• 検索結果がありません。

審査目的の比較

ドキュメント内 ―日本法との比較法的研究― (ページ 136-139)

第四章 中国における外国企業による企業結合規制と国家安全審査制度

第三節 企業結合審査と国家安全審査の比較

三 審査目的の比較

国家安全審査は、国家主権の原則に基づいて、国の国防、軍事安全、政治安全、国家 経済安全、文化安全等を目的とし、主にマクロ的な保護を重要視している315。これに対

310 劉民・前掲注304、59頁。

311 国家安全保障問題担当大統領補佐官と経済政策担当大統領補佐官は、CFIUSの正式な委員 ではあるが、エクソン・フロリオ条項の調査のうち、1次審査には基本的に加わらないことにな っており、議論の調整をする役割を果たしていた。渡井・前掲注268、210頁・注26。

312 渡井・前掲注268、210頁。

313 http://www.boj.or.jp/about/services/tame/faq/data/t_naito.pdf

314「外国投資者国内企業買収安全審査制度の確立に関する通知」三(二)。

315 李建強「外資買収的反壟断審査和国家安全審査研究」経済与法制2011年6月246頁。

136

し、外資による企業結合審査は、企業結合により、市場支配力の形成・維持・強化とい う結果をもたらすおそれがある結合に対する規制を通じて、独占禁止法の目的である、

市場において公正かつ自由な競争を促進し、事業者の創意を発揮させ、事業活動を盛ん にし、雇用及び国民実所得の水準を高め、以て、一般消費者の利益を確保するとともに、

国民経済の民主的で健全な発達を促進する316ことを実現することである。ここで言う公 正かつ自由な競争を促進するとは、まず考えられるのは、競争によって商品・役務の価 格が低くなること、および品質が改善されるということである317。また、消費者の利益 とは、公正かつ自由な競争を維持することによって、消費者に与えられる利益というこ ともできる。消費者は、よりよいものを、より安い価格で、より多く購入することがで きる318。最近有力に主張されている見解は、一般消費者の利益は、独占禁止法の目的か ら単なる反射的利益ではなく、独禁法の直接の目的そのものであるとする。このような 理解は、1962 年(昭和 37)年に独禁法の付属法律である不当景品類及び不当表示防止 法が制定された頃からいわれてきたが、最近は、消費者利益(一般消費者の利益)の確 保は独禁法の「究極目的」であるとし、かつ直接の目標・目的でもあると理解されてい る319

第四節 小括

改革開放以来、政府は外資誘致を企業の改革の重要な手段としてきた。そして、中国 が WTO に加入してから外資による国内大手会社の M&A が頻発している。外資による国内 企業の買収も中国経済において多くの積極的な影響を与えた。

まず、外資による国内企業の買収は、中国の国有企業の株式所有の多元化を実現する ことを促進することができる。所有権の不明確さ、会社の管理システムの不健全等は中 国国有企業において普遍的に存在する問題であった。買収による投資を通じて、外資企 業はある程度企業の経営権を持つことになり、必ず国際的規範に従って企業を改革する。

これは相当な面において、企業が元の慣行に過度に依存することによって企業改革を阻 止することを避けることができ、現代的企業制度の構築を促進することができる。

次に、外資による買収は国内企業の技術進歩を促進すると同時に、中国の製品構造と 産業構造の最適化に有利する。多国籍企業は世界的範囲において先進的技術の研究者、

使用者と伝播者であり、今、世界上の 70%の技術譲渡と 80%の新しい技術と技術新案 の開発を行っている。更に、外資による買収は中国国内における技術進歩を推進するだ けではなく、技術拡散等を通じて国内における全業界の技術革新を行い、中国における

316 金井=川濱=泉水・前掲注7、4頁。

317 金井=川濱=泉水・前掲注7、6頁。

318 金井=川濱=泉水・前掲注7、9頁。

319 金井=川濱=泉水・前掲注7、5 頁。

137

製品構造と産業構造の最適化を推進することができる320

しかし、国と地方政府は外資による投資に関する法律が十分に整備されていないにも かかわらず、急いで外資を誘致したため、上記に論述した様々な問題が起き、外資によ る企業結合規制と国家安全審査の議論を行うことになった。

だが、独占禁止法による企業結合規制と国家安全審査はその目的からみて、必ずしも 一致しない面があり、衝突する面がある。中国独占禁止法は、市場経済化が急速に進ん でいる中国において、公正な市場競争を保護し、経済運営の効率を高め、消費者利益と 社会公共利益を維持し、いわゆる社会主義市場経済の健全な発展を図ることを目的とし ている。国家安全審査の目的は、国家安全に関わる外資による買収を禁止あるいは制限 することを通じて、国の国防、軍事安全、政治安全、国家経済安全、文化安全等を保護 することであって、もっとマクロ的な保護であり、政治的、社会政策目的を持っている。

このような、幅広い規制範囲は、あらゆる外資による買収が不確定的な審査を受ける 可能性を増やし、市場全体における競争秩序の維持を任務とする企業結合規制の役割を 歪めるものとなるおそれがある。また、外資による国内産業の参入を阻止し、かつ、外 資企業と国内企業の自由競争を排除することになる。したがって、これは競争を阻害す る要因であり、消費者との関係ではサービス提供のコスト上昇につながるともいえる。

経済面からも国家安全保障の保護を要するにしても、消費者に対してどこまで協力や犠 牲を求めるかは、規制にあたって考慮されなければならないであろう。外資を含めての 競争の促進が国内産業を犠牲にする可能性はあるが、それは競争の必然の結果といわざ るを得ないし、外資企業の参入そのものを排除するような措置の合理性については、見 直す余地があると考えられる321

長い目でみれば、国内企業が発展し、国際的競争力を持つためには、国の保護に頼る ことではなく、必ず外資企業との公平競争に適応しなければならない。外資による買収 が多くなることは、ある程度、資源配分上の効率性を実現することができるし、競争の 圧力が高くなることによって、企業の技術革新をするインセンティブも高くなり、消費 者の利益へと繋がる。また、中国における国家安全審査の第三者による申し込み制度は、

国務院の関係部門だけではなく、さらに全国的業界団体、同業企業および川上、川下企 業等に審査提案権を賦与した。これは、国家安全審査制度の濫用のリスクを拡大させた。

したがって、商務部は外資による買収が国家安全審査の範囲に含まれるか、そして、連 合会議が商務部の審査提案を受けるか否かを判断する際に、国家安全と投資自由化を協 調しなければならないし、国家安全審査を抑制主義の解釈を取り322、独占禁止審査等他 の方式によって経済安全問題を解決することができれば、できるだけ国家安全審査を提 起するのを避けるほうが投資の安定化と自由化に繋がると考えられる。

320 宋才発=李磊「跨国公司併購国内企業的経済分析及び其法律規制---以柯达併購中国感光材料 企業案为例」(河北法学・2007 年 4 月)、29 頁。

321 渡井・前掲注268、223頁。。

322 繆心毫=余柔・前掲注243、128頁。

138

ドキュメント内 ―日本法との比較法的研究― (ページ 136-139)