葉転換)をも誘導すると考えられている2).
HIF─1 および HIF─2 は酸素感受性の蛋白で,hy-poxia に対する細胞反応をつかさどる核となる転写因 子である10).HIF─1 はグリコーゲンやピリビン酸の 代謝,HIF─2 は脂肪酸の代謝を調節している30).そ の中でも HIF─1 は,hypoxia に対する生体反応の中 心的役割を果たしている.HIF─1 はα─subunit(HIF
─1α)とβ─subunit(HIF─1β)の heterodimer からな るが,その活性は主に HIF─1αの安定性に依存してい
る19,36).hypoxia 環境では HIF─1αは安定しているが,
酸素環境下では容易に分解される.hypoxia 環境で,
HIF─1 は hypoxia-responsiveelement に 結 合 し て,
hypoxia 環境下でのさまざまな遺伝子発現を誘導す る39)(図 14).HIF─1 の活性は HIF─1αの発現に依存 していることから,OSCC 組織内の HIF─1αの発現の 可視化は腫瘍内微小環境の重要な情報を提供すると考 えられる.
われわれは 2009〜2011 年に当科で根治手術を行っ た OSCC 患 者 の 術 前 に FMISO─PET/CT と FDG─
PET/CT 検査を行った.PET 検査は 3D・PET/CT スキャナー(TruePointBiograph64,シーメンス旭 社)を用いて,FMISO は注射 4 時間後,FDG は注射 1 時間後に撮像した.画像の評価は当初は FDG─PET,
FMISO─PET とも standardizeduptakevalue(SUV)
を測定して,腫瘍内の SUV の最高値(SUVmax)を算 出した.病理組織学的検索は手術標本を抗 HIF─1α抗 体(sc─13515,100 倍 希 釈,SantaCruzBiotechnolo-gy 社)で免疫染色して,腫瘍の FMISO─PET の集積 と HIF─1αの発現を比較した.この研究からわれわれ
は,OSCC における FMISO─PET の集積と組織中の HIF─1αの発現が有意に関連していることを世界では じめて明らかにした12)(図 15).一方で FDG─PET の SUVmaxと HIF─1αの発現は有意に関連していなかっ た.こ れ に よ り,OSCC に お い て は,FMISO─PET を用いることによって癌組織内の hypoxia が視覚的 に低侵襲で評価可能であることを証明した12).
3.OSCC における hypoxia の臨床的意義 a.hypoxia と術前化学療法の組織学的効果
次にわれわれは,OSCC における hypoxia の臨床 的意義について検索した.OSCC における術前化学療 法は以前から多くの施設で行われてきた.その目的は 主に,遠隔転移の予防や腫瘍縮小に伴う組織温存の可 能性の追求である38).一方で化学療法が奏功しない 場合には,患者はさまざまな副作用に苦しむのみでな く,適切な治療機会を失うリスクにもみまわれること になる.それぞれの患者個人の術前化学療法の効果は,
通常の病理組織検査や形態画像(CT,MRI など)で は予測できないと考えられる.hypoxia における化学 療法抵抗性は hypoxiccell が多くの場合は血管から 離れた部位に存在し,抗癌剤の拡散障害にて十分な薬 物濃度が細胞まで到達しないことや,hypoxia の持続 により細胞周期が休止期に入り,抗癌剤の感受性が低 下するなどと考えられている(図 16).しかし,近年 の腫瘍 biology の観点からは原因はそれらのみではな いことがわかってきている.最近の研究では HIF─1α の発現上昇が癌細胞の化学療法抵抗性に密接に関連し ていると報告されている39) .MDR(multidrugre-遺伝子発現
sistance)gene は hypoxia に反応して発現が増加し て P─glycoprotein(P─gp)をコードし,薬剤耐性に 関連していると考えられている36,40〜42).機能的な P─
gp の発現も HIF─1 により調節されている39).一方で,
抗癌剤の治療効果と HIF─1αの発現には有意な関連が ないという報告も散見される39,43).癌細胞の化学療 法抵抗性のメカニズムは非常に複雑であり,HIF─1 のみならず多くの因子が関連していることは容易に想 像がつく.化学療法に対する反応にかかわる蛋白には apoptosisregulator と し て p53,cellcycleregulator として p19,p21,p27,cyclin D1 や BCL2,growth regulator と し て EGFR や P─ATK,そ し て HIF─1α
などすでに多くが知られている38,44).
