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第 1 章 言語的特徴が反映する日本語と中国語の謝罪

第 2 節 日本語の言語的性格と意味公式分布の関係

イ二乗検定の結果によると、対母親と対親友の比較において、〔ごめん〕〔ごめんなさい〕

〔ごめんね〕のいずれも 0.1%水準で有意差があった。詳しくみていくと、〔ごめん〕は母 親に対しても親友に対しても最も多く使用される表現だが、それぞれの使用率が 71.6%と 83.5%になっており、親友に対してのほうが母親に対してより 15%ほど多く用いられるこ とがわかる。いっぽう、〔ごめんなさい〕は対母親と対親友の使用率がそれぞれ 20.8%と 8.1%で、母親に対して多く使用されることが判明した。また、〔ごめんね〕は対母親と対 親友の使用率が 3.1%と 8.4%と全体的に低いが、親友に対して比較的多く使用される傾向 がみられた。つまり、〔ごめん〕と〔ごめんね〕は親友に、〔ごめんなさい〕は母親によ り多く用いられることがわかる。

図 29 対母親と対親友にみる〔ごめん系〕の使用傾向(%)

表30 対母親と対親友にみる〔ごめん系〕の使用率(%)

(***=有意差 0.1%)

ごめん*** ごめんなさい*** ごめんね*** 合計

対母親 71.6 20.8 3.1 100.0

対親友 83.5 8.1 8.4 100.0

検定結果

(df=1)

χ²=20.55 p =.000

χ²=81.42 p =.000

χ²=30.55

p =.000

-図 30 過失度ごとにみる〔ごめん系〕の使用傾向(%)

表31 過失度ごとにみる〔ごめん系〕の使用率(%)

ごめん*** ごめんなさい*** ごめんね 合計

軽度 90.9 3.6 5.5 100.0

中度 83.8 9.1 7.1 100.0

検定結果

(df=1)

χ²=16.57 p =.000

χ²=17.96 p =.000

χ²=1.44

p =.231,ns

-ごめん*** ごめんなさい*** ごめんね** 合計

中度 83.8 9.1 7.1 100.0

重度 66.8 28.2 5.0 100.0

検定結果

(df=1)

χ²=280.37 p =.000

χ²=70.74 p =.000

χ²=7.38

p =.007

-ごめん*** ごめんなさい*** ごめんね 合計

軽度 90.9 3.6 5.5 100.0

重度 66.8 28.2 5.0 100.0

検定結果

(df=1)

χ²=139.77 p =.000

χ²=162.67 p =.000

χ²=0.19

p =.665,ns

-(***=有意差 0.1%,**=有意差 1%)

次に、過失度によるこの 3 種類の定型表現の使用傾向(図 30、表 31) を検討する。過 失度の軽度、中度、重度の比較においては、カイ二乗検定を用い、軽度と中度、中度と重 度、軽度と重度の多重検定を行った。検定の結果、「ごめん」と「ごめんなさい」は 0.1%

水準で有意差が確認された。具体的な数値をみると、「ごめん」は軽度、中度、重度の場 面の使用率がそれぞれ 90.9%、83.8%と 66.8%となっており、過失度が重いほど使用率が 減る傾向がみられた。いっぽう、「ごめんなさい」は軽度、中度、重度の使用率がそれぞ れ 3.6%、9.1%、28.2%となり、過失度が高くなるほど使用率も高くなることが明らかで ある。また、「ごめんね」に関しては中度と重度の間のみで 1%水準で有意差があった。中 度の場面が 7.1%と最も高いが、いずれの場面も使用率が低い。

以上の結果をまとめてみると、「ごめん」はいずれの場面においても最も多く使用され が、母親より親友に対して多く使用される傾向がみられた。そして、過失度が重くなるほ ど使用率がさがる。これに対し「ごめんなさい」は過失が重くなるほど使用率が高くなり、

特に母親に対して多く使用される。「ごめんね」は全体の使用率が低いが、母親より親友 に対して用いられる傾向がある。このように、相手(対母親・対親友)や場面(過失度)

により語形や終助詞の使い方を変えて使用していることが確認された。

次に、文末表現に加えて程度副詞がこれらの定型表現を修飾する形で表れていることに 注目して考察を進める。日本語調査の回答に現れた程度副詞を種類ごとに整理すると、表 32 のようになる。

本研究では程度副詞は独立した意味公式として項目立てをしていない。程度副詞は定型 表現を修飾し、定型表現の一部をなすものとして扱っている。しかし、定型表現の修飾の

仕方は、表 32 でもわかるように、謝罪の意味を強調する形で現れている。今回のデータで は、日本語における程度副詞の使用率は 94.9%で、中国語の 51.9%を大きく上回っている。

日本語では程度副詞を多用することにより、定型表現のバリエーションをさらに増やして おり、それが相手や場面に応じた細かい使い分けを可能にしている。

表 32 日本語の回答に現れる程度副詞の種類

〔ほんとうに〕系 本当に、ほんとに、本当、ほんと、ホント、本っっっ当

〔まじ〕系 まじ、マジ、

〔ほんまに〕系 ほんまに、本間に(※)、ほんっまに、ホンマに、ほんま

〔たいへん〕系 大変

(※誤表記をそのまま記載)

日本語の回答には〔ほんとうに〕系、〔まじ〕系、〔ほんまに〕系、〔たいへん〕系がみら れ、それぞれの系列に数多くのバリエーションが存在する。そのうち、〔ほんまに〕系は すべて大阪調査にみられるものである。実際の回答では、この4系列自体が対人関係や負 担度など、さまざまな要因により使い分けされている。さらに、それぞれの系列の中で漢 字、ひらがな、カタカナによる表記上の異なりに加え、長音を短音にしたり、促音を入れ たりすることにより変形が作られ、語調を強めることを可能にしている。

以上のように、日本語の謝罪表現は、定型表現の語形に幅を持たせたり、その他の言語 要素を加えたりすることによって、様々な状況に対応しているといえる。定型表現のみの 謝罪は、中国語話者にとっては表面的な謝罪に感じられるだろうが、これらの微妙な異な りには十分に注意を払っていないと考えられる。実際には、定型表現の種類と文末のバリ エーション、終助詞、程度副詞の使い分けにより、謝罪の重さや、対人関係、気持ちのニ ュアンスなどを様々に表現しているといえよう。