝜎1+𝜎𝜎2+𝜎𝜎3) 3⁄ )
敷金網による拘束圧増分を上式に加えると敷金網に挟まれた地盤(補強土)の弾性 係数𝐸𝐸𝑤𝑤が求まる。補強土と未補強土の剛性の比𝑟𝑟=𝐸𝐸𝑤𝑤⁄𝐸𝐸𝑡𝑡により敷金網の変形抑止効果 を評価できる。
𝐸𝐸𝑤𝑤=𝑘𝑘 �𝜎𝜎1+∆𝜎𝜎1+ 2𝜎𝜎3
3∙ 𝑃𝑃𝑚𝑚 �𝑛𝑛 2.4.8 𝑟𝑟 =𝐸𝐸𝑤𝑤
𝐸𝐸𝑡𝑡 =�𝜎𝜎1+∆𝜎𝜎1+ 2𝜎𝜎3
𝜎𝜎1+ 2∙ 𝜎𝜎3 �𝑛𝑛 =�𝜎𝜎1+∙ 𝐾𝐾0∙2𝑇𝑇 𝑑𝑑 + 2𝜎𝜎3
𝜎𝜎1+ 2∙ 𝜎𝜎3 �
𝑛𝑛
2.4.9
さらに,吉田はこの拘束圧の増加を図- 2.4.11 に示すように,先の敷金網の引抜き 試験時に測定した土圧の増加で確認している。図は引抜き量が 20mmに至るまでの土 圧の増加量(∆𝑝𝑝20)である。垂直応力の 25%~50%程度の拘束圧の増加が見られる。
図- 2.4.12 は盛土高 5m時の剛性比𝑟𝑟=𝐸𝐸𝑤𝑤⁄𝐸𝐸𝑡𝑡を試算したものである。敷金網に作用 する張力が 10kN/m 程度と仮定すると,r =1.2程度と試算され,変形係数の増加によ る盛土法尻の水平変位抑制効果と考えると小さい。
0 5 10 15 20 25
0 20 40 60
⊿p20(kN)
垂直応力(kN)
図- 2.4.11 引抜き試験時の土圧増分
1 1.05 1.1 1.15 1.2 1.25 1.3 1.35 1.4 1.45 1.5
0 5 10 15 20
r =Ew/E
T (kN/m)
α=4.0 α=5.0 α=6.0 Hb=5.0m
φ=30 ° γt=19 kN/m3 d=0.5 m
図- 2.4.12 剛性比r の試算例
-37-