熱中症は “まず疑う” ことがもっとも重要であるが,
自分では気がつかない間に発症してしまっていること も多いので,暑熱環境で体調不良の人をみかけたら周 囲の人がまず声をかけるよう心掛ける.現場の応急処 置で対処可能か,医療機関へただちに搬送すべきかの 重症度判断のアルゴリズムを図 7 に示す9).体調不良
日本救急医学会熱中症分類 2015:付記
・暑熱環境にいる,あるいはいた後の体調不良はすべて熱中症の可能性がある.
・各重症度における症状は,よくみられる症状であって,その重症度では必ずそれが起こる,あるいは起こらなければ別の重症度に分類される というものではない.
・熱中症の病態(重症度)は対処のタイミングや内容,患者側の条件により刻々変化する.とくに意識障害の程度,体温(とくに体表温),発汗 の程度などは,短時間で変化の程度が大きいので注意が必要である.
・そのため,予防がもっとも重要であることは論を待たないが,早期認識,早期治療で重症化を防げれば,死にいたることを回避できる.
・Ⅰ度は現場にて対処可能な病態,Ⅱ度は速やかに医療機関への受診が必要な病態,Ⅲ度は採血,医療者による判断により入院(場合により集 中治療)が必要な病態である.
・欧米で使用される臨床症状からの分類を右端に併記する.
・Ⅲ度は記載法としてⅢ C,Ⅲ H,Ⅲ HK,Ⅲ CHKD など障害臓器の頭文字を右下に追記
・治療にあたっては,労作性か非労作性(古典的)かの鑑別をまず行うことで,その後の治療方針の決定,合併症管理,予後予想の助けとなる.
・DIC は他の臓器障害に合併することがほとんどで,発症時には最重症と考えて集中治療室などで治療にあたる.
・これは,安岡らの分類をもとに,臨床データに照らしつつ一般市民,病院前救護,医療機関による診断とケアについてわかりやすく改訂した ものであり,今後さらなる変更の可能性がある.
熱射病
Ⅲ度
(入院加療)
熱疲労
Ⅱ度
(医療機関へ)
熱痙攣
Ⅰ度 熱失神
(応急処置と見守り)
臨床症状からの 治 療 分類
重症度 症 状
めまい,立ちくらみ,生あくび,大 量の発汗
筋肉痛 , 筋肉の硬直(こむら返り)
意識障害を認めない(JCS=0)
頭痛,嘔吐,倦怠感,虚脱感 集中力や判断力の低下(JCS≦1)
下記の3つのうちいずれかを含む
(C)中枢神経症状(意識障害 JCS
≧2,小脳症状,痙攣発作)
(H/K)肝・腎機能障害(入院経過 観察,入院加療が必要な程度の肝 または腎障害)
(D)血液凝固異常(急性期 DIC 診 断 基 準[日本 救急医学 会]にて DICと診断)⇒Ⅲ度の中でも重症型
医療機関での診察が必要
→体温管理,安静,十分 な水分と Na の補給(経 口摂取が困難なときには 点滴にて)
通常は現場で対応可能
→冷所での安静,体表冷 却,経口的に水分と Na の補給
入院加療(場合により集 中治療)が必要
→体温管理(体表冷却に 加え体内冷却,血管内冷 却などを追 加),呼 吸・
循環管理,DIC 治療
Ⅱ度の症状が出現したり,
Ⅰ度に改善がみられない 場合,すぐ病院へ搬送す る(周囲の人が判断)
Ⅰ度の症状が徐々に改善 している場合のみ,現場 の応急処置と見守りで OK
Ⅲ度か否かは救急隊員や,
病院到着後の診察 ・ 検査 により診断される 表 2.日本救急医学会熱中症分類 2015
の症状は具体的にはなんでもよく,むしろ症状によっ て重症度や緊急度を測るべきではない.症状は一つの 目安であって,現場で状態を見極めるのにもっとも役 立つのは意識障害の有無である.声をかけて反応がい つもと違う,あるいは普通でなければ,意識障害と考 えて救急車を呼ぶ.たとえ熱中症でなくても,意識が いつもの状態でなければ医療機関への搬送でよい.逆
に,意識がしっかりしていれば,涼しい場所に運んで いき安静にさせて,衣服をゆるめ,風を送って冷却を 始める.屋内ならばクーラーの効いた部屋,車があれ ばエンジンをかけエアコンを効かせた中で楽な姿勢を とってもらう.実際に身体を冷やす場合,首筋には濡 らしたタオルを当て,脇の下や鼠径部の前面には保冷 剤やタオルやハンカチに包んだ冷水のペットボトルを 図 7.意識と応急処置への反応によって重症度を見分けるアルゴリズム
当てる.それにより体表近くを走っている太い静脈を 冷やして体中に灌流していく熱い血液を冷やす.次に,
脱水状態の改善を目指し冷水やスポーツドリンクなど のペットボトルを手渡して飲んでもらう.自分でしっ かり手にもってうまく飲めれば,意識はしっかりして おり,応急処置としての水分補給と体の冷却が始まっ たことになるので,そのまま付き添って様子をみてよ い.応急処置の覚え方はその頭文字を取って FIRE と 覚え,その頭文字を逆から行っていく(図 8).うま くペットボトルがもてない,上手に飲めずにこぼす,
むせる場合は意識障害ありと判断して医療機関への搬 送適応である.水分補給をしつつ,安静と冷却で徐々 に体調が回復してくれば,そのまま帰宅することも可 能である.もちろん心配ならば医療機関へ搬送する.
