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検討

ドキュメント内 ―日本法との比較法的研究― (ページ 95-101)

第三章 企業結合規制の市場支配力判断

第三節 事例の検討

2 検討

(1)「有力な牽制力ある競争者」

本件において、公取委は企業結合規制の違法性を判断する際に、「有効な牽制力ある 競争者」理論を用いた。公取委は、平成 17 年 2 月の国道交通省の発着枠配分の見直し と SKY の本格的事業展開すなわち、国道交通省の「新規航空会社が・・・・・・有効な牽制 力を有することが可能となるよう、既存のすべての発着枠を抜本的に見直して競争促進 枠を拡充する」方針を表明した。また、「新規航空会社の中には(SKY とみられる)必 要な発着枠が確保されれば、大手航空会社と伍して本格的な事業展開を行っていこうと

213 平林英勝「最近の企業結合規制事例の問題点と今後の課題」判タ1092号(2002年)8頁。

詳細な記載として、石谷直及=五十嵐俊子「日本航空株式会社及び株式会社日本エアシステムの 持株会社の設立による事業統合について」公正取引621号(2002年)44頁、糸田省吾「視点

JAL・JAS統合問題を考える」公正取引619号(2002年)40頁。

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することを具体的に計画しているものが存在している」ということに期待したようであ る214

「有効な牽制力ある競争者」理論の代表は、八幡・富士合併事件の審決理論である215。 審決は次のような「競争の実質的制限」の解釈を展開した。すなわち、「「合併によって、

市場構造が合併前と比較して非競争的に変化し、特定の事業者が、市場における支配的 地位を獲得することとなる場合をいう。しかして、ある事業者が、市場を独占すること となったり、あるいは取引上、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、その他各般 の条件を左右しうる力をもつこととなり、これによって、競争事業者が自主的な事業活 動を行いえないこととなる場合には、右の徳的の事業者は、その市場における支配的地 位を獲得することとなるとみるべきである。」審決は、このように解釈した上で、この 事件では、被審人の申し出た措置によって、「有力な牽制力ある事業者」が生まれるこ とを理由に、本件合併を認めた。

しかし、既に学説上たびたび指摘されているように、「これによって」以下の部分を 文字通り解釈すれば、自主的な事業活動を行える競争者が一社でも存在すれば、通常は、

有効な牽制力ある事業者」が存在することとなり、その結果、競争の実質的制限が生じ ないこととされてしまう危険性がある。「競争の実施的制限」の判断において重要なの は、牽制力ある競争者が存在することそれ自体ではなく、いざとなれば実際に牽制しよ うとするだけのインセンティブがかかる競争者に存在するかどうかなのである。なんと なれば、非競争的な市場(高度寡占市場、独占的市場)において競争的に行動しようと すれば行動できるだけの能力とインセンティブが競争者に備わっていないかぎり、問題 の合併によって生じる市場支配力の行使を当該競争者が抑制することは期待できない からである。牽制力があることと、実際に牽制しようとすることとは、別のことである

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また、学説においては、審決理論では複占さえ許容することになるとして批判した。

「競争の実質的制限の内容として、市場支配的地位の形成を考えるとしても、その地位 は、単に競争の有無のみからとらえられるべきではなく、市場構造とりわけ寡占的市場 の構造と関連して検討されるべきであり、競争秩序が維持されるか否かが判断されて、

その地位が性格づけられるべきであることを考える必要があろう。単に「有効な牽制力 ある競争者」の有無を判断の基準とし、遂には、名目的・形式的競争者が合併会社によ って当該名目について作り出される場合の複占をも競争の実質的制限に連ならないと するに至っているところに、この審決のいわば致命的な欠陥があるということができる であろう217」、「この見解は、(イ)両社の合併のもたらす競争制限的効果を、品目ごと に分離して考察し、鉄鋼一貫メーカーとしての総合的経済力を全く視野の外においてい

214 糸田・前掲注213、43頁。

215 公取委審決昭和44年10月30日審決集16巻46頁。

216 林秀弥「独禁法における企業結合規制の理論的整理」公正取引628号(2003年)8頁。

217 正田彬『独占禁止法研究Ⅰ』(同文館・1976年)、151頁。

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ること、(ロ)寡占のもつ競争制限的効果を全く無視し、「有効な牽制力ある競争者」と いう形式的・抽象的概念を用いることにより複占をさえ許容するに至ったこと……」218

「「有効な牽制力ある競争者」の存否を競争の実質的制限の存否の判断基準とする限り、

競争者が一社しか存在しないいわゆる「独占」の場合でも合併は認められることになり、

市場占拠率(30%は問題)、企業者の数、市場における集中度や事業能力の格差の存在 等を重視する有効競争理論は、全く無視されることになる。かような「競争の実質的制 限」の存否の判断基準が「有効な牽制力ある競争者」の存否おみにおかれる場合、そし てそこに一つないし二つの競争企業しか存在しない場合、果たしてそれらの企業相互が、

