• 検索結果がありません。

富山の配置薬販売業の動向

第3章 富山の医薬品産業の動向

第 4 節 富山の配置薬販売業の動向

(1)配置薬販売業の概況

富山における配置薬販売業は、日本独自の医薬品販売形態の一つで、「医薬品医療機器等 法」第25条第2号、第30条~第33条に規定されている。

薬箱を無料で設置し、売薬人が定期的に訪問し使用した分だけ集金をする販売方法で、

後に支払う信用ビジネスモデルである。これは「先用後利」と呼ばれ、300年に及ぶ歴 史があり現在のクレジット販売の先駆けである。富山藩、2代目藩主である前田正甫が、

藩を超えての売薬行商を許したことが始まりである。「おまけ商法」の元祖で、紙ふうせ ん・売薬版画・錦絵・日常の心得帳などをおまけとして付けた。パッケージングが他地域の 配置薬販売業よりも鮮やかなことも特徴である。売薬が廻る地域を「懸場」と呼び、「懸場 帳」という顧客の健康状態・置き薬・集金などの情報が記録された帳面が存在する。これは 現在のデータベースの先駆けである。特殊な財産権・担保でもあることから売買の対象とも なる。訪問手段も江戸時代の徒歩から、やがて自転車、バイク、そして現代では車を使った スタイルへと変化している。

2009年 6月 1日の改正「薬事法」の完全施行および厚生労働省改正省令の施行により、

薬品の販売制度に大きな変更があった。

登録販売者制度が創設され、第 1 類は薬剤師しか販売できない。医薬品リスク分類のう ち医薬品1類は、薬剤師が情報提供し対面販売が義務化された。第2類・第3類は都道府 県の実施する「登録販売者」の試験に合格した管理下で販売可能となった。第2類・第3類 の医薬品(風邪薬や鎮痛剤等の一般大衆薬の約 9 割)は薬剤師と同様に対面販売ができる ようになった。6年間の薬学部就学以外の方法として、1年間薬剤師や登録販売者の指導管 理のもと経験を積めば、受験資格を得られることになった。新規参入の医薬品販売業界であ るコンビニエンスストアやスーパー業界から、収益部門として注目されているが、すぐには 人材配置が困難である。深夜営業の拡大により、伝統ある富山の配置薬販売業は大きな影響 を受けることとなった。

富山の配置販売従事者数は、2010年まで徐々に減り続けていたが、2011年では増加に転 じている(表3-10)。2009年6月に改正「薬事法」の施行により薬品の販売制度が変わり、

登録販売者の指導管理のもとで経験を積めば、受験資格を得られることになった。富山にお

いても2010年に1,222名だった配置販売従事者数が2011年には1,228名と増加したよう

に見えるが、単純に配置販売従事者数が増加したとはいえない。配置販売従事者の許可は6 年毎である。受験資格による配置販売従事者は、富山県薬業連合会によれば2011年度は6 年毎の再許可の一斉更新や配置販売従事者の減少、既存配置と新規配置のダブルカウント があるなど、実際の人数とは違っていた。つまり配置販売従事者の減少は現在も続いている のである。

富山県薬業連合会では、毎年12日間の研修を義務付けているが、他県は日数が少ないた め他県で研修を受ける者もいる。

73

表3-10 配置販売従事者数(各年12月31日現在)

出所:富山県薬業連合会(2009~2015「配置販売従事者数の推移」数値データに基づき 表を筆者作成(対前年度比、指数、全国との比較)

富山のくすり政策課によれば、県内に住所がある配置従事者は、最多の1961年には 11,685人いたが、2004年には2,000人を割り、2013年にはついに1,000人を切り957人 となった(図3-21)。得意先のある県外に住居を移す現地在住型も増え、後継者不足で廃 業する配置従事者も増加している。

図3-21 配置従事者数の推移

出所:富山県薬業連合会(1980~2014)「配置薬販売従事者の推移」数値データに基づきグ ラフを筆者作成

年次 総数 対前年比 指数 全国比 総数 対前年比

2009 1,380 90.4% 100.0 5.8% 23,618 100.1%

2010 1,222 88.6% 88.6 5.4% 22,841 96.7%

2011 1,228 100.5% 89.0 5.6% 22,061 96.6%

2012 1,018 82.9% 73.8 5.0% 20,367 92.3%

2013 957 94.0% 69.3 4.9% 19,337 94.9%

2014 860 89.9% 62.3 4.7% 18,209 79.7%

2015 827 96.2% 59.9 4.7% 17,621 96.8%

富山県 全国

1980 '85 '89 '93 '98 '03 '04 '05 '06 '07 '08 '09 '10 '11 '12 '13 '14

富山 5,442 4,669 4,096 3,452 2,734 2,176 1,951 1,864 1,707 1,634 1,527 1,380 1,222 1,228 1,018 957 860 全国21,150 25,064 27,342 27,145 27,916 30,451 28,921 28,057 26,210 24,666 23,589 23,618 22,841 22,061 20,367 19,337 18,209

0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000 35,000

0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000

配置従事者数の推移

74

配置薬産業界の長年の悲願であった事業所配置3が条件付きではあるが可能となった。

1969年8月12日薬事第200号薬務課長の通知「配置薬販売業の許可および販売について」

において、経過措置で薬剤師登録販売者でなく、従来から配置販売業を営んでいる既存販売 事業者の場合にも事業所配置ができるようになった。配置薬産業界にとって新たな市場拡 大へとつながる販路開拓の可能性ができたが事業所配置はあまり進んでいない。事業所配 置は既存配置と新配置の両方が可能であり、医薬品のインターネット販売も認可された今 日では、更なる競争激化が予測される。今後、外資系製薬企業の参入も予想される。

