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国家安全審査制度の概観

ドキュメント内 ―日本法との比較法的研究― (ページ 118-122)

第四章 中国における外国企業による企業結合規制と国家安全審査制度

第二節 中国における外資投資に関する国家安全審査制度

一 国家安全審査制度の概観

国家安全審査制度は中国特有の制度ではない。国家安全審査に関しては、アメリカに おいては外国投資安全保障法が制定されており、それまでの法制を改める形で 2007 年 から施行されているし、日本においても外為法がその役割を担っており、2007 年に改 正されている。

国家安全保障の見地からの法的規制に関しては、アメリカが最も先進的な立場にある。

外国人による対内直接投資については、レーガン政権下の 1988 年に包括通商・競争力 法を改正し、「エクソン・フロリオ条項」と呼ばれる規定を設けた。これは、外国人に よって国内企業の支配に結びつく可能性のある合併、買収、および経営上の支配権獲得 が計画された場合、それが国家の安全保障に及ぼし得る影響を調査し、場合によっては 買収を禁止する権限を大統領に与え、さらに禁止決定については裁判所の審査は及ばな いという制度である。エクソン・フロリオ条項は、大統領に非常に広範かつ強力な権限 を賦与した規定として注目されていた266

1983 年にレーガン大統領は、アメリカでは外国投資家もアメリカ国籍の投資家と同 じ条件で投資をできるようにすべきであると信じると述べ、規制緩和と自由貿易の推進 を強く表明した。しかし、日本の経済力が強くなるにつれて、この市場開放の指針には 変化が生じてきた。1985 年のプラザ合意後は、日本の資本にアメリカ企業が買収され るなど、ドルの弱体化とともに、対策の必要性が認識されるようになっていったのであ る。

エクソン・フロリオ条項は、国家安全保障に基づく対内直接投資規制であり、外国か らの参入に対する規制としては、最も重要かつ有効な手段である。制定の直接契機は、

1987 年に富士通がカリフォルニア州の半導体メーカーであるフェアチャイルド社の買 収を計画したことであった。これに対しては、アメリカ議会を中心に日本の台頭に対す る警戒感と先端技術の流出に対する懸念とが強く主張されたが、当時の法によっては買 制定しなければならない」と規定している。

265 林秀弥=戴龍・前掲注258、15頁。

266 渡井理佳子『新防衛論集』1999年第27巻第1号96頁。

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収を阻止することはできなかった。富士通は、状況をふまえて任意に買収を断念したが、

アメリカではこの件を教訓に法整備の機運が高まった。そして、翌年の包括通商・競争 力法(Omnibus Trade and Competitiveness Act of 1988)の改正において、外国人に よる企業買収を禁じる権限を大統領に付与する制度が導入された。これがエクソン・フ ロリオ条項であり、数少ない例外267を除くアメリカ企業全般を適用の対象としている268。 実際に、このエクソン・フロリオ条項の調査は、法の施行規制により、大統領から委 任を受けた対米外国投資委員会(Committee on Foreign Investment in the United States, CFIUS)が行っている。CFIUS は、大統領命令によって 1970 年代に設立されて いたが、法的な根拠のない財務省の一機関に過ぎず、この時点までは特に注目に値する ような役割を果たすことはなかった。

2000 年代に入ると、テロ対策も重視されるようになり、2007 年には対内直接投資規 制に関する一般法として、「外国投資及び国家安全保障法」(Foreign Investment and National Security Act of 2007, FINSA)が成立したが、この契機となったのは、2005 年に中国の政府系企業がアメリカの石油会社を買収しようとしたケースと、同年から翌 年にかけてアラブ首長国連邦の港湾管理会社がアメリカに子会社を持つイギリスの港 湾管理会社を買収しようとしたケースである。2005 年に中国の会社である China National Offshore Oil Corporation(CNOOC)が米国の石油会社 Unocal の買収に入札し た際に、米国において国家安全保障の問題が大きな問題となった。すなわち、中国政府 が CNOOC を通して米国のエネルギー供給に対し不当な影響を及ぼすかもしれないとい う一般の懸念により、米国内では大きな議論となった。特に懸念がもたれたのは、主と して米国外である東南アジアに位置する Unocal の原油の埋蔵およびあるガソリンの混 合に用いられる技術であった。Unocal の取締役会は取引の遅延や CFIUS の審査で否定 的な見解が出されること懸念したが、低い価格をオファーしていた他の入札会社に Unocal を売却することにし、結局 CNOOC のオファーは拒絶した。2006 年 2 月には、Dubai Port World という会社が米国の港湾のリースを買収するという時に、米国において大 きな問題となった。2005 年にアラブ首長国連邦の会社である Dubai Port World が、米 国の多くの港湾において貨物の積み卸しをする権利を有するイギリスの会社である Peninsula and Orientals Team Navigation Company を買収する予定であることを CFIUS へ届け出た。CFIUS は 2005 年にいったんは当該買収を認めたが、港湾の安全保障に関 し民主党、共和党両党派にまたがる政治的な懸念が出された結果、Dubai Port World は自発的に、すでに完了している買収について 2006 年に当該買収を審査するように新 たに CFIUS へ届出書を提出した。議会が Dubai Port World に上記会社の売却を強制す る規定を立法するという恐れに直面し、Dubai Port World は最終的には米国の港湾に