どれだけ「有効な牽制力ある競争者」たり得るかについての保障は全く存在しない。な ぜなら、複占ないし寡占市場構造の場合には、管理価格か価格協定が締結しやすくなっ ているからである。有効競争理論における構造的基準は、かような反競争的市場の発生 を客観的に防止するための最低限の限界を画したものである。しかるにこの「有効な牽 制力ある競争者」理論には反競争的な市場構造の発生そのものを抑制すべき企図は全く なく、もっぱら一ないし二、三社の良心的な競争意識の発揮に依存せざるを得ないこと になっている。有効競争理論における構造的基準は、まさに競争者のかような主観的姿 勢に依存ずることを避けて、市場構造という客観的な経済構造を保障することによって、

競争を構造的に維持しようと企図するものである。したがって有効な競争が保持され得 る客観的な市場構造が破壊される地点が、まさに有効な競争理論における構造的基準の 限界点であるわけである。①「有効な牽制力ある競争者」理論が、有効競争理論におけ る構造的基準の客観性を全く無視した、内容空疎な主観的基準たらざる得なくなってい る。②この理論では、寡占市場のみならず複占市場構造のもたらす反競争的性格さえも が無視され、見逃されることとなる219……」。

一方、八幡・富士合併事件において、「審査官意見書の概要」220(以下「概要」とい う)においては、「有効な牽制力ある競争者」であるためには、少なくとも次の四つの 要件を満たす必要があるという。すなわち、第一に、独立した競争者であること、第二 に、対等に競争できる競争者であること、第三に、その牽制力が全面的なものであるこ と、第四に、その牽制力が実効性のあるものであること、である。このうち、第一の要 件は、「有効な牽制力ある競争者であるための前提をなすもの」とされ、特定の事業者 に依存・従属している競争者は、独立性のないものとして、この要件を充たさない。次 に、第二の要件を充足するためには、「品質、コスト、事業能力等において同等の競争 力を有することが必要である」とされる。また、第三の要件ある牽制力の全面性とは、

端的に言えば「競争者の販路拡大のための供給余力」が十分にあるかどうか、すなわち、

市場支配力保有者の産出減を十分に埋め合わせる生産能力があるかどうかの問題であ

218 今村成和『私的独占禁止法の研究(四)Ⅰ』(有斐閣・1976年)、270頁。

219 丹宗昭信『独占および寡占市場構造規制の法理』(北海道大学図書刊行会・1979年)、281 頁。

220 伊従寛=矢部丈太郎編『独占禁止法の理論と実務』(青林書院・2000年)、279頁。

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る。最後に、第四の要件である牽制力の有効性とは、「競争者の有する牽制力が単に潜 在的な力であるというにとどまらず、市場において、現実に、顧客獲得、販路拡大の努 力として保障されていること」である。

これらの要件は、牽制力ある競争者が、競争的に行動することにより、合併に伴う市 場支配力の形成・維持・強化を抑制するだけの能力をもっているかどうかを吟味するも のだといえよう。ただし、それでもまだ不十分である。たとえそのような能力をもつ競 争者であっても、合併によって生じる市場構造から、競争的に出るよりは、むしろ寡占 的協調に与して市場支配力行使の恩恵にあずかるほうが得策だと考えるかもしれない からである。また牽制は、当然のことながら、一時的では足りず、合併に伴う市場支配 力の形成・維持・強化を抑制するインセンティブをもっているかどうかを合併後の市場 構造を踏まえて厳格に吟味することがさらに必要となる。かような吟味を十分に経た上 であれば、「有効な牽制力ある競争者」が、市場支配力の形成・維持・強化の危険性を 減らす一つの要因として、競争の実質的制限」を判断する際に重視されることは、十分 理にかなうものだと考えられる221

本件統合の違法性解消の鍵は、新規航空会社が有効な牽制力がある競争者となりうる かどうかにある。そこで当事会社は羽田発着枠のうち9便(必要なら更に3便を上限に 追加)を返上し、国土交通省はこれを新規航空会社に配分する措置を講じることにした。

しかし、この措置によっても、新規航空会社2社の羽田発着枠シェアは大きなものとな るわけではない。9便が2社均等に配分された場合各約4%、3便追加返上された場合 は各約5%であり、1社にすべて配分されたとしても、9便返上の場合6%、さらに3便 追加返上の場合 7.5%にとどまる。

問題は返上される発着枠の配分をうける新規航空会社がシェアは小さくても競争的 になり得るかどうかである。ところが、実際には、新規航空会社 2 社のうち、ADO はか ねて経営不振の状態にあったものであり、2002 年 6 月 5 日民事再生法の適用を申請し ANA の支援の下に再建を図ることになった。今後新規参入を予定している会社が別に 2 社存在している(スカイネットアジア航空(株)とレオキス航空(株))が、これらは 地元資本によって設立された航空会社であるから、運行するのは特定路線で新規参入に よる競争の促進も限定的である。

当面大手航空会社に対する競争単位として期待できるのは、SKY である。国道交通省 は、返上された 12便のうち当面は 3 便を SKY に充てる(SKY はこれを東京―鹿児島便 に使用する予定。さらに SKY は羽田発着枠 6 便を使いたい意向の模様。使い手のない発 着枠は大手が暫定使用する)とのことであるが、SKY が 9 便配分を受けたとしても前記 のようにシェアはわずかに6%にすぎず、運賃競争を挑むとしても展開する路線は特定 の2、3の路線にとどまることになる。

以上のように、当事会社の羽田発着枠の返上によって、SKY 等の新規航空会社の市場

221 林・前掲注216、9頁。

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