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Ⅳ.FMISO─PET と口腔扁平上皮癌の低酸素 状態(hypoxia)の臨床的意義

 正常組織内の酸素分圧は 40〜60mmHg 程度とされ ているが,生体内の hypoxia は準生理的状態として 考えられ,癌組織内では 30mmHg 未満になるといわ れており,癌によっては 5〜10mmHg 未満まで低下 するといわれている29).組織内の hypoxia は酸素供 給と消費のインバランスによる不十分な酸素化によ る13).癌における hypoxia のもう一つの重要な因子 は未成熟な微小血管環境による,つまり腫瘍血管の形 態的,機能的異常が関与している13).癌組織内の低 図 8.低酸素遺伝子応答と低酸素 PET トレーサーの同時収集イメージング

赤:低酸素遺伝子応答(SPECT)

青:18F─FMISO(PET)

赤:低酸素遺伝子応答(SPECT)

青:64Cu-ATSM(PET)

低酸素 PET トレーサーの

腫瘍集積量(SUVmax 低酸素遺伝子応答の程度と相関しており、重要な予後因子である 低酸素 PET トレーサーの

腫瘍内分布

64Cu─ATSM よりも18F─FMISO のほうが低酸素遺伝子応答を反映 するため、照射領域の決定に有用である

酸素状態(hypoxia)の評価は重要であるが,ヒト固 形癌組織内の酸素分圧を測定するには端子を直接腫瘍 内に挿入する必要があり,臨床的応用は容易ではなか った.臨床では PET イメージは hypoxia を同定する 強力なツールになる13)

 低酸素イメージとしての PET 検査ではいくつかの hypoxic トレーサー([62Cu]Cu─ATSM([62 Cu]-di-acetyl-bis[N4─methylthiosemicarbazone]),[18F]

FAZA([18F]fluoroazomysin など)が開発・応用さ れている30).その中でも FMISO は現在一番臨床応用 されている低酸素 PET トレーサーである.今や癌の 診断に PET は欠かせない診断ツールとなり,われわ れが扱う口腔癌においても FDG─PET は治療前の病 期診断に利用されるのみでなく,治療効果判定や治療 後の再発の評価にも利用されている7).それと同時に,

FMISO─PET のような hypoxia を表現できる機能画

像は組織中の hypoxia 領域を決定できる適切な方法 である31)

 われわれは北海道大学大学院医学研究科の核医学教 室 と 連 携 し て,2009 年 か ら OSCC 患 者 に FMISO─

PET の臨床応用を開始し,臨床研究を行っている

(図 9,10)[北海道大学病院倫理委員会承認すみ].

その当時は OSCC に対する hypoxia に関する臨床研 究は世界でもほとんど行われておらず,われわれは今 まで明らかにされていなかった OSCC における hy-poxia といくつかの重要な因子の検討を行ってきた.

ここではそのいくつかの点について概説する.

1.FMISO─PET について

 FMISO はニトロミダゾール誘導体のミソニダゾー ル(misonidazole)を[18F]で標識したトレーサー である32) .ニトロイミダゾール化合物(2─nitroimid-CT scan FDG metabolic image hypoxic image

Radiation therapy

図 10.北海道大学病院の FMISO─PET 装置(北海道大学 未来創薬・医療イノベーション推進室)

a.初診時所見 b.FMISO─PET 画像(TMR:3.0)

図 9.hypoxia の進行歯肉・頬粘膜扁平上皮癌例(T3N0).

azolecompounds)は hypoxiccell に対する放射線増 感剤として開発されたが,ニトロイミダゾール化合物 が hypoxia 環境の細胞にのみ取り込まれるという特 徴から,1970 年代からは hypoxic マーカーとして認 識されるようになった33).ニトロイミダゾール誘導 体は細胞膜を拡散で通過して細胞内に取り込まれ,還 元酵素によって還元されて細胞外に排出される.しか し hypoxic 環境では酸化が妨げられ細胞内にとどま る.この反応は生存している hypoxiccell 内で生じ るが,アポトーシスや壊死細胞では生じない特徴があ

29,32).FMISO の細胞内における動態を図 11 に示

す(図 11).

 しかし FMISO は血液や軟部組織からのクリアラン スがわるく,FMISO─PET 画像は低コントラストに なるという欠点がある30).当院の核医学分野と(株)

日立製作所の共同研究として,通常のシンチレーター 検出器の代わりに CdTe 半導体検出器を用いた半導 体 PET を開発したことにより,コントラストの高い 画 像 が 得 ら れ る よ う に な っ た33)(図 12).ま た,

OSCC 患者に対する FMISO─PET の臨床研究を開始 するにあたり,頭頸部癌における当院の FMISO─

PET の hypoxia 領域への集積の再現性の評価を確認 する研究も行い,その高い再現性が確認されてい る34)(図 13).

