医療機関に搬送された後,まずは正確な深部体温を 測定する必要がある.医療機関では,救急処置室のエ アコンの冷房と除湿を最大とし,冷やした点滴を開始 する.重症(意識障害)の場合には,気道の確保と人 工呼吸を開始するとともに,脱衣させ全身に薄く濡ら したタオルをおき常温の水道水を霧吹きで吹きつけて 扇風機で強力に扇ぐ.最大限に拡張し体表の毛細血管 に分布する血液を気化熱により冷やし,冷やした血液 を体深部に,体深部で熱を受け取った血液を体表に灌 流させるため十分な前負荷(輸液)と心拍出量を維持 する心機能(必要に応じカテコラミン持続静注)がポ イントである.心機能が破綻している(重度のショッ クで薬物に反応しない)場合には PCPS(経皮的心肺 補助装置)で循環のサポートとともに,体外に出した 血液そのものを冷やして体内に戻す.低体温になるの を避けるため 38℃ までは可及的速やかに冷やし,そ の後は室温で体温が下がるのを待つ.可及的速やかな 冷却が予後によいことが判明しているので,短時間で の冷却には,最近の集中治療領域では 2 種類の新しい デバイスが頻用されている(図 9).冷却用ジェルパ ッドを用いるアークティックサン®(アイ・エム・ア イ[株])は,非侵襲的で新生児(新生児用クーリン グパッド:敷きマット)から大男まで(汎用追加用ジ ェルパッド)使用可能で,ジェルパッドの温度は凍傷 予防の意味もあり 4〜42℃ で変化する.サーモガード システム®(旭化成ゾールメディカル[株])は,2 バ ルーンの COOLLINE®がクモ膜下出血と頭部外傷,
熱中症の高体温例への冷却に保険適応が通っており,
さらに今後,バルーンの表面積を増やして冷却効率を
高めた新たなカテーテル(Solex®)が導入される予定 である.3 バルーン(ICY カテーテルキット®),4 バ ルーン(Quattro カテーテルキット®)は低体温療法 のみに保険適応がある(表 4).これらの機器を使用 する最大の利点は,看護師を含むスタッフの作業軽減 と,最速での冷却,リバウンドの抑制,設定とおりの 安定した復温にある13).体表からだけではなかなか 冷却できずに長時間 38℃ を超えていた,気がついた ら 34℃ をはるかに下回って冷やしすぎていた,など といったお粗末な管理はなくなり,それはそのまま患 者の予後に直結すると考えられる.
1.モニタリング
正確な深部体温測定(血液温,直腸温,膀胱温)と ともに,意識障害の定量的評価(JCS または GCS),
肝・腎機能(ALT,AST,BUN,Cre),凝固系(血 小板数,APTT,PT─INR など)のフォローが必要で ある.重症例では循環動態の把握(心拍出量,末梢血 管抵抗,乳酸値など)を要する.
2.治療薬と臓器支持療法
熱中症そのものは薬剤治療の適応ではない.悪性症 候群との鑑別,発汗を抑制する抗コリン作用のある薬 剤,また高血圧患者に用いられる降圧薬や利尿薬は脱 水と心機能抑制により熱中症のリスクを上げるので,
既往歴,内服歴について情報収集が必要である.これ と並行して,出血傾向に対する薬物治療や各臓器の支 持療法(血液浄化法など)を追加する.
3.鑑別診断
セットポイントが平温のまま(あるいは明確なセッ 表 4.体温調節デバイスの比較(アークティックサン 5000vs サーモガードシステム)
アークティックサン 5000® サーモガードシステム®
冷却方法 体表につけたジェルパッドを冷やし,胸
壁・大腿部からの伝導により冷却
中心静脈カテーテルに付属した複数のバルーンに 冷生食を通して,静脈血そのものを冷却
保険適用 現状では低体温療法(体温調節療法)の
み,4 日間
2 バルーン:頭部外傷,クモ膜下出血,熱中症の 冷却のみ,7 日間
3,4 バルーン:低体温療法(体温調節療法)の み,4 日間
対 象 新生児用クーリングパッド,乳幼児用
頭部冷却パッドもあり
身長 130cm 以上
侵襲性 体表に貼るのみで非侵襲的 中心静脈穿刺,留置,管理が必須
合併症 パッドの継続使用による皮膚トラブル,
褥瘡
通常の中心静脈カテーテルと同様(気胸,血栓,
感染,不意の抜去)で頻度も同様
モード 平熱療法,低体温療法 最速(冷却),定速(復温),発熱コントロール
国内販売台数(2017 年まで)
どちらにも,レンタル,リー スなどあり
約 750 台 約 80 台
復温速度(1 時間当り) 0.1~0.5℃ 0.1~0.65℃
トポイントが見当たらなくなった状況)の高体温症に は,表 5 に示すような病態がある.非感染例では,
ICU 入室後 24 時間以内の>39.5℃ 症例では死亡オッ ズが上昇し14),脳卒中や蘇生後脳症でも 37℃ を超え ると神経学的予後が悪化することが示されており15), 熱中症でも 40℃ を超えてくると後遺症発生と死亡リ スクが高まる16).熱中症以外の疾患を見極めて,必 要に応じてそれらの治療も追加することになる.高体 温に加え意識障害,興奮,高血圧,頻脈などを呈する 重症例では,覚醒剤,コカインなどを市販の尿中毒物 定性検出キット(Triage®DOA)で検索する.悪性高 熱症,悪性症候群,セロトニン症候群は実臨床では遭 遇する機会が少ないが,どの病態もそれぞれ診断が確 定する前の疑われた段階で,①原因の除去がまず必須 であり,いわゆる drugfever 以外では,並行して② 可及的速やかな 37℃ 以下の平熱(PCAS では 34℃)
までの冷却と,③その維持(過冷却やリバウンドの予 防を含む)が予後改善への重要な鍵となる.
