既往としても認めなかった.
脳 MRI では施行しえた全員で,小脳と橋萎縮,さ らには多系統萎縮症に特徴的とされる(また近年 SCA でもみられうることが知られている)hotcross bunsign(十 字 サ イ ン)9〜13)ま た は pontinemidline
linearhyperintensity(橋正中線状高信号)のいずれ かがみられた(図 1b).また,さらにそのうち 1 名で は,同じく多系統萎縮症にみられる中小脳脚の高信号 が fluid attenuated inversion recovery(FLAIR)に て観察された.全員に診察または詳細な聞き取りを行 図 1.本邦 SCA34(p.W246G 変異)2 家系
a:本邦の SCA34(p.W246G)の 2 家系の家系図.矢印は発端者を示す.四角印は男性,丸印は女 性を示す.黒く塗りつぶされた印は小脳症状を有する.グレーで塗りつぶされた印は聴取された家族 歴から発症していたと推測したことを意味する.斜め線は死去された方を示す.+/- はヘテロ接合体 を,-/- は野生型のホモを意味する.エクソームシーケンシングは 3 人の構成員(II─1,III─1,および III─2([家系 A])で行った.
b:SCA34(p.W246G)患者の脳 MRI 所見.右は T1WI の矢状断,左は橋の T2WI の水平断.矢状断 では小脳および脳幹(橋底部)に萎縮を認めた(矢印).水平断では十字サイン(矢頭)を認めた.
c:ELOVL4 遺伝子における p.W246G 変異では,ゼブラフィッシュからヒトまで進化的に高度に保存 されている 246 番目のトリプトファン残基がグリシン残基に置換されている.
b.
c.
a.
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
家系 A 家系 B
い,皮膚ではとくに病変はみられず既往もなかった.
眼科診察(1 名で眼底診察,OCT,色覚検査,視野検 査などを行った)で異常を認めなかった.
血漿中の極長鎖脂肪酸の検査(採血後,SRL にて C24:0/C22:0,C25:0/C22:0,C26:0/C22:0 比 をガスクロマトグラフィー/質量分析[C24:0 は C24 炭素鎖をもつ飽和脂肪酸を意味する])を行い,明ら かな異常を認めなかった.
本家系の原因遺伝子変異を同定するため,分子遺伝 学的解析として,ゲノムワイド SNP アレイを用いた 連鎖解析およびエクソーム・ホールゲノムシーケンシ ングを組み合わせる手法を用いた.Genomewide SNP6.0 アレイ(アフィメトリクス社)を用いて家系 A の 7 名の DNA で連鎖解析を行い,SNPHiTLink/
MERLIN を用いて浸透率約 1 を仮定したパラメトリ ック連鎖解析を行った14,15).家系 A のうち 3 名でイ ルミナ HiSeq2000 にてエクソームシーケンシングを
行った16,17).そのうち 1 名ではさらにホールゲノム
シーケンシングを行い,STR(shorttandemrepeat)
配列の解析も行った.
家系 A のうち 7 名を対象に,連鎖解析により主に 染色体 1,2,6,9 に LOD 値>0 となる連鎖候補領域 が認められた.とくに LOD 値 1.45 以上の領域が染色
体(1,2,6,9)で 33.4Mb,34.7Mb,58.7Mb,
18.0Mb の長さでおのおの認められた.エクソームシ ーケンスで同定した非同義置換のバリアントのうち,
LOD 値>0 の領域に存在し,かつ公共データベース や日本人 in-house コントロールデータベースに存在 しないものを選択し,さらに 2 名(家系 A 内)が研 究に参加了承したため,この 2 名を加えた家系 A 内 でサンガー法18)にて共分離を確認したところ,唯一 ELOVL4 遺伝子のヘテロ接合性の新規変異 c.736T>
G,p.W246G のみが家系内で共分離を示した.また,
家系 B の発症者 2 名で ELOVL4 の全コーディング領 域をサンガー法で確認したところ,まったく同じ変異 が同定された.ホールゲノムシーケンスはエクソーム に加えてコーディング領域の変異同定の補助として使 用し,さらに 2 家系の共通祖先からの変異かどうかを 評価するために,ホールゲノムシーケンスで同定した まれな SNP を利用して 2 家系の ELOVL4 遺伝子の 周囲 211kb の haplotype を推定すると(組換えが最 少となるように reconstruction を行った),共通祖先 を有さない可能性が高いと考えられた.このため,
ELOVL4 の当該変異が本疾患の原因遺伝子変異であ る可能性をより強く示唆する結果であった.
