第8章 考察
第 2 節 富山の産業集積の競争優位性
(1)要因分析 1「電力・水力・土地の地域格差」
①電力
電力が安いということは、そこで活動する企業にとっては重要な問題である。大量の電力 を使う工場等は「産業用電力」を使用する。オフィスで利用する「業務用電力」よりも、単 価が安く、電力の使用時間が長い場合に適している。北陸電力は他地域に比べ一番電力代が 安い。医薬品製造における製造コストの低減となる優位性が大きい。
地域別に比較すると、基本料金が最も安いのは北陸電力の1KWあたり月額1,512円で、
最も高い北海道電力の1,944 円より432円も安く、その差は 1.3倍である。一方で使用量 に応じて課金する電力量料金の単価では、東京電力が高い。年間を通じて全国で最も高く、
北陸電力と比べるとその差は約1.6倍である。
日本の電力区分の中で、契約電力が2,000KW以上で大量の電力を使う、産業用の工場が 主な対象となる「特別高圧」がある。産業用の特別高圧の単価は電力会社の区分の中で最も 安い。安価で安定的な電力について、富山県は水力発電の比率が高く、例えば契約電力
2,000kwでは(12時間操業の場合)、他地域との最大年間コスト差は2014年1月現在で約
4,600万円である(富山県薬業連合会,2017)。
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②水力
豊富な水量が安価な電力をもたらす。立山連峰の降雪量は、年間 5,000mm を超える世界有 数の多さである。そのため年間を通して絶えることのない水資源となり産業を支えている。
水力エネルギーの利用可能量では、全国 2 位である。また、電力会社による大規模な水力発 電所の周辺には、用水路の活用による小水力発電所が作られている。
富山県の良質で豊富な水量が、全国でも低廉な価格を実現している。夏の乾季でも供給制 限の心配がなく、清冽な河川や地下水を水源としているため、良質な工業用水を提供できる。
全国47都道府県のうち、水力発電だけで県内の電気需要の大半をまかなうことのできる のは富山県のみである。富山県内の 84%の電力を水力発電でまかない、また自治体を中心 とした小水力発電が拡大している。豊富な水による低価格で良質な工業用水により、製品価 格に反映し、医薬品生産の優位性をもたらしている(経済産業省消費エネルギー庁,2017)。
③土地
富山県は地価も安く、2017 年の全国地下公示価格平均によると東京の約 20%の 45,928 円/㎡である。土地代が安いことも、企業誘致の大きな利点となっている。しかも、新幹線 で東京へは直通できる。ちなみに全国平均は169,412円/㎡である。
このように電力料金が全国一安いということは、工業の発展や産業の誘致に大きな魅力 となり、他からの産業移転の礎となっているのである。工場用地としての時価についても富 山県は全国で27位の低価格であり、他地域からの工場移転の要因となっている。産業誘致 に地域格差としての工場用地取得のコスト低減の優位性がある(土地代データ,2011)。
(2)要因分析 2「少ない自然災害」
富山県は地震や津波が少なく、台風も極めて少ない。このことからリスクの分散化に最適 であるといえる。
今後30年以内に富山市で震度6以上の地震が発生する確率は11.1%とされている。これ までも1mを超える津波は684年以降で1833年の1件のみ、1963年に津波の観測を始め てから地震による津波の被害はない。
さらに台風の影響も受けにくい。富山平野を多くの山が囲み、天然の円形劇場と呼ばれ、
立山をはじめ、岐阜、長野県境にそびえる高い山脈が台風の風雨から守ってくれている(富 山県商工労働部立地通商課資料,2015)。
(3)要因分析 3「人件費」
富山県は人件費も安い。厚生労働省(2016)の2016年賃金構造基本統計調査の都道府県 別の賃金の水準をみると、全国平均が304.0千円、富山県の平均賃金は280.5千円と、最も 高い東京都(373.1千円)の約75%である。人件費が安いこともまた、企業誘致の大きな利 点だと考えられる。全国平均よりも賃金が高かったのは6都府県(茨城県、東京都、神奈川 県、愛知県、京都府、大阪府)となっている(厚生労働省,2016)。
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(4)小括
富山の配置薬産業は長い歴史を通じて、個別企業の多様な特化型の業態転換を中心とし て形成され、医薬品産業となり発展した。委受託企業間の長期にわたる医薬品の知識及び情 報等を相互に融合し、安定的、継続的発展に影響を与える「密度の高い信頼関係」が構築さ れたのである。また、富山の配置薬産業に変革をもたらした2つの転機があった。2005年 の「薬事法」改正の好機を捉え、配置薬から受託製造へと転換したことが、成功した大きな 要因となった。現代における委受託の企業間のバックグラウンドとなるのは、富山の「先用 後利」であると考えられる。
