第 1 章 言語的特徴が反映する日本語と中国語の謝罪
第 1 節 日本語と中国語における謝罪の総合的傾向
非定型表現においては、〔事実認め〕と〔気遣い〕は中国語より日本語のほうが多く用いら れるが、それ以外はすべて中国語のほうが多く使用されている。具体的にいうと、〔対策/
提案〕は日本語の 18.5%に対し、中国語が 44.1%と日本語の 2 倍以上用いられている。〔呼 びかけ〕も日本語ではわずか 1.3%しか用いられていないが、中国語では 24.7%と 2 割以上 使用されている。また、〔過ちの認め〕は日本語も中国語も使用率が低いが、日本語の 1.0%
に対し中国語が 8.1%になっている。〔理由/言い訳〕に関しては、日本語では 1.6%しか用 いられないが、中国語では 12.9%と 1 割以上の回答者に使用されている。また、〔再発防 止〕と〔無言〕はいずれも使用率が非常に低く、〔その他〕は日本語の 5.0%に対し、中国 語が 10.8%になっている。
上述した日中の使用傾向をまとめると、日本語においては定型表現が謝罪場面における主 な言語表現となり、非定型表現はそれと比べると、使用が少ないということがいえる。いっ ぽう、中国語においては定型表現のみでは謝罪が成り立ちにくく、それを補うために、非定 型表現が多様に用いられることが考えられる。このような定型表現の使用状況の特徴に注目 すると、日本語話者は謝罪するときに定型表現のみを使用し、中国語話者からみた「日本語 話者は決まりきった謝り方ばかりして誠意がみられない」という非難につながる。いっぽう、
日本語話者からみれば、中国語話者は定型表現を用いない場合が比較的多いため、「中国語 話者は謝らない」という印象を与えることになる。しかし、日中にみられるこの違いをより 深く理解するためには、社会的な背景や言語的な背景を考慮に入れて考える必要がある。社 会的な背景を踏まえた謝罪言語行動の考察は、第 2 章と第 3 章に譲り、本章の第 2 節では日 本語の特徴を踏まえた考察を行い、第 3 節では中国語の言語的な特徴を踏まえた考察し、日 中の違いを整理する。
結論を先取りして述べれば、日本語では謝罪の定型表現が言語的な多様性を持っており、
それを修飾する程度副詞が豊富に使われている。これらを使い分けることで場面に応じた微 妙な異なりを表現していると考えることができる。いっぽう、中国語では、言語的な特徴か
らも、定型表現に細かい多様性が作り出せない。定型表現以外の非定型表現を用いて、場面 に応じた異なりを表現していると考えられる。このことに関して、以下で考察を深めていく こととする。
図 28 日本語と中国語における意味公式の全体的な使用傾向(%)
表 29 日本語と中国語における意味公式の全体的な使用率(%)
(***=有意差 0.1%)
定型*** 事実*** 対策*** 呼び*** 過ち*** 理由*** 気遣*** 再防*** 感動 無言*** 不適 その他***
日本語 91.9 39.5 18.5 1.3 1.0 1.6 9.5 0.0 14.2 0.2 2.8 5.0 中国語 55.5 32.2 44.1 24.7 8.1 12.9 3.8 1.7 14.8 1.5 3.4 10.8 検定結果
(df=1)
χ²=686.98 p =.000
χ²=19.78 p =.000
χ²=282.46 p =.000
χ²=535.87 p =.000
χ²=128.25 p =.000
χ²=205.34 p =.000
χ²=39.72
p =.000 p =.000 χ²=0.22 p =.638,ns
χ²=20.53 p =.000
χ²=0.80 p =.370
χ²=43.96 p =.000