第6章 産業集積の競争優位の分析
第 5 節 小括
(1)富山と奈良の比較
配置売薬はGMP(医薬品の製造および品質管理)の実施により構造変化が起き、富山は 受託製造に進み、奈良は一部を除き配置薬製造中心となった。その結果、奈良の医薬品生産 額は著しく減少した。
単位:百万円
全医薬品 医療用医薬品 一般用医薬品 配置用医薬品
2005年 22,666 20,529 1,726 411
2006年 26,517 22,550 3,065 902
2007年 28,524 22,831 5,110 582
2008年 40,958 33,035 7,021 902
2009年 43,443 35,677 6,778 988
2010年 48,046 38,480 8,534 1,032
2011年 60,557 48,532 10,717 1,308
2012年 59,839 47,845 10,750 1,244
2013年 60,391 47,279 11,878 1,234
2014年 74,406 59,654 13,407 1,344
2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 配置用 2.0% 3.4% 2.0% 2.2% 2.3% 2.1% 2.2% 2.1% 2.0% 1.8%
一般用 8.0% 11.6% 17.9% 17.1% 15.6% 17.8% 17.7% 18.0% 19.7% 18.0%
医薬用 90.0% 85.0% 80.1% 80.7% 82.1% 80.1% 80.1% 80.0% 78.3% 80.2%
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2014 年の医薬品生産金額に占める配置用意医薬品の占める割合が、奈良県は 7.4%と富
山県1.7%に比べて割合が高いことが判明した。
奈良において、生産金額を伸ばしているのは、佐藤薬品工業や田村薬品工業等のOEMで 生産額を伸ばしている企業である。またジェネリック医薬品については、医療用薬品を製造 する企業が少ないため伸びていない。今後の奈良の医薬品産業は、新たな工場が移転してこ ない限り急激に伸びることは困難であると、奈良県薬務課は述べている。
富山の2015年の都道府県別医薬品生産金額は7,325億4,400万円と全国1位であり、全
国比10.7%である。一方、奈良は476億3,800万円、全国33位であり、全国比0.7%であ
る。
佐藤製薬と田村薬品工業は、ともに配置薬の製造も行っており、受託により毎年売上高が 増加している。三光丸はブランド化を目指し配置薬のみに方向を定め売上、社員数共に減少 していることが判明した。
売薬は国民健康衛生上必要不可欠であり、生活の必需品で簡易治療法として重大な役割 を担っている。特に配置売薬は農村、漁村の僻地では重要な役割を担っている。治療的価値 においても同一薬品を主役としても、配合分量、佐薬1、補薬の用い方に薬効の増減があり 売薬の特異性がある。なおかつ、売薬は信仰と相まってその効力を一層増大ならしめる場合 があり、ここに売薬の微妙なる価値がある。
奈良県薬業史資料編(1988)によれば、大和売薬と富山売薬の業態は異なっている。生産 部門について、奈良は生産の大部分すなわち 9割 5分までが家内工業的である。従業者は 老人、子供、婦女子が大部分を占めている。家内工業的であるため、生産費を低く抑えられ、
製剤家の分散点在は近隣相互を援護救協し、すなわち経済的寄与に資し得る。販売において も同一の薬を同一家庭に重ね置き2はほとんどない。富山は生産部門には法人が三十数社で 富山売薬の生産額の過半数を占めている。また、販売においても内容が同じ薬で大袋の目印 だけ変えて、同一家庭に二袋、三袋といったように重ね置きをしている。配置薬の置き方に も富山と奈良では異なる特色があった。
(2)奈良売薬より富山売薬が発展した要因
「富山のくすり」の特長は「袋物」といわれる個包装の製品である。必要な時に必要な分 だけ使用できる包装形態で、利便性に配慮しているのである。「袋物」のパッケージには、
どんな時に使うか分かりやすいネーミングとカラフルなデザインを用いている。胃腸の具 合が悪い時の薬が、おなかが出ている布袋様のはら薬とかかれている。痛み止めの「ケロリ ン」や「ズバリ(頭歯利)」などと書いた、分かりやすく即効性をイメージするものもある。
奈良は包装に関しては、富山の配置薬に比べて地味な包装であったといえる。
富山売薬は自家生産売薬のみでなく、顧客に人気のある他の薬品も入れ、ニーズに合った 置き薬を展開したが、一方、奈良売薬は自家生産を中心とし、他の売薬を入れなかったため、
品数が少なく利便性に欠けたことが将来の方向性に大きく影響したことが判明した。
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生産部門については、富山は法人が生産額の過半数を占め、奈良は家内工業であり婦女子 が多かった。
配置薬は、富山売薬は重ね置きがあり、奈良売薬は同一家庭に一つとしている。このよう に大きな相違点があることが判明した。
以上のことが、富山の配置薬が広く世間に受け入れられた要因であったと考えられる。富 山売薬が広範囲な地域に愛用され発展したのは、顧客の利便性を重視するための工夫を行 い、教育に重点を置き、信用・信頼の理念である「先用後利」を貫いたことが、その後の発 展に大きく差が出たことが判明した。
電力料金・水資源コスト面・品質等の非価格要因の優位性があった。富山の配置薬産業が 他地域の配置薬産業と比較し、とりわけ伸長著しいのが2005年以降である。つまり、業界 のターニングポイントとなった2005年の「薬事法」改正を富山地域の配置薬産業はどう捉 え、それにどう対処したかのかが決定的な違いとなった。もとよりタイムリーにそうした対 応ができたのも、長い歴史の中で、地域の各界・各層により脈々と形成されてきた「富山モ デル」とでもいうべきハード・ソフトのインフラが形成されていたからに他ならない。この
「富山モデル」は、経済社会のボーダレス化・グローバル化の進行により地域産業の空洞化 が危惧される中、これからの全国各地の地域産業づくりや企業経営のあり方に重要な示唆 を与えてくれる。
1 主薬の副作用を抑制したり、他の薬の作用を補助しバランスをとったりする薬。
2 同じ家に会社の違うくすり箱が複数ある状態。
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