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第 1 章 言語的特徴が反映する日本語と中国語の謝罪

第 3 節 中国語の言語的性格と意味公式分布の関係

ており、母親に対して多く使用されることがわかる。これに対し、「不好意思」の使用率 は対母親と対親友でそれぞれ 18.5%と 34.6%であり、親友に対して 2 割ほど多く用いられ ている。また、「抱歉」と sorry はいずれも使用率が低く、有意差が現れなかった。

図 31 対母親・対親友にみる中国語の定型表現の使用傾向(%)

表 33 対母親・対親友にみる中国語の定型表現の使用率(%)

对不起*** 不好意思*** 抱歉 sorry 合計

対母親 65.4 18.5 6.6 9.5 100.0

対親友 50.3 34.6 9.7 5.4 100.0

検定結果

(df=1)

χ²=13.09 p =.000

χ²=17.67 p =.000

χ²=1.42 p =.235,ns

χ²=3.44 p =.064,ns

-(***=有意差 0.1%)

いっぽう、過失度からの使用傾向をみてみると(図 32、表 34)、カイ二乗検定の結果、

軽度と中度、軽度と重度の間で「对不起」と「不好意思」が 0.1%水準で有意差があったも のの、中度と重度の比較においては有意差がみられなかった。軽度と中度の使用率はそれ

ぞれ「对不起」が 32.6%と 60.6%、「不好意思」が 46.9%と 25.0%となっており、「对 不起」は軽度より中度のほうが多く用いられるのに対し、「不好意思」は中度より軽度の ほうが多くなっていることが明らかである。軽度と重度の比較においても似たような傾向 が確認された。「抱歉」と sorry に関しては有意差がみられなかった。

上述した対母親と対親友、過失度による定型表現の使用傾向を再度確認すると、全体的 には、「对不起」は最も多く用いられるプロトタイプ性が高い謝罪表現であるのに対し、

「不好意思」は対親友の過失度の軽い場面に多く現れることから、今回の調査でも彭(2003、

2005)を裏付ける結果が得られたといえよう。これに加え、日本語と比べて程度副詞の使 用も少ないので、定型表現のみでは、相手との関係や過失度の軽重などを表すことは難し い。しかし、本章第 1 節で図 28、表 29 を用いて説明したように、中国語では非定型表現の 使用が有意に多かった。〔対策/提案〕を述べたり、親愛を表す〔呼びかけ〕をしたり、〔理 由〕を述べたりし、多様な非定型表現を使ってそれを表していると考えられる。換言すれ ば、中国語では、日本語の定型表現の多様なバリエーションの機能の多くを、非定型表現 が担っているということが出来よう。中国語話者は謝らないのではなく、謝りの現れ方が 違うのである。

図 32 過失度にみる中国語の定型表現の使用傾向(%)

表 34 過失度にみる中国語の定型表現の使用率(%)

对不起*** 不好意思*** 抱歉 sorry 合計

軽度 32.6 46.9 12.9 7.6 100.0

中度 60.6 25.0 5.5 8.9 100.0

検定結果

(df=1)

χ²=35.07 p =.000

χ²=23.03 p =.000

χ²=2.01 p =.053,ns

χ²=0.12 p =.734,ns

-对不起 不好意思 抱歉 sorry 合計

中度 60.6 25.0 5.5 8.9 100.0

重度 68.9 19.3 8.3 3.5 100.0

検定結果

(df=1)

χ²=3.35 p =.067,ns

χ²=2.00 p =.157,ns

χ²=1.05 p =.306,ns

χ²=3.02 p =.053,ns

-对不起*** 不好意思*** 抱歉 sorry 合計

軽度 32.6 46.9 12.9 7.6 100.0

重度 68.9 19.3 8.3 3.5 100.0

検定結果

(df=1)

χ²=61.41 p =.000

χ²=40.22 p =.000

χ²=2.31 p =.129,ns

χ²=3.04 p =.081,ns

-(***=有意差 0.1%)

以上、日本語全体と中国語全体の意味公式の使用傾向と両言語の言語的特徴との関係に ついて論じた。日本語では謝罪の定型表現が相手や場面にかかわらず常に多く用いられる 一方で、非定型表現の種類は少なく、決まりきった表現が多いことがわかる。中国語では、

定型表現は日本語と比べると格段に少ないものの、非定型表現の種類が豊富で多用されて いる。定型表現のみに注目すると、「日本人は謝ってばかりだが、中国人は謝らない」と いうステレオタイプに適合する結果であるが、両言語の言語的な特徴を考えてさらに検討 を加える必要がある。日本語の定型表現には、気持ちの強弱や程度を表す副詞や、終助詞 などの文末表現が付加され、相手との関係や負担度に対する認識が多様に表現されている。

中国語では、多様な非定型表現で場面による異なりが微調整されている。すなわち、「日 本人は謝ってばかりだが、中国人は謝らない」のではなく、どちらも謝っているのだが、

その表現の仕方が異なるのである。謝罪言語行動は、定型表現とともに非定型表現の多様 性にも注目してみていくことが大切であることを、この結果は物語っている。