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産業政策と競争政策の相克と調和

ドキュメント内 ―日本法との比較法的研究― (ページ 67-71)

第二章 企業結合規制の歴史的展開

第三節 産業政策と競争政策の相克と調和――日本法により得た示唆

3 産業政策と競争政策の相克と調和

中国では社会主義計画経済体制が長く続いた。それ故、社会主義市場経済体制に移行 しても、基本的には市場経済要素よりも社会主義的要素が政府の政策立案において重要 視され、競争政策より産業政策を優先的に考慮すべきだという観点が有力になった。こ のような主張には、先進国と発展途上国の間に、産業政策と競争政策に対する考え方が 異なるし、先進国は、自国の企業が発展途上国市場にスムーズに進出すること等の考慮 から、発展途上国は、自国経済のキャッチアップ、民族産業の保護などの考えから、競 争政策より、産業政策優先の政策理念を推進するので、中国も産業政策優先策の前提の 下での競争政策という立場を堅持すべきである151と述べている。また、日本の 1960 年 代から大型合併の時期までの、産業政策と独占政策、通産省と公正取引委員会の関係も、

表面的には産業政策の優位、競争政策の劣位とみることができ、このような観察から、

中国でも産業政策をいっそう強化すべきとの結論が導かれた可能性もある152

しかし、両国の大きな違いを見逃してはならない。その違いは、日本では、いち早く 1947 年に独占禁止法が制定され、理念的には、競争政策、市場経済が日本の経済体制 の中核として確立されていたことである。日本の独占禁止法は高度成長期に冬の時代と も言われる低調な執行しかしえなかった。にもかかわらず、産業政策的な議論が独走し ようとすると、それに歯止めをかけるべき、独禁政策側からの問題点の指摘がなされ、

独占禁止法の緩和改正(1958 年)の動きや、新産業秩序論の法制度化(特安法)の制 定に際しては、公正取引委員会の行動が、多くの社会的議論を引き起こし、これらの立 法を阻止する程度には独占禁止法の重要性が認識されていたのである。さらに言えば、

大型合併の阻止に成功しなかった公取委の抵抗過程での問題提起は、その後の独占禁止

150 呉小丁・前掲注148、113頁。

151 劉継峰「論我国反壟断法中競争政策与産業政策的協調」宏観経済研究2008年第4期21頁。

152 斉虹麗・来生新「産業政策と競争政策の関係――中国のWTO加盟と日本の経験――」横浜 国際経済法学第9巻第3号(2001年)172頁。

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法改正における、寡占的市場構造への規制を強化する規定の導入につながるものであっ たと評価する。それ故、この時期における日本の独占禁止法の動きは、産業政策による 政府の市場介入の全面的な展開を阻止し、日本社会の市場経済中心主義を辛うじて理念 面で維持し、その後、市場の成熟に伴って政府介入の緩やかな撤退を導くための基盤を 確保しつづけたという点において評価されるべきであろう153

ひるがえって中国を考えると、中国は 2008 年に「反壟断法」が施行され、それ前に は反不当競争禁止法はすでに存在しているが、それはアメリカ的や日本的な独占禁止法 制とは相当程度に性格を異にしているし、反不当競争法が制定される当時は、産業政策 優先論の影響をかなり受けたため、競争政策は中国に定着することができなかった。ま た、中国において大規模な企業集団の建設と国有企業の改革過程においても、あくまで 計画経済の下で行われ、競争政策とのバランスをとるメカニズムを働かせる法的な装置 が存在していなかった。特に、国有企業が株式制の改革を完了した後も、国は市場経済 体制の下で、優勝劣敗を通じて、効率的企業を残し、非効率的なその他企業を淘汰させ ることではなく、依然として国が国有企業に対する最大の投資主体であるので、政府は 行政目標に即した企業経営が行われるように、国有資産の所有者として干渉した。その 結果、多くの国有企業は、需給やリスクを慎重に考慮せず、次々に参入し、過剰投資を 引き起こし、成長しつつある私有経済から競争に対応できず、次第に経営窮境に陥って いた154

