第 3 章 謝罪・メディア・社会
第 2 節 日本のニュースの生産体制の特殊性
日本と他国の主な新聞を見てみると、まず気づくのが、日本の新聞の第一ページに載せ ている記事は日本の他の新聞の第一ページとほとんど一緒であること。レイアウトだけで はなく、書いてある内容と載せてある写真までも似ていることが分かる。一方、イギリス
のThe Guardian とThe Timesを比較すると、トップニュースの内容と写真も異なること
に気づく。さらに、ハンガリーのNépszabadságと Magyar Hírlap78を見てみると、同じ 事件の場合でも新聞記者の意見は非常に異なっていて、記事自体は違う目線から紹介され ていることである。日本の新聞はなぜそこまで似ているのかに違和感がある。その原因は、
日本のマスメディアの歴史か、マスメディアの構造によるものであるかを明らかにする。
筆者は、日本の新聞の記事が類似しているという不思議さを日本人の国民が感じているの か、あるいは外国人しか気づかないのかを疑問として考えている。
日本の新聞の発行部数を見てみると、世界最大であることが分かる。しかし、世界的に 珍しいのが、日本の新聞社の多くは、朝刊と夕刊も発行し、これをセットとして販売して いる場合が多いことである。79
GambleとWatanabe80はこれを強く批判し、西洋のメディアでは夕刊がほとんど存在し
ないと述べている。日本では、一般紙、スポーツ紙と専門紙を比較することができる上、
発行エリア、発行形態によっても細かく分類することもできる。
放送メディアの場合、他国と同じく公共放送局と民間放送局を区別できる。日本の場合、
公共放送局は NHK 一局であり、それは全国放送で、全国を一つの事業体でカバーしてい る。一方、日本の民間テレビとラジオ放送は一つ以上の放送局を同時に経営することが禁 止されているので、外国でよくある全国で放送できる民間テレビネットワークが日本には 存在しない。しかし、1950年代から新聞社と放送局が系列を結び、全国で放送することが
78 ハンガリーでは新聞の中で、扇情新聞と一般新聞を比較する。IPSOS企業の調査によると、一般新聞
のなか、もっとも読まれているのがNépszabadságネープサバドシャーグ(国民自由)とMagyar Nemzet
マジャールネムゼト(ハンガリー国民)である。http://www.piackutatasok.hu/2012/01/ipsos-2-出来るようになった81。基本的にニュースを東京地方で作り、自分の系列にある東京以外 の他局に渡す。一方、すべての番組を一つのキー局から出すことが法律的に禁止されてい るので、ローカル局も自分たちで番組とニュースも作っているが、それは非常に少ない82。
表 1 は日本の新聞社とテレビ放送局のネットワークの系列を表している83。各新聞は自 分のニュースネットワーク企業とテレビ放送局を持つ。即ち、日本では新聞と通信社とテ レビ局による系列が存在する。系列のメリットは、キー局が制作した番組を同じ系列の局 に販売し、全国で放送することが出来ることである。ローカル局にとっての系列のメリッ トは番組制作の努力をしなくても、キー局から番組を得ることができることである。系列 の存在によっては、番組だけではなく、ニュースの類似性も見られる。キー局が取材した ニュースをローカル局に渡し、ローカル局が取材したニュースをキー局によって他のロー
81 当時、日本の民間放送テレビ局、日本テレビは読売新聞と設立時の資本金の拠出の他に、新聞社から放 送局へのニュース素材の提供・役員・社員の派遣などで強化されていた(藤竹暁 2005)。
82 Onoe and Sakamoto, A Televizió Tárdasalmi Hasznossága.
83 読売新聞はNNNネットワークにつながっており、30局を持ち、キー局は日本テレビである。毎日テ
レビは、JNNネットワークにつながっており、28局を持ち、キー局はTBSテレビである。産経新聞は FNNネットワークにつながっており、28局を持ち、キー局はフジテレビである。朝日新聞はANNネッ トワークにつながっており、26局を持ち、キー局はテレビ朝日である。日本経済新聞はTXNネットワー クにつながっており、6局を持ち、キー局は東京テレビである。
カル局に渡すので、ニュースがほぼ同じになるのである。外国であるテレビ系列によって のニュース類似は珍しくはないが、全国全ての局のニュースの類似は非常に違和感がある。
たとえば、朝の 8 時のニュースを比較すると、各局でニュースの内容、ニュースの順番、
そしてニュースで使われている映像も似ている。筆者は、ニュースの類似は日本の特別な メディア構造(=「記者クラブ」制度の厳しさ)から生まれたものだと考えている。
(1)記者クラブ制度
1993 年に日本の皇太子妃を選ぶ出来事があった。日本のメディアはその出来事 に非常に注目し、報道し始めた。しかし、日本新聞協会のとりまとめと自粛(協定)
で記者は皇太子妃について報道することが禁止された。報道禁止期間は1993年1月 末まで続いたはずだったが、事件が起きた。日本のメディアはこの協定に従い、ま ったく報道しなかったが、外国ジャーナリストが皇太子妃が決まったということを
1993年1月6日に Washington Postの本社に情報を送ったのである。日本新聞協
会は危機感を感じた。情報協定には従うべきだったが、日本の国民は皇太子妃が選 ばれたことを外国のメディアから知ると、日本のメディアは批判されるはずだから だ。さらに、日本のメディアから知らなければ日本国民の面子(プライド)が傷つ く状況にあったので、結局、編集委員会の責任者は正式に協定を終了し、CNN、
AP、 Reuters、AFPが情報を報道した同じ日の午後 8 時45分に、日本の二つの
通信社84が皇太子妃のニュースを伝えた。85