2.HIF─1α

 hypoxia の癌細胞の治療抵抗性にはいくつかの要因 があるが,低酸素誘導因子(hypoxiainduciblefac-tor:HIF)がもっとも重要である.hypoxia は腫瘍内 の生物学的変化を引き起こす.hypoxia 環境下では腫 瘍細胞は HIF 経路やそのほかの蛋白反応により血管 新生,mutantp53 細胞の増加,pH 調節,アポトーシ ス,低酸素環境における細胞生存,erythropoiesis

(赤血球造成)などを行っている31,35).hypoxia の微 小環境は転移促進や予後不良に関連する31).近年で は慢性的な hypoxia は悪性度の高い癌細胞の生存の セレクションや増加の誘導のみではなく,癌の転移,

浸潤や epithelial-to-mesenchymaltransition(上皮間 図 11 hypoxia と細胞内[18F]FMISO の動態(文献 29 より引用)

18F]MISO

18F]MISO

O2 O2

18F]MISO Protein RNA

e Nitroreductases

e

Tumour cell Diffusion

Oxidation

図 12.鼻咽頭扁平上皮癌(矢印)の症例における PET 画像の比較(文献 33 より引用)

a.Scintillator PET

(Whole body mode) b.Scintillator PET

(Brain mode) c.Semiconductor PET

図 13.頭頸部癌における FMISO─PET の hypoxia 領域の集積の再現性

(文献 34 より引用)

a.FMISO 1

b.FMISO 2

葉転換)をも誘導すると考えられている2)

 HIF─1 および HIF─2 は酸素感受性の蛋白で,hy-poxia に対する細胞反応をつかさどる核となる転写因 子である10).HIF─1 はグリコーゲンやピリビン酸の 代謝,HIF─2 は脂肪酸の代謝を調節している30).そ の中でも HIF─1 は,hypoxia に対する生体反応の中 心的役割を果たしている.HIF─1 はα─subunit(HIF

─1α)とβ─subunit(HIF─1β)の heterodimer からな るが,その活性は主に HIF─1αの安定性に依存してい

19,36).hypoxia 環境では HIF─1αは安定しているが,

酸素環境下では容易に分解される.hypoxia 環境で,

HIF─1 は hypoxia-responsiveelement に 結 合 し て,

hypoxia 環境下でのさまざまな遺伝子発現を誘導す る39)(図 14).HIF─1 の活性は HIF─1αの発現に依存 していることから,OSCC 組織内の HIF─1αの発現の 可視化は腫瘍内微小環境の重要な情報を提供すると考 えられる.

 われわれは 2009〜2011 年に当科で根治手術を行っ た OSCC 患 者 の 術 前 に FMISO─PET/CT と FDG─

PET/CT 検査を行った.PET 検査は 3D・PET/CT スキャナー(TruePointBiograph64,シーメンス旭 社)を用いて,FMISO は注射 4 時間後,FDG は注射 1 時間後に撮像した.画像の評価は当初は FDG─PET,

FMISO─PET とも standardizeduptakevalue(SUV)

を測定して,腫瘍内の SUV の最高値(SUVmax)を算 出した.病理組織学的検索は手術標本を抗 HIF─1α抗 体(sc─13515,100 倍 希 釈,SantaCruzBiotechnolo-gy 社)で免疫染色して,腫瘍の FMISO─PET の集積 と HIF─1αの発現を比較した.この研究からわれわれ

は,OSCC における FMISO─PET の集積と組織中の HIF─1αの発現が有意に関連していることを世界では じめて明らかにした12)(図 15).一方で FDG─PET の SUVmaxと HIF─1αの発現は有意に関連していなかっ た.こ れ に よ り,OSCC に お い て は,FMISO─PET を用いることによって癌組織内の hypoxia が視覚的 に低侵襲で評価可能であることを証明した12)

3.OSCC における hypoxia の臨床的意義 a.hypoxia と術前化学療法の組織学的効果

 次にわれわれは,OSCC における hypoxia の臨床 的意義について検索した.OSCC における術前化学療 法は以前から多くの施設で行われてきた.その目的は 主に,遠隔転移の予防や腫瘍縮小に伴う組織温存の可 能性の追求である38).一方で化学療法が奏功しない 場合には,患者はさまざまな副作用に苦しむのみでな く,適切な治療機会を失うリスクにもみまわれること になる.それぞれの患者個人の術前化学療法の効果は,

通常の病理組織検査や形態画像(CT,MRI など)で は予測できないと考えられる.hypoxia における化学 療法抵抗性は hypoxiccell が多くの場合は血管から 離れた部位に存在し,抗癌剤の拡散障害にて十分な薬 物濃度が細胞まで到達しないことや,hypoxia の持続 により細胞周期が休止期に入り,抗癌剤の感受性が低 下するなどと考えられている(図 16).しかし,近年 の腫瘍 biology の観点からは原因はそれらのみではな いことがわかってきている.最近の研究では HIF─1α の発現上昇が癌細胞の化学療法抵抗性に密接に関連し ていると報告されている39) .MDR(multidrugre-遺伝子発現