以上を踏まえて、今日の中国が、日本の産業政策と競争政策の関係の歴史から学ぶべ きことは、むしろ、消極的ではあるが、日本の独占禁止法、競争政策、企業結合規制が、

通産省による産業政策の完全優位の確保に歯止めをかけて、それを一定の範囲にとどめ る、市場経済制度の確保のための基礎として機能したことである。中国が短期の国際競 争力の強化のみを考えて、市場競争の確保を図らなければ、長期的には、逆に中国企業 の国際競争力を失われることになり155、ひいては、公正かつ自由な競争を阻害すること によって、消費者の利益を害することになる。競争政策と産業政策の調和を確保しなが ら、競争政策の下で産業政策を制定し、制定した競争政策の充実した執行が中国にとっ て重要な課題である。

第四節 小括

日本の産業政策と企業結合規制の改正の過程の分析を通じて、日本の産業政策が企業 結合規制の立法過程及び実施に様々な影響を与えていること、異なる経済成長の段階で はその影響力も異なることが分かった。そして、国民経済が外部からの挑戦に直面する

153 斉虹麗・前掲注152、73頁。

154 関志雄『中国経済革命の最終章』(日本経済新聞社・2005年)45頁。

155 斉虹麗・前掲注152、173頁。

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時の産業政策の作用は普段より強くなるのに対し、国民経済が強く経済活動が盛んであ る時、国内企業が国際的競争力を備えている時の産業政策は主に共通的、機能的な産業 政策を取っていることが明らかになった。

一国によって確立された企業結合規制は、当該国が執行している競争政策と産業政策 が衝突した後、最終的に競争政策を選んだ産物である。しかし、産業政策は、常に、企 業結合規制に対し影響を与えているし、国の経済発展の各段階において、その影響力も 異なる156

言うまでもなく、企業結合規制は、国が確立した競争政策の中の基本的な法律制度の 一つであり、その追求する目標は必然的に「公平と正義」である。日本と中国の独占禁 止法はその1条で述べられているように、「公正かつ自由な競争」の促進を直接目的と し、一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する ことを究極の目的としている。中国の反壟断法第1条においても、「独占行為を予防・

制止し、市場における公平な競争を保護し、経済運営の効率を高め、消費者の利益と社 会公共の利益を保護し、社会主義市場経済の健全な発展を促進することを反壟断法の目 的としている。これは、企業結合規制の役割でもある。

競争法における「公正競争」は、普遍主義的要請として、自他の立場の「反転可能性」

と「流動化」によって「通時的平等」が保障されるべきものと規定する。この通時的平 等によって競争資源の初期分配の平等が保障される下での、行為規範としてのフェアプ レノの理論を以下のように提示する。すなわち、①「資本主義の精神(フリーライダー が勝者であってはならない)」、②「疑似公共性から脱却(凡庸なるプレイヤーの集団的 エゴイズムにより卓越したプレイヤーの勝利が妨害されてはならない)」、③「挑戦の優 位(挑戦者の権利が成功者の既得権に堕してはならない)」、④「メタゲームの誠実性(競 争におけるゲームのルールは二重基準で操作されてはならない)」という4つである157

「市場的競争が公正であるとわれわれが信じるのは、勝者と敗者の地位が絶えずダイナ ミックに転変し、誰も永続的な勝利の約束を得られない一方、誰も永続的な敗者の烙印 をおされない社会をそれが生み出すときである。この意味での「通時的平等」が「正義 としての公正」が合意する公正競争の基本理念であり、それは共時的な結果と異なるだ けでなく形式的な機会の平等をも越え、競争資源(とその実効的な活用機会)の分配の 公正化を求める158」。

したがって、競争の「公正さ」とは、まさに競い合いの過程の中で、一時期、競争の 勝者となり支配的事業者となったとしても、その地位に安住して消費者に良質廉価なサ ービスを提供できなかったがゆえに、たちまち、競争の敗者となり支配的地位を喪失す る。逆に、かつて競争に負け、市場からの退出を余儀なくされた者が、再起して、消費

156 王為農『企業集中規則基本法理―米国、日本及欧盟的反壟断法比較』(法律出版社・2001 年)183頁。

157 井上達夫『法という企て』(東京大学出版社会・2003年)247-260頁。

158 井上・前掲注157、247頁。

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