なぜ、日本のメディアではこのような大切なニュースが秘密とされるのか。どのような 厳しい制度によって、記者の誰もが情報を報道しないのか。日本以外の多くの国では、ジ ャーナリストは「外」の立場に立って、政治について情報を得たら、すぐ国民に知らせて、
国民を注意する義務を持っていると考えられている86。一方、日本のメディアは政府とと もに「内」の立場にいて、外にいる国民とは違う利害を持っている87。
84 共同通信社と時事通信社
以上のような理由で、外国のジャーナリストは“ウオッチ・ドッグ=番犬”と呼ばれてい るが、それより日本のジャーナリストは“ラップドッグ”のイメージがある。ラップドッグ は政府に対して素直で従順であり、“政府ジャーナリズム”に見出せるようなものである88。
独占された組織
「記者は頭より足の方が大切である」89
外国人の記者は、毎日ニュースを報道するため、自らニュースを探し、目を凝らしなが ら道を歩いている。周りに起きている出来事を一般人と違う目で見て、ニュースになりそ うなことを探している。
一方、日本の記者は毎日朝から記者クラブへ行って、その場で一日を過ごして、そこか ら帰る。自らニュースを探すことがまったくなく、形式的なイベント、「記者会見」また は、非公式なイベント「懇談90」などに参加する。91
記者クラブは、「日本新聞協会92加盟社の社員である、常駐記者達が日本の官庁など公 的機関の重要な情報源の建物の中にある記者室を独占的に使用し、排他的に取材・報道す る日本独自のユニークな記者団体のことである」93 。記者クラブという特別なシステムは、
独占的に権力へのアクセスを持ち、記者室あるいは、記者会見の主催権を持つということ が世界的に珍しい94。日本新聞協会の1949年のガイドラインによると、記者クラブという 独占的組織の設備(記者部屋、記者会見室)は会員しか使えない。外国人の記者もこれが 原因で長く記者クラブでの取材を拒絶されていた(Hirose: 71)。そのため、外国のジャ ーナリストから記者クラブ制度は非常に批判された。現在は外国の記者と日本のフリージ ャーナリストが記者会見にオブサーバー(観察者)として参加ができる95。記者クラブの
88 Freeman, Closing the Shop.
89 Alsop and Alsop, The Reporter’s Trade, 5.
90 ニュースソースとお話しながら重要な情報を得ることができる機会である。Hirose, The Press Club
System in Japan: Its Past, Present and Future.
91 Ibid.
92 全国の新聞と放送企業と通信社を集める協会である。しかし、日本放送協会はメンバーしか入れず、報
道機関は全て加盟した(Hirose: 68)。
93 浅野健一, 記者クラブ解体新書.
94 Ibid.
95 中央官庁の記者クラブのメンバーは記者会見場、記者室と警備を無料で使い、毎月の会費は数百円から 数千円ぐらいである。一方、自由報道協会の記者は、記者室を使えず、記者会見場と警備を有料で使うこ
中には、階級があり、質問する権利を持つ記者と持たない記者、あるいは、オブサーバー が区別されている96。
ディビッド・マックニール英インデペンデント紙東京特派員によると、記者会見では最 初に大手マスコミが質問する。外国人は最後まで待たされる。外国人の質問が始まる前に カメラマンたちはみんな部屋から出て行く。そして、最後にどんなに手を上げても、無視 され、質問ができないことが多い。また、皇太子がモンゴルに行く前の記者会見で「この 質問はよくない」と記者に言われて、答えてくれなかったこともあった97
現在、15 社のメイン報道機関が記者クラブに入っている。この 15 社とは、5 大新聞社
(読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、日本経済新聞、産経新聞)と 3 ブロック新聞社(中日、
西日本、北海道)の、5大ネットワークのテレビ局(NHK、NNN、JNN、FNN、ANN)、
そして時事通信社と共同通信社である。なお、TXNネットワーク(テレビ東京)は記者ク ラブには入っていないため、TXN ネットワークは通信社の情報に頼っている98。現在、記 者クラブの数は不明であるが、全国で大体 800 以上あると予想されている99 。1966 年に は、警視庁クラブで140人の記者が働き、外務省の霞クラブ100では180人だった。最高裁 判所には71人の記者、永田町クラブで70社の報道機関から300人の記者がいた101。この 数は毎年増えており、現在一番大きい記者クラブは永田町にあり、永田クラブ102には記者 およそ600人(その内130人はオブサーバー)が働いている103。
なぜ、フリーランスの記者と外国人のジャーナリストが記者クラブに加盟できないのか。
記者の数をなぜ増やさないのか。Feldman104によると、記者クラブは社会的なセッティン グがあり、仲間を作り、秘密を交換したりする組織である。「カルテルのメンバーが増加 することに従って、カルテルを破って得られる利益は、カルテル破りが見つかって罰を受
とができる。年間費は10000円である。外国人記者の場合は、記者会見場、記者室、警備も有料で使え るが、月会費は11000円、入会金37500円、保証金40000円がかかるIbid.。
96 畠山, 記者会見ゲリラ戦記.
97 浅野健一, 記者クラブ解体新書.
98 Feldman, Politics and the News Media in Japan.
99 藤竹暁, 図說 日本のマスメディア.
100 外務書の記者クラブ
101 Kim, Japanese Journalists and Their World, 45.
102 総理大臣官邸の敷地内にある記者クラブ。永田クラブ所属の記者は、主に内閣総理大臣、内閣官房長
官、内閣官房副長官、首相官邸や内閣府の取材を担当する。http://ja.wikipedia.org/wiki/記者クラブ一覧