Ⅷ.お わ り に
2017 年の夏の気候は,春には猛暑になるとの予想 であったが,それに反し涼しかった.また熱中症患者 の発生数,重症度,死亡者数は増加しておらず,関係 各所の努力により熱中症への対策は効果を上げている といってよい.ただ,今後,日本はいっそう暑くなり,
高齢化はさらに進行する.孤立化,貧困化も簡単には 解決できないため,努力を怠っては,災害といえるほ どの熱中症犠牲者が発生する危険をはらんでいる.ま た 2020 年の東京オリンピック/パラリンピックに向け て,国をあげての熱さ対策もすすんでいる.2015 年 に世界初の「熱中症診療ガイドライン 2015」2)が日本 救急医学会から発刊され,2018 年には「夏期のイベ ントにおける熱中症対策ガイドライン 2018」17)と「熱 中症環境保健マニュアル 2018」9)が発刊される.
熱中症は適切な対処で完全に予防できる疾患でもあ る.予防法を確実に実践し,早期発見により確実な応
急措置と医療機関への搬送によって軽症ですむように 日頃から気をつけていく意識が大切である.
文 献
1) 日本救急医学会(監),三宅康史(編集):熱中症─
日本を襲う熱波の恐怖,2 版,へるす出版,東京,
2017.
2) 日本救急医学会熱中症に関する委員会(編):熱中 症診療ガイドライン 2015.〈http://www.mhlw.go.
jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/heat stroke2015.pdf〉
3) Mackowiak PA,Wasserman SS,Levin MM:A critical appraisal of 98.6 degrees F,the upper limitofthenormalbodytemperature,andother legacies of carl Reinhold August Wunderlich.
JAMA268:1578─1580,1992.
4) 井上弘行,成松英智:体温と体温調節メカニズム.
特集総括熱中症─最新事情:生理学から後遺症ま で.レジデント10:13─20,2017.
5) 中村俊介,三宅康史,土肥謙二ほか:熱中症による 中枢神経後遺症─HeatstrokeSTUDY2008 の分析 結果.日救急医会誌22:312─318,2012.
6) 神田 潤,三宅康史,近藤 農ほか:熱中症の発症 環境の違いによる 4 分類型重症度熱中症分類と予後 の関係についての検討.日救急医会誌22:489,
2011.
7) 日本救急医学会熱中症に関する委員会:本邦におけ る熱中症の現状─HeatstrokeSTUDY2010 最終報 告.日救急医会誌23:211─230,2012.
8) 日本救急医学会熱中症に関する委員会:本邦におけ る熱中症の現状─HeatstrokeSTUDY2012 最終報 告.日救急医会誌25:846─862,2014.
9) 環境省:熱中症環境保健マニュアル 2018.〈http://
www.wbgt.env.go.jp/heatillnessmanual.php〉
10)総 務 省 消 防 庁:熱 中 症 情 報.〈http://www.fdma.
go.jp/neuter/topics/fieldList9_2.html〉
11)厚生労働省:熱中症入院患者等発生情報.〈http://
www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/
0000169949.html〉
12)三宅康史,神田 潤,宮本和幸ほか:レセプトデー タを用いた最近 5 年の熱中症患者の推移(2010〜
2014 年).日医師会誌144:527─532,2015.(一部 2016 年までの今後公開予定の情報を含む)
13)三宅康史:体温の指標・基準.救急医学42:181─
188,2018.
14)Young PJ,Saxena M,Beasley R et al:Early peak temperature and mortality in critically ill patients with or without infection.Intensive CareMed38:437─444,2012.
15)Kammersgaard LP,Jorgensen HS,Rungby JA etal:Admissionbodytemperaturepredictslong-term mortality after acute stroke;the Copenha-genstrokestudy.Stroke33:1759─1762,2002.
16)三宅康史,有賀 徹,井上健一ほか:熱中症の実態 調査─HeatstrokeSTUDY2006 最終報告.日救急 医会誌 19:309─321,2008.
表 5.高体温症を呈する疾患 1.熱中症
2.悪性高熱症 3.悪性症候群 4.セロトニン症候群 5.心停止後症候群(PCAS)
6.脳卒中急性期の中枢性高体温 7.いわゆる drugfever
8.感染症を除く全身性炎症反応症候群(SIRS)[急性膵炎,
外傷など]
17)環境省:夏期のイベントにおける熱中症対策ガイド ライン 2018.〈http ://www.wbgt.env.go.jp/heatill
ness_gline.php〉
Heatillness
YasufumiMiyake
Professor,Emergencyandcriticalcaremedicine,Teikyouniversityschoolofmedicine.
Director,Traumaandresuscitationcenter,Teikyouniversityhospital Summary
Muchattentionhasbeengiventoheatillnessduetotheprogressofglobalwarming,agingandthe isolationinthisdecade.Heatillnesshasbeenclassifiedinthreegradesaccordingtotheclinicalse-verityinJapan.GradeIismild,noneedforspecifictreatment,GradeIIismoderate,needfor consultation and treatment.Grade III is severe,need for hospitalization for observation.Patho- physiologicmechanismsresponsibleformultipleorgansdisordersareischemiatriggeredbyintra-vascular volume depletion and the hyperthermia of major organs themselves.It is important to identifytheearlysignsandsymptomssuggestingthepossibleonsetofheatillnessandtoprovide firstaidtreatmentassoonaspossible.Cognitiveimpairmentandcerebellumsymptomsarethema-jorneurologicsequelae.
Key words:heat illness,ischemia,hyperthermia,exertional heatstroke,classical heatstroke,
classificationofseriousness