(2)ドラッグストアと配置薬

ドラッグストアは2013年には全国でおよそ1万7,000店、売り上げ規模は6兆円を超え ている。2002年以降店舗数、売り上げ規模共に一貫して成長を続けている。それに反比例 するように、配置薬の売上は右肩下がりを続けている(図3-22)。

図3-22 ドラッグストアと配置薬

出所:経済産業省(2002~2015)「商業動態統計」と厚生労働省(2002~2015)「薬事工業 生産動態統計年報」の数値データに基づきグラフを筆者作成

2016年経済産業省発表の「商業動態統計」から見ると、ドラッグストアの商品構成の中 で、配置薬と競合するOTC薬は14.5%となっている。これは食品の26.1%、家庭用品・日 用消耗品・ペット用品の15.4%、ビューティケア(化粧品・小物)の14.9%に次ぐ値とな

3,494

3,881 4,204

4,457 4,677 4,967 5,234 5,443 5,631 5,803 5,941 6,001 6,068 6,133 5,171

4,756 4,423

3,795 3,524

3,112

2,889 2,879 2,803

2,562 2,468 2,262

2,046 1,896

0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000

0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000

ドラッグストアと配置薬の売上高の傾向

ドラッグストア 配置薬

ドラッグストア 単位:10億円

配置薬 単位:千万円

75

っている。このことから、ドラッグストアが決して医薬品販売に依存した経営を行っている 訳ではないにもかかわらず、配置薬の顧客が奪われている。

図3-22によると、ドラッグストアを利用する主な理由は、「自宅や勤務地から近いこと」

「夜遅くまで営業していること」である。しかし、配置薬も利便性はある。「出かけていか なくても、すでに家に(勤務地)にある」「深夜どころか 24 時間いつでも使える」のであ る。しかも、「向こうから補充にやってくる」ので品切れの心配もない。

だが「品ぞろえの幅が広く、比較して商品を選ぶことができる」「安価である」点では、

ドラッグストアの方が優れている。そして、「ポイントカードの特典を受けられる」「商品の 味が良い(弁当・惣菜・パン等)」など他の項目を見ると、「薬以外にもたくさんの楽しみを 得ることができる」というのも、顧客にとっては重要な要素であるといえる。必要な時はこ ちらから出向き、目的のものがスピーディーに手に入る。そして清潔で明るい店舗でショッ ピングを楽しむことができる。これは現代のライフスタイルに合致した販売形態といえる。

しかし、必ずしもドラッグストアが全国すべての地域を網羅できるわけではない。郊外型店 舗も多い。高齢化社会を迎えた日本において買い物弱者はますます増えるばかりである。高 齢者や買い物弱者にとって、配置薬は生活を支える重要な要素であることからドラッグス トアと配置薬の住み分けは可能であることがわかった。

図3-23 ドラッグストア店舗選択時の重視点

出所:経済産業省(2016)「ドラッグストア業界の現状及び業界を巡る環境の変化について」

厳しい環境下にある配置薬販売業であるが、数少ない成功事例もある。配置薬販売業の具 体的な事例としては「株式会社サプリ(以下、サプリ)」があげられる。1998年5月、懸け

場4,200 件を購入し富山県富山市に社員4 名でサプリは創業した。きっかけは置き薬の持

つ1対 1の仕事であった。今日では販売者と消費者の距離が離れている。各家庭に訪問し

76

販売の原点である「置き薬」を現代のニーズにマッチした形で取り組んでいる会社である。

特色としては、社員全員が登録販売者の資格を持っていることである。第2類・第3類の 医薬品販売を行っている。また製薬メーカーとタイアップして商品の開発を進めている。

2017年現在では顧客数4万2千件を超え、社員40名、売上高は5億円である。富山本社 の他、福井県の懸場2,200件も購入し、福井県や石川県にも営業所がある。薬を置くだけで なく、健康に関する悩みの話し相手になり、顧客とのコミュニケーションを重要視している。

「先用後利」のビジネスモデルを再構築した、新しい形の配置薬販売業の在り方の事例であ る。サプリの事例に見られるように、ホスピタリティの構築に積極的に努めていかなくては ならないのである。

今後、高齢化・過疎化により在宅率の増加が見込める可能性もあるが、高齢者や一人暮ら しの相談相手としての取り組みなど、ホスピタリティと人と人とのコミュニケーションが 重要であり、顧客満足度の向上が必要不可欠である。消費者の信頼を得る必要がある。

病気になる前のセルフメディケーションとして、配置薬だけでなくサプリメントやドリ ンク剤など現代の健康ニーズにあった、魅力ある商品の品揃えが重要である。薬の飲み合わ せなど、医薬品をわかりやすく説明する正確な情報提供も必要である。「先用後利」の伝統 ある配置薬文化を損なうことなく、今の時代にあったサービスとして見直すことが重要で ある。

配置薬は在宅医療サービスの充実に向けた一つの方法として注目されるようになった。

ここに今後の新しい配置薬の方向を見出した。高齢化・過疎化により、セルフメディケーシ ョンの需要があり、手元にありすぐ使える配置薬の新たな役割が増大している。