267 玩具産業、食料品産業、ホテル業、飲食産業、そして法律事務は、適用除外である。

268 渡井理佳子「アメリカにおける対内直接投資規制と重要産業基盤の確保――2007年外国投 資および国家安全保障法を中心に――」大沢秀夫・小山剛編『自由と安全』(尚学社・2009年)

209頁。

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おけるリースを米国の会社へ売却することに合意した。また 2006 年にはさらに、フィ ン ラ ン ド の Nokia の Network Communications Business と ド イ ツ の Siemens の Communications equipment outlet の networking joint venture が米国子会社を設立 するという取引および Lucent Technologies がフランスの大手通信会社である Alcatel と合併するという2つの大型取引に関し、CFIUS が示した潜在的な国家安全保障の懸念 に対して、ブッシュ大統領は必要な措置を取るように要求した。

国家安全保障の非常に広い範囲の懸念を示す例として、2006 年 11 月にはフロリダに 所在する Smartmatic という会社が 2005 年に米国の電子投票機械の製造会社を買収した ことについて、CFIUS に買収後の審査を要請した。Smartmatic はベネズエラのチャベス 大統領と関係があると言われているベネズエラの株主が支配していた。議会のメンバー や専門家等が CFIUS に徹底的な調査をするように圧力を掛けたためか、CFIUS がその審 査を終了する前に Smartmatic は投票機械のビジネスを売却してしまった。

上記で述べたような事例に対する懸念から米国議会の政治的な動きに火がつき、上院 も下院もそれぞれが CFIUS の審査を強化する法案を提出し、いったんは廃止になったが、

下院の議案に続き、2007 年 6 月になって上院の制定した議案を承認して、「外国投資及 び国家安全保障法」(Foreign Investment and National Security Act of 2007, FINSA)

が成立した269

日本においては、国家安全保障のための通商制限の根拠法規は、外国為替及び外国貿 易法(以下、「外為法」と称する。)、及びそれを実施するための政令である「輸出貿易 管理令」(以下、「輸出令」と略す。)である。もっとも、外為法は本来的にはココム規 制のような国際政治ないし戦略的目的を実現するために制定されたものではなく、それ の目的規定に示されているように、国際収支の均衡維持と国際貿易の健全な発展のため の法規である。しかし、1987 年の外為法改正によって、外為法 48 条に国家安全保障条 項が導入され、この目的のためにも同法規を使用することができるようになっている270

第二次大戦後、1949 年に外為法が制定され、日本の為替管理は厳重な国家管理に服 することになった。戦後のこの時期においては、日本は経済の基盤が弱いために国際収 支の赤字に悩む状態であった。そこで、1949 年に制定された外為法においては、厳重 な為替管理が行われていた。すなわち、この法律によると、為替取引は全面的に禁止さ れ、政省令又は許可によって解除された場合にのみこれが許されるとの立場がとられて いた。又、外資導入に関しては、外為法の特別法として「外資に関する法律」(いわゆ る「外資法」)が制定されていた。この法律によると、外資を導入する場合には、案件 ごとに個別審査が行われ、日本の経済発展に役に立つと認められる外資導入については これを許可し、さらにこれに関しては、過失の海外送金を保証する措置がとられた。日

269 桝田淳二「エクソン・フロリオ条項改正法の制定――国家安全保障に基づく米国企業買収の 規制強化」国際商事法務35巻10号(2007年)1339頁。

270 松下満雄『国際経済法』[第3版](有斐閣・2001年)203頁。

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