FMISO─PET の臨床における評価方法は確立され ていなかった.FMISO の集積の強さを示す方法とし て は,SUVmax以 外 に 筋 肉 と の 比(tumor-to-muscle ratio)(TMR)が直接穿刺で求めた組織中の酸素分圧 と相関するといわれており,有用と考えている31). 当 院 で は FMISO─PET の TMR>1.25 の 腫 瘍 を hy-poxictumor と定義していることから,この定義を用 いて臨床研究を行った.根治手術を行う予定の OSCC 患者に術前化学療法として経口抗癌剤である S─1(大 鵬薬品,東京)を 2 週間投与した.根治手術後に手術 標本から術前化学療法の組織学的効果を評価して,
図 15.左上顎歯肉癌(矢印)の肉眼病態像,FDG─PET,FMISO─PET 画像および HIF─1α の免疫 染色像(文献 12 より引用)
FDGSUVmax:12.2,FMISOSUVmax:1.6.
HIF-1α(+)
FDG-PET FMISO-PET
図 16.hypoxiccell の化学療法抵抗性の機序 PO2
②
慢性的低酸素環境 細胞周期の停止
①
血管
Cancer
cell Cancer
cell Cancer
cell Cancer cell
酸素
低酸素
Growth fraction↓
図 17.hypoxia の口底癌例(T4aN0)
[文献 38 より引用]
a:初診時所見.
b:化学療法後の所見.
c:術 前 FDG─PET 画 像(SUVmax: 32.2).
d:FMISO─PET 画像(TMR:1.9).
e,f:手術標本組織像(HE 染色).
組織学的化学療法の効果は認めない.
g:HIF─1α,強発現.
a
b
d c
e
f
g
図 18.細胞周期と Ki─67 の発現
G0 G1
M G2
S
Ki─67
+
FMISO─PET の 集 積,HIF─1αの 発 現 と 比 較 し た.
FMISO─PET の TMR>1.25 の hypoxia の腫瘍は有意 に術前化学療法の組織学的効果が乏しく,HIF─1αの 発現している腫瘍は化学療法の効果が乏しいことがわ かった38)(図 17).
b.増殖活性因子(Ki─67 の発現)
細胞増殖活性は癌の生物学的特徴の大きな問題であ る.Ki─67 は細胞周期の G0 期以外に発現する抗原で あり,その発現は癌細胞の増殖活性の評価の gold standard である45,46)(図 18).われわれは,hypoxia の OSCC では癌細胞の細胞増殖活性が高くなってい
るのではないかという仮説を立てた.これは hypoxia の癌細胞は悪性度が高く,浸潤や転移促進に関与して いることの証明につながると考えたからである.その 結果,OSCC においては,FMISO─PET で評価した hypoxia の腫瘍では有意に Ki─67 の発現が高く,細胞 増殖活性が高いことを示した47)(図 19).
c.手術療法における OSCC 患者の予後と hypoxia 18F─FMISO の高い集積が頭頸部癌の局所再発や PFS(progression-freesurvival)rate の短縮に関連 しているといわれている13).癌組織内の低酸素容積
(hypoxicvolume:HV)は OSCC に お け る 新 し い 図 19.hypoxia の舌癌例(T3N2)[文献 47 より引用]
a:初診時所見.
b:組織像(HE 染色).
c,d;術前 FDG─PET 画像(SUVmax:17.9).
e,f:FMISO─PET 画像(TMR:1.8).
g:HIF─1α,強発現.
h:Ki─67 発現(85% 陽性).
a
b
e
f
c
d
g
h
PET パラメーターと考えられる.脳の glioma におい て HV が 全 生 存 率(OS[overallsurvival]rate)に 有意に関連するという報告があるが48),OSCC の領 域では HV に関する報告はほとんどなかった.また 癌の臨床研究においてはもっとも重要な点は,さまざ まな因子と患者の予後を比較して,有用な予後予測因 子を同定し,患者の予後を改善することにつなげるこ とである.最近の報告では,FDG─PET の SUVmaxは 多くの臨床現場で癌の有意な予後因子になりえないと いう報告も増えている1,49〜51).これは FDG─PET の 臨床的意義を否定するものではないが,SUVmaxが腫 瘍の最大代謝強度を表しており,腫瘍全体の状態を反 映しきれていないことによると考えられている.
われわれは FMISO─PET の TMR>1.25 の領域の容 積から腫瘍内の低酸素容積(HV)を算出することが で き た.ま た FDG─PET か ら SUV>2.5 の 領 域 を MTV(metabolictumorvolume)として算出した.
23 例と少ない患者数ではあるが,術後 5 年以上経過 した時点での根治手術後の無病生存率(diseasefree survival[DFS]rate),局 所 再 発 率(locoregional rate)と PET パラメーターとの関連を Kaplan─
Meier 法および log-ranktest で解析した.OSCC 内 の HV は 0〜7.1ml で,HV ≧ 3.6ml の OSCC 患 者 の 予後は,HV が 3.6ml 未満の患者の予後に比較して DFSrate が 有 意 に 低 く,LRrate は 有 意 に 高 か っ た52)(図 20,21).一方で,FDG─PET のパラメータ ーである,SUVmaxや MTV は,予後に有意に関連し ていなかった.このことは OSCC においては HV が 多くなると,放射線療法および化学療法のみならず,
手術療法においても治療抵抗性を示す可能性を示すも のと考えられる.なぜ hypoxia の腫瘍で手術後の予 後が低下するかの正確な原因はわかっていないが,今 後の治療計画を立てる際の参考資料になりうるものと も考えられる.
a
b e
f c
d
図 20.hypoxia の口底癌例(T4aN0)[文献 52 より引用].
a:初診時所見.
b:組織像(HE 染色).
c:術前 FDG─PET 画像(SUVmax:32.2).
d:FMISO─PET 画像(TMR:1.9).
e:MTV(metabolictumorvolume:17.3ml.
f:HV(hypoxicvolume):3.6ml.
