第2章 日本の医薬品産業の動向
第 3 節 新薬の開発と臨床試験
医薬品には安全性が求められる。薬品による毒性や発がん性があってはならない、かつ、
体内に蓄積されないよう一定の時間で排泄されなければならない。薬害問題のサリドマイ ド禍のごとく、長期間の世代を経て毒性を発現するものもある。年々規制が強化され、今日 では臨床試験がさらに厳密となっている。医薬品は、人間の生理作用と深く根幹に基づき、
各種動物実験で毒性試験を行い、安全性について検討する専門チームの遺伝子工学や結晶 解析等多方面の専門家の協力を経なくては、現代における新薬の創薬は成り立たない。高度 な学問と専門性が求められ、多様な人材が必要不可欠である。製薬企業は巨額の投資と高度 な頭脳レベルの研究者を持っていても、今日では新薬が生まれなくなってきているのであ る。
創薬の可能な国は、アメリカ、日本、スイス、ドイツ、イギリス、デンマーク、フランス 等、世界でも十か国未満である。日本は新薬を作り出せる世界第二位の新薬創出国であり、
世界で競争力を有している(図 2-5)。
図 2-5 医療用医薬品世界売上上位 100 品目の国別起源比較(2016)
出所:厚生労働省(2017)「革新的医薬品・医療機器創出のための官民対話について」
日本において医療医薬品の新薬開発は平均9年~17年という長い年月と、費用は数百億 円から中には一千億円以上の費用がかかる場合もある。臨床試験に入るには、二種類以上
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の動物での厳しい毒性試験を通過し、厳格な規定により、すべてのデータの報告が求めら れる。しかも、新薬開発の成功率は1/31,064(0.0003219%)と極めて低い(図2-6)。新 薬として市場に出る確率は極めて低いが、各先発医薬品製薬企業は新薬開発に社運を賭け ている。よって多くの大手製薬会社が経営の効率化と生産コストの削減のため、自社製造 から他社への委託製造に切り替えている。中小の医薬品メーカーと大手製薬会社の利害関 係の一致が、受託製造が増えた要因となっているのである。
図 2-6 医薬品開発に要する期間と成功確率
出所:環境ベテランズファーム(2011)「日本製薬産業の現状と課題 日本製薬工業協会
(2005~2009)」
必要な非臨床試験を通過した薬(治験薬)が安全で、かつ人に効果があるかを最終的に調 べるのが臨床試験(治験)である。臨床試験は、第Ⅰ相から第Ⅲ相の三段から成っている。
第Ⅰ相(フエーズⅠ)
自由意志に基づいて、志願した健常成人を対象とし、少量ずつの物質を投与し、副作用や 安全であるかを確認する。毒性試験を動物実験と人間とでは、毒性試験の結果に差異があり、
突然の変化による緊急事態が起こりうるため、医療施設内で行わなければならない。食事や 他の環境に左右されないように、日数はいろいろであるが、医療施設内に宿泊して行われて いる。これはデータに差が出ないようにするためである。
第Ⅱ相(フェーズⅡ)
安全な投与量の確認を経て、ここで初めて対象となる患者に投与し効能を調べる第Ⅱ相 となる。第Ⅱ相は前期・後期に分かれる。
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第Ⅱ相 前期は、比較的軽症患者を対象とし、人体における動態、つまり有効で安全な投 与量や投与方法がどの程度なら安全なのかを確認する。
第Ⅱ相 後期は、どのような病気に有効であり、服用日数等が最良なのかを決定する試験 を行い、特に安全性について検討される。
このような理由により、新薬を開発する製薬会社にとって、第Ⅱ相が最も難関といわれて いる。第Ⅱ相を通過しない場合は、新薬の競争から脱落せざるを得ない。
第Ⅲ相(フェーズⅢ)
多数の患者の臨床実験に入る。有効性と安全性について今まで使われてきた薬との比較 を行う。対象とする医薬品に比べてどの位の効果があるのか、またそれによる副作用にはど んなものがあるかを、綿密に検討する。
臨床実験を経て、安全性や有効性の確認がされると、厚生労働省にこれまで行ってきたデ ータを提出しなければならない。厚生労働省の審査官は、統計解析や製造工程の安全性や信 頼性についても、厳しい審査を行う。品切れしないように、長期にわたり必要量を安定供給 できる体制を整えなければならない。場合によっては認可を受ける前に、新工場を建設しな ければならないこともある。
審査には短くて1年、3~4年かかる。新薬の創製は、全部で15年ほどの期間を要すると いわれている。市販された後に、臨床試験とは桁違いの多くの患者に投与され、他の病気を 併発している合併症の患者や他剤との薬の飲み合わせによる不都合がないか等、患者のデ ータや情報の報告を求められる。このため、市販後の調査を「第Ⅳ相 臨床試験」と呼ぶこ ともある。
実際に発売後に、販売停止・回収となった医薬品もある。例えばセリバスタチンナトリウ ム製剤のセルタ錠(武田薬品)とバイコール錠(バイエル社)の併売は、1999年3月に製 造承認され、1999年5月に発売されたが、2006年8月に販売停止・回収となった。ゲムフ ィブロジル製剤(フィブラート系高脂血症剤・日本未承認)は海外で広く使用されており、
併用された場合は、重篤な横紋筋融解症が報告されている。横紋筋融解症は骨格筋の融解、
壊死により筋細胞成分が血液中へ流失した病態であり、四肢の脱力、痛み、赤色尿がある。
販売実績は約320 億円(2000 年度、薬価ベース金額)であり、推定患者数は約 53万人であ る。横紋融解症の国内報告例は84件(1999年5月以降)ある(厚生労働省,2001)。
したがって、資金力や体力のない中小規模の製薬会社では新薬の開発は不可能である。こ のような理由により、大手製薬会社は新薬の開発に特化し、中小の製薬会社は、2005年の
「薬事法」改正により、大手製薬会社より委託を受け、医薬品を最終工程まで製造している のである。
上記のように、医薬品は背後に膨大なデータの蓄積がされている。医薬品の価格つまり薬 価は、日本においては公定価格として国が決定している。最近までは 2 年ごとに薬価改定 があり、5~7%の場合もあれば、15%前後も下げられる場合もある。2021年以降は毎年薬
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価改定が予定されている。このため、国内の医薬品市場は横ばいとなっている。日本の医薬 品製造企業は、国内のみでなく世界と戦う必要に迫られている。