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問題解消措置の問題点

ドキュメント内 ―日本法との比較法的研究― (ページ 175-180)

第五章 企業結合規制の手続

第二節 問題解消措置

三 問題解消措置の問題点

問題解消措置の設計問題は、八幡製鉄・富士製鉄合併事件411において措置としての適 切さをめぐって激しい議論になったように、比較法的にきわめて早い段階である独禁法 の制定当初から合併事前届出制度を持つ日本法において早くから実務上重要な問題で あったと考えられる。実際、事前相談の公表例を見ると、事前相談における事前処理が、

公取委による問題点の指摘、合併当事者からの措置の申出、問題の解消と進むように、

救済措置412は実務的に重要な役割を果たしている。従来の研究の主要な対象であった合 併の禁止要件の分析は、合併計画が「競争を実質的に制限することとなる」かどうかを 判断するのに対し、救済措置の設計は、どうすれば「競争を実質的に制限することとな らない」ようにできるかという問題であり、両者はいわば表裏の関係にあり、かつ日本 の上述の実務からも明らかなように、救済措置の設計のあり方は、禁止要件と同程度に 重要というべきである413

しかしながら、日本において問題解消措置の実務および設計のあり方は実際上様々な 問題がある。正式審判決が少ないことは、周知の通りである。公取委の立場を知り、議 論のインフラとなるものがあるとすれば、事前相談例である。しかし、日本では、公正 取引委員会による問題点指摘を受けて、届出会社が問題解消措置を自主的に申し出ると いう形で運用されてきたため、事例集の記載から、問題点指摘と問題解消措置がどのよ うに対応するか(どのような問題が、どのような措置によって解消できるのか)分かり 難いという問題がある。これは、残念ながら、問題解消措置の事例を分析することで、

どのような措置を講ずれば、どのような問題点が解消されることとなるかを予測するこ とが難しいことを意味する414

また、事前相談制度は、許認可制に類似している。基本的に、相談に来る企業の情報 と姿勢に頼り、他省庁の間接的な介入を許し、他者のチャレンジなしに決定される。競 争者や顧客の意見は恣意的に考慮され、議論への参加についても、情報の取扱いについ てもルールが存在せず、分析上の位置づけも明白ではない。審判になる可能性は低く、

裁判所でチャレンジされることもない415

そして、公取委が公表している「重要な相談事例」のうち平成 5 年 4 月から平成 15 年 3 月までの 10 年間の公表文を見ると、構造措置について、買手が明示されているも

411 同意審決昭44・10・30審決集16・46。

412 問題解消措置ともいう。

413 泉水・前掲注222、76頁。

414 上杉秋則=伊藤多嘉彦=山田香織『独禁法によるM&A規制の理論と実務』(商事法務・2010 年)297頁。

415 山根裕子「合併審査の国際比較――手続と実体法基準の関連性――」日本経済法学年報46 号(2003)48頁年。

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のは、公表文を見る限り、1 件しかない416。営業の譲渡も、公表文を見る限り、相手先、

期限が明示されないのがほとんどである417。譲渡の期限は2~3年と長期のものがいく つかあり、その他は記載がなく、期間の限定がないと想像される。株式処分にも、持分 の希釈化(シェアの減少)が多い。しかし、持株比率がどれだけになるか公表されてお らず418、たとえば株主順位が 1 位から 2 位になるとされる事案でも、(1)水平型では 買手が有効な競争者となり、(2)垂直型では競争者は非差別的なアクセスができると して、それがいかなる具体的なシナリオにより競争を回復させるのか、そのシナリオが 現実的であるのか、すなわち措置の実効性を検証できる記述はほとんどない。ただし、

統合時に他の競争者と言っていた共同生産会社を解消するものは、一定の競争回復の効 果があるかもしれない419420

行動措置については、垂直型のみならず水平合併においても様々なものが頻繁に用い られている。合理的と思われるものもあるが421、競争回復の実効性に疑いをぬぐえない 事案がすくなくない422。全面禁止ないし構造措置が適切でない理由として、せいぜい公 表文の最初の計画において効率を達成する等の文言が見られるだけであるが、それと措 置の選択との関連性は示されていない。出資者への取引権の提供、競争者やユーザーへ の貯蔵タンク等の提供、技術支援、供給契約が行われている423。これらは、とくに素材 産業において目立って利用されている。さらに、垂直型で株式の持分比率を引き下げる 事例、および競争者が申し出た場合に相当の対価で取引をするとの行為約束がなされる ものが多いが、いかなる競争回復効果があるのか検証が必要であろう。いずれも 1 種の 差別取引の回避という位置づけのようであるが、モニタリングに関する記述もない。行

