第8章 考察
第 3 節 富山の配置薬業の産業転換への適応分析
(1)配置薬業の低迷の原因
富山の配置薬業が 300 年近く続いた配置薬製造・販売のビジネスモデルから、受託製造 のビジネスモデルへの経営革新を成功させた背景には、配置薬製造に関する知の集積を外 部環境の変化に適合させる配置薬企業群の戦略があった。
配置薬製造業の経営戦略の転換前後を「知識創造」の観点からSECIモデルによる分析を 行った。その結果、配置薬製造の強みを生かした受託製造による経営革新と見ることができ る。この成功の背景には、配置薬製造業が配置薬の製造から医薬品の受託製造へ転換すると いう経営戦略があった。配置薬製造業が配置薬に関する知の集積を外部環境の変化に適合 させたのである。配置薬製造業は内部の情報と委託企業の有する内部情報、それぞれの暗黙
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知を融合させ、「知識創造」を構築し成功させた好事例である。また、委託企業からの暗黙 知の提供を受けるには、企業相互間の信頼、即ち、「信頼の共同化」が必要であり、このこ とが最も重要な成功要因である。
外部環境の変化要因としては、1961年国民皆保険制度の施行による配置薬の需要低下、
薬品販売チャネルの増加、交通網や情報産業の発達、顧客のライフスタイルの変化、販売価 格の低価格化があった。
内部環境の変化要因としては、売薬の高齢化(平均年齢63~64歳)、1日の訪問件数の減 少(15件平均から8件平均へ)、一人あたりの顧客からの一日の平均収入の低下(15,000円
から 7~8,000 円)、後継者不足・事業継承問題があった。配置販売従事者数のピーク時は
1961年で11,685名だった。
(2)SECI モデルによる分析
SECIモデルとは、野中(1996)が提唱した知識創造活動に注目したナレッジ・マネジメ ントの枠組みである。個人の持つ暗黙的な知識(暗黙知)は、「共同化」(Socialization)、
「表出化」(Externalization)、「連結化」(Combination)、「内面化」(Internalization)と いう四つの変換プロセスを経ることで、集団や組織の共有の知識(形成知)となる。
「共同化」とは、経験の共有によって人から人へと暗黙知を移転することである。「表出 化」とは、暗黙知を言葉に表現して参加メンバーで共有化することである。「連結化」とは、
言葉に置き換えられた知を組み合わせたり、配置したりして、新しい知を創造することであ る。そして「内面化」は、表出化された知や連結化した知を自らのノウハウあるいは、スキ ルとして体得することである。
ナレッジ・マネジメントでは、SECIのプロセスを管理すると同時に、このプロセスが行 われる「場」を創造することが重要である。「SECIモデル」は「共同化」(暗黙知を暗黙知 へ)→「表出化」(暗黙知を形式知へ)→「統合化」(形式知を形式知へ)→「内面化」(形 式知を暗黙知へ)→「共同化」という知の移転プロセスを螺旋状に行き来しながら創造され、
はじめの共同化へ戻り、絶えずこのサイクルを繰り返していくモデルである。
富山の配置薬産業の産業転換への適応を「知識創造」の観点からSECIモデルにより分析 したのが、図8-4と図8-5である。
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図 8-4 SECI モデルで見た 2005 年以前の知識創造 出所:野中(1996)のSECIモデルを基に図を筆者作成
2005年以前は売薬と顧客との信頼関係が代々続いていた。共同化では配置薬産業の各社 は、多種類の配置薬を製造し、配置薬業者と売薬が情報交換していた。先用後利により売薬 と顧客との信頼関係が構築されていた。表出化では懸場帳に各家庭の売薬のデータベース を記入し、売薬がその情報を得て、配置薬産業各社は薬の改善や開発を計画する。連結化で は自社でできない不足分は、他社より購入して配置薬のセットを完成した。内面化では相互 のコミュニケーションを強化し、新薬の必要性に気づきがあった。
図 8-5 SECI モデルで見た 2005 年以後の知識創造 出所:野中(1996)のSECIモデルを基に図を筆者作成
2005年以降を、OEMを軸にまわるメーカーに着目しSECIモデルで分析した。2005年 以降は強みを生かし、大企業や多数の企業と共同化した。2005年の「薬事法」改正が契機 となり、オンリーワンへと進む中、真逆の受託製造ビジネスモデルへ転換したのである。
共同化では、配置薬企業は各大手企業からの受託を検討し、自社の強みを意識し配置薬企業 と受託先との信頼関係を確認した。表出化では生産量・製薬システムを開示し、受託製造の
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契約書を締結し、大手企業からの特許情報を得た。連結化では特化した受託製造により低価 格で製造し、配置薬企業と受託先大手企業は力を合わせて新商品を開発した。内面化では国 内から海外への配置薬の進出、新薬開発に経営資源を集中した。
(3)小括
富山の配置薬産業は、2005年の「薬事法」の改正を契機とし、配置薬のビジネスモデル から、受託製造のビジネスモデルへの転換戦略により成功を収めた。受託製造にはジェネリ ック、OEM、OTCがある。
2005年以前は、配置薬産業と売薬と顧客の中だけでSECIモデルが回っていた。2005年 以降は強みを活かし、各配置薬企業が大企業とSECIモデルを回してきた。2005年以降は 大企業と中小企業が共同化するようになり、クローズだったのがオープン化しネットワー ク化し、配置薬企業は強みを生かし特化した。その結果、各社独自の有形・無形の資産を活 用した産業転換への適応を行っている。例としては第一薬品工業のチョコラ BB ドリンク 等をあげることができる。2005年の「薬事法」改正を境に出荷額がV字回復し、その後も 順調に伸び、受託がけん引していることが分かる。「受託製造」で復活した経営の革新例で ある。その要因は、配置薬製造に関する知の集積を外部環境の変化に適合させる各配置薬製 造業の戦略があったといえる。外部と内部の情報・知識暗黙知の融合である。
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