数十分待っても回復徴候がなければ,医療機関へ搬送 したほうがよい.この鑑別のアルゴリズムにより,現 場にとどまることができればⅠ度,医療機関に搬送と なればⅡ度以上となる.一般市民は,現場で大丈夫か,
医療機関への搬送を考慮するかの見分け方を必ず覚え る必要がある.Ⅱ度かⅢ度かは医療機関の医療スタッ フや救急隊員が判断する.
Ⅵ.熱中症の特殊性
9)熱中症について,上述した内容以外にも注意すべき 点を列挙する.
1.熱中症には 2 種類ある
2 種類の熱中症とは,図 2 でも示した④の筋肉運動 の有無による違いのことで,事実,若年者〜中壮年の 男性に多いのが,朝元気にやってきて,屋外でのスポ ーツや肉体労働によって急激に熱中症にかかるケース で,応急処置や病院での治療によく反応して,すぐに よくなる.労作を伴うという意味で労作性熱中症と呼 ばれる.一方,高齢者の場合には,猛暑日と熱帯夜が 連続する熱波の襲来により,日常生活中に,とくに筋 肉運動もないままに数日かかって徐々に発症する非労 作性(古典的)熱中症にかかりやすい.半数は屋内で 室内温の上昇に気づかず長くその環境で過ごしてしま い,数日後に全身状態の悪化で発見されることが多い.
重症に陥りやすく死亡率も高いのが特徴で,両者の違 いを表 3 に示す.
2.熱中症には発症しやすい時期がある
熱中症にかかりやすい時期は 3 回あり,①梅雨明け 表 3.労作性熱中症と非労作性(古典的)熱中症の比較
労作性熱中症 非労作性(古典的)熱中症
年 齢 若年~中年 高齢者
性 差 圧倒的に男性 男女差なし
発生場所 屋外,炎天下 屋内(熱波で急増)
発症までの時間 数時間以内で急激発症 数日以上かかって徐々に悪化
筋肉運動 あり なし
基礎疾患 なし(健康) あり(心疾患,糖尿病,脳卒中後遺症,
精神疾患,認知症など)
予 後 良好 不良
図 8.熱中症応急処置の Keywords:FIRE
F:Fluid 水分補給 I:Icing 冷却 R:Rest 安静
E:Emergency 119 番通報
直後の急に暑くなった時期(だいたい 7 月中〜下旬),
②毎年もっとも暑く熱中症患者がもっとも多く発生す る盛夏(8 月上旬〜お盆明けまで),③秋のスポーツ イベントシーズンがそれにあたる.梅雨明け直後は,
誰もがまだ暑さ慣れしていない身体のまま湿度の高い 梅雨から一気に暑い真夏の環境に変化し,同じ程度の 肉体労働やスポーツ,同じ服装や環境での生活の中で,
暑熱順化が間に合わず(うまく熱を逃がせない,汗を かけない,水分摂取が間に合わないなど),熱中症に かかるケースである.盛夏の熱中症は,現代の日本で は,どんなに健康な人であっても,水分補給や休憩の とり方,過労や寝不足,ストレスなど,少しでも油断 すればあっという間に熱中症になってしまうくらい危 険な時期(猛暑日の連続,強い日差し,熱帯夜)であ ることを認識して行動する必要がある.3 番目の時期 は,9 月以降涼しくなって身体も次第に冬(寒さ)に 備える身体になっている最中に,急に暑くなった日中,
運動会や体育祭の練習を頑張って発症するケースなど が多い.
3.熱中症にとくにかかかりやすい人(熱中症弱者)
がいる
熱中症弱者とは,図 3 でもあげたように,身体側の 問題,行動上の危険を伴う場合に加え,独り暮らし,
生活困窮者,老々介護,孤立者などが相当する.
4.熱中症の危険因子は今後も増え続ける
地球温暖化に加え,本邦では今後の高齢化,孤立化,
貧困化などが改善しない限り,危険因子は増え続ける ので,地域,職場,学校を含めた総合的な対策を講じ る必要がある.
図 9.集中治療領域における新たな冷却法 a.アークティックサン®5000
b.サーモガードシステム®