Ⅴ.お わ り に
前述のように,犬伏らによる虚血心筋の遺伝子発現 イメージング手法を癌細胞に応用,さらに発展させ,
担癌モデルマウスを用いた低酸素遺伝子応答イメージ ングにつながった.治療抵抗性という観点から低酸素 PET トレーサーを評価し,腫瘍集積量と集積分布に 関して新たな知見を得ることができた.口腔癌におけ る低酸素分子イメージング FMISO─PET 臨床研究で は,臨床例における FMISO の集積と HIF─1αとの関 係を世界ではじめて明らかにした.さらに術前化学療 法の効果の予測,増殖能との関係,HV と予後との関 連も見出した.今後は,in vivo イメージングによっ て得られた新たな知見を臨床へとフィードバックする ことが期待される.また,分子レベルの新たな生物学 的意義やエビデンスを,臨床で使用されている PET トレーサーに付与していくことによって,核医学手法 を用いた診断が,“precisionmedicine” の一役を担う ことにつながるのではないかと考える.
謝 辞
共同研究者である京都府立医科大学放射線医学教室 の玉木長良先生,北海道大学核医学教室の平田健司先 生,渡邉史郎先生はじめ研究にご協力いただいた先生 方に深く感謝申し上げます.
文 献
1) RyuIS,KimJS,RohJLetal:Prognosticsignif-icance of preoperative metabolic tumor volume andtotallesionglycolysismeasuredby18F─FDG PET/CT in squamous cell carcinoma of the oral cavity.Eur J Nucl Med Mol Imaging41:452─
461,2014.
2) Qian J,Wenguang Xu,Zhiyong W et al:Hy- poxiainduciblefactor;apotentialprognosticbio-markerinoralsquamouscellcarcinoma.Tumor
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3) KimM,AchmadA,HiguchiTetal:Effectsof intratumoralinflammatoryprocesson18F─FDG uptake;pathologic and comparative study with 18 F─Fluoro─α─Methyltyrosine PET/CT in oral squamouscellcarcinoma.JNuclMed56:16─21,
2015.
4) Kitagawa Y,Sadato N,Azuma H et al:FDG PET to evaluate combined intraarterial chemo- therapyandradiotherapyforheadandneckneo-plasms.JNuclMed40:1132─1137,1999.
5) KitagawaY,NishizawaS,SanoKetal:Whole-body 18F─fluorodeoxyglucose positron emission tomographyinpatientswithheadandneckcan-cer.OralSurgOralMedOralPatholOralRadiol Endod93:202─207,2002.
6) Kitagawa Y,Nishizawa S,Sano K et al:Pro-spective comparison of 18F─FDG PET with con-ventional imaging modalities(MRI,CT,and 67Gascintigraphy)inassessmentofcombinedin-traarterial chemotherapy and radiotherapy for headandneckcarcinoma.JNuclMed44:198─
206,2003.
7) Kitagawa Y,Sano K,Nishizawa S et al:FDG─
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8) NakamuraM,SanoK,KitagawaYetal:Diag-nosticsignificanceofFDG─PETandargyrophilic nucleolar organizer regions(AgNORs)in oral squamous cell carcinoma.Oral Oncol40:190─
198,2004.
9) NakamuraM,KitagawaY,YamazakiYetal:
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2012.
10)WangW,LeeNY,GeorgiJCetal:Pharmacoki-netic analysis of hypoxia 18F─fluoromisonidazole dynamic PET in head and neck cancer.J Nucl Med51:37─45,2010.
図 21.HV(hypoxicvolume)と無病生存率(DFS:diseasefreesurvivalrate)および局所再発率(LR:
locoregionalrecurrence)[文献 52 より引用]
a. b.
無病生存率
0 0.2 0.4 0.8 0.6 1.0
(月)
0 10 20 30 40 50 60 70 80 Hypoxic volume < 3.6ml
Hypoxic volume ≧ 3.6ml
P=0.025
局所再発率
0 0.2 0.4 0.8 0.6 1.0
(月)
0 10 20 30 40 50 60 70 80 Hypoxic volume < 3.6ml
Hypoxic volume ≧ 3.6ml
P=0.001