富山の配置薬が今日まで 300 年以上続いているのは、富山の配置薬の根底にある「先用 後利」の理念が、現代にも生きているからである。相互の心と心の絆、人を大切にする「先 用後利」の精神が現在もなお脈々と受け継がれ、信用、信頼の上に成り立っているのである。
「商いの原点」である。医薬品メーカーからの受託は特許の関係により、特に重視され、富 山地域の「先用後利」が他地域のどこよりも強かった。伝統的な「先用後利」の信頼がバッ クグランドにあり、2005年以降の企業間の信頼関係を構築した。その信頼関係の強さが富 山地域の経済活動に影響を与えたのである。富山の医薬品産業は、古いものが生かされてい ることが分かった。
また、今日まで果たしてきた富山という行政の政策や富山大学など大学の貢献、さらには 富山という市民性、学校教育も根底にある。「読み・書き・そろばん」を重視した現在でも 教育県として有名である。売薬資本が今日の富山の発展の礎となり、代表的な金岡家は銀行、
電力、鉄道、紡績、育英事業に力を注ぎ、エンジェルとしての役目も果たしたのである。官 民学あげて「薬都とやま」を目指し、2015年医薬品生産金額は全国1位となった。電力・
水力・土地代・人件費・自然災害など地域の生産コストの優位性が産業の後押しをしていた。
富山の競争優位性は長期にわたる製造・品質管理に対する信頼、薬事行政の厚みがある。非 価格要因の優位性については、委託・受託企業の安定的・継続的発展に必要な「密度の高い 信頼関係」の構築モデルを分析した結果、信頼関係・高品質・安定供給・安全性・オリジナ リティがあることが判明した。
Porter(1999)が示すクラスター形成・発展の 4 つの要因により、富山の医薬品産業を
評価してみると、図8-3のようになる。
クラスターとは、「特定分野における関連企業・専門性の高い供給事業者・サービス提供 者・関連業界に属する企業・関連機関(大学・規格団体・業界団体など)が地理的に集中し、
競争しつつ同時に協力している状態をいう」(Porter,1999,訳書,p.67)と定義している。
包括的な競争倫理やグローバル経済における立地の影響力と関連付けがなければ、クラ スターを本当に理解することは出来ない。「地域におけるビジネス環境を集積する関連産業 のクラスターは生産性やイノベーション、そして競争優位に重要な役割を担っている。」(同 上p.ⅱ)
クラスターという概念は国家・州・都市の経済に対する新しい考え方であり、そこには競
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争力強化に努力する企業を政府その他の機関が担うべき新しい役割が示されていると論述 している。
「くすりの富山」を目標にし、富山県のくすり政策課は医薬品産業の公的研究機関による 研究・開発体制の充実を図っている。富山県には全国で唯一の薬事研究所や薬用植物指導セ ンターがあり、医薬品に関する試験研究や医薬品産業を支える人材育成、製薬企業への技術 指導に力を入れている。2015年度、富山の医薬品生産金額が日本一となった背景には、図 8-3で分析するように、国や富山県の力が大きく寄与していることが判明した。
立地と産業組織の間のクラスターの優位性は、立地事業を形成しクラスターによる優位 は一層大きくなる。クラスターでは競争が激しく、参入・撤退障害とも低い、他の立地にあ る競合他社・時間の経過とともに深みと広がりを、クラスターによる競争優位の多くは、情 報の自由な流れ、クラスターにおける関係性であり、ネットワークであり、共通の利害とい う意識である。したがってクラスターの社会構造は大切な意味を持っている。
図 8-3 富山の医薬品産業の立地の競争優位分析 出所:Porter(1999)のクラスター形成・発展の4つの要因を基に筆者作成
企業戦略および 競争環境
関連産業・
支援産業
需要条件 要素(投入
資源)条件
「売薬」による歴史的産業集積 から医薬品産業に変革。投資と 持続的立地の競争優位。電気・
水・土地の低価格。富山地域で 活動する競合企業間の激しい競
争 ジェネリック医薬品の需
要の高まり。市場として の魅力が高まっている 国の医療費抑制
容器・包装・印刷などの関連産業の歴史的集積があり、さらに 新規流入もある。資金面では、2020年にジェネリック医薬品 80%にしたいという国からの医療費抑制等政策の後押しもあ り、銀行や金融関係等の融資が受けやすい。国や富山県の行政 的支援がある。
電力・水力・鉄道等 のインフラは整備さ れている。用地は全 国的に見ても低価格 であり、用地は他県 からの協力もあり工 業用団地が供給され ている
他県からの移転等あり、拡 大基調である。自己増殖を 期待できる
富山県の役割が大きい 国
・ 富 山 県