第 1 章 「謝罪会見」概観
第 3 節 テレビに現れる謝罪会見
本節では、新聞の内容分析に続き、現在日本人が最も多く接しているメディアであるテ レビ34において、「謝罪会見」がどのように現れているかを調べる。新聞研究で明らかに なったとおり、新聞の写真には頭を下げているものと、下げていないものも両方が存在し ていたが、テレビの場合では「謝罪会見」はどのように紹介されているだろうか。
本節の目的は、テレビに現れる「謝罪会見」を分析し、新聞における「謝罪会見」とテ レビにおける「謝罪会見」の基本的な違いと、テレビと新聞での「謝罪」で強調される相 違点を明らかにすることである。また、2007 年と2009年に放送された「謝罪会見」のニ ュースの構成に変化があるかどうかも調べる。もし変化があるとすれば、それがどのよう な理由であるかを明らかにしたい。
テレビの研究を新聞の分析の時期と一致させ、同じ事件について新聞とテレビの両方で 分析を行うのが望ましいが、残念ながら、日本ではテレビニュースの公開アーカイブがな く、過去に放送されたテレビ番組の「謝罪会見」を分析することができなかった。
テレビの分析では、2007 年に録画したニュースと2009年に録画したニュースの「謝罪 会見」を分析対象として扱う。テレビの分析で対象とした期間は、2007年10月17日から 11月30日までの6週間と 3日、および2009年5月25日から7月5日まで6週間であ る。以上の二つの時期を選んだ理由は、2 年 1 回の研究で謝罪会見の変質があるかどうか ためにあった。2 回とも 6 週間の時間対を調べ、両方とも任意の時期を選んだ。ニュース は日本放送協会(以下NHKと略す)の月曜から日曜の19:00から19:30まで放送され た『ニュース7』を選んだ。NHKを選んだ理由は、日本の唯一の公共放送であり、『ニュ
ース7』は当時報道番組の中でもっとも高い視聴率があったからだ。2009年にその視聴率
は若干下落したが、世帯視聴率で15%以上であった。
分析方法
録画したニュースにみられる「謝罪会見」について、以下の 7 つの点について分析を行 った。
34 『情報メディア白書2009』によると、日本人が最も接するメディアはテレビである。平日の平均視聴
時間は3時間20分である。
NHK の『ニュース7』の40 秒ぐらいのオープニングで「謝罪会見」と関係のあるニュ ース項目が現れるかどうかに注目した。オープニングでは、二つあるいは三つの項目しか 放送されていないが故に、そこに現れるニュースが重要であることが分かる。
放送された「謝罪会見」がいかなる事件と関係しているか調べることにより、テレビニ ュースに取り上げられる事件の傾向を明らかにするためのものである。謝罪の種類を、社 会、スポーツと政治の三つのカテゴリーに分けた。社会をさらに、交通、宿泊、学校、食 品、警察・刑務所、銀行と製造の6つのカテゴリーに分けた。
次に、1項目あたりの報道時間を以下のようにコーディングした。
1 0―60秒 2 61―120秒 3 121―180秒 4 181―240秒 5 241―300秒 6 301秒以上
そして、ニュース項目の「謝罪会見」で謝罪者側が頭を下げる回数によりコーディング を行った。頭を下げるスタイルが立ったまま、座ったまま、あるいは土下座で行ったかど うかによって分析を行った。ニュース項目内にお辞儀の映像が現れるタイミングを区別し、
項目が始まってから20秒か項目が始まって 20秒以降~項目が終わる20 秒以前か、ある いは項目が終わる前の20秒以降に行ったかによってコーディングした。最後にニュース項 目内の街頭インタビュー放送の有無によって分析を行った。
分析結果
2007年10月17日から11月30日までの6週間と3日の間に22件の「謝罪会見」が行 われた。一方、2009年の6週間――2009年5月25日から7月5日まで――の間には8件し か行われなかった。つまり2007年の場合は一週間で平均3.42件であり、2009年の場合は
まずヘッドニュース(日本では「トップニュース」の意味)分野を見ると事件の重要さ が分かるだろう。図15から読み取れるように2007年には22件のうち11件(50.0%)は ヘッドニュースとして現れたが、2009年には8件のうち3件(37.5%)しかヘッドニュー スとして現れなかった。この違いは、2007年に起った事件は非常に注目される事件が多く、
オープニングでも放送されていたが、2009年の事件はそれほど注目されなかった、あるい は 2 年間で「謝罪会見」の珍しさがなくなったため、視聴者の関心が低いニュースである と放送側が判断したと考えられる。
実際どのような事件が起ったかを調べるため、ニュースの分野のカテゴリーを設けて、
分析した。図16から読み取れるように、2007年には食品に関する謝罪が最も多く12件で あった(赤福、船場吉兆、ミートホープ、ミスタードーナツ、マクドナルド、比内地鶏、