416 平成5年度事例1・王子製紙と神埼製紙との合併。

417 たとえば、平成6年度事例4・小野田セメントと秩父セメントの合併、事例5・住友セメン トと大阪セメントの合併、平成10年度事例4・秩父小野田セメントと日本セメントの合併(太 平洋セメント)、宇部興産と三菱マテリアルによるセメント事業の統合。

418 事案が特殊であるが持株比率を10%未満に引き下げるものに、平成7年度事例6・N・V・

ベカルトS・A・によるブリジストンメタルファの役員兼任。

419 たおえば、平成7年度事例1・昭和電工および日本石油化学によるポリオレフィン樹脂事業 の統合、事例2三菱化学工業および宇部興産によるポリプロレン樹脂事業の統合、平成14年度

事例12・日本ポリケムおよび日本ポリオレフィンのポリエチレン事業の統合。

420 泉水・前掲注222、88頁。

421 たとえば、平成12年度事例6・NTTコミュニケーションズによるJSATの株式取得は、総 合的事業能力という言葉を使うが、垂直型ないし不可欠施設に近いものを接続協定等を決めて統 合企業間の取引を他の衛星事業者と公平かつ適正な条件で行うものである。監督官庁があること もモニタリングを例外的に容易にするかもしれない。なお、本件では競争上の評価が分かれうる 他の措置もあるが(タイアップ広告の禁止)、合併当事者がバッケージとして措置を申し出て全 体としての評価がなされたのであろう。

422 平林・前掲注291、13頁。

423 たとえば、平成11年度事例6・ゼネラル・エレクトリック・カンパニー、日立製作所およ び東芝による原子燃料事業の統合(競争者・需要者の輸送への協力、需要者の炉心管理の自営化 への協力、許認可解析に必要なデータの競争者への開示、初装荷燃料設計の適切な対価でのライ センス。

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動措置としての差別禁止条項(受託者あり)などがなければ効果的でないかもしれない

424

また、実際に問題解消措置(特に構造措置)が取られた近年の事案の中には、海外競 争当局も並行して審査し、是正措置を求めた事案も多く425、公取委のみが審査し、問題 解消措置を採ることとなった事案は極めて少ない426

そして、問題解消措置の提案方法について、企業側、弁護士からの意見が多数出てい る427

Ⅰ 企業側

問題解消措置について、公取委から例示、ポイントの指摘等ができないとの運用は不 自由であり、改善すべきだという企業側の問題解消措置に対する否定的な意見がある一 方、競争当局がレメディを提案する場合には、ビジネスの実態を十分に踏まえたものと なっていない可能性が考えらるが、企業がレメディを提案する場合には、競争当局側が 満足しない場合に、何回も提案しなければならず、その度に当事会社や関係者に混乱を 来す可能性がある。どちらの方法も一長一短であるという問題解消措置に対し中立的な 立場を採る企業もある。また、問題解消措置に対し、①ある件に関しては、問題解消措 置の提案で公取委からかなり細かい所までの指摘を受けた。ビジネスの実態をかなり良 く理解してもらい、実現可能の程度で案を貰ったので、会社側はありがたい。②当局が 指摘した上で話が始まるので、会社からは小出しにする。公取委から突然ハードボール が投げつけられるよりは、もう少しゆるい条件で決着できるので、企業から提案すると いう現行のスタイルは、企業にとって都合がいい。公取委から業界の実態にそぐわない 措置を出されるのは怖い等、問題解消措置に対し肯定的な立場を採る企業もある。

Ⅱ 弁護士

問題解消措置について、①当局から指摘される問題点のレベル感がなく、具体的な提 案がないのが困る。ただし、その能力が公取委にあるかどうかは疑問である一方、レベ ル感については企業側からもアピールしていくことが必要である。②公取委がもっとイ ニシアティブをとることがあってもよい。今の公取委は受け身過ぎる。EUではレメデ ィを示してくる。③EUでは問題解消措置の内容についてパブコメを求め、当局の見落 としをチェックしようとする。日本は密室で交渉により決められると否定的観点を持つ 弁護士がある一方、①企業の方がクリエイティブであるため、公取委が指示するより、

424 泉水・前掲注222、88頁。

425 例えば、パナソニック・三洋電機(平成21年度・事例7)、第2次BHP Billiton・Rio Tinto

(平成22年度・事例1[断念事例]、アジレント・バリアン(平成22年・事例7)、ハードディ スクドライブ(平成23年度・事例6)。

426 栗田・前掲注6、67頁。

427 経済産業省・前掲注349、Ⅱ‐14。

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