SNP アレイのデータから PennCNV19)を用いてコ 表 1.本邦 SCA34(p.W246G)2 家系の構成員の臨床的特徴
家系 構成員
年齢/
性別 発症 年齢
失調/
構音障害
眼振 自律神経障害 重症度 その他の所見 MRI 所見
Ⅱ─1/A 82/M 46 +/+ + 排尿障害(頻尿),
便秘,Schellong 試験陰性
重症(車椅子.
60 歳 よ り 杖 歩行)
眼球運動麻痺,輻輳障害,
腱 反 射 亢 進,Babinski 徴 候陽性,軽度の動作緩慢,
まれにミオクローヌス
大脳・橋・小脳萎縮,十字 サイン,陳旧性梗塞
Ⅱ─3/A 70/F 56 +/+ + 排尿障害(便秘) 中等症(歩行 器)
眼球運動麻痺,輻輳障害,
腱 反 射 低 下,Babinski 徴 候陽性.合併症:くも膜下 出血(クリッピング後),
糖尿病,高血圧症
NoData(CT で橋・小脳萎 縮)
Ⅱ─4/A 68/F 25 +/+ + 排尿障害,便秘 中等症 眼球運動麻痺,輻輳障害,
膝蓋腱反射亢進,Babinski 徴候陽性.合併症:糖尿病
橋・小脳萎縮,橋正中部高 信 号.中 小 脳 脚 に FLAIR で高信号
Ⅲ─1/A 47/M 37 +/+ - (-) 軽症 滑動性眼球運動障害,下肢 腱反射亢進
橋・小脳萎縮,十字サイン
Ⅲ─2/A 44/M 33 +/+ - (-) 軽症 滑動性眼球運動障害 NoData
Ⅲ─4/A 47/F 35 +/+ + (-) 軽症 滑動性眼球運動障害,下肢 腱反射亢進
橋・小脳萎縮.橋正中部高 信号
Ⅲ─5/A 43/F 30 +/+ + (-) 軽症 滑動性眼球運動障害,腱反 射亢進
橋・小脳萎縮,十字サイン
Ⅱ─2/A 78/M -/- - (-) 症状なし None NoData
Ⅲ─3/A 41/F -/- - (-) 症状なし None NoData(CT で正常)
Ⅱ─1/B 80/M 30 +/+ + 排尿障害(頻尿) 中等症~重症
(歩行器)
滑動性眼球運動障害,腱反 射亢進.前立腺肥大
NoData(CT で脳幹・小脳 萎縮)
Ⅲ─1/B 56/M 13 +/+ + None 中等症 腱反射亢進 橋・小脳萎縮,十字サイン 注:1 列目は,図 1 家系図における各構成員の番号を示す.たとえば,II─1/A は家系 A のⅡ─1 であることを表している.
ピー数変異を検索すると,家系内で疾患と共分離する コピー数変異は存在しなかった.生命情報学的機能予 測ツール[Polyphen─2:0.963(damaging),SIFT:
0.000(damaging),MutationTaster:1.000(damag-ing),LRT:1.000(damaging)]20〜23)からは,ELOVL4 の p.W246G の変異が進化上高度に保存されたアミノ 酸に生じる damaging な変異であることを支持する結 果であった.