御福餅、鹿児島漬け物、三宝製菓)。次に、製造に関する謝罪が 4 件(東洋ゴム工場、栗 本鐵工、三和シャッター工業、ニチアス)、スポーツに関する謝罪(亀田、朝青龍)と交 通に関する謝罪(ヘリコプター墜落事故・小型機墜落事故)、学校関係に関する謝罪(関 東学院大学、NOVA 英会話学校)がそれぞれ 2 件ずつであった。一方、2009 年には、食 品関係の謝罪はまったくなく、最も多いのは 3 件の警察と刑務所に関する謝罪(山形県警 察本部・茨城県警察本部・月形刑務所)であった。その次が、2 件の銀行に関する謝罪
(シティーバンク・三菱東京 UFJ 銀行)であった。また、政治(鳩山由紀夫民主党代表
(当時))と宿泊施設(山口秋芳プラザホテル)、学校(茨木市教育委員会)に関する謝
罪がそれぞれ1 件ずつあった。以上のように、2007年は食品偽装に関する謝罪、2009 年 は官僚、企業関係の事件が多かった。
写5.御福餅の謝罪会見35 写6.船場吉兆の謝罪会見36
図16から読み取れるのは、2007年と2009年に行われた「謝罪会見」の事件の分野が大 きく異なるということである。両方の年で「謝罪会見」が行われた分野は、学校に関する ものと交通・宿泊に関するものだけであった。2007年は食品に関する「謝罪会見」が突出
しているように、テレビが偽装問題をより大きく取り上げたことがわかる。食品の問題は 多くの人にとって身近な問題であり、テレビは視聴者の強い関心を反映したのだろう。一 方、2009 年には食品問題がなく、官僚問題が増えてきたことが分かる。2007 年の製品の 表示偽装(船場吉兆、マクドナルド、三和シャッター工業など)から 2009 年の個人情報 漏洩(月形刑務所、三菱東京UFJ銀行など)問題への変化を読み取ることができる。
ここで、謝罪の特別な事例に注目したい。
* 2009年5月26日に小沢代表代行が記者会見を開かず、手紙で謝罪し、手紙の文書 がニュースで放送された。このような「謝罪会見」ではない「謝罪報告」も存在す る。
* 2007年11月15日に小型飛行機の墜落事件で乗客の二人が死亡し、一人が大けがを 負った事故では、昭和航空の社長が、「皆さんにご迷惑をかけまして申し訳ござい ません」と述べた。このような事故において、「謝罪会見」が開かれることはまれ であり、そして必要がないのではないだろうか。
* 本文で言及した「謝罪会見」はほぼすべて記者またはカメラに向かって行われたが、
被害者に対して直接謝罪が行われたこともある。それは、2009年6月17日に足利 事件を巡って菅家利和氏に宇都宮地検のトップ幕田英雄検事正が直接謝罪した事例
(写 7)である。この二人の謝罪の様子をカメラが横から撮影した様子がニュース
で放送された。
写7.菅家利和氏に謝罪する幕田英雄検事正37
37 http://www.nikkei.co.jp/news/main/im20091005SSXKB006105102009.html 2010.01.10.
ニュースの構成
ここでは、ニュースの内容分析を行い、構成を比較する。図17から読み取れるように、
ニュースの長さを比較すると、2007 年は60 秒以内の短いニュースは一つしかなく、61~
120秒のニュースが一番多く8件であった。一方、2009年では9件の内ほぼ半数の4件が 60秒以内の短いニュースであった。121~180秒のニュースは2007年で4件、2009年で 1件であり、181~240秒のニュースは2007年で2件、2009年では一つもなかった。長い ニュースを比較すると、241~300秒のニュースは 2007年で4件、2009年では 2件であ った。300秒以上のニュースは2007年で3件、2009年で1件であった。2007年10月26 日の 476 秒の長いニュースは、英会話学校 NOVA が倒産することについてであった。11 月 16日には、313 秒の船場吉兆の偽装問題のニュースがあった。また、2007 年の調査期 間の中の一番長いニュースは500秒で11月30日の朝青龍の日本への帰国と謝罪のニュー スであった。一方、2009年には長いニュースは1件しかなく、それは2007年のニュース よりも長い604秒で、山口秋芳プラザホテルで起きた事故についての6月3日のニュース であった。この事故では大阪府から修学旅行に同行した小学校のカメラマンが死亡し、ホ テルの経営者が謝罪した。
一方、短いニュースは 2009 年でニュース番組の後半でフラッシュニュースとして放送 された「謝罪会見」が多かった。これは60秒以内の短いニュースで、すべて始まるときに 頭を下げている映像と事実の説明があり、ニュースが終わるという構成であった。これは 例えば、シティバンク(銀行)、山形県警察本部、茨木市教育委員会と